表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/430

第一六六話 シャルロッタ 一六歳 ハーティ防衛 一六

「なにが、何がいるんだあれは……」


「エルネット! 第八軍団の本営付近におかしなのがいる! 早くハーティの中へ!」

 本営方面から聞こえる吠え声と、悲鳴そして喧騒に何が起きたかわからないまま何度も振り返って確認しているエルネットへ、街を覆う壁の上から本営側を確認していたリリーナの声が聞こえる。

 その声に従って周りにいた兵士に声をかけながらハーティへと戻っていると、とても大きな何かを破壊する轟音が響き渡り、ハーティを攻めていたはずの第八軍団の兵士たちが我先にとばらばらの方向へと逃走し始めるのが見えた。

「何が暴れているんだ? 魔獣か?」


「……わからない、見たこともない濃い色の身体が見える……大きさは……少なくともガルムなんかより全然大きいわ!」

 リリーナは「赤竜の息吹」のメンバーも魔物の姿形に詳しい、というより生物学としての魔物についての知識はデヴィットが専門家なのだが、偵察時に正確な魔物の種別を判定するために独学で彼女は生物学を学んでおり、その的確さはパーティ内で最も優れている。

 その彼女が見た事がないという魔物が暴れているということは、この状況下ではイレギュラーな事態が起きているのだ。

 その時、本営側で大きく土煙が上がったかと思うと、その中から巨大な四足歩行獣の姿をした濃い藍色の怪物が何かを口に加えて大きく飛び上がったのが見えた。

「な、なん……ッ!」


「あ、あれは何?!」

 その姿はハーティからもはっきりと見えた……狼のような四つ足の獣のような姿をしているが、濃い藍色の体表は体毛が一本もなく、ぬらりとした光沢を放っている。

 だがトカゲのようにも狼のようにも見えるその姿は、おおよそこの世界に生きる生物の姿としては有り得ないくらい醜く感じる。

 背中からは複数の触手のような器官が伸びているのがわかるが、その触手はうねうねと奇妙な動きを見せている……怪物は土煙の中へと姿を消したが、相当に重量があるらしく着地とともにあたりを揺るがす程の音を立てている。

「ドラゴン……? いや先ほど見えた姿は明らかに別物の……なんだあれは?」


 不気味な怪物はその巨体をまるでトカゲのように這う動きを見せながら、土煙の中を移動し第八軍団の陣地を荒らしまわっている。

 巨体の影が動くたびに悲鳴と、怒号、そして絶叫が響き渡る……ハーティ守備隊含め、その場にいる全員が何が起きているかわからない恐怖と、おぞましい咆哮に身を震わせている。

 エルネットのもとへ「赤竜の息吹」のメンバーが駆け寄るが、彼自身は城門の向こうで起きているであろう、事態が気になるのか浮かない顔を浮かべている。

 そこへレイジー男爵とリディルが慌てて走ってくると、エルネットへと問いかける。

「エルネット卿、無事でよかった……何が起きているんだ?」


「わ、わかりません……自分は第八軍団のアンセルモ卿を倒しましたが、その直後彼らの本営のほうが騒がしくなって……」


「見たことのない怪物が暴れていますっ! あれは……あれは一体なんだ?!」

 城壁の上にいた兵士から悲鳴のような声が上がる……エルネット達も見た不気味すぎる巨大な怪物……知性があるのか口元をゆがめて笑うような表情を浮かべていたのが印象に残っている。

 過去に遭遇した怪物の中にも多くの不可思議な生物がたくさんいたが、それらは長年に渡る冒険者たちと学者による魔物研究により大半が姿と名前を記録されている。

 だがその記録に近いものを思い浮かべてみても、あの姿の記録は残っていない。

「四足歩行の幻獣? いやそれにしてはドラゴンにも似ているし……」


「……猟犬(ハウンド)捕食者(プレデター)……まあそれに類するものよ、時空の追跡者なんて名前もついたりしてるわ」


「うわあっ!」

 いきなり上空から声が聞こえると、まるで天上から降臨した女神のようにふわりと降り立った女性……何事もなく地面へと着地したシャルロッタ・インテリペリの姿にその場にいた全員が驚く。

 どこから降ってきたのだ? と口をあんぐりと開けているレイジー男爵とリディルだけでなく、兵士たちもその姿に驚愕を隠しきれていない。

 彼女は先ほどまで別の場所にいたはず、それにあの爆発……無事だとは思っていたが、ハーティの上空から降りてくるなど誰もが想像だにしていなかった。

 だがすでにその実力を間近で見ている「赤竜の息吹」のメンバーは何も気にせずに彼女へと話しかけた。

猟犬(ハウンド)……? 混沌の生物ですか?」


「混沌と一括りにしていいかわからないけど……この世界とは別の場所にある場所に生息している知的生命体らしいわ、わたくしも見たのは二回目、いやこの世界では初めてね」

 シャルロッタはその生物についての話を始める……その場所にいる生命体は混沌と不浄によって構成された世界で、そこにいる常に飢え執念深く相手を追い続け、世界を超えて出現することでついた名前が猟犬(ハウンド)捕食者(プレデター)と言った名前なのだという。

 今この場に出現したのは、(キング)級……猟犬(ハウンド)たちの中でも最大クラスの怪物で、放っておけばあたり一帯の生命をすべて食い尽くし、それでも飽き足らずに大陸全土を殺戮の海へと変えてしまうのだという。

「以前出現した猟犬(ハウンド)は倒されるまでに数万の命を食らいつくしたわ……それでも飢えは収まらずに、更なる犠牲を求めていた、あれは満たされることがない天性の殺戮者ですわ」


「そ、そんな……ではここで倒さなければいけない魔物ですね……」


「ま、わたくしがでますわ……あれは耐久力もあるから皆様には少し荷がおも……」


「ちょ、ちょっと待てシャル、お前が倒すのか? そ、それになんだお前は何でそんな知識を……」

 レイジー男爵が慌ててシャルロッタの肩をつかむと、予想以上に細い肩の感触に少し驚くもすぐに表情を引き締めて彼女へと話しかけた。

 当の本人は「何か悪いこと言いました?」とばかりのキョトンとした表情を浮かべているが、レイジー男爵はそんな彼女を見て、大きくため息をついた。

 そんな男爵のとなりで、本当に心配そうな表情を浮かべるリディルも、何度か逡巡していたが意を決したようにシャルロッタへと語りかける。

「シャルロッタ様、貴女に何かあれば我々の首が飛びます……あの怪物を倒すのにこちらにいるエルネット卿や「赤竜の息吹」だけでなく、我々では無理だということでしょうか?」


「リディル、お聞きしますけど視界に入った次の瞬間背後に回って牙を突き立ててくるような魔物に勝てる自信はおあり?」


「え? ええ……? なんですかそれは……」


猟犬(ハウンド)は高次元の存在だから空間を飛び越えるの、視界に入る情報だけで戦うと確実に死ぬわ」

 口元を引きつらせているリディルに対して、シャルロッタの目は真剣そのものだ。

 エルネットはその様子を見て相手の能力……空間を飛び越えるというその攻撃方法を自分ならどう避けるか? を考え始める。

 目で追いかけて防御するなどとてもではないが間に合わないだろう、そうすると確かにシャルロッタのように魔力を使って防御結果を展開している者でないと何もできずに殺されるだけなのだという結論にたどり着く。

 なおもシャルロッタを止めようとするリディルの肩をそっとつかむと、エルネットは困ったように振り向いた彼に黙ってうなずく。

「シャルロッタ様が言っている意味が分かった……俺では倒せない、もちろんこの場にいる人間でそんな化け物を相手にできるのは確かに彼女しかいない」


「な、なにを言って……君は、君たちは彼女の護衛なのだろう?!」


「正確に言えば仮初の護衛……シャルロッタ様はこれまで自身の能力を見せることを良しとしていなかった、そのため俺たち「赤竜の息吹」が彼女を隠す役目を負っていたんだ」


「……ほ、本当にシャルロッタ……様がそんな能力を……」


「俺は何度もシャルロッタ様に助けられた、今こうして生きているのは彼女に助けてもらったから……だから彼女が言うのであれば、そんな相手と戦うときに俺たちが出ていくだけ邪魔になる」

 エルネットはリディルのまっすぐな視線を受けて、本当に悔しそうな表情で顔を背ける……エルネットは本来誇り高い男だ。

 正義感も強く、自分の保身など二の次で困っている人たちを助けることが最優先で、割に合わない仕事なども率先して請け負ってきていた。

 敵に背を向けて逃げる時もあったが、金級冒険者として活動してからはずっとまっすぐに立ち向かってきた人物なのだ。

 その人物がリディルの非難するような懇願するような視線を受け止めることができない……ずっと彼は負い目のようなものを抱えている。


『本来受けるべきではない称賛を自分たちは受け取ってしまっている』


 口には出さないが、ずっとしこりのようなものを抱えて生きているのだ。

 本音では彼もシャルロッタと共に戦いたい、英雄と呼ばれるであろう彼女の傍で自らの力を証明したいとも考えている。

 だが……シャルロッタはそれすらも難しい相手だと言っているのだ、だからこそエルネットは彼女の邪魔になるような真似はしたくない、いやできない。

 しばしの間二人の間には奇妙な沈黙の時間が流れる……だが、二人の肩に柔らかく細い指を持つシャルロッタの手がポン、と載せられエルネットとリディルはハッとして優しく微笑む銀色の戦乙女の顔を見る。

「ハーティの防衛お疲れ様でした、皆様は十分やってくれましたわよ」


「シャルロッタ様……」

 エルネットは申し訳なさそうな顔で、リディルは自分の不甲斐なさに顔をしかめて泣きそうな顔になりながらも頭を下げた。

 うんうん、と満足そうにうなずくとシャルロッタは影からずるり、と姿を現したユルに対して黙ってうなずくと、ユルは自らの役目を理解して頷いた。

 ユルに託されたのはハーティを守ること……この場にいるすべての人間を英雄と魔獣の決戦に巻き込まないこと……本気でシャルロッタは能力を再び行使する気なのだ。

 心配そうな顔をしている全員に向かって彼女は忘れたくても忘れられないような華やかな笑顔を浮かべて笑う。


「……ではちゃっちゃと片付けてまいりますわ、そんな顔で迎えないでくださいね……安心してくださいまし、わたくし最強なのですから」

_(:3 」∠)_ 次からシャルロッタ様の実力が見れるよぉ〜


「面白かった」

「続きが気になる」

「今後どうなるの?」

と思っていただけたなら

下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。

面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんなんとすでに戦闘経験済なのは流石に勇者なんだよなぁ。 戦闘シーンじゃなきゃ、マーサ殿とリリーナがやってくれるものを……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ