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(幕間) 竜殺し 〇二

「すげえ上玉だなティーチ……だがどこかで見たか?」


「いや……見たことはない、だけど……こんな場所にいるのが不思議なくらいの女だ……」

 ティーチと呼ばれた小瓶を手に持った男が少女の被ったフードを捲り上げると、そこには恐ろしく整った顔と美しい白銀の髪がこぼれ落ちる。

 月の光に照らされ銀の髪が美しく輝くのを見て、大男……ダリオ・マッケイガンは思わず息を呑む。

 先ほどこの少女を取り押さえた時も、驚くほど良い匂いが漂ってきて思わず力が抜けそうになった……そして素顔を見てそれは間違いじゃない、と改めて思った。

 そしてティーチ……マカパイン王国斥候部隊のティーチ・ホロバイネンはこのような容姿の少女がなぜこんな場所にいたのかを疑問に思う。

「おかしくないか? ここは国境沿い……インテリペリ辺境伯領でも魔物か国境警備の連中しか居ねえって場所だ……」


「そうだな……こいつ魔女か何かか?」

 ダリオの言葉に「そうかもな」と答えた後、改めて少女の顔を覗き込む……気絶をしているが少し息が荒く頬が赤い、そして体型は見た目よりもはるかに女性らしい体型に見える……腰には剣帯がついており、そういえば先ほどこの少女が座っていた場所に剣が転がっていたな、と思い出す。

 そっと少女の頬に手を当てると少し熱が出ていることに気がつく……焚き火の近くにあった小型の携帯用鍋からは薬草の匂いがしていたので、おそらく少女は体調が悪い状態なのだろう。

 病気か何かか? 手荒に扱う気を無くしたティーチは気絶した少女を優しく抱き上げる……軽い、体重からするとまだ一〇代前半だろう、ふわりと香水の匂いが漂う。

「……なあ、こんなに調子が悪そうな子を俺たちは攫うのか? それで陛下に献上して……」


「……任務だぞ……俺だってこんなことはしたくねえよ……ッ!」

 イラついたのかダリオが近くにあった石を蹴飛ばす……その石が近くの藪へと飛び込むと、キャインッ! と悲鳴が上がり、犬か何かが慌てて逃げていく音が聞こえる。

 悲鳴で一瞬武器を抜きかけた二人だったが、周囲から気配が消えたことでホッと息を吐いてから焚き火の場所まで戻ると、ダリオは周囲を警戒しながらティーチは黙って少女の荷物を漁り出す。

 大したものは入っていない、身分を示すようなものもない……携帯食料と水袋、そしていくつか野営に使う携帯用の調理用具など狩人が使用している道具が詰め込まれている。


 だが一つだけ……平民では持たないような簡単な化粧道具や、香水の入った小瓶などが小さなポーチへと仕舞い込まれていることに少し疑問を持つ。

 そしてティーチがその表面を見た時に思わず変な声をあげてポーチを落としそうになる……その声で何事か? という表情を浮かべたダリオだったが、ティーチは黙って首を振ってなんでもないかのように装う。

 そのポーチには一つの図柄が黄金色に刻まれている……捻れた巨竜(レヴィアタン)、イングウェイ王国最強の地方軍を指揮するインテリペリ辺境伯家の紋章だったからだ。

 ティーチはダリオに聞かれないように小声で独り言を漏らす……とんでもないものを手に入れてしまったかもしれないからだ。

「……こ、こいつは……嘘だろ……何でこんな場所に……」




「う……あ……うん……こ、こ……どこ……」

 わたくしが目を覚ますと少し薄汚れた汚い木の天井が見えた。

 普段自分の寝台で目を覚ますと恐ろしく豪華な金の刺繍が入った天井が見えるので、どう考えてもおうちの屋敷じゃない……ってかなんでわたくしここにいるんだっけ?

 ぼうっとした頭で考えて身を起こそうとすると、共に私の手首に手枷と鎖が繋がれていてジャラッという音を立てる……ど、どういうことだ? と思って自分の着衣を慌てて確認するが、ちゃんと意識を失うまで着用していた騎士服と革鎧姿だが、外套はどこかへ行っており白銀の髪が少し乱れた状態になっているのが見える。

「お? 起きたか……」


「……っ! ってうわぁあっ!」

 いきなり声をかけられてわたくしは咄嗟に跳ね起きようとするが、足にも同じような足枷がついておりわたくしは寝台の上でひっくり返ってしまう。

 いてて……わたくしは手枷と足枷を見てからほんの少しだけ力を込めてみるが、だめだ……まだ力が全然出ないや、と軽くため息をついて先ほど声をかけてきた誰かの方へと視線を動かす。

 そこには褐色の肌に黒髪を短く刈った細身の男性が椅子に座ってじっとわたくしを見ている……年齢はよくわからないが少なくともまだ一〇代後半では無いだろうか?

 彼が着用しているのは黒を基調として染色されている革鎧で、腰には舶刀(カトラス)を指している。

「……体調はどうだ?」


「……最悪ですわよ? なんですかこれ……」


「人質が逃げないようにするための手枷と足枷だ」


「ご丁寧な説明どうも……」

 慇懃無礼な態度ではあるが、こちらの質問にきちんと答えてくれるところを見ると相当に真面目な性格なのだろう。

 じっとわたくしを見つめて無表情のまま椅子に座っていたが、突然彼が椅子から立ち上がる……その行動に思わず心臓が跳ね上がりそうになる。

 もしかしてこの状態でわたくしを手籠に?! わ、わたくし前世まででも経験なんぞ無いのに、こんな場所でしかも全然面識もない殿方に乱暴されるなぞ淑女の恥ではないか!

「ひ、う……い、いや……」


 に、逃げなきゃ……だがジャララッ! と鎖は音を立てるもののそれほど長くないようで、いきなりガツン! とショックが伝わってそれ以上伸びず、わたくしは再び寝台の上で腰を抜かしてしまう。

 わたくしが慌てて寝台の端へと這いずるように逃げるが、そんなわたくしを尻目に彼は暖炉にかけられた小さな鍋から木のコップへと何かを注ぐと、わたくしの元へと持ってきてそれを突き出した。

「え? ……な、なんですの……?」


「調子が悪いのだろう? 先ほどお前が飲んでいた薬湯を再現してみた、飲むといい」

 一瞬何を言っているんだ? と思考が止まりかけるが……だが鼻に香る匂いは確かにわたくしが飲んでいた痛み止めの薬湯と全く同じ匂いがしており、わたくしは恐る恐るその男性の手からコップを受け取る。

 何度か匂いを嗅いでから、確かに薬湯だな……と理解したためわたくしは男性の様子を窺いながらコップから薬湯を口に含む。

 苦味はさきほど飲んだ時よりもはるかに強く感じられる……この薬湯が苦すぎて飲めないくらいまでになれば、わたくしの体調は元に戻り魔力も完全に復活する、だがまだまだ苦味は薄く時間がかかるのがわかった。

 それをみた男性は軽くため息をつくと、再び少し距離を離した椅子に座り直す……な、なんなんだこれは。

「……薬湯はありがとうございます……それとこの枷を取っていただけないでしょうか?」


「それはできない、お前はこれから移送される」


「い、移送? ど、どこへ……」


「捕らえた捕虜に説明する必要があるか? それとも……インテリペリ辺境伯家が黙っていないか?」

 彼の言葉に思わず絶句する……その反応で自分の目の前にいる女性が何者であるか、を完全に把握したのだろう……男性は軽くため息をついてから少し悩むように頭を掻く。

 しまった……ちゃんと冷静になっていれば、他の反応ができたはずなのに……自分が今本当に冷静になれていないことと、ちゃんと思考能力が働いていないという現状に歯噛みする。

 わたくしがコップを持ったまま黙ったのをみて、もう一度大きくため息をついた男性はあまり表情を変えずに話しかけてきた。

「俺はティーチ……ティーチ・ホロバイネンという、名前を教えろ」


「名乗る名などな……ッ!」

 わたくしがそう言おうとすると抜く手も見せずに距離を詰めたティーチは、首筋にナイフをぴたりと当てる。

 疾い……領内でもシドニーやリヴォルヴァー男爵あたりに並ぶくらいの速さだろうか、いくら弱っているからといってわたくしに身動き一つ取らせないのはティーチがそれなりに腕が立つという証左に違いない。

 ティーチは殺意に満ちた恐ろしく感情の無い瞳でわたくしを壁に押し付ける……ドン! という強い衝撃でわたくしはコップを取り落とし、床に音を立ててコップが落ち中身がこぼれる。

「……生意気を言えるような状況か? もう少し弁えろ()()()……」


「う……う゛う゛う゛ぅ……ふぐぅ……」

 わたくしなんでこんな男性に脅されて……無性に腹立たしいやら情けないやら、今の自分が恐ろしく無力な存在のように思えて、悔して悲しくてはを必死に食いしばったままわたくしの瞳に大粒の涙が滲む。

 だが結果的にそれがティーチの何かを刺激したのだろう……彼は急にハッとした顔になって目をそらす。

 しばらくの間体を震わせて必死に涙を堪えるわたくしと、黙ったまま目をそらすティーチの非常に気まずい空気と沈黙が流れていく。

 いきなり今わたくし達がいる部屋の扉がノックされると、わたくしは思わず身を震わせて飛び上がりそうになるが……彼はわたくしに黙っていろと言わんばかりに口元に指を当てて扉へと向かう。

「……なんだ? 獲物は寝てるぞ」


「ティーチ、隊長から伝言だ……国境警備隊と魔物の戦闘が活発化しているらしい、撤退は各個で行えだそうだ」


「……むちゃくちゃだな……だがわかった」


「獲物はちゃんと持って帰れ、だそうだ……じゃ俺は行くぞ死ぬなよ?」

 扉の向こうにいた人物が離れていく音が聞こえる……ティーチはふうっと息を吐いた後、再び椅子へと戻って座り直す。

 わたくしも最悪の想定よりは全然マシだったことでホッと息を吐くが、そんなわたくしをみて彼はフン、と少し気に食わなさそうな息を吐いてからいきなりガンッ! と寝台を蹴る。

 わたくしが少しだけ驚いて身を縮ませたのをみて満足そうに笑うと、彼はニヤリと笑う。


「……俺と一緒に来てもらうぞ? マカパイン王国へ……インテリペリ辺境伯家に連なるものよ」

_(:3 」∠)_ あれ? これ普通の女の子じゃね?(すっとぼけ


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[一言] いつでもどこでも無双の令嬢…かと思いきやまさかのピンチ!? 続き楽しみにしてます!
[良い点] 弱すぎワロタwwww 犬はやはり役立たず……
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