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第一三六話 シャルロッタ 一五歳 死霊令嬢 〇六

 ——黒い訓戒者(プリーチャー)の言葉に、銀色の戦乙女は美しく整った口元を歪めて笑うと、上空へとふわりと舞い上がった……それはまるで神話に出てくる神鳥のように美しく見えた。


「……訓戒者(プリーチャー)ってならわたくしがやらないといけないですわねえ、ユル! みんなを守って」

 わたくしは足元に魔法陣を出現させると、這い寄る者(クロウラー)と名乗る混沌の眷属と同じ高さまでふわりと浮き上がる……あの首無し騎士(デュラハン)だけでは少しカロリーが足りなすぎるな、と思っていたところなのだから。

 しかし見えざる神? という混沌神はなんだろうか……わたくしの知識や経験を総動員してもそんな名前の神はいない、いや混沌の神には大小様々なものがいるので、もしかしたら抜け落ちているだけかもしれないけど。

 わたくしが彼(と言っていいのかどうかわからないが)の挑発に応じて、一人になったのを見た這い寄る者(クロウラー)は感心したように軽く息を吐いた。

『……さすが勇者の魂……猛々しく獰猛、女性の体に入れておくには惜しい存在』


「ちょっと質問ですけど、その外見が神様の姿に似通っているのでしょうか?」


『いいえ、これは私の罪の証……矮小なる自己を戒める呪い』


「へー……好き好んでゴキブリの外見になる頭おかしい人だったらどうしようって思いましたけど、ちょっとはマトモそうね」

 わたくしは虚空より魔剣不滅(イモータル)を引き抜く……それと同時に這い寄る者(クロウラー)は同じように虚空より無骨な骨を組み合わせて作られた連接棍(フレイル)を取り出す。

 珍しいな……マルヴァースやレーヴェンティオラにおいて近接戦の武器として花形はやはり剣だった……兵士などは槍、一部の戦士は斧などを愛用していることもあったが、やはり武器として人気があるのは剣だ。

 連接棍(フレイル)は農民が脱穀作業などに使う器具から発展したと言われるが、見た目の無骨さや扱いの難しさからそれほど普及しているわけじゃない。

『……理解していると思いますが、この武器も神話時代(ミソロジー)のものです……名を強欲なる戦火(ウォーピッグス)


「農機具から発展している武器にしては随分と洒落た名前ですわね?」

 わたくしは剣を構え直す……自然体に振る舞ってるけど目の前の昆虫、かなりの使い手なのがわかる。

 思っていたよりも厄介だな、口調が妙に丁寧なのも気になるけど……わたくしと這い寄る者(クロウラー)はほぼ同時に手に持った武器を振るった。

 おそらく常人では見ることのできない速度で、左右上下とわたくし達の持つ武器が衝突して甲高い音を立てる……あの長物をわたくしと遜色ない速度で振り回す膂力。

 あの細い前足はどういう構造になっているんだ、と思いつつわたくしは距離を取ると魔力を集中させて魔法を撃ち放つ。

「んじゃま、とりあえず小手調べにはこのくらいかなー? 火炎炸裂(ファイアリィブラスト)ッ!」


『……中級魔法……無詠唱でこれほどの威力とは……』

 這い寄る者(クロウラー)は避けようともせず棒立ちのまま火線の直撃を受ける……同時に炎が爆発し、あたりに爆音と炎を撒き散らすが、その炎の向こうに艶かしく黒光りする訓戒者(プリーチャー)の姿が現れる。

 無傷ね……わたくしは相手の様子を観察しつつ、再び剣を構えて突進すると相手の反撃を許さないように一気に攻め立てる。

 連続した斬撃、右から返すように左、そして斜め下からの切り上げを放つがその全てを手に持った連接棍(フレイル)で受け流すと猛烈な反撃を放ってきた。

「……っとぉ……こいつ!」


『速度は恐ろしく速い……魔法の威力も異常……なんて恐ろしい』

 相手の攻撃を受け流しつつ、お互いの身体目掛けて全力の斬撃を放ち合う……こいつ魔法を相殺して来なかったところを見ると本質的にはゴリゴリの近接戦に特化したタイプだ。

 悪魔(デーモン)の究極進化系とも言える訓戒者(プリーチャー)は通常魔法と格闘戦能力に秀でた個体が多くなる、とわたくしは勝手に解釈をしていた。

 まあわたくし自身がそうであるように格闘戦能力と魔法能力を突き詰めて行った先に圧倒的な個の武力というものが生まれると思うのだけど、目の前の這い寄る者(クロウラー)はあえて魔法能力を捨て去ることで、圧倒的な格闘戦能力を有することに成功している。

「速度だけだとスコットさんよりも速い……いや膂力もか……」


『……もう私の特性を見抜いて……その学習速度は異常ですね』


「そりゃどうも……わたくしこれでも優良学生なんですわ……って、うわわわっ!」

 わたくしの横なぎの斬撃を這い寄る者(クロウラー)連接棍(フレイル)で受け止めたのと同時に、わたくしはコンパクトに体を回転させて空中で回し蹴りを放つ。

 だがその蹴りをどう予測していたのか、這い寄る者(クロウラー)は受け止めると爪を引っ掛けてわたくしを地面方向へと大きく放り投げた。

 普通の人であれば地面と衝突した衝撃で全身が砕けるくらいの速度でわたくしは落下し、勢いのまま地面へと叩きつけられると共に轟音と、大きな土煙が周囲を覆う。

 だがわたくしはこの程度では死ぬわけがない、いや防御結界がその衝撃すらも無効化し、わたくしは軽く服についた埃を手で払うと、降りてこいとばかりに地面を軽く指差して訓戒者(プリーチャー)に向かって微笑む。

『……すでに人の域などは通り越し、私たちと同じようなものになっている、と……納得です』


「いいや? わたくしもちゃんと死ぬ時は死にますわよ? 痛みも感じるし、悲しい時は涙も出ますわ」

 地上に足をつけた状態で再びわたくしと訓戒者(プリーチャー)は激突する……その速度は増し、武器と武器が衝突するたびに火花を散らす。

 斬撃の合間にわたくしは拳を、蹴りを繰り出すが這い寄る者(クロウラー)は複数ある足でその攻撃を器用に捌いていく……一撃でゴブリンやコボルトの体なんか粉砕する攻撃だぞ? それをこの細い脚で捌けるってことは表皮も恐ろしく硬くしなやかだな。

 癪だけど楽しくなってきた……わたくしは口もをに笑みを浮かべて這い寄る者(クロウラー)を攻め立てていく、ギアを上げるように一気に斬撃と拳や蹴りを連続で叩き込んでいく。

『……獰猛な猛獣のように、その笑みは貴女の内面を表していますね……ですが……!』




「うおおおおっ!」

 凄まじい速度で繰り出される首無し騎士(デュラハン)の槍を盾を使って受け流しつつ、エルネットは反撃の剣を繰り出す……悪魔(デーモン)との戦い、そしてビヘイビアでの訓練などを経て「赤竜の息吹」は恐ろしい勢いで成長を遂げている。

 以前の彼らであればタイナートの一撃で戦闘不能に追い込まれたかもしれない、だが今の彼らはその凄まじい刺突を見て、躱せるようになっていた。

 タイナートが剣を避け、反撃を繰り出そうとした眼前に死角から放たれた矢が迫る……その攻撃を叩き落とした矢先、魔法の矢(マジックミサイル)が鎧へと衝突し恐るべき首無し騎士(デュラハン)はぐらりと体勢を崩す。

「神よ! 我に力を!」


「く、厄介な……!」

 神による祝福を受けた槌矛(メイス)の一撃が不死者(アンデッド)の腕に強い衝撃を与える……彼らにとってこの祝福された攻撃は大きなダメージとなる、タイナートの左腕が思うように動かなくなり、抱えていた彼の頭が地面へと転がり落ちる。

 視界が定まらない肉体はあろうことかまるで見当違いの方向へと大きく攻撃を繰り出すが、速度も乗らず隙だらけの攻撃を縫ってエルネットは盾による打撃をその胸へと叩き込む。

 衝撃により大きくよろめいたタイナートの巨体に再び火球(ファイアーボール)が炸裂する……炎の爆発が巻き起こり、首無し騎士(デュラハン)は体を支えきれずにそのまま地面へと転がってしまう。


「ぐはあああっ! く、くそっ……聞いていないぞこれほどとは……」

 タイナートはなんとか体を支えなおそうと力を込めるが、一時的に強いダメージを受けた死せる肉体は地面に倒れたままぴくりとも動かない。

 だがその頭にどすん! と黒い毛皮を纏った脚が乗せられたことで、焦ったように彼は視線を動かすが、そこには赤い目を輝かせた幻獣ガルム族ユルの姿があった。

 ユルの口元や爪には夥しい量の血痕が付着しており、周りを見ると大半のゾンビがすでに物言わぬ残骸と化して倒れている。

「やあ、彼らの成長ぶりを聞いていなかったかな? 我は彼らを尊敬しているのだよ、人間とはいえ日毎強く成長しておるのでね」


「……ぐ……予想外であった……!」


「見たところ肉体は当分動かせそうになかろう? 頭を潰せば首無し騎士(デュラハン)は視界がなくなるのだったな」

 メリメリメリッ! とタイナートの頭にガルムの爪がめり込んでいく……悲鳴を上げることすらできない、首無し騎士(デュラハン)としてはかなり強力な格を備えているはずの自分を最も簡単に追いこむこいつらは危険だ! と彼は強くそう思った。

 あと数秒もすればタイナートの頭は熟れたスイカのように砕け散るはずだった、次の瞬間ユルの背中に恐ろしいまでの寒気と恐怖が走る。

 その恐怖感を本能で感じ、ユルは咄嗟に大きく飛び退く……先ほどまで彼がいた空間に虚無とも言える黒い球体が収縮し、闇を撒き散らすように爆発する。

「こ、これは……闇の破裂(シャドウストライク)?! バカな! 不死者(アンデッド)はあらかた片付けたはず……!」


「お、おお……マスター……私を助けに……」

 いつの間にか、その場には美しい黒髪を伸ばし黒と白を基調とした豪華なドレスを身に纏った一人の少女が立っていた。

 濃厚な死の匂いを纏い、不気味なほどの存在感を持つラヴィーナ・マリー・マンソン伯爵令嬢……通称「死霊令嬢」は無表情のままユルに向かって軽く腕を振る。

 彼女の影から凄まじい数の影でできた触手にも見える腕が飛び出し、ユルを絡めとるとそのままギリギリと締め上げていく。

 ラヴィーナはそっと頬に手を添えると、それまでの彼女では見せなかった妖しい笑いを浮かべて咲った。


「……作ったお人形さんを壊されるのは堪らないの、ワンちゃんは私と遊びましょう……そしてタイナート、せっかく作ったのだからきちんと働け……」

_(:3 」∠)_ ルビ振るのめちゃくちゃ悩んだ……ということで名曲ですよね!


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