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第一二六話 シャルロッタ 一五歳 蒼き森 〇七

「……何か来ましたね……やはりこのお方は……」


 広葉樹の盾(ブロードリーフ)は花の揺籠の中で寝かされているシャルロッタの側で、彼女の顔を心配そうに覗き込んでいるマーサを見て優しく微笑むと、あたりに響く振動や爆発音、そして悲鳴を聞いたことでその表情を引き締めた。

 わかっていたことだ……エルフの森へとこれだけ強く高潔な魂が運び込まれたことを、混沌の眷属が感知していないはずがない。

 彼らは絶えずこの世界の全てを監視している……一〇〇〇年前に魔王と呼ばれる古き神がアンスラックスとその仲間達の手によって滅ぼされてから、彼らはそれまでの方針を絶滅から監視へと切り替えている。


『……我々はエルフと敵対する気はない、共存をする気もない……故に干渉をしないでもらいたい』


 鳥を模した仮面を被った不気味な男……闇征く者(ダークストーカー)と名乗る混沌の使徒は遙かな過去、彼女の前に現れてそう言い放った。

 当時は混沌の勢力が弱小となった時期でもあり、アンスラックスという絶対的な存在……勇者がいたことと、人間同士の抗争が激化していたこともあり、気にすることはなかった。

 いつの日か混沌という存在が次第に肥大化し、強大になっていくことを誰もが理解していなかった……それは神話時代(ミソロジー)を生きた存在である彼女ですら同罪とも言える。

 仮初の平和を一〇〇〇年続けたこの世界は、緩やかに崩壊を始めていたのかも知れない、エルフの森の中だけを守ればいいといつの間にか彼女自身もそれに堕落しきっていたのではないか? と今更ながら思い知らされる。

「……今がその負債を清算する時ということかしらね、だけど思い通りに行くかしら闇征く者(ダークストーカー)


広葉樹の盾(ブロードリーフ)様……」


「マーサさん、心配でしょうけど私がシャルロッタ様を守ります、巻き添えにならないためにも避難してください」

 エルフの長の言葉に少し戸惑いながらも、マーサは一度愛するシャルロッタの寝顔を見た後軽く頭を下げて、部屋の奥……裏口となっている場所へと走っていく。

 有事の際はここから地下へと逃げそこで待機するようにと言われていたからだ……主人を置いていくということには抵抗があったが、インテリペリ辺境伯家への言伝なども誰かが届けなければいけないため、自分の命を賭けてそれを請け負うことに彼女は決めていたのである。

「……お嬢様をお願いしますッ!」


「大丈夫です、こう見えても私強いんですよ……あとでお迎えに上がりますね」


「……ハイっ!」


「さて……ちゃっちゃと組み上げますか……」

 広葉樹の盾(ブロードリーフ)はにっこりと微笑むと、軽く手をかざして周囲に魔法の結界を張り巡らせていく……その結界は幾重にも重なり重厚かつ繊細に組み上げられ、彼女とシャルロッタが眠る揺り籠を覆い尽くしていく。

 彼女の名前が示す通り、エルフの長は絶対的な防御能力を備えた魔法の使い手である……魔法使いであれば今この部屋に貼られた結界がどれだけ強固で、厄介なものか一目見ただけで驚くレベルのものだ。

 そして彼女は古代エルフ語による呪文を朗々と編み上げていく……それは詠うように、美しい旋律となって周囲の木々を動かし、そして急成長させていく。

「ウルモ、デラギィ、シルダーベラ……ドゥファカス、エラ、デレイガーンド……フィアサ!」


「……ずいぶん厄介なものを……エルフごときが生意気な」

 部屋の入り口に何時の間にか一人の人物が立っている……それはトカゲのような顔を持ち、筋骨隆々の肉体と猛禽類の足という異形の怪物禁書の悪魔(プロヒビトデーモン)

 ターベンディッシュの眷属である怪物はカツカツと音を立てながら部屋の中へと進むと、口元から舌を何度も出しながら、濁った瞳で広葉樹の盾(ブロードリーフ)を見つめる。

 悪魔(デーモン)……なら十分対応できるな、と判断し広葉樹の盾(ブロードリーフ)はにっこりと微笑むと、侵入者へと問いかけた。

「……あなたのお名前は? 悪魔(デーモン)ですね」


禁書の悪魔(プロヒビトデーモン)デサルト……私が一番乗りとはな、他のものは何をしているのだ……」

 肩をすくめるように咲うとデサルトと名乗る悪魔(デーモン)は部屋中に張り巡らせた結界を見て感心したように、顎に手をやって何かをじっと見つめている。

 ターベンディッシュ……不可思議な秘密と、魔法を象徴とする混沌神の眷属であるため、魔法の研究に対する欲望は一際高い。

 広葉樹の盾(ブロードリーフ)は動かない悪魔(デーモン)の出方を待ってじっと動かない……彼女は守勢においてその能力を最大限に発揮する、故に自分から前に出ることは少ない。

「ターベンディッシュ神の眷属であれば、この魔法の結界を打ち破ることは難しいとわかるでしょう? 貴方の目的をお聞きしましょうか?」


「古代エルフの結界……ふむ、確かに厄介……よろしい私の目的はそこに眠るシャルロッタ・インテリペリという少女の抹殺、そしてその首を掻き切って持ち帰ることです」


「……それができると思っていますか?」


「無論、できますよ……我々悪魔(デーモン)は嘘をつきませんので……火炎炸裂(ファイアリィブラスト)!」

 ニタリ、と咲うとデサルトは大きく口を開く……急激に魔力が集約すると火線が広葉樹の盾(ブロードリーフ)へと向かって伸びる。

 無詠唱かつ瞬時に魔力を集約して解き放ったのか! と彼女は内心驚きながらも結界へと込める魔力を操作し、一直線に伸びてくる炎を受け止める。

 彼女の眼前で炎が炸裂し爆炎を撒き散らすが、幾重にも織られた結界は虹色に輝きながらその攻撃魔法を完全に無力化してのける。

 その光景にほう……と感心したような息を吐くと、デサルトはさらなる魔法を撃ち放つ。

「ではこちらで……影の槍(シャドウランス)


「無駄ですっ!」

 地面に映る影の中から幾重にも伸びる漆黒の槍……だが結界に衝突するたびに軽い音を立てて粉砕されていってしまう……広葉樹の盾(ブロードリーフ)は瞬時に結界を組み替えながらその無数の攻撃を難なく撃退していく。

 古代エルフの結界魔法聖なる館(ハウスオブホーリー)は、現代のエルフには継承されていない神話時代(ミソロジー)の究極魔法であり、彼女が扱う最大の防衛魔法である。

 最大限の効果を発揮する際には森全体を覆うことすら可能であるが、展開までに時間がかかるため咄嗟の判断でこの部屋のみに条件を適用しているのだ。

「クカカカッ! これはすごい……古代エルフの叡智の結晶、まさに広葉樹の盾(ブロードリーフ)の名に相応しい素晴らしい魔法です」


「私は人を傷つけることが辛い……そのためアンスラックス様が教えてくれたのです、守ることを考えれば良いと……この魔法は彼の方と私の絆、それを壊すことは何人たりともできないのですよ」


「愛ですねえ……クカカカッ!」

 デサルトはまるで諦める様子を見せずに幾重にもさまざまな属性の攻撃魔法を連射していく……無詠唱での発現により部屋の中には爆風や、電撃、そして氷柱が幾重にも出現しては消滅していく。

 普通の人間やエルフでは瞬時に消し炭になるであろう強力な魔法の連打だったが、広葉樹の盾(ブロードリーフ)は顔色ひとつ変えずに聖なる館(ハウスオブホーリー)による結界を縦横無尽に動かし、攻撃を受け止め消滅させていく。

 勇者の守り手として、凄まじい数の混沌の暴力を全て跳ね除けてきた神話時代(ミソロジー)の英雄たる姿がそこにはあった。

「……第三階位は私も過去散々戦いましたよ……だから今の貴方だけでは私を殺すことはできないのですッ!」




「……おや? エルフの森に冒険者……? ああ、君たちがシャルロッタ・インテリペリのお付きですかね?」


「……悪魔(デーモン)ッ!」

 エルネット達の前に現れた怪物……直立するバッタを人間に似せた不気味な怪物……闘争の悪魔(ウォーフェアデーモン)デ・ルカスの手にはアスターの生首が握られており、それを見たリリーナが軽く悲鳴をあげる。

 アスターの表情は苦悶に満ちたもので、先ほどまで生きていたのか首からは軽く血が滴っているのが見える……人間からしてエルフの印象は高慢で鼻持ちならないというものだが、付き合いは短くとも比較的フレンドリーに接してくれていた人物の死に怒りを覚える。

 そのエルネットの表情を見たデ・ルカスはぐにゃりと歪んだ笑みを浮かべると、挑発するように片手に持ったアスターの首を地面に放り出す……命を失ったエルフの頭が地面を転がっていく。

「こいつは結構強かったですよ、最後までシャルロッタ様をお守りするのだ、とか言ってましたけどねえ? でもこの鎖鋸剣(チェーンソード)に生きながら引きちぎられる時の表情……いい顔でした」


「……ゲス野郎が……」

 エルネットが怒りを露わに剣と盾を構える……前回闘争の悪魔(ウォーフェアデーモン)と戦った時に手も足も出なかったことを反省し、彼ら「赤竜の息吹」は体が動くようになると必死に訓練を積んでいた。

 ビヘイビアで訓練場を営むシビッラに稽古を何度もつけてもらい、戦術や立ち回りなどを大きく成長させており、前回とは比べ物にならないほど実力を大きく向上させているのだ。

 エルネットは剣を構えたまま叫ぶ……それは人間として悪魔(デーモン)には決して屈しないという勇気を、意志を示すために。


「……俺は、いや俺たちは負けない! 悪魔(デーモン)よ、「赤竜の息吹」がこの王国最強の冒険者であることを今ここに証明してやるッ!」

_(:3 」∠)_ 悪魔「嘘つかないっす」 広葉樹の盾「まじ?」


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