第一一四話 シャルロッタ 一五歳 知恵ある者 〇四
「……七国魔道騎?」
巨大なこのゴーレムというか、出鱈目なパーツの組み合わせみたいな人型の巨人の名前が七国魔道騎? わたくしの表情を見て満足そうに幾度が頷くと、知恵ある者はパチンとその太い指を鳴らした。
その動きに合わせて七国魔道騎は、見た目よりも素早くその腕を後ろに引き……そしてまるで砲弾のように打ち出した。
その動きは大雑把ながらも恐ろしいまでの速度を有しており、咄嗟に身を翻して大きく避けたわたくしをかすめて、地面へと叩きつけられ大きく地面を揺るがした。
「なっ……は……危なっ……」
「クハハッ! 人間の形をしているからといって攻撃範囲が狭いわけではないのでな!」
肩に乗る知恵ある者は濁った瞳を煌めかせながら大きく高笑いをしている。
わたくしの知識にあるゴーレムってやつは、魔法で仮初の命を吹き込まれた人形や石材、時には人体などを使って作り上げられた擬似生命体と呼べる存在だ。
医学が生命の根幹というものに触れられないように、魔法学による新たな生命の創造というのは実現できていない不可侵の存在であると言われている。
擬似生命というのは体の各部を動かすための神経伝達を魔力で補っている……そのため人間のような反射速度で肉体を振り回すと、接続が簡単に切れてしまって動かなくなるというデメリットを有している。
人間の体ってすげーんだな、と転生してから思ったものだけど……今目の前の巨人が見せた動きは明らかにその理に反した速度で繰り出されているのがわかった。
「究極のゴーレムってわけか……やるじゃない」
「この大陸に魔が出現した際、今とは違う王国が七つあった……この七国魔道騎はその国を模した名前を持っているのだ」
神話の時代についての文献は現代にあまり数が残っていない、魔王との戦いや戦乱で悉く失われてしまったと言われているからだ。
だからわたくしもその七国については「そういうものがあった」という知識以外はわからないのだ、スコットさんなら何か知ってたかもだけど自由に連絡ができるような状況じゃないしな。
「歴史のご高説をどうも、こんな場でなければもう少し拝聴したかったですわよ?」
「教師から勉強は大事だと教わらなかったか? ……死ね」
知恵ある者の言葉に反応した七国魔道騎は再び腕を振り上げるとわたくしに向かって振り下ろす……背後でマーサや「赤竜の息吹」のメンバーが息を呑む声が聞こえた。
轟音をあげて迫る巨大な腕をわたくしは片手で不滅を奮って受け流すと、そのままの勢いでゴーレムの腕が地面へと叩きつけられ、地面に大きな穴を穿った。
だがわたくしには傷一つ付けることなどできようはずがない……土埃が舞う中、再び剣を正眼に構えたわたくしはニヤリと笑って知恵ある者へと問いかけた。
「確かに速度はゴーレムなんかじゃ再現できないものですわね? でも……これだけじゃわたくしには勝てないのですわ」
「クハハハッ! お前はいつもそう余裕そうな表情を浮かべて相手を惑わす……だがこの最高傑作たる七国魔道騎は単なる力押しで戦う兵器ではないのだ……調律を開始せよ!」
巨人はその声に合わせてまるで重量などなかったかのように宙へとふわりと舞い上がる……関節が無理やりな方向へと変形し、その姿をまるで魔法のように変えていく。
先ほどまで人の形をしていたはずの巨体は、まるでその元の姿がなかったかのように、巨大な六本足を持つ蜘蛛型へと変化した……なんだこれは……わたくしが驚きで目を見開いていると、知恵ある者は高笑いとともに両手を広げる。
「クハハハハッ! 七国魔道騎はその体の構造を自由に変化させられるのだッ!」
「な……ゴーレムが変形した……?!」
蜘蛛……いや装甲を持つ外皮を見るとタカアシガニのようにすら見えるが、いやそれでも体の後方に胴体のような部分があるから確かに蜘蛛か。
七国魔道騎はその巨大で細長い足を振り上げ、わたくしへと向かって振り下ろす……咄嗟にわたくしは大きく横へと身を翻してステップし、体を回転させながら距離を詰めると細長い足へと不滅を叩きつける。
キャイーイイイイン!! という甲高い音を立てて刃が装甲へと食い込むが、手応えが凄まじく重い……まるで巨大な鉄塊にナイフで切れ目を入れているかのようなずっしりとした手応えにわたくしは舌打ちをしてしまう。
こいつ見た目よりも遥かに高密度の金属を体に使用している……わたくしの技量を持ってしてもこの体を断ち切ることは容易ではない、ってことか。
「……面倒な体してますわね?! 溶かして鎧にでもしてあげましょうか?」
「……穿てッ!」
憎まれ口に反応するでもなく知恵ある者が命令を下すと七国魔道騎の頭部に当たる部分がまるで巨大な砲塔のように変形していく。
砲塔と化した頭部に魔力が集中していく……赤く光るその魔力は限界まで収縮するとその巨体からは考えられないくらい細く収斂した光線を打ち出した。
衝撃が凄まじかったのだろう、恐ろしく巨大な七国魔道騎の体が発射の勢いで数メートル後退するが、六本の足が地面へと食い込みその衝撃へと耐えていく。
「異世界の矛盾勝負ってわけね……負けられないのですわッ! 戦神の大盾ッ!」
わたくしは咄嗟に手を翳して無詠唱で光り輝く純白の盾……絶対防御魔法戦神の大盾を前面に展開してその真紅の光線を受け止め、ドギャアアアアアン! という爆音があたりに響いた。
純白の盾と赤い光がわたくしの目の前でせめぎ合う……だが、戦女神の盾は絶対的な防御能力を発揮しその赤い光線を四散させる……あちこちの地面へと散った光線が衝突し地面を吹き飛ばして爆発していく。
七国魔道騎は光線を放ち終えた頭を変形させ、そのまま巨体を再び組み替えていく……次はまるで巨大な球体のように体を構成し直すと、地響きとともに地面へと落下しあたりを揺るがした。
「クハハッ! やりおる……それでこそ勇者、それでこそ女神に愛された使徒よ……ゆけいッ!」
知恵ある者の声に反応し、球体と化した七国魔道騎のあちこちから、まるでウニのように鋭く尖った棘が突き出し、わたくしに向かって回転しながら突進を仕掛けてきた。
その回転により地面は抉れ、爆音と土煙を上げながら迫る巨体は地上でやり合ってるだけ被害が拡大するだけだな……と判断し、わたくしは天空の翼……魔法陣を展開して一気に上空へと舞い上がる。
この巨体を一気に滅ぼすには超強力な魔法だけでは破壊しきれない可能性がある、ゴーレムは魔力の源である核を破壊すれば停止するのだけど、この七国魔道騎も基本的な構造は一緒の可能性が高い。
「……核は強い魔力を発揮するのだから……中心とかかしらね?」
空中で静止したわたくしは土埃を巻き上げながら回転する七国魔道騎へと目を凝らすが、うーん……土煙が凄まじすぎてよく見えないな。
だが土煙を割って、巨大な鷲……いやこの大きさではすでにロック鳥と言ってもいいかもしれないが、巨大な翼を広げたゴーレムが空中へと翼を羽ばたかせて凄まじい速度で上昇を開始した。
人形、蜘蛛型……そして球体だけじゃない、このゴーレムさまざまな形状へと変化することでその能力を変化させられるのか!
「クハハハッ! 空にも逃げ場などないぞ! 放てエエッ!」
「な……ッ! ちょっとズルくない?!」
知恵ある者の言葉と同時に、その翼の中程に先ほどの砲塔よりは小さな筒のようなものが数本出現していく。
その筒から凄まじい勢いで小さく収斂した魔力……まるで銃弾のように小さくまとまった魔法の矢が凄まじい量でわたくしが飛行する空間へと右から左から……そして正面から追いかけるかのように飛来してくるのが見える。
普通に魔法として使われる魔法の矢よりも魔力が収斂しており、一発当たっただけで肉体が砕け散るくらいの破壊力があるのだろう。
戦神の大盾はその特性上正面からの攻撃には対応ができるが、上下左右から飛来する魔法の矢は全てを受け止めることは難しい。
ならどうするのか? 答えは一つしかない……まとめて吹き飛ばせばいいのだ、チョー簡単だ。
「死ぬことすらない死者の魂、音の無い旋風……破壊を司る原子の暴力……」
わたくしは空中で回避機動をとりながら魔力を集中させて行く……わたくしの体に命中しなかった魔法の矢が爆発していくが、その爆風の中から無数の魔法の矢がわたくしへと迫ってくる。
わたくしが扱う魔法の中でも範囲殲滅のために使用された破壊的攻撃魔法……複数あるうち最も展開速度がはやく、無数の標的を撃ち落とすのに役立つ魔法で一気に吹き飛ばす。
「この数の魔法の矢を全て撃ち落とせるものか! 死ね辺境の翡翠姫ッ!」
「疼く破壊衝動を我が前に顕現せよ……さあ、ぶっ放すわよ! 神滅魔法雷帝の口付けッ!」
わたくしを中心とした空間へ凄まじく集約した高密度の雷撃が解き放たれ、恐ろしいまでの光量と超高圧電流が空間ごと魔法の矢を根こそぎ誘爆させていく。
……地上に落ちる雷は一回が一億ボルト近くあると言われ、たった一〇〇〇分の一秒しか見えないこの超高エネルギーは太陽の表面よりも遥かに高い三万度近い高熱を発するのだという。
この範囲殲滅魔法雷帝の口付けは術者を起点とした半径六五メートルの空間に大量の雷撃を無差別にブチまけ、空間内の大気温度を一気に数十万度まで上昇させて一瞬にして焼き払うのだ。
一瞬にして攻撃を消滅させられた知恵ある者が苦々しい表情を浮かべてわたくしを睨みつける。
「この……規格外の化け物が……ッ! 傷一つ付けることすらできんとは……だが、七国魔道騎の力はこんなものではない!」
_(:3 」∠)_ 体を組み替えて能力を変化させるゴーレムはやっぱりロマンですよねえ……
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