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(幕間) 竜殺し 〇三

 ——わたくしとティーチと名乗る男性を繋いでいるのは鎖……冷たい鉄の感触がわたくしの肌に触れてひんやりとした感触を伝えてくる、もしかしたらこの冷たい感触がティーチとわたくしの関係を物語っているのかもしれない。


「ま、待って……痛い……痛いです……」

 前を歩くティーチは容赦なく鎖を引き、わたくしはなんとかふらつく足で彼について行こうと必死だ。

 森の中の獣道は人間が歩くようなものではなく、何度も木の根や石につまづいてしまい、その度にイラついたように鎖を引く彼の容赦のなさに内心腹が立っている。

 だがティーチは振り返ってわたくしを見ると、舌打ちをして少しだけ立ち止まる。

「……お前を連れているところをインテリペリ辺境伯家の人間に見られたくない、俺は他国の人間だからな」


「わ、わたくしは病人なんですよ……お願いですから少し、少しだけ休ませて……」

 わたくしの体調は相変わらず悪いまま……気分も悪いし体が冷えすぎていて頭痛もひどい、普段であればこんな懇願するような言動すら必要ないのだが、と唇を噛み締めるがどちらにせよあと一日程度は休まないと魔力も戻ってこないだろう。

 無言のままハアッ! と大きくため息をついたティーチが倒木の上に腰掛ける……わたくしは立っていられずにそのまま地面に膝から崩れ落ちて何度か荒い息を吐く。

 くそ……こんな普通の女性のような状況はいつまで続くんだ……内心イライラしつつもどちらにせよ時間を待つしかない。

「……おい、いい加減名前を教えろ」


「……聞いてどうするんですか?」


「興味があるだけだ、お前の名前も知らずに移送しているなどお笑い草だからな」


「……シャ……あ、いや……ロッテですわ」

 思わず素直に自分の名前を言おうとして慌てて言い直す……危ない、こういう時は嘘をつき慣れていないわたくしの性格の問題が出てくるな。

 しかしティーチはあまり気にしていなかったのか黙って頷くと、背負い袋の中から小さな革製の水袋を取り出すとわたくしの前へと放る。

 わたくしは思わずその水袋を見て喉を鳴らしてしまう……というのも先ほどから歩き詰めで全く水分をとっていなかったため喉が渇ききっていたからだ。

「……ロッテ飲め、ちゃんと煮沸してある」


「……いいのですか?」

 わたくしの質問に黙って頷くティーチ……わたくしは慌ててその水袋を取ると軽く中の液体を口に含む。

 水が美味しい……本当に煮沸してあるのに内心驚くが、なんとか喉の渇きを抑えて大きく息を吐く……前世の勇者時代に砂漠を旅した時に水がなくなって本当にひどい目に遭ったことがある。

 魔物の血液を啜って命を繋ぎ、本物のオアシスへと辿り着いた時に口に含んだ水は本当に美味しかった……日本人の時は水のありがたみというのを全くわかっていなかったが、その一口の水が命を繋ぐという経験はわたくしを大きく成長させてくれた出来事だった。

「ロッテ、お前は今いくつだ?」


「……聞いてどうなさるのですか?」


「子供も産めない年齢じゃないとは思うが、お前を陛下に献上するにあたってそれだけは確認しておきたい」


「……もうそろそろ数えで一四になりますわ……」

 その答えを聞いてティーチの顔が少し嫌悪のためなのか歪んだ気がした……はーっ! と何か強い後悔のようなため息をつく。

 どうしたのだろう? とわたくしが彼を見ていると、視線に気がついたのかこちらを少しチラリと見ると、再び下を向いて深くため息をつく。

 少し遠くを見ながら何度かぶつぶつと口の中で文句のようなものを呟くティーチ……もしかしてもっと上だと思ってたとか?


「……くそっ……! 俺達は何を……」

 ティーチが悪態をつきながら倒木から降りて近くの木を軽く蹴り飛ばす。

 そのまま怒りを宿した表情でわたくしのそばへとツカツカと歩み寄ると、わたくしの首元の服を掴んで引き上げる……わたくしは恐怖から思わず目をつぶって顔を背ける。

 ティーチはそのまま何かを言おうとして、しかし言葉にならないのか何度か口をパクパクと動かした後……すぐにわたくしを解放する。

 そのままストン、とわたくしは地面に倒れ伏すがそんなわたくしに視線を向けずにティーチは吐き捨てるように呟く。

「……俺たちを軽蔑するか? お前は変態野郎の慰み者になる……そのために移送しているんだ」


「……国王陛下なのでしょう?」


「歳はもいかねえ女を欲しがる奴が変態野郎だろうが! それとも何か? 貴族の嗜みであればそういうのも平気だってのか?! ああっ?!」


「や、やめ……い、いやああっ!」

 再びわたくしの胸元を掴んで引き上げようとしたティーチだったが、わたくしの騎士服の胸元のボタンが外れ、白い下着に包まれた肌が露わになってしまう。

 わたくしはなんとかして胸元を隠そうともがくが、それを見たティーチが少し固まってしまい……そのままわたくしは再び地面へと倒れる。

 必死に枷をつけられた両手で胸元を隠し、怯えた表情を浮かべるわたくしにティーチがゴクリ……と喉を鳴らす音が聞こえた。

 ほんの少しだけ顔が赤い……どうやら冷たい態度なども含めてどうやら女性なれは全くしていないようだ。

「……す、すまない……そういうつもりじゃ……い、いや……その……」


 その時遠くでウオオオオオオン! という何かが遠吠えする声が響く。

 この遠吠えは……ユルか? そういえばずっとユルの存在が身近になかった、自分のことでいっぱいいっぱいで彼のことを失念していたが、わたくしはすぐに自分とユルの間にある繋がりをたどろうとする。


『……シャ……聞こえ……大丈夫……か?』


 恐ろしくノイズの乗った通信のように、ひどく聞き取りにくい状態ではあるがユルの声が念話(テレパシー)で聞こえてくる。

 ほっと息を吐くとわたくしは念話(テレパシー)へと集中していく……それは恐ろしく細い糸を手繰り寄せるような繊細な作業だ、だがすぐにつながりの深いユルの声が響く。

『シャル! 申し訳ない我も力が恐ろしく減退していて……今はフォレストウルフ程度の大きさになっております……』


『大丈夫……わたくしもなんとか何もされずに済んでいるから……それよりどうしたの?』

 わたくしはユルへと念話(テレパシー)を飛ばすが、その言葉にほっと安心したような感情を伝えてくるユル……こういう時は本当に信頼できる彼の感情がありがたい。

 だが、緊張というかかなり焦っているかのようなユルの思考に思わず身をびくりと震わせる……彼の視覚を共有されてわたくしの脳内に映った映像には恐るべき化け物が映し出される。


 それは前々世でも図鑑などで何度も見た姿……巨大な翼を持つトカゲのような姿、大空を舞う王者であり全ての魔獣を従える究極の生命体。

 ドラゴン……この世界においてもこの魔獣は最強格に位置しており、種類によって呼ばれ方が違うとされていて、共有されたイメージは赤い鱗を持つレッドドラゴンと呼ばれる炎の眷属だ。

 そしてなぜか出現したドラゴンは非常に怒り狂っており、口元や鼻から火炎を吹き出しながら大空を旋回している……これほど怒り狂ってるってことは何かあったな。

「おい! 何やってるんだ?」


「あ……い、いや……あうッ……!」

 わたくしがユルとの連絡に集中していたことで、ティーチは不審に思ったのだろう、私の肩をぐいっと引くと一度睨みつけると思い切り頬を叩く。

 その衝撃でわたくしは転倒してしまうが、不意に衝撃の少なさに違和感を覚える……彼は苛立ちから手加減すらできないくらい強く腕を振るっていた。

 それにもかかわらずわたくしが感じた衝撃は恐ろしく弱かった……いや正確に言えば気力が弱っていたためわたくしは倒れてしまったが、傷などは全くついていない。


 ——つまり防御結界が復活した。


 自らの中に眠る魔力を練り上げていく……完全な状態には程遠いが、膨大な魔力が湧き上がる炎のように渦を巻いているのがわかる。

 ああ、そうか……わたくしが元勇者であるが故の防衛機構が一時的ではあるがわたくしに力を取り戻させている……「世界は勇者を見捨てない」これは前世でわたくしを勇者として認めた女神様がドヤ顔で話していたことだ。

 だがここぞというときにこの力は使わなければいけない、もしかしたら急にまた能力を喪失する可能性すらあるからだ。

 わたくしは少し怒りを感じさせる表情を浮かべるティーチを潤む瞳で見上げて必死に()()()をすることにした……まだ彼には能力を隠しておくべきだ。

「……す、すいません……わたくし、何もしようとはしていませんわ……だから許してください」




「……逃げろ! 逃げろ! あんな化け物勝てっこねえ!」

 散開しつつインテリペリ辺境伯領から脱出を図っていたマカパイン軍斥候部隊は今必死に逃げ惑っている最中だった。

 辺りに撒き散らされる炎、そしてはるか上空より鳴り響く巨大な吠え声……翼が空を裂き、大きな羽ばたく音を響かせながら、巨大なトカゲのような怪物の姿がそこにはある。

 マカパイン王国にもドラゴンは出現することがあるが、大半の国民や兵士は運良くこの大空を支配する最強の魔獣に遭遇することはない。

 かといってイングウェイ王国でもその姿を頻繁に見ることはないが、それでもマカパイン斥候部隊の面々はあまりに暴力的かつ破壊的な魔獣の姿に恐れ慄き、恐怖により次第に固まりつつあった。

「ちくしょうっ! 運が悪すぎるぞ!」


「ドラゴンです! 隊長ッ! 助けてくださいっ!」


「そんなことはわかってるッ! 散開しなければ全滅するぞ!? なぜ命令を聞かない!!」

 斥候部隊の隊長は走りながら必死に叫ぶ……気がつけば十分な距離をとって散開していたはずの斥候部隊のメンバーは隊長を中心に固まりつつあり、それを狙ってドラゴンが爆炎を振り撒いてくるのが見える。

 今まで攻撃が当たっていないのはドラゴンがわざと当てずに、獲物が疲れ切るのを待っているような状況なのだが、冷静さを失った斥候達は必死に逃げ惑う。

 だが地上にいる彼らは気がついていなかったが、ドラゴンの炎は彼らの退路をすでに奪っており、すでに詰んでいる状況なのだが……それでも煙の中を必死に逃げ惑う彼らは泣きながら必死に走る。

 そんな人間の姿を見ながらドラゴンは十分に遊んだと判断したのか、口元を歪めた後狙いを定めて一気に炎を吹き出した。


 ——哀れなマカパイン斥候部隊の視界が一瞬で真紅に染まる……全身を焼き尽くすような強い痛みと、灼熱の中意識が一瞬で暗闇に包まれていった。

_(:3 」∠)_ もう女の子じゃん!(二度目


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[良い点] これはメスですなぁ。 [一言] やっぱ、犬は肉球しか勝たん。
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