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第一九二話 シャルロッタ 一六歳 打ち砕く者 〇二

「残念……気心も知られてない殿方にわたくしの美しすぎる裸体を晒す気はなくてよ?」


「フハハハーッ! いくら強いと言っても所詮女だ! 丸裸に向いて仕舞えばいくらでも料理できるのだ!」

 わたくしは防御結界に込める魔力を調節しながら指をパキパキ鳴らして、勝ち誇ってるギーラデルスに向かって笑顔を浮かべる。

 いやいや大したものだ……確かに魔法の一部には必中効果、つまりは防御を無効化して相手に攻撃を当てることのできるものが存在している。

 例えば前世の最後にわたくしを吹き飛ばしてくれた魔王の攻撃……あれも防御無視といえる攻撃の一つだったけど、わたくしと魔王以外が吹き飛んでいないことを考えると、特効効果のような縛りを設けて放った魔法なのだろうと転生してから理解した。

 この忍び寄る死(クリーピングデス)は一定の範囲におけるすべての対象の防御を無視して、じわじわと腐食するという極少ダメージを縛りとして防御無視の効果を生んでいる。


「すぐに吹き飛ばすと必中効果が薄れるってわけか、考えたわねえ……」

 結界もおそらく恐ろしく脆いのだろう……全てを防御無視に放り込んでいるなら何かのきっかけで結界自体があっという間に崩壊するのではないか? とは思う。

 それでも下級悪魔(レッサーデーモン)の放つ技としては相当に凶悪だし、実際にあらゆる攻撃を弾き飛ばせるわたくしの防御結界が音を立てて侵食されているのを見るとちょっとゾクゾクする。

 このまま黙っていると肉体が侵食され、腐れ落ち……そして最終的には骨まで腐食して崩れ落ちるのだろう。

 命に手がかかる感触というのは、転生してからなかなかない経験だな……そりゃそうだ、わたくしは強すぎたのだから。

「……でもまあギーラデルス……あなたの前にいる人物がなんであるか……もう一度言ってあげるわよ」


「はあ? この状況で防御結界に込める魔力を他に回せば体が腐食するとわかっているだろう?」


「ちげえよ、一瞬でこれが吹き飛ばせるから()()()()()()()()()()()()()()()

 次の瞬間わたくしは全力で魔力を解放する……ズン! という地響きとともにわたくしの周囲にあった忍び寄る死(クリーピングデス)の魔力と結界、そして地面が一気に消滅していく。

 解放した魔力は虹色に輝きを放ったまま爆発的に広がり……そしてそれまで勝ち誇ってた下級悪魔(レッサーデーモン)の肉体が一瞬で文字通り蒸発する。

 あ、やっべ……わたくしはそれを見てすぐに魔力を抑える……魔力解放だけで敵を吹き飛ばしてしまった……最後は拳でぶん殴る予定だったのに。

「……やっぱり下級悪魔(レッサーデーモン)だとねえ……耐久力に欠けるわね」


「……何したんですか? 今……」


「魔力を解放しただけよ? 特に魔法とか技とかじゃないわ」

 近くの地面に伏せてぽかんとした顔でこちらを見ていたユルが口をあんぐりと開けたまま話しかけてきたので、わたくしはこともな気に答えてあげる。

 ユルの周りの地面だけは彼を守るように円形の結界が張り巡らされており、これはわたくしがユルを対象から外したために残ってるだけなのだ。

 ふうっ……と大きく息を吐くと、わたくしは感覚を広げていき今周囲の状況がどうなっているのかを確認していく。

 戦場にはクリスがいるし、エルネットさん達も戦闘しているようだが……そもそも敵の訓戒者がどこにいるのか、うまく所在を掴むことができていない。

「うーん……エルネットさん達と戦ってるのは……這い寄る者(クロウラー)かしらね、でも随分弱って……ああ、封印した影響か……」


「……もう驚きませんが、なんでそんな遠くのことまでわかるんですか……」


「最近感覚が研ぎ澄まされててね、一〇キロ四方くらいの状況なら掴めるわ、ユルも訓練した方がいいわよ」

 エルネットさん達はまあいいか、多分これなら倒せるか……そう思ってわたくしがさらに感覚を伸ばしていくと、ある一定の場所というかクリスのいるあたりが妙に靄でもかかっているのか気持ち悪さを感じる何かが存在しているのが伝わってくる。

 ドス黒いというか、ねっとりしてるというか……ぬめり気のある何かをぶちまけたような、そんな嫌な感覚……しかもそれは恐ろしく強く、うまくそこにいるものがなんであるのか伝わってこなくなる。

 こいつは……混沌神の結界か何かか? と思っているといきなり凄まじい殺気のようなものが飛ばされたことで、半ば強制的に感覚が遮断された。

「うわっ……こいつは……」


「シャル! 大丈夫ですか?」


「え、ええ……どうやら相当戦場の状況を見せたくないみたいね……」

 もう一度感覚を飛ばしてみようとするが、まるで強固な何かに包まれたようにまるで状況がつかめなくなっている。

 確定だな訓戒者(プリーチャー)がそこにいる……だが、何故だかはわからないけど彼らはなんらかの手段で位置を掴めないように隠している。

 そうか、ワーボスの権能だな……混沌神ワーボスは戦の神であると同時に、対象を刈り取る狩人でもあるため、信徒の大半は単なる脳筋バカしかいないくせに、上位信徒や眷属には相手を狩るという高い知恵を持つものがいる。

 もし姿を隠しているとしたら見つけるの面倒そうだな……やだなー、脳筋バカがそこにいてくれないだろうか?

「どうしますか?」


「どうするも何も、相手の狩場に飛び込むしかないじゃん」

 わたくしはユルの問いかけに答える……そう、ワーボスの眷属の狩場……殺戮の場に追い立てられたウサギのごとく入らなければいけないのだ。

 それがどれだけ負担になるのか……しかも戦場だぞ? その状況下でわたくしは一般の兵士と区別して相手を倒すことなんか出来っこないのに。

 得意なのは殲滅なんだぞ……勇者という戦闘兵器はそういうものとして作り上げられているのだから。

「では……行くしかないですね」


「あ、待って……エルネットさん達の援護をお願いするわ……もし兵士を巻き添えにするにしてもそれはわたくし一人が行ったことにしたい」


「いいのですか? 我はこの見た目です……我が罪を被れば……」

 ユルの言葉にわたくしはふるふると横に首を振る……もしガルムに罪をなすりつけたとしても、彼は理解してくれるだろうしわたくしを守ることで満足はしてくれるだろう。

 だが……わたくしはユルを犠牲にして、幻獣ガルムの名誉を傷つけて自分が清いままだと言い続けることができない……罪の意識でいつかわたくしは自分自身が許せなくなるだろうし、それは元勇者としての意識がそうさせないと伝え続けている。

 わたくしはふわりと空中へと浮き上がると、ユルに向かって微笑む。

「……じゃ、行ってくるわ……大丈夫よ、わたくし最強なのだからこういう困難なんて散々経験してるわ」




 ——主戦場となっているハーティ入り口では、辺境伯軍と侯爵軍の激しい攻防がいまだに続いていた。


「防げええっ!」

「突破しろ!」


 侯爵軍からするとなんとか押し返した相手の本陣へと一気に突入したいと考えているのに、辺境伯軍の頑強な抵抗の前に何度も攻撃を弾き返されており、焦りの色が見え始めている。

 だが辺境伯軍側の兵士にも余裕がない……それはクリストフェルを襲った謎の戦士の存在。

 そもそも開戦前に一度姿を現した時にはかなりの数がいたにも関わらず倒せているのは三名……それがいつ襲ってくるのかわからないのが不気味に感じられており、余計な警戒を余儀なくされている。

「……あれは人間だったものだろうか? 背格好だけじゃないけど身につけていた徽章が王国軍のものだったよね」


「ええ……確かに第八軍団の壊滅後、無事に王都へと戻れたのは一部だとは聞いていましたが……」

 戦闘の合間、クリストフェルは彼に水筒を持ってきたマリアンに話しかけるが……あの黒装束の怪物達は今の所戦場に投入される動きは見せていない。

 だが……あの人間とは思えない動きを見せる黒装束の戦士達が戦場に再び姿を見せた時、辺境伯軍の兵士たちが精強とはいえ、あれを倒せるものだろうか?

 クリストフェルはいまだにジクジクとした痛みを伝えてくる頬の傷を軽く拭うように撫でる……あの攻撃でよく死ななかったと今更ながらに自分の運の良さを実感する。

「もしあの数が一斉に姿を現したとしたら……今の僕らでは止められないね」


「そうですね……」


「殿下! 敵軍の後方から新たな一団が出現ッ! 味方です!」

 その声に慌てて兵士が指差す方向を見ると、そこには辺境伯軍の旗が掲げられた一団が、侯爵軍の斜め後方から一気に突入を開始しているところだった。

 その旗印を見てクリストフェルは別働隊を指揮していたベイセルが迂回に成功して敵軍の背後を突けたのだと理解した……そもそもの戦略では野戦で戦っている間に後方から奇襲をかけるはずだったのだが、クリストフェル率いる主力が後退してしまったのでさらに到着が遅れたのだろう。

 だが効果は絶大だった……別働隊の突入に浮き足だった侯爵軍は混乱を生じ始め、その機に乗じてクリストフェルが突撃の指示を出そうとしたその時。

 ハーティ側に張り付いていた侯爵軍のあちこちに再びあの黒装束の戦士達の姿がちらほらと現れていく……異様な雰囲気を纏ったその一団が姿を現していく。

 だがもうやるしかない……! クリストフェルは一瞬戸惑ったものの振り上げた剣を振り下ろし突撃の下知を下した。


「……怯むな! この機に乗じて敵軍を打ち滅ぼす! 私に続け! 突撃っ!」

_(:3 」∠)_ あれだけやっといて魔力の解放だけで消し飛ぶ下級悪魔様


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