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第一二一話 シャルロッタ 一五歳 蒼き森 〇二

 ——そこは白く透明な場所だった、何度か見たかもしれない美しい場所……いつの日かここは見たことがある……。


「……やあ勇者ライン……いや、今はシャルロッタ・インテリペリだったね」

 わたくしの前に光の粒が集合していく……それは次第に光り輝く輪郭を持った女性の姿を取るが、細部はよく見えない状態でその女性の形をした何かが美しいのかそうではないのかよくわからないままわたくしはじっと目を細める。

 ああ、声には聞き覚えがあるな……わたくしが転生する際に話した神様……そう、女神様そのものだ。

 ということはここはあの転生をした場所ということか? でもわたくし死んでないよな? と少しだけ疑問を感じてあたりを見回すが、転生前のあの時よりかは美しく輝いているようにも思えた。

「あー、うん……えーと女神様ですよね?」


「はい、一五年ぶりですね……美しく気高いマルヴァースの貴族令嬢シャルロッタよ……ってなんで拳を握りしめているんですか?」


「なんでもないので一発ブン殴っていいですか?」


「ダメです」

 その言葉と同時にわたくしの握り締めた拳がまるで凄まじく重いものをつけられたかのようにズシン、と動かなくなる……ちっ……奇襲攻撃しないとだめか。

 わたくしは諦めて首を振って攻撃をしないことを示すと、光り輝く女神様は少し疑り深そうな視線でわたくしを見てから拘束を解き放つ。

 重さがなくなりわたくしは拘束されていた腕をさするが、感触はシャルロッタそのものだが微妙に現実感のない状況というか、触り心地に眉を潜める。

「……女神様がここにいらしたということは、わたくしもしかして死んだんですの?」


「いえ、貴女は訓戒者(プリーチャー)に大きなダメージを与え撃退しています、その代償として一瞬魂の接続が切れたというところでしょうか」

 魂の接続が切れたって、それ死んだと同じようなものだと思うんだけどな……だが、一応訓戒者(プリーチャー)を撃退したということはみんなは無事だということか。

 深くため息をついて安堵するがそれにしてもなんで魂の接続が切れたという状況になったんだろうか。

 わたくしは記憶が許す限りその時の出来事を思い返すが……だめだ、魔法をぶっ放したところまでは覚えているけど、その後視界が真っ白になったところで記憶は完全に途切れている。

 確かにわたくしは能力を全開にした……あの時放った雷皇の(ライトニング)一撃(ストライク)程度では自分の魔力が枯渇するというようなことはないはずだったのに。

「その後魔力を注ぎ込みましたけど、あの程度の魔法であればいきなりそんな状態にはならないと思うのですが……」


「シャルロッタ・インテリペリという令嬢の肉体は貴女が考えているよりも脆いものです、今貴女の肉体は大きく作り変えられようとしています……魂の大きさに対して成長しきっていない貴女の肉体の枠は小さすぎる」

 女神様は悲しそうな表情、いやこれは相対するわたくしが感じる彼女の感情そのものを感じてそう思ってるだけだけど、言われてみれば確かに過去神滅魔法をぶっ放した時に似たような疲労を感じて一時的に弱ったりもしたのは経験がある。

 能力を解放した後非常に眠くなったり、意識を飛ばしたりというのは幼少期から何度かあった現象だったため、わたくしは()()()()()()()()()()()()()、というのを理解しているつもりではいたのだ。

 今回訓戒者(プリーチャー)を倒すために放った魔力が予想以上に大きくなってしまったということなのだろうか? わたくしが首を捻っていると、目の前の女神様は優しく微笑む。

「ラインという肉体が完成された人であったとしたら、今の貴女はフツーの人を無理やり強化したようなものなので……潜在的に保有している能力と肉体が整合性をとろうとして休息を求めるのは仕方がないことなのですよ」


「……不便ですわ」


「でも私今の貴女の姿、綺麗でいいと思いますよ? ほら、貴女が男性だった頃に望んでいた姿に近いじゃないですか」


「い、いや……見るのとなるのでは全然話が違うんですけど……」

 わたくしの困惑した表情すら楽しむように、光の粒の中ににこりと微笑む口のようなものが見えた気がする……楽しんでるな、本当に。

 まあすでに転生してしまったのだから今更男性に戻してくれー! とか話したところで無理だろうし、このシャルロッタの人生が終わるまでは我慢すればいいよね。

 ふとクリスの顔を思い浮かべて、胸がキュッとしまったような感覚になるが、彼はちゃんとインテリペリ辺境伯領へと到着できたのだろうか。

 早く現実へと戻って仲間の安否を確認したいんだよね……戻る前に一発ブン殴らせてくれねえかなあ……とか考えていると、コホン! と咳払いを一つしてから女神様はわたくしに向かって語りかけ始めた。

「シャルロッタ・インテリペリよ、貴女に一つ神託を授けましょう……貴女は勇者を助けこの世界を救うために訓戒者(プリーチャー)と呼ばれる混沌の眷属を倒し魔王の復活を阻止しなければいけません……」


「え? ……いやですよ、わたくし貴族令嬢に転生したことあんまりよく思っていないんですから」


「そうですかそうですか……脳みそまで筋肉になってしまったようですね、シャルロッタ……もう一度言いますよ、いいから黙って魔王を倒しやがりなさい次の転生で虫にされたくなかったら、私のいう事を聞くのです……」

 ぐ……この女神様神託って言い出すと人の言い方聞きやしないんだよな……ちなみに勇者ラインの時も少し難色を示したら本当に豚に変身させられて危うくディナーになるところだった、必死に謝って難を逃れたけど。

 とはいえ混沌の眷属はすでにわたくしを狙って動いている、今更「やっぱ止めた」って話したところで彼らはわたくしを殺すまで執拗に追いかけてくる事だろう。

 結局この女神様の手のひらの上で踊らされているってことか……深くため息をついたわたくしを見て、女神様はにっこりと優しく微笑む。

「……わかりましたわ、どちらにせよクリスはこの世界の希望でしょうから、わたくしは彼を助けて混沌の眷属を打ち倒すことに致します」


「よろしい……それでこそ私が最も愛する強き魂です」

 わたくしは内心辟易しながらも女神様の言葉に従うことを宣言する……言葉で何かを宣言するというのは、この世界においても強い契約になる。

 これでわたくしは魔王を倒すために力を尽くす女神に仕える勇者として動くことになるわけだ……正直言ってもう一度あの辛い旅路をこなさなければいけないと思うと吐きそうな気分だが。

 女神様は鼻歌を歌いながら目の前に何か不思議な立方体を呼び出すと、手で何かを書き込んでいく……この女神様はこうやって過去勇者の魂を囲っている。

「それはそうとわたくしいつ戻れるんです?」


「ああ、肉体が魂についていけるくらい回復したら自動的に戻れますよ」


「それがいつなのか知りたいのですけど……」

 呆れ顔のわたくしに、なんだそんなことかという表情で女神様は答えるけど……肉体の回復がいつになるかわからないってことか。

 それまでは少し休めばいいってことかな……でも仲間のことは少し心配だ、ユルとの接続もここにいる限りは切れてしまっているし……でも元の世界へと戻った時にみんなが苦境に陥っていないことを祈るしかない。

 再びわたくしは大きくため息をつく……友人、仲間が死ぬなんて思いは前世だけでたくさんだ、どんなに強い勇者でも仲間の死を防ぐのは難しい、死者を復活させることは神でしかできないのだから。

「……大丈夫、今彼らはエルフ達に捕えられていますけど……まだ死んでいませんから、安心して体をお休めなさい」




「……シャルロッタ様……」


「マーサ殿大丈夫ですよ、シャルロッタ様の命に別状はございません」

 ユルの背中に載せられて運ばれる昏睡状態のシャルロッタの隣で心配そうな表情を浮かべるマーサだが、その隣でエミリオが彼女の肩にそっと手を触れ大丈夫とばかりに微笑む。

 エミリオの目から見てシャルロッタの命に別状はない……生命力に溢れ弱っているという状況ではないことがわかるからだ。

 今「赤竜の息吹」とマーサ、そして昏睡状態のシャルロッタを運ぶために呼び出されたユルはエルフの狩人達に囲まれた状態で彼らの棲家である蒼き森へと向かっている。

「……我もシャルの命には影響が出ていないと思います」


「ではなぜ目覚めないの? ユルなら何かわかるの?」


「シャルの能力はこの世界ではかなり限定されていたもののようです、あの訓戒者(プリーチャー)を倒すために少しばかり無理をしたようですね」

 ユルの言葉にマーサはほんの少しだけ身体を震わせるが……これはあの超戦闘能力を目の前で見てしまったからだろう、そりゃそうだろうなとユルは言葉には出さずにマーサを見つめる。

 元々幼少期から規格外の能力を発揮して悪魔(デーモン)を倒してきたような彼女だ……元勇者であることを知っているものはそう多くない。

 一般人であるマーサがあれを見て彼女に返す反応などそんなものだろう、と思う……だからこそ彼女は普通の人にはその本当の姿を見せずに暮らしてきたのだから。

「大丈夫、目覚めますよ」


「エミリオ様……」

 エミリオは心配そうなマーサへと微笑むと、彼女もほんの少しだけ不安が解消されたのか優しく微笑を浮かべる。

 そんな彼らを見てエルネットやリリーナも今置かれた状況を少しだけ忘れて微笑んでいる……大丈夫、あれだけの強さを誇るシャルロッタなのだから、すぐに目覚めるだろう。

 そんな彼らの奇妙な空気を見て緑色の髪をしたエルフは「訳がわからないな……」と呟くと、辺りを油断なく観察しながら住処に向かって彼らを誘導していく。

 そして視界の先に驚くほど深く、そして蒼い色をした巨大な森の姿が見えてきたことで足を止めると振り返って人間達へと森を指さした。


「さあ、ついたぞ……ここがイングウェイ王国領内最大、エルフの帰るべき場所である蒼き森だ……まずは我々の族長へと引き合わせる、その上でその寝ている娘の容体を尋ねるといい」

_(:3 」∠)_ ざんねん!! しゃるろったは めがみを なぐることが できなかった!!


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[良い点] ちっ、殴れなかったか!
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