第一一五話 シャルロッタ 一五歳 知恵ある者 〇五
——私は何を見ているのだ……? 今目の前で起きている事象がまるで幻であるかのように、現実感がない光景に見えて仕方がない。
ヒキガエル面の怪物が喋っていることも不思議な気分にさせられたが、その怪物が乗っている巨人……七国魔道騎と呼ぶその作り物の巨人の攻撃、当たったら一撃で死んでしまいそうなその拳。
それまで王国で一番の美姫と讃えられ、時には気恥ずかしそうな表情を浮かべる自慢のお嬢様がまるで虫でも払うかのように、どこからともなく取り出した剣を使って受け流した。
……なんだこれは? 今私は何を見せられているのだ? お嬢様を止めなければ……危ないことはしてはいけないって言わなきゃいけない。
「マーサ殿!? 何をしているんです?!」
「お嬢様を止めないと……あんな危ないことをしたらいけないんですよ……」
何が起きているのかわからないままシャルロッタ様の元へと駆け出そうとした私の手を、お嬢様が契約したという冒険者の一人、エミリオとか名乗る聖教の神官がぐい、と掴んでそれ以上私は歩けなくなる。
地面を揺るがす振動と巻き上がる土煙の中、巨人がその形を変え蜘蛛を模した形へと変化しお嬢様に向けて真紅の光線を発射したのを見て私は彼の手を振り払おうとするが、力強いその手は私を掴んで離そうとしない。
「離して! お嬢様の盾にならないと……ッ!」
「……いけません! 貴女が行っても盾ではなく足手纏いになります!」
その言葉に私は思わず彼の頬を思い切り叩いてしまう……違う、私はお嬢様のために全てを投げ打ってきた……私が足手纏いになるなんて、そんなことがあるわけがない。
彼の目を睨みつけてもう一度彼の頬を思い切り叩く……だが、私をみるエミリオの目は悲しそうなそれでいて憐れむようなそんな目を私に向けてきた。
違う、私はお嬢様がこんなことをする人ではないと信じている、ずっと彼女を見てきて美しくだけど少しあどけなく、おっちょこちょいな一面もある可愛い女性なのだ。
「違う、私が見てきたお嬢様は危ないことなんか絶対にしないのに……私は……私は何を見て……」
「……貴女に見せた姿は違うのでしょうね……でもあの方は美しく、そして誰よりも強い方です……先ほどシャルロッタ様は貴女に謝罪をしていた、本当は見せたくなかったのでしょうね……」
シャルロッタ様は私が見たことのないような勇ましい表情を浮かべてまるで鳥のようにふわりと宙へと舞い上がり、敵の攻撃を回避している……彼女の言葉「本当は誰よりも強い」という言葉が冗談だとか、そういうものではないのだと目の前で起きている事象を見てようやく思考が追いつてくるのがわかる。
彼女が勝って、そして私の元へときた時に私はちゃんと声をかけてあげられるだろうか……目の前で戦うお嬢様の姿はまるで……それまで聞いた戦士や魔法使いのものとは全く違う、それこそヒキガエル面の怪物と同じ。
違う、彼女にそんな言葉をぶつけてはいけない、だけど私の中の恐怖心がひたすらに彼女を表す一つの言葉を繰り返している。
——あれは人間じゃない、化け物……この世の理を超えた超常的な能力を持つ……怪物なのだ、と。
「この程度のお遊戯でわたくしを殺せると思っているのであれば大間違いよ!」
転生してから感じたことがないくらい全身に魔力が漲り、わたくしの意識がどんどん戦闘モードへと切り替わっていくのがわかる。
体の内部からはち切れそうなくらいに魔力が溢れ、わたくしの銀色の髪がその波動で波打ち、パチパチと爆ぜる魔力で輝いている。
目の前の巨大な大鷲を模した七国魔道騎はゆっくりとわたくしと同じ高度へと達すると、まるで咆哮するかのような動作をすると、横凪に真紅の光線を撃ち放つ。
先ほど蜘蛛形態の時に撃った攻撃と違って、魔力の集約率はそれほど高くないようだがその分光線自体が太く幾重にも拡散した攻撃となっている。
「クハハハハッ! 薙ぎ払えッ!」
「……攻撃は豪快だけどね、これじゃわたくしの命には届きませんのよ?」
わたくしはその攻撃に対して手を翳して防御結界を張り巡らせる……先ほどの収斂した光線ならまだしも、この拡散した攻撃は魔法で相殺する必要すら感じない。
展開した防御結界に衝突した真紅の光線は結界の表面を流れるように弾き飛ばされると、見当違いの方向へと飛んでから爆発四散していく。
一発一発の攻撃力は大したことない、むしろ時間をかけて集約した光線の方が危ないな……わたくしは剣を構え直すと、宙を蹴り飛ばすように一気に七国魔道騎に向かって突進する。
「空中を蹴って加速……! そんなことができるのか?」
「できちゃうんだな、これがッ!」
巨大な大鷲はわたくしの突進を阻むように無数の魔法の矢を展開していくが、わたくしを阻むには数量と威力が足りない。
不滅を高速で振るって魔法の矢を叩き落とし、一気に七国魔道騎へと肉薄したわたくしはまずその巨大な翼を無力化するべく剣戦闘術を繰り出す。
知恵ある者はわたくしが何か大技を繰り出すと気がついたのだろう、慌てて七国魔道騎へと命令を繰り出そうとするが、もう遅い。
「い、いかん……防御を、防げッ!」
「——我が白刃、切り裂けぬものなし」
両手で天高く不滅を振り上げたわたくしは魔力を込めた一撃を解き放つ……巨大な図体だ、先ほどから見ていてもそれほど高速で飛翔できるわけではないようだ。
まずは飛行能力を完全に奪い取って地上に叩き落として核となる部分を破壊し行動不能にすれば、あとは知恵ある者を倒すだけで終わるのだ。
集約した魔力が魔剣の刀身から一気に荒れ狂う光の渦となって一気に吹き出す……この技で切り裂けなかったものは前世では一つもない……わたくしは猛々しい笑みを浮かべたまま剣を振り下ろす。
「五の秘剣……星乱乃太刀ッ!!」
振り下ろした刀身から眩く輝く光の波が巨大な七国魔道騎の翼へと突き刺さる……その波はまるでバターのようにゴーレムの翼を引き裂き、そのまま後方の空間に時空の切れ目を作りながら消滅していく。
切り裂かれた空間は急激に元へと戻ろうとまるで視界が引き攣ったかのように歪むと、急激に元の姿へと戻ろうとするが、その地点に存在していたゴーレムの翼を巻き込んでいく。
メリメリメリ! と大きな音を立てて急激に収縮しながら限界を超えて空間ごと爆発し、その衝撃波が七国魔道騎本体に衝突すると、威力に耐えられず残っていた羽根が胴体の一部が、そして脚が砕け、核に亀裂でも入ったのか飛行するためのバランスを崩して崩壊しながら地面に向かって墜落していく。
「ば、バカなああああっ! こんな……こんな攻撃はありえないっ!」
「はっはっはーっ! このシャルロッタ様を舐めるんじゃないですわよッ!」
回転しながら地面へと墜落した七国魔道騎は凄まじい爆音と共に辺りを揺るがし、凄まじい高さまで土煙を巻き上げた。
転生してこのかた感じたことのない魔力の奔流、軽く魔力酔いのような状態ながらもわたくしの心は高鳴る……いや闘争本能に裏打ちされた高揚感が恐ろしいまでにアドレナリンを放出させて微妙にハイになっている気がする。
ふわりと地面へと降り立ったわたくしはパキパキと指を鳴らしてから、魔法を唱えて濛々と立ち込める土煙を吹き飛ばしにかかる。
「風よ荒れ狂え……旋風ッ!」
どこからともなく巻き起こる旋風が暴風のように吹き荒れ、視界をクリアにしていく……わたくしの感覚であれば中で動いているかそうじゃないのかくらいまでは感知できるけど念には念を入れての行動だ。
ふと、以前使った時よりも旋風の威力が数倍以上に上がっている気がした……まるで突風が吹き荒れたかのように近くにあった樹木がへし折れ、空へと舞い上がっていく。
んん……? この魔法ここまで威力があったかな……? と多少なりとも違和感を感じるが、だがそれも些細なことか、と体内で荒れ狂う高揚感がその違和感をなんでもないもののようにかき消していく。
「……まだ生きてるんでしょ? そのガラクタは動かないと思うけどね」
「クハハッ……やりおる……私の叡智の結晶をここまで破壊するとは……」
土煙が吹き飛ばされると、そこには瓦礫の山のように無惨な姿を曝け出しそれでもガタガタとなんとか動こうとする七国魔道騎と、その上に立って憎々しげな表情でわたくしを睨みつける知恵ある者の姿があった。
彼には当然のことながら傷ひとつついていない、あれだけの攻撃を受けて未だゴーレムがなんとか形を保っていることにも多少なりとも驚きは感じるが……いや、そんなことは細かいことだ。
わたくしは剣をヒキガエル面の魔人に向けると、知恵ある者に向かって投げキスを飛ばしてウインクすると微笑を湛えて話しかけた。
「……さあ、オモチャはブチ壊しましたわ……次はお仕置きの時間ですわよ?」
_(:3 」∠)_ 撃っちゃうんだなこれがァ! が好きなんです……彼が好きなんですっ!(照
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