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第一四八話 シャルロッタ 一五歳 魔剣 〇八

 ——わたくし達の目の前に、コルピクラーニ子爵家の紋章賢者の鼓(シャーマンドラム)が描かれた旗を持った兵士たちが隊列を組んでいるのが見える……わたくしは思わず深くため息をついた。


「や、やりやがりましたわ……嘘でしょ……」

 わたくし達の目の前に完全武装で、こちらをじっと見ている兵士たち……一〇〇名を超える大人数が街道を封鎖している。

 まさかとは思うけどコルピクラーニ子爵はいるのか? と目を凝らして見てみるがそこにはアマデオ卿らしい人影はおらず、その代わりに陣地の奥の方から不気味な妖気のようなものが立ち上って見えているのがわかる。

 兵士たちはその異様な空気には気がついていないのか、馬車を見て「止まれー! こっちに来い!」とか叫んでるが、これはどうしたものか……困惑するわたくしにエルネットさんが神妙な顔で話しかけてきた。

「どうされますか……? コルピクラーニ卿の旗印が見えていますが……」


「どうもこうも……こちらに気がついているわけですから逃げるわけには参りませんわ……わたくしが声をかけます、皆さんは馬車で待機してください……ユル出てきて」


「承知……」

 わたくしの影から黒い巨体がぬるりと這い出ると、一度大きく体を震わせるとわたくしの足元で軽く体をすり寄せるような動きを見せた。

 そのモフモフの毛皮を軽く撫でると、ユルは嬉しそうに尻尾を軽く振るが、もうこういう仕草見ると犬しか見えないなあ……と内心この幻獣ガルムの嬉しそうな笑顔に失笑しそうになる。

 わたくしはエルネットさん達を見て黙って頷くと、馬車の扉を開けて外へと降り立つ……馬車からわたくしが現れたことで、コルピクラーニの兵士たちがどよめくが、わたくしは黙って馬車の前まで進むとそこで立ち止まってから彼らへと話しかけた。

「……わたくし達はインテリペリ辺境伯領へと戻るところです、この辺りは子爵領と辺境伯領において軍を展開しないという取り決めをしている場所だと記憶していますが、指揮官はどなたですか?!」


 思っていたよりも声が届くわたくしに驚いたのか、兵士たちはさらにざわざわと騒がしくなる。

 そりゃわたくしも貴族令嬢として育った中でインテリペリ辺境伯家では人を統べる者としての訓練をしているので、演説とかに必要な声の出し方は学んでおり、それが遺憾なく発揮される状況ではある。

 わたくしが返答を待っていると、兵士たちが真ん中から左右に分かれていき、その中央から一人の人物がゆっくりと歩み出てきた。

 金色の髪に、少しごつい体つきをした男性……ディートリヒ・コルピクラーニ、その人が姿を現す……だがわたくしはその顔ではなく彼が携えている黒い刀身を持つ剣に視線が向いている。

 なんだありゃ……わたくしの目にはその刀身から禍々しいオーラのようなものが立ち上っているのが見えており、まるでこちらを剣自体が見ているような気分にさせられる。

「出てきたなシャルロッタ・インテリペリッ!」


「……ディートリヒ様……」


「貴様は妖婦……イングウェイ王国を貶める邪悪な存在だッ!」

 いきなり何を言い出しているんだこいつは……わたくしは流石に彼が何を言っているのか理解できずに眉を顰めるが、そんなわたくしを見てディートリヒはその手に携えた不気味なオーラを噴出する剣をわたくしへと指し示すと、口元を歪めた。

 その笑み、どことなく歪んだ笑顔を見てわたくしの記憶にある快楽の悪魔(ラストデーモン)オルインピアーダのことを思い出した……いやディートリヒは生きているし、普通の人間でしかない。

 だが何か違う……いや一番おかしいのはその手にある剣なのだけど、わたくしは懐からコルピクラーニ子爵より受け取っている通行許可証を取り出すと掲げてみせる。

「ディートリヒ様、わたくしはコルピクラーニ子爵より通行許可証をいただいております、子爵はわたくしとその仲間がインテリペリ辺境伯領に無事着けるようこちらを渡していただきました……貴方のやっている事は子爵の意に反します」


「その命令は無効である……なぜなら、アンダース殿下の意向により私がコルピクラーニ子爵代理となっているからだ!」


「……は? 何を言って……コルピクラーニ子爵代理?」


「先代コルピクラーニ子爵は国家反逆を企て、我が手により討ち取っているッ! 今は権限移譲のための申請を王都に対して行っている!」

 わたくしは彼が何を言っているのか理解できずにいる……父親を討ち取った? コルピクラーニ子爵は単に戦争の発端を作りたくなくて、わたくしを逃がしてくれようとしただけだろう?

 父親を討ち取ったって……殺したのか? 実の父親を……わたくしは絶句して目を見開くが、そんなわたくしを見てディートリヒは歪み切った笑みを浮かべている。

 コルピクラーニ子爵の軍勢は黙ったままわたくしとディートリヒを見ているが、どうやらこの場にいる兵士たちは彼が親殺しをしてもついていくと決めた連中なのだろう。

「……ち、父親を殺して……それでディートリヒ様は、それでいいのですか?」


「……ふん、裏切り者を成敗して何が悪い!」


「……クソだな」

 わたくしは黙って通行許可証を投げ捨てる……ダメだ、ディートリヒは混沌によって歪められた、すでに操られるだけの存在になっている。

 いきなり通行証を投げ捨てたわたくしを見て、兵士たちがざわめく……平和的に通行するための最後の頼みを捨てるという行動が理解できなかったのだろう。

 わたくしは大きく息を吐く……アマデオ・コルピクラーニ子爵は嫌いじゃなかった、自分が弱小貴族であることを理解しその中でどうやって家名を存続させるのかを必死に考えている常識人だった。

 だがその息子は自分の欲望を優先し、第一王子派のために肉親すら殺した……彼がいうにはだけど、それでもそれをあの笑顔で発言したことにわたくしは強い怒りを感じた。

「どうした! 貴様を今から十分痛めつけ、苦痛に歪むお前の体を楽しませてもらってから王都に移送してやる、覚悟しろ!」


「……やれるものなら……」


「……あ?」


「やってみろって言ってんのよ! このクズがッ!」

 わたくしはそのまま虚空より魔剣不滅(イモータル)を引き抜く……何もない空間から剣を引き抜いたわたくしを見て、兵士たちが響めいた。

 まさかわたくしがそんな行動に出るとは思わなかったのだろう、さらには辺境の翡翠姫(アルキオネ)として名高いわたくしが、積極的に戦闘に参加しようとするとは思っていなかったのだろう。

 だがディートリヒは驚いた様子も見せずに黒い剣を振り上げると、後ろに控える兵士たちに向かって怒声を張り上げる。

「あの妖婦を捕らえよ! 捕えたものには一生使いきれないくらいの褒章が出るぞッ!」


「「「お、おおおおっ!」」」

 叫び声と共に一〇〇名を超える兵士たちが武器を構えて突進を始める……わたくしが剣を嗜む、稽古をつけているという話はインテリペリ辺境伯領ではよく知られており、隣接しているこのコルピクラーニ子爵領の兵士でも噂くらいは聞いたことがあったのだろう。

 だからある程度わたくしを傷つけてから捕縛しようと考えていた……のかもしれないけども一番彼らが警戒している「赤竜の息吹」よりもわたくしが強い可能性なんか全然頭に無かったんだと思われる。


「俺が一番乗りだ! やあああッ!」

 最初にわたくしの元へと到達した兵士が雄叫びと共に手に持った槍を突き出す……がやっぱり遅いな。

 わたくしの感覚ではハエが止まりそうなくらいの速度で突き出されているため、こともなげに左手でその槍を掴んでみせると、兵士が必死に振り解こうとしてもがき始めた。

 まるでびくともしない槍と、こともなげに微笑むわたくしを見てその兵士は急に顔を真っ青にすると槍を手放して腰に下げた剣を引き抜こうとするが、わたくしはその一瞬の隙を見逃さずに握ったままの槍を思い切り振り回すと、兵士へと叩きつける。

「うぎゃあああっ!」


「……こんなつまらないことで命を落とす事はございませんわよ? それと命までは奪う気はありませんわ!」 

 槍を叩きつけられた兵士が重力を完全に無視したように空中へと投げ出され、一〇メートル以上吹き飛んで行ったのを見て、襲い掛かろうとした兵士たちの表情が思い切り変わる。

 わたくしは槍をくるっと回して右、左と迫り来る兵士へと叩きつけるたびにドゴォン! という轟音と共に兵士たちの体が、鞠でも放っているかのように軽く、そして遠くへと吹き飛んでいく。

 あまりに異常な光景に怯んだのか、彼らの顔に恐怖の色が浮かんだのを見て、頃合いと見たわたくしは思い切り声を張り上げた。

「ディートリヒ・コルピクラーニィィィィッ! 前に出てきなさいッ!」




「ああ……やっちゃった……」


「どうする? 止めたほうがいいかな……」

 幻獣ガルム族のユルと「赤竜の息吹」のメンバーは鞠のように兵士が宙を舞う光景を見て、唖然とした表情でその成り行きを見守っている。

 シャルロッタの怒りは理解できる……彼女は父親や、家族を本当に大事に思っており、どうやらディートリヒが親を殺したと言い放ったことで彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうというのは予測できた。

 だがこのままにしておくわけにはいかない、エルネットは黙って剣を引き抜くと、仲間へと振り返ると声を張り上げた。

「シャルロッタ様の加勢に入るぞ、ユルはマーサさんを護衛、俺たちは兵士を相手にする……間違っても殺すなよ?!」


「そうね……「赤竜の息吹」ここにありってのを見せつけてやりましょう!」

 エルネットとリリーナが我先へと包囲を始めている兵士たちに向かって駆け出す……エミリオとデヴィットは顔を見合わせると、やれやれと言わんばかりに首を振って苦笑いを浮かべるとそれぞれ槌矛(メイス)と杖を構えて彼らに続いて駆け出す。

 ユルは震えながら事の成り行きを見守っているマーサをチラリと横顔で眺めると、彼女の肩にそっと前足を乗せると優しく語りかけた。


「安心してくださいマーサ殿、シャルは圧倒的に強い……本当に危ない時には我も出ますよ」

_(:3 」∠)_ 御大による一般人へのお仕置き始まるよー


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[良い点] 良い親に手を掛けるカスは粉砕すべし。 [一言] ユルさんは一緒に唖然としてたらアカンのよ
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