第一一話 シャルロッタ・インテリペリ 一三歳 〇一
本日より一三歳編始まります〜。
【あらすじ】
マルヴァースにあるイングウェイ王国、インテリペリ辺境伯家の令嬢シャルロッタ・インテリペリ。
銀色の髪に美しいエメラルドグリーンの瞳を持つ通称辺境の翡翠姫……彼女には誰にも言わない秘密が存在する。
前世で別の世界レーヴェンティオラで魔王を倒し世界を救った勇者の生まれ変わりなのだ。
一〇歳となった彼女は盗賊退治のついでに捕まっていた幻獣ガルム族のユルを救い出して契約すると、死の匂いを嗅ぎつけ黒書の悪魔カトゥスを勇者のみが扱う剣戦闘術によって打ち破った。
——悪魔との戦闘から三年……シャルロッタ・インテリペリは一三歳となっていた。
「シャルロッタ様、本当にやるんですか?」
「……本当に、ってどういうことなんですの?」
侍女の言葉に少しだけ首を傾げて不思議そうな表情を浮かべると、その顔を見た侍女たちは目を合わせて軽くため息をつく。
インテリペリ辺境伯家令嬢であるシャルロッタ・インテリペリ……つまり今のわたくしは今侍女たちを引き連れてインテリペリ辺境伯家の騎士たちが自らを鍛える訓練場へと足を運ぶ途中なのだ……令嬢が近寄る場所ではない、と言われてもまあわたくしは割と足を運んでいる。
多分お目当ての騎士でもいるんじゃないか、とか噂されてそうだけど本当は違う……単純に令嬢生活、いやお稽古や窮屈な座学にストレスを感じて剣を振り回したいだけなのだ。
インテリペリ辺境伯家の令嬢「辺境の翡翠姫」と呼ばれるわたくしは、三年間で大きく背が伸びた……今では一五五センチメートル近くなり、三年間で一〇センチ以上伸びた格好だ。
昔から侍女だけでなく、他の貴族からも褒められる美しい銀色の髪は長く腰よりも伸びており、三年前よりも艶やかに陽の光を浴びてキラキラと光り輝いている。
愛称の由来となった翡翠のようなエメラルドグリーンの瞳はそのままだが、昔と比べて体つきが大きく変わった。
一〇歳の頃は騎士服を着用すれば体つきなどは多少誤魔化せたのだが、年齢の割に発育が良く育ってしまっており、年頃の男子から見たら一発でやられちゃいそうなスタイルへの美少女となったため、お母様の同伴でお茶会だの夜会だのに忙しい。
ということで大変忙しくわたくしはここ半年ほど全然剣を振るっていない……つまりストレスがそれなりに溜まっている状況だ……チョー敵殴りてえ……と流石に口に出すわけにはいかないので黙ってはいるのだけどね。
「貴族のご令嬢が立ち寄るような場所ではないのですよ」
「大丈夫ですわ、どうせ騎士の皆さんが訓練してらっしゃるでしょうし……応援にでも来たって喜ぶだけですわ」
侍女頭としてわたくしの身の回りを世話しているマーサが困ったような顔でわたくしに告げるが、わたくしはその言葉に耳を貸さずに訓練場へと歩いていく。
今わたくしはドレスではなく、少し活動的に動けるよう体型に合わせて作り直した騎士服と女性用のパンツを着用して剣を振り回す気満々の格好で歩いている。
「……侍女たちも気の毒に……」
わたくしの足元に付き添って歩いているガルム族のユル……一年ほど前にユルと主従契約したことを家族に打ち明け、正式に幻獣がわたくしと契約しているということが一部の貴族の間では公になった。
まあ上を下への大騒ぎになったんだけどさ……幻獣であるガルムと一令嬢が契約するということは普通ないし、王国において格の高い魔法使いでも魔獣と思っている人も多いからね。
『辺境の翡翠姫と名高いシャルロッタ嬢を偶々拝見し、自分から契約を申し入れました……命ある限り彼女を守りたいと思っています』
驚く家族の前でユルが大人しく頭を下げてそう話したことで、ユルが本当にわたくしと主従契約していることを理解し、お父様は本当に喜んでいた。
「私の娘は天才なのではないか!」とか、「もしかして大魔法使いの才能が……!」なーんて言ってたけどわたくし自身が魔法を勉強する気はない、と拒絶したため今のところどうして契約できたのか、というのは掘り下げられることはない。
とはいえガルムが人間と契約するというのは相当に珍しく、過去の文献でも二、三例しかないとかでそのうち根掘り葉掘り聞かれるようになるんだろうな、とは思う。
「え? シャルロッタ様?!」
騎士達の訓練場はインテリペリ辺境伯家の居城の外に存在し、有事の際には防衛拠点としても使用されるため割と堅牢な作りの要塞になっている。
そこへいきなり姿を現したわたくしを見て、騎士達が慌てて訓練の手を休めて膝をつく……あ、いけね……こっちくるって言ってなかったんだっけ。
「ごめんくださいまし……みなさまの訓練の邪魔する気はございませんのよ……」
わたくしが微笑みながら軽くお辞儀をしたことで、なぜか騎士の間でおおっ……と感嘆の声が漏れるが、うん、まあ……こういう反応は理解してた。
今わたくしは普段のようなドレスではなく、体を動かす気満々の格好であるとはいえ、彼らの前で剣を振り回したりはしていないので意外なんだろうな。
「いえ、騎士達も辺境の翡翠姫の姿を拝見し喜ぶでしょう。ちなみにその格好……もしかして剣を振りたいとかですかな?」
インテリペリ辺境伯家の騎士筆頭であるスラッシュ・ヴィー・リヴォルヴァー男爵が笑顔で近づいてくる……彼はインテリペリ伯爵家に長年仕えてきた騎士として男爵位をイングウェイ王国から叙勲されている人物だ。
浅黒い肌に、短く刈りそろえた偉丈夫……長兄であるウォルフガングとも仲が良い……非常に気持ちの良い人物であることが知られている。
この領内でもトップクラスの騎士ということで、部下からも慕われているとお兄様も話してたな……わたくしは軽く彼に頭を下げると花のような笑顔で彼に微笑み話しかける。
「はい、わたくしもたまには体を動かしておかないと、ユルにも叱られてしまいますわ」
「……我をダシに使わないでいただけますか……」
ジト目でわたくしを見上げるユルを尻目に、わたくしはリヴォルヴァー男爵だけでなくわたくしを見ている他の騎士達に微笑むと、軽く手を振ってあげる。
このくらいのサービスはよくやるし、「シャルは可愛いからみんな喜ぶわよ」というお母様の言葉通り、わたくしが微笑んでいるのを見た騎士達は少し頬を赤らめつつ慌てて訓練を再開している。
ま、わたくし本当に可愛いというか絶世の美女なのは鏡を見ても理解しているので……前世で自分自身を見たら恋してしまいそうなくらい、美しく育っているのだ。
「……部下達もシャルロッタ様と一緒に体を動かせるのは嬉しいでしょう、ではこちらへどうぞ」
リヴォルヴァー男爵は訓練用に刃を潰してある剣が置いてある場所までわたくしを案内してくれる……インテリペリ家の訓練は割と実戦仕様で鉄製の剣を使った訓練が盛んだ。
この世界では木剣を使う訓練が盛んで、一応わたくしは木剣を使った剣の訓練をしたことがある。
貴族の令嬢とはいえ、インテリペリ辺境伯家は武門の家系であり、女性も戦う訓練をするべきだというお父様の意思によるものだ。
「正直木剣は軽すぎて怖いからな……」
「何かおっしゃいましたか、シャルロッタ様?」
ポツリとつぶやいたわたくしの声に反応してリヴォルヴァー男爵が不思議そうな顔でわたくしに話しかけてくるが、わたくしはにこりと笑って「何も申し上げておりませんよ」と笑顔を浮かべる。
木剣もそれなりに重さがあり、女性が振り回すのは割とコツがいるが、前世勇者であるわたくしからするとペーパーナイフを振り回している感覚なので、すっぽ抜けそうでめちゃくちゃ怖いんだよね。
渡された長剣は練習用とはいえ、作りはそれなりに良くわたくしは受け取った剣を軽く握ったりして感触を確かめる……流石に名剣とまではいかないが、バランスが良く作られていてこの剣なら問題なさそうだ。
「男爵……わたくしはその辺で素振り致しますので、皆さんは訓練に戻っていただければ……」
「そういうわけにもいきませんでな……おい、シドニーこっちへこい」
リヴォルヴァー男爵は一人の騎士を呼ぶ……名前を呼ばれた騎士は訓練する手を止めて、こちらへと走ってきた。
シドニーと呼ばれた男性は、金髪碧眼の活発そうな若者で年齢は一〇代後半だろうか……わたくしを見ても特に顔を赤らめることもなく、じっと顔を見てから軽く頭をさげる。
「シドニー・ボレルです……隊長なんですか?」
「シャルロッタ様、彼と一緒に訓練してみてはいかがでしょうか? 若いですが腕は良く年もそれほど離れていないので」
「はぁ?! 隊長なんで俺がこんな小……いやお嬢様のお守りを!」
こいつ今小娘って言おうとしたな……わたくしは少しだけ笑顔を引き攣らせながら、シドニーの体に目を配る……筋肉はそれほどではないが、全体的な体のバランスはいいな。
腕が良い、というのは間違いでもなさそうだ……生意気そうな顔をしているが、正直このくらいの年齢の男子は大抵そんなもんだしな。
「シドニー様がよろしければぜひお相手を」
「……仕方ねえな……こちらへどうぞお嬢様」
シドニーは不貞腐れたようにわたくしに手招きをしてさっさと歩き始める……わたくしはリヴォルヴァー男爵に軽く頭を下げると、彼の後ろをついて歩いていく。
ふむ……腕が良い、と男爵がいうだけあるな歩いている後ろ姿を見て、荒削りだけど油断なく周りに目を配っているし護衛任務などでは目端が聞くタイプなのだろう。
シドニーは訓練場の端まで来るとわたくしに向きなおり、剣を構えろと言わんばかりの表情で練習用の長剣を片手で構える。
「どっからでもいいですよ、お嬢様……好きなように打ち込んできてください」
_(:3 」∠)_ 今後ユルとの契約暴露などは幕間で紹介していきたいですね。よろしくお願いします!
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