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第一七二話 シャルロッタ 一六歳 侵攻作戦 〇二

「……いやはや……こいつはひどすぎるね……」


「一方的な虐殺……とでもいうのでしょうか」

 インテリペリ辺境伯家次男ウゴリーノ・インテリペリが呆れたような顔で、あちこちに並べられた遺体や、焼け焦げた荷車、そして何らかの力が加わりへし折れた第八軍団の旗などが散乱するすさまじい状況の陣へと足を踏み入れていく。

 ハーティ守備隊が総出で、このとてつもない殺戮が行われた場所の片付けと、遺体の確認などを行っているが死体の数だけでも一〇〇〇近い数となっているため、降伏して武装解除された元第八軍団の兵士も手伝って働いている。

「彼らはどうするんだい?」


「第八軍団には本拠地がありますので、遺体の身元がわかるような遺品を持って解放します」

 ウゴリーノの隣にはレイジー男爵がついており、油断なく投降した兵士の動向を確認しながら今回の包囲戦について説明を行っていた。

 ハーティを攻撃した第八軍団が崩壊し、猟犬(ハウンド)による虐殺を免れた者たちは王都側へと逃げたものが少数いたものの、大半はハーティに降伏を申し出た。

 レーサークロス子爵自身が亡くなってしまったこともあって、指揮系統が混乱し戦闘能力を失っていたこともあったが「怪物に殺される前に助けてほしい」というのが本音だったようだ。

「そうか……まあ彼らも命令で戦っただけだろうしね……」


「はい、それに子爵が亡くなられた以上お家騒動が起きるのは間違いありませんので」

 レーサークロス子爵家は現当主であったポール・レーサークロス子爵に権力が集中した貴族で、彼の跡取りとなる息子ジェフ・レーサークロスがいるがまだ幼く、当面は家督を継ぐことは難しいだろう。

 その上でポールには二人の弟がそれぞれ別の家名を持って独立をしているのだが、幼いジェフを補佐するという名目で家督争いが起きることは明白だった。

 たかが子爵家とはいえ、第八軍団を独立して所持していたレーサークロス家の武名は本物であり、爵位以上の権益なども多数獲得している。

 彼らにしてみれば目の前で開いている宝箱を取りに行かないなどありえないだろう。

「ということは内戦の間は第八軍団ゆかりの貴族なども動けなくなるね……多少は兵力が減ってくれるということだ」


「はい、もし決戦となった場合でも彼らの突撃がないだけでも相当に心が休まりますな……開けた場所で彼らと戦うのは自殺行為でしたので」

 ちがいない、とウゴリーノは苦笑するがすぐにその表情を引き締める……なんといってもここで暗い顔をしながら死んだ同僚を片付けているのは元第八軍団の兵士たちなのだ。

 ウゴリーノ自身にその気がなくても余計な恨みを買うような行動は控えるべきだからだ……現に降伏し武装解除されたとはいえ、それでもまだ一〇〇名以上の無傷に近い兵士を相手に戦えるほどウゴリーノ自身は自分の腕に過信をしていない。

「どちらにせよ、ハーティには妹は置いておけない……殿下が心配しちゃうからね」


「シャル……いえ、妹君のことですが……ウゴリーノ様はご存じでしたか? 私は英雄の誕生を見た気がします……」


「……報告は読んだよ、妹は昔から少し変わっていてね、何をしてもおかしくないとは思ってたけど……まさか英雄としての資質を隠し持っていたとはね……」

 ウゴリーノが到着してすぐに、ハーティ郊外が地面ごとえぐり取られたように崩壊していたことと、巨大な藍色の魔獣が打ち捨てられていたことに全員が驚いたのだが、報告を聞いて最初は信じられない気持ちになった。


『シャルロッタ・インテリペリはたった一人で軍を滅ぼした怪物を打倒し、剣を振い……そして強大な魔法で地形をも変える、まさに女神が使わされた英雄である』


 誰がそれを信じるのか……だが目撃者はすべてあのお方のおかげで命が助かった、と話し……敵であった第八軍団の兵士たちですら彼女が魔獣を倒してくれなければ死んでいたと涙ながらに訴えたのだから。

 ウゴリーノにとって少し変わっているけど美しく聡明な妹……正直殿下にとられることに多少のジェラシーを感じてしまうような愛すべき少女だったはずのシャルロッタが、一夜にして英雄と証される人物へと生まれ変わってしまったのだから。

「エスタデル方面以外にも報告が飛んでるんだろ?」


「ハーティ防衛成功と、魔獣の出現、そしてシャルロッタ様の英雄的な力と行動により救われたと喧伝しておりますよ」

 その言葉を聞いて軽くため息をつくとウゴリーノはレイジー男爵のことがほんの少しだけ憎らしくなった……わかっていてなお彼はわざと報告をあちこちに飛ばしたのだ。

 次の攻撃でハーティは確実に第一王子派の兵に押しつぶされる……それをけん制する意味も含めて、シャルロッタという英雄の誕生を声高々に振りまいて見せた。

 食えないじいさんだ、とは思うが実際にシャルロッタの超人的な活躍が尾ひれがついて噂となりつつあるため、第一王子派も無理には攻め込んでこれないだろう。

「……今度からはそういうことをやる前に相談してくれよ……」


「……私もハーティを守るという義務がありますからな」

 しれっとした顔でそっぽを向いているレイジー男爵だが、たしかに効果があった……実際に第一王子派に所属している軍勢が一度引いたのだ。

 おそらく大兵力をもって攻勢に出るための一時的な後退だろうが、中にはシャルロッタの活躍を第八軍団の敗残兵が尾ひれをつけて語ったことにも影響があるのだろう。

 第八軍団との戦闘で疲弊したハーティを攻略しようとする貴族たちへのけん制にもなっている。

「効果は認めるけど……シャルが嫌がるんじゃないの?」


「妹君なら今頃のんびり家の風呂を占拠していますよ……年頃の少女らしいではありませんか」

 あの子は変わらないね……とウゴリーノは再び大きくため息をつくと、両手で軽く頬をぱちぱちと叩いてからすぐに表情を引き締める。

 どちらにせよシャルロッタをエスタデルへと送り届け、第一王子派との決戦に備えてハーティだけでなく他の都市との防衛ラインを構築しなければいけない。

 当主である父クレメントがまだ目覚めていない今、彼らが必死に動かなければ家がなくなってしまう。

「……マリアナにも言われちゃうからなあ……家のために身を粉にして働けって……がんばろ……」




「ふいー、一仕事終えた後のお風呂は最高ね……」

 わたくしは今レイジー男爵家のお風呂をたった一人で使用している……ちなみに護衛もつけずに……と言われるケースが前にもあったので、護衛代わりに子犬サイズまで小さくなっているユルが腹を上にしてお湯の中にぷかぷか浮かんでいるが、まあこれはいつものことなので気にすることはない。

 猟犬(ハウンド)を倒したあと、戦後処理の一環でわたくしも手伝おうと思ったのだけど、結局貴族令嬢であるわたくしへと振れる仕事がないということになって暇を持て余しているのだ。

「しかし……猟犬(ハウンド)なんて怪物、どうやって呼び出したんですかね」


「……おそらくだけど深淵の鍵をつかったのね」


「深淵の鍵?」


「異なる理に生きる生物を招く鍵と、解放する門、ふたつが揃っていれば確かにああいった異世界の怪物を招くことはできると思う」

 この鍵と門というのは概念でしかなく、実際にはどういう形をしているのか文献を読んでもはっきりとはしていないのだけど……前世の世界では鍵はそのままだったが、門となるアイテムは分厚い書籍だったんだよね。

 でも第八軍団の本営にはそれらしきものはなく、結局何が使われたのかはわからずじまいなのだが。

 相当に危険な遺物であることは間違いないので放置はしたくないけど。

「それにしたって(キング)級の個体が呼び出せてるんだから、巨大な物のような気がするんだけどねえ」


「それらしきものは何もありませんでしたね」


「すでに回収されているか、一度使うと消滅する類のものか……わからないわ」

 混沌の眷属らしき気配もすでになかったし、戦闘に入る前に持たされていたのか……門となる遺物を子爵がすでに持ち続けていたのか……うーん、わからんなあ。

 考えても仕方ないことなのでさっさと切り替えることにして、ふと湯の中に映る自分の裸身に目を奪われる。

 つんと形の良い胸は学園入学前よりもほんの少し豊かさを増したような気がする……腰の括れは前のまま細身で、お尻周りも前よりも成熟した女性のような丸みを帯びた形へと変化してきている気がする。

「……なんか自分の身体見てると恥ずかしくなるわ、変な気分になっちゃう」


「それはそうと以前訓戒者(プリーチャー)に貫かれた場所は平気なのですか?」


「修復したわよ? 前にも言ったけどわたくしを殺すには魂ごと吹き飛ばすくらいの威力がないと無理だし、今のところそれができたのは前世の魔王だけね」

 転生して初めてだな……肉体を傷つける一撃は……防御結界含めてそう簡単に破られないだろうとおもってたが、訓戒者(プリーチャー)によってはこの結界ごと破壊してくる可能性も加味しなきゃいけない。

 肉体の修復は難しいものではないとはいえ、腕をちぎられたり足をもがれたりすると修復する間は戦闘能力が落ちてしまうし、その隙が命取りになる可能性も多少あるからな。

 油断はできない……特に訓戒者(プリーチャー)の親玉である闇征く者(ダークストーカー)は明らかなる強者だ……第一王子派との戦いが進めば必ず彼は出てくるだろう。


 勝てるかな?と問われれば必ず勝つと応える。

 なぜならわたくしはこの世界で最も最強であると自信をもって答えるからだ……それは前世までで積み重ねた経験と、知識、そして技量において誰にも負けないという自負を持っているからだ。

 ただ……わたくしの戦闘能力は周囲もろとも破壊してしまうような超攻撃力をもった技や魔法が多く、味方を避けるなどはかなり難しい。

 それゆえに戦場を選ぶ必要があるし、味方もろともというのは勇者であった自分にとって許しがたい行為となってしまう。

 今後難しい戦いを強いられる可能性もあるな……めんどくさ、わたくしは軽くため息をつくと、勢いよくお湯から飛び出して出口へと向かう。


「悩んでもダメね、出たとこ勝負……シャルロッタ・インテリペリたるわたくしが悩むなんて許されないわ」

_(:3 」∠)_ 唐突なる肌色回……!


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[良い点] え?子犬状態の毛玉を愛でる回では!?
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