第一三九話 シャルロッタ 一五歳 死霊令嬢 〇九
「さあ、これで一〇体目……そろそろ飽きてきましたわ? とりあえず半殺しで止めているんですから、新しいのは出てこないですわよね?」
『ぐ……どこからこの無尽蔵の体力が……』
わたくしの目の前で這い寄る者が地面にひっくり返ったまま、連接棍を体に突き刺されて動けない状態で転がっている。
半殺し……つまり相手の復活条件である個体が死亡した段階で新しい個体が生み出される、を逆手に取って動けない状態を作ってしまえば一旦は解決する、と言う単純な考えで実行したものだ。
ここまで効果を発揮するとはわたくしも思ってなかったんだけど……まあいいか……彼の胴体にドカッと足を乗せて動けなくするとわたくしは満面の笑みを浮かべて笑う。
「淑女ってのは体力勝負なんですわよ? 遊んでるわけじゃないの」
『……出来の悪い冗談を真に受ける気はない……』
なんだつまんねーの……とりあえずこいつは動けないわけだしさっさとエルネットさん達を助けにいくか……わたくしが踏みつけている足をどかして、さっさとその場を離れようとすると、なんとかして彼は動こうともがくがそもそも地面に深く食い込んだ自分の武器が邪魔で起き上がることができない。
わたくしはそのまま這い寄る者を無視して周囲の状況を感覚で探っていく……ユルはどうやらラヴィーナ様を戦闘不能に追い込んだようだ。
肉が焼けつくような匂いも鼻に入ってくる気がするが、彼女はまだ生きている……凄まじい攻撃で一時的に気絶しているだけだし、王都の神官にでも治癒の加護をかけてもらえれば死ぬようなことはないだろう。
「……ユルってこんな魔法使えたのねえ……感心しちゃうわ」
さてさて……エルネットさん達はどうかな……ゾンビはもうほとんど残ってないが、それでも数体がまだウロウロしているな。
まあでもラヴィーナ様を退けたユルがそっちへ向かっているし……わたくしが何かする意味もないだろうか、するとわたくしヒマになっちゃうな。
うーん……這い寄る者と遊ぶのも飽きちゃったしなあ、と背後で何かゴソゴソ動こうとしている訓戒者をもう一度ドカッ! と踏みつける。
『ぐへっ……』
「誰が動いていいって言った? ゴキブリみてーにガサガサ動いてんじゃねーですわよ」
しかしこいつどうすっかな……殺しちゃうとまた復活するし、復活したとしてもわたくしの脅威にはならないけど名前通り這い回られるのもなあ。
あ、いいこと思いついた……わたくしは自分を何をする気だと言わんばかりの恨みがましい目で見ている這い寄る者と目が合うとニマッと笑う。
その笑みに何か不穏なものを感じたのか、彼はビクッと身を震わせるけどすでに四肢は全て叩き潰されているためにどうしようもない状況になっている。
『……なんだその顔は……』
「肉体に回復能力がない、殺しても同個体が増殖する……なら閉じ込めれば解決ですわね」
『な……何を……』
よくロールプレイングゲームなどで聖女様が魔王を閉じ込めて封印ってシーンを見て「なんで倒さないんだ」って思ってたんだけどさ、こう言うケースもあるから封印しなきゃいけないってこともあるんだと理解した。
確かに倒せるならそれはそれでいいんだけどね……今の所この訓戒者を殺す手立てがわからない、いや命というのは基本的に無限に続くことはあり得ないのでいつか増殖も終わらせることができるだろうが。
途方もなく長い時間殺し続けるというのはちょっと面倒だし、何よりわたくしが飽きちゃってるので……なら閉じ込めておけばいいじゃんってのが正直な感想だ。
「……そこから逃れることなかれ、それはお前を無力にし、閉じ込め、絡めとる……」
『き、貴様……ッ! 戦士である私を封印して無力化しようなど……私の誇りを侮辱するかッ!』
「お前を孤独の世界へと誘う……もはや戦うこと能わず、この牢獄より逃げることはできない……」
必死に体を捻って体に突き刺さっている連接棍を外そうとしているがもう遅いんだよね……この魔法は神滅魔法として開発した中で仲間だった魔法使いが「え? こんなの作ってどうするの?」と本気で不思議がった魔法の一つ。
わたくしは巻き込まれないようにふわりと跳躍すると、少し離れた場所に着地して魔力を集約させていく……這い寄る者は焦ったように必死にもがく。
『や、やめろ! 貴様……ッ! シャルロッタ・インテリペリッ! やめてくれっ!』
「死にはしないから安心しなさいな、貴方が縛りを破棄して肉体を再生して脱出すれば済む話よ……でもその場合は二度と増殖できないんでしょ?」
その言葉はクリティカルだったようだ、なぜわかったと言わんばかりに目を見開く這い寄る者の反応で、なんとなく彼が魔法を捨てている理由がわかった気がした。
本来超強力な魔法戦士である究極の悪魔が魔法能力を差し引く、というのは強力な縛りになり得る……これに行き着いたのはわたくしの経験がなせる技だ。
ちなみにわたくしが魔法能力を捨てる縛りをした場合、剣を振るだけで大陸一つを切り裂く能力が得られると思うがこれはもう戦略兵器に近い能力なのでやる気はない。
『やめてくれえええっ!』
「だーめ、やめないわ……神滅魔法玻璃の牢獄ッ!」
わたくしの詠唱が完了したと同時に地面に縫い付けられた這い寄る者を中心にパキパキパキッ! と音を立てながら複雑な板状にも見える結晶が彼を覆い尽くしていく。
あっという間に中心に這い寄る者を閉じ込めた硝子の牢獄が姿を表す。
この魔法は封印に特化しているがその封印能力はそれほど高くない……例えばわたくしやユル程度であれば内部から魔力を放出して破壊することは可能だ。
魔力が使えれば、という前提条件がつくけどね、這い寄る者のように縛りで魔力を絶っているものにすれば永遠に生きたまま動けなくなる永遠の牢獄に等しくなる。
「……多分その縛りで無限に肉体を増殖させることができるんでしょ? なら簡単……縛りを取り払って定命の者となれば貴方もここから出れるんじゃない?」
まあ、外から魔力をぶつけても壊れちゃうんだけど……水晶の中に閉じ込められている不気味な生物を出してやろうなんて酔狂な人間がそう多くいるとは思えないし、今のところはこれが最善の手段だろう。
わたくしは大きく息を吐くと、再び感覚を集中させていくが、ほぼこれで解決だろう……ラヴィーナ様はまだ生きているけど、先ほどのユルが放った魔法で気絶しているようだし、彼女をどうこうしようなんてのは思わないな。
それよりも第一王子派の令嬢が訓戒者と組んでいるという状況がすでにわけがわからない……彼女は聖女であるソフィーヤ様の取り巻きの一人だが、聖教自体が混沌の眷属と手を結んでいるということだろうか?
「……わからない……でも早く領地に戻って王都に残る第一王子派がおかしいことを伝えないと……戦争になってしまった時にこちらが打てる手が減ってしまうわね……」
「……これで、終わりだっ!」
「うぎゃあああっ!」
エルネットの放った一撃が首無し騎士タイナートの鎧を貫く……その刺突は不死者の肉体を貫き、血を吹き出した胴体はそのままどうっ、と地面へと倒れ伏した。
その様子を見ているタイナートの頭は再びユルの足に踏みつけられた状態で憎々しげに「赤竜の息吹」の面々を見ているが、彼らはところどころに傷を作りながらも強力な戦闘能力を誇る首無し騎士を倒すことに成功していた。
「おっと、首無し騎士は頭を潰さないと完全には死なないのでしたっけ」
「く……貴様らこれで勝ったと思うなよ?」
「どういうことだ?」
タイナートの言葉にエルネットが肩で息をしながら問いかける……ゾンビはあらかた片付けた、ユルはラヴィーナ・マリー・マンソンを退けている、あとはシャルロッタが訓戒者を倒せば終わりのはずだ。
確かにこの村はもうダメだろう、先ほど倒したゾンビの中に村人の服を着たものを見ている……おそらくすでに村人は全滅してしまっただろう。
一度殺されてゾンビ化した者を助ける術はない、一度シャルロッタへと「赤竜の息吹」は生命の復活は可能かどうか確認したことがあった。
『……わたくしでは無理ですわ、わたくしは自分の傷は癒せますけど他人の命を蘇らせるほどの力はございませんの』
彼女でもできないことがあるのか、とエミリオも落胆していたが彼女ほど強くてもできないことがある、という返答はむしろ超人たる存在でも難しい領域があるという違う意味での安心感を感じたものだった。
「……第一王子派にはこれ以上の戦力を持つものが存在している、私ごときに苦戦した貴様らではそれに勝つことなどっ……ひゃぽああっ!」
「うっさいですわねー、雑魚が黙ってなさいよ」
ひょいっ、とタイナートの頭を持ち上げたシャルロッタが、頭を軽く放ると全力の蹴りを見舞う……その一撃は首無し騎士の頭部をまるで果物を潰すかのようにグシャッ! と軽く粉砕してしまう。
全く……と軽くため息をついたシャルロッタが「赤竜の息吹」とユル、そしてエミリオに庇われていたマーサを見渡してからにっこりと笑うと、すぐに表情を引き締める。
「……村人には悪いことをしてしまいましたが……訓戒者は撃退しましたわ皆さん、早く領地へと移動しましょう、何か良くないことが起きようとしていますわ」
_(:3 」∠)_ ということでサクッと決着
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