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(幕間) 死を呼ぶ音色 〇三

 手に持っているビューグルを掻き鳴らす……心の底から贖罪と、悔恨を載せて、吹き鳴らした音色は昔老人がまだ少年だった頃になっていた音のようにも聞こえた。


「ああ……お前はバカな貴族が無理に突撃した時に最初に死んだ……お前はあの時の……」

 ずるり、ずるり……と地面の中から白骨化した手が、そして眼窩から死体を喰らう甲虫がボロボロと落ちていく不死者(アンデッド)が現れていく……老人の目には誰の死体だったかわからないそれらの怪物が、昔彼の音色で死んでいった仲間のように見えているのか、彼はビューグルを吹き鳴らしながら涙を流しているのだ。

 彼の目の光は異常だ……明らかに正気を失っており、彼が奏でる音は次第に狂気じみた調子はずれのものへと変わっていく。

 異様な光景の中、不死者(アンデッド)達は呻き声をあげながらゆっくりと歩いていく……老人は楽器をかき鳴らしながら、その中を共に歩んでいく。

 それはまるで死者とともに老人が行うパレードのようにも思える、奇妙な光景が繰り広げられていた。


「クフフッ! ずいぶん蘇らせたな……思ったよりも呪いに親和性があったようだ」

 その光景を見つめながら、鳥を模した仮面を被る魔人……闇征く者(ダークストーカー)が引き攣るような笑い声を上げている。

 あの老人が持っているビューグルに与えた魔力は、死者を甦らせることで強化されていく特性があり、見たところ老人は一心不乱に魔力を使い、無差別に死者を復活させている。

 呪いのようなものだから普通の人間が使用していけば次第に狂気に蝕まれていくだろうが、あの老人はすでに狂っている……影響はほぼないといっても良い。

「おもちゃが出来たのか?」


「クフフッ! 知恵ある者(インテリジェンス)か……」

 ヒキガエルのような顔をした人物が闇の中からずるりと姿を表す……訓戒者(プリーチャー)の一人知恵ある者(インテリジェンス)は死者の行進を濁った瞳で見ながら筆頭に軽く頭を下げた。

 今彼はシャルロッタ・インテリペリとの邂逅のあと、吸収した暴力の悪魔(バイオレンスデーモン)の消化のため活動をしていなかったのだが……と、闇征く者(ダークストーカー)が彼の顔をじっと見つめる。

 だが、知恵ある者(インテリジェンス)はフン、と鼻を鳴らすと「休眠するわけではないのでな」と吐き捨てる。

「あの令嬢の監視は良いのか?」


「丸一日監視するのも疲れるだろう? それにあの金髪の王子とあの女が共に行動しているといったら理解するか?」

 闇征く者(ダークストーカー)はその言葉を聞いて、ほう? と感心したように鈍く光る瞳を輝かせる。

 この世界における勇者の器たるクリストフェル・マルムスティーン第二王子……彼の力は次第に花開きつつあり、訓練を欠かさない真面目な性格もありかなりの力をつけつつある。

 そのうち過去の勇者であったスコット・アンスラックスに匹敵する力を得ることになるだろう、ただ彼の持っていた聖剣不滅(イモータル)はシャルロッタの手に渡っており、違う武器を手に入れる必要があるだろうが。

「あの王子は良いな、勇者たる素質、努力を欠かさない真面目な性格、そしてまっすぐな瞳……まるで過去の勇者が再び世に現れたかのようだ」


「恋人でも語るような口調だな……お前の天敵なのだろう?」


好敵手(ライバル)となりえる人物に恋焦がれるのは男女変わらんよ、それはあの令嬢も似たようなものだろうが」

 先日邂逅したシャルロッタ・インテリペリは素晴らしい好敵手(ライバル)となりそうだった、今戦ったらどちらが勝つだろうか? いや、まだそれでも自分の方が強いと断言できる。

 何が影響しているのか彼女は自分の能力を全て出し切ることができていない……結界魔法を打ち砕いた後に、一瞬だが力を失ったかのような状態になった。

 あれは魂と肉体が融合し切っていない状態、おそらく彼女はなんらかの形で無理やりこの世界に魂をくくりつけられた存在なのだ。

「……この世界に干渉できる存在、神が関与し介入したとすればそれは盟約破りでしかない、なぜ今そんなことをしているのかはわからんが……」


「どちらにせよ盟約を破った存在を殺せば解決なのだろう? あの女を殺せば我らが神はお喜びになるだろう」


「そうだ、この世界は誰も知らないうちに混沌神の手に堕ちつつある……女神はそれに気がついたようだがね、だからこそあの女を盟約を破ってまでこの世界に落としたのだろう」

 混沌四神ワーボス、ディムトゥリア、ターベンディッシュ、ノルザルツは混沌神の中で最も強大かつ古くから存在している四柱を示している。

 一括りに四神と呼ばれており、同じ混沌の神ではあるが神々は協力関係にはなく、利害による結びつきで繋がっているため眷属である悪魔(デーモン)訓戒者(プリーチャー)も同じように仲間という認識に乏しい。

 訓戒者(プリーチャー)が協力し合うという関係性はこれまではなかったが……結果的に盟約破りが結束を促したことは皮肉なことなのかもしれない。

「……それで、金髪の王子は今何をしているのだ?」


「お前のおもちゃを熱心に嗅ぎ回っているようだぞ、事件が発覚した先から調べてまわっている……追いつかれるのも時間の問題だろう」


「それならばそれでいい、元々お遊びだからな」


()()()ね……」

 闇征く者(ダークストーカー)の言葉に知恵ある者(インテリジェンス)は再び鼻を鳴らすと、蠢く死者の群れへと視線を動かす……死者を甦らせる魔法、つまりは死霊魔法(ネクロマンシー)の部類に入るのだが、ターベンディッシュの眷属である彼にとっても一人の人間に呪いをかけ、正気を触媒に死者を復活させるというこの()()()は興味深かった。

 人間の精神が崩壊するまでにどれだけの数の死者が復活できるのだろう? 魔力を使って死霊魔法(ネクロマンシー)を行使するには普通人間一人の魔力は少なすぎる。

 それまで魔法を使っていない素人を使っての実験というのは興味深いものなのだ。

「……見せてもらおうか、単なる人間がどこまでの魔力を絞り出せるのかを……」




「……ここも同じだな……死者が蘇って人を食い殺した、だけど今回は骸骨戦士(スケルトン)ってのがまた……」

 クリストフェルはひどく荒らされ、破壊された家具を慎重に動かしながら、興味深そうに自分を見ている婚約者シャルロッタへと話しかける。

 この家では普通の家族が住んでいたが、突然押し入ってきた骸骨戦士(スケルトン)に全員が惨殺された……しかも通常は人を食うことのない不死者(アンデッド)が人を食い殺したということで、近隣では異変に怯える人が続出しているのだという。

 骸骨戦士(スケルトン)はその構造上物を食べることができない、それゆえに相手へと噛み付いたとしてもその肉を咀嚼し、飲み込むことはない。

 だが目撃者の話によると、この家に押し入った不死者アンデッドはまるで、飢えた動物のように人間の肉を噛み砕き内臓を引き出し、そして晩餐を楽しむかのように()()()()()、らしい。

骸骨戦士(スケルトン)は食べ物が食べれないですものねえ……」


「そうなんだよね、骸骨戦士(スケルトン)は相手に噛み付くことはあっても咀嚼はしたりしないんだよね……なんか異常なことが起きている気がする」

 クリストフェルは床についた血痕や傷跡を調べながらシャルロッタの言葉に頷き、再び黙って黙々と調査を進めていく……ヴィクターとマリアンもあたりの様子を調べながら、異常がないかどうか確認をしている。

 三人とは別にシャルロッタはあちこちに視線を動かしながら、時折眉を顰めたりじっと何かを見るように一点を凝視したりしているのにマリアンは気がついた。

 まるで何かを調べているような……彼女の美しいエメラルドグリーンの瞳に不思議な光が灯っているかのようにも思えるが、魔法の素養が乏しい彼女にはそれ以上何が起きているのか理解できずにとまどう。

「……マリアンさん、何かありましたか?」


「え、あ……その……こちらには何も」

 シャルロッタがマリアンの方を見ずに、いきなり声をかけてきたことで彼女は少し戸惑う……私がこちらを見ていることに気がついていたのか?

 インテリペリ辺境伯の令嬢ということで単なる貴族の娘ではないとは思っていた……ガルムと契約し、あれほど見事な幻獣をまるで下僕のように使う彼女だが、当のガルムはそういった扱いにも慣れているとばかりに意図を汲み取って甲斐甲斐しく働いている姿を何度も見た。

 見た目の美しさだけがよく取り沙汰されているが、近くで見る彼女は普段は絶対に見せないが、時折恐ろしいまでの存在感を感じさせる不思議な雰囲気を持っている。

「そうですか……わたくし少し気になるものを見つけましたわ、こちらへ」


 シャルロッタがマリアンを手招きすると、床をそっと指差して彼女に見るように促す。

 何もない……いや、この家の住人のものとは思えない足跡……少し大きめの跡がくっきりと残されているのがわかった。

 しかもその近くには小さな徽章が落ちており、埃の中に紛れて鈍い光を放っている……マリアンがそれを手に取って淡い蝋燭の光に照らしてみると、イングウェイ王国軍の紋章が刻まれている。

 しかもそのデザインはラッパ手……軍における命令伝達を司る一兵士がつける特殊な蒼の紋章深青の奏者(ストラトキャスター)であることがわかる。

「……元軍人のものでしょうか? でもこの家の持ち主は農民でしたわね」


「デザインが少し古いですね……しかもかなり汚れています」


「おそらく退役した兵士の持ち物ではないでしょうか? 確か数ヶ月前に長年軍にいた兵士の一部が退役したって式典を行なっていましたわ……そこに犯人がいたのだとしたら調べるのは……」

 シャルロッタが少し考え込むようにマリアンの手にある深青の奏者(ストラトキャスター)を見ながら彼女に語りかける……いつの間にそんな式典のことを知っていたのかと内心疑問に思うマリアンだったが、今はそれどころではないと思い直してシャルロッタに軽く頭を下げるとすぐに敬愛する主人の元へと走っていく。

 そんな彼女の背中を微笑みながら見つめると、シャルロッタはぼそっと誰にも聞こえない声で独り言を呟いた。


「……こんなわかりやすい目印を見逃すなんて……警備隊の捜査能力では犯人は永遠に見つかりそうにないですね……バレないようにサポートしなきゃだめかしら」

_(:3 」∠)_ サポートがあまり上手くない主人公……まあ脳筋だからね!


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