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(幕間) 騎士たる心 〇一

 ——最近我が家のお嬢様が美しい……いや、昔から美しかったんだけど、最近本当に見るだけで心が溶けそうな想いだ。


「シドニー? どうされたの? 私の顔に何かついている?」


「……いえ、護衛たる自分はお嬢様を守るために常日頃注意せよとリヴォルヴァー男爵より教わっておりますので、そのせいかと」


「そう? でも……シドニーがいるから私も安心していられますのよ、ありがとうございます」

 ああ、今日もお嬢様は美しい……だけど、その美しさの裏に何かが秘められているような気がして、俺は何かを見落としているのではないか? と常に考えている。

 俺の名前はシドニー・ボレル、インテリペリ辺境伯家に使える騎士にして、お嬢様……シャルロッタ・インテリペリ様の護衛として王都の別宅へと赴任した二〇歳。

 ちなみにボレル家は貴族ではなく代々戦士として王国軍に従軍をしていた家で、平民……よりかは少しだけ良い暮らしを保証されている家系でもある。

「いえ、自分もまだまだ研鑽を積む身です、ただお言葉嬉しく頂戴いたします」


「昔と全然反応違うのですねえ……剣のお稽古またやります?」


「……自分ももう大人ですので……お嬢様にお怪我させる気はございません、それに今日は雨が降っておりますよ」

 あら? と窓を見つめて小さく「気がつきませんでしたわ」と可愛く舌を出すお嬢様……そんなところも美しくて少し頬が熱くなるのを感じるが、だめだこの人はもう第二王子であるクリストフェル殿下と婚約しているんだぞ。

 決して届かない高嶺の花……インテリペリ辺境伯家そしてイングウェイ王国最高の美姫であり通称辺境の翡翠姫(アルキオネ)、その美しさは人を惑わすとさえ言われる。

 美しさで幻獣ガルムと契約を交わし、従えていることを口外してはいけないと常日頃教えられているが、あんな怖い幻獣を従え平気な顔をしているお嬢様の神経の太さに時折すえ恐ろしいものを感じる。

「シャル……シドニー卿を困らせるのは良くないかと」


「……無茶なこと言ってませんわよ? ねえシドニー」

 小さな頃から戦士としての教えを受け継いできた俺は、一五歳の時にインテリペリ辺境伯家の筆頭騎士を務めるスラッシュ・ヴィー・リヴォルヴァー男爵に見出され騎士見習いとなった。

 腕は良かったと思う……父も一兵士としてはかなり剣の腕が立ったと聞いていいるし、幼少期から英才教育を受けた俺は近所でも有名な餓鬼大将の一人だったから。

 自信満々にインテリペリ辺境伯家の見習い騎士となった俺を完全にへし折る出来事があった……お嬢様との出会いだ。

 お嬢様との出会いは彼女がまだ一三歳だった頃……俺はその時に剣の稽古で少し気が付いたのだけど……この美しい花がとんでもない能力を持っているのではないか? とずっと思っている。

 ただ、それ以上に彼女の美しさ、可憐さ……そして優しさに俺の心は持っていかれてしまった。

「……そうですね自分は困っておりませんよ」


「そーですかぁ? シドニー卿……シャルは常識がわかってるような顔してますけど、全然わかってないですからね?」

 明らかに悪そーな顔してユルは俺の肩に前足をポン! と載っけるけど、この幻獣いつもこんな気安い対応するようになったのはいつからだっただろうか?

 一度どのくらい強いのか確認させてくれと話して訓練場で立ち会ったのだけど……()()()()()()()()()

 まず動きがおかしい……野生動物、魔獣と何度か戦ったことがあるがそんなレベルではなかったのだ、魔法なしでと話していたので少し油断をしていたのかとも何度か自分の腕を疑った。

 だが、その後他の騎士たちとも手合わせして自分がそこまで弱くないと言う確認をしてしまったくらいだ。

「またユルが小姑みたいな状態になっちゃいましたわ……ねえシドニー、一緒にお茶飲まない?」


「……え?」


「雨降っているし、どうせ護衛って言っても我が家に来るような危ない人なんかほとんどいませんわよ……それにせっかくだからお話ししましょう?」


「し、しかし……護衛の役目がありますし……」

 俺の言葉にお嬢様は少し悲しそうな表情で首を傾げる……頭が沸騰しそうになる気がして、俺は少しだけ腰砕けそうになりながら黙って二度首を縦に振ってしまう。

 その仕草でお嬢様は表情をパッと変えて、満面の笑みを浮かべながら鼻歌混じりにテーブルの上を整え始める。

 い、今の表情はヤバかった……胸が破裂するのではないかと思うくらい、彼女は可愛かった……だめだシドニー、目の前にいるのは俺の護衛対象、そして敬愛するお嬢様だ。

 決して手に入らない高嶺の花だ、いつも彼女に胸の内にある全てをぶちまけたいって思っているけど、それは許されない行動なのだ。

「シドニーも気に入った女性ができたら、お話しするでしょ? その時の練習台にわたくしを使ってもらっていいのですよ」


「き、気に入った女性なぞおりませんよ……ハハッ」


「そうですなあ、シドニー卿はそんじょそこらの女性には興味が出ないでしょうしなあ……ウヘヘ」

 ものすごく悪そうな顔を浮かべながらユルが俺の頭をペシペシと柔らかい肉球で叩いてくる……くそ、こいつわかってやってやがるな!

 そんな俺とユルの顔を見て微笑ましいものを見ているかのように微笑むお嬢様……やめて、もう俺の命は無くなりそうよ!?

 俺はニコニコと笑いながら、幻獣ガルムの前足を払うとこのクソ犬に顔を近づけて笑顔のまま黙って頷く……うるせーな、お前に言われたくねえんだよ、と言う気持ちを込めてこいつの後ろ足を軽く踏んでやる。

 だがグリグリと足を踏みつけても、ユルは目元をピクピクと動かしながら口元を歪めて俺と同じように笑顔を振り撒くことを忘れず、再び肩に前足を乗せて話しかけてくる。

「……シドニー卿、我の足にあたっておりますよ? (そろそろやんぞコラ)」


「おっと失礼、あまりに見事な毛皮なので絨毯かと思っていました……(うるせーなこっちこそお前の粗相をお嬢様にバラすぞ)」

 小声で罵り合う俺達を見て、くすくすと笑って「仲がいいのね」と笑うお嬢様……だめだ、心臓の鼓動が跳ね上がり、頬が熱い、どうして俺はこんなにお嬢様のことを思ってしまっているのだろうか。

 王子の婚約者……それ故に想いを伝えることもできない、どうしたら彼女をすっぱりと諦められるのだろうか。

 じっと自分を見つめる視線に気がついたのだろう、お茶を用意する手を休めてキョトンとした表情で俺を見たシャルロッタお嬢様が首を傾げたのを見て、俺は慌てて目を逸らす。

 少し不思議そうに俺の顔を見つめていたお嬢様だったが、すぐにティーポットへとお湯を注いで椅子に座るように促してきた。

「さあ、どうぞ……シドニーが非番の時にあった出来事などを教えて欲しいわ、市井のこと知らなくて……お願いしますね」




「可愛すぎる……だめだ、俺はもうおかしくなりそうだ……」

 場末の酒場で俺はエールの入ったジョッキを片手にテーブルに肘をついてぼうっと考えている……お嬢様のことを考えていると頭が真っ白になりそうだ。

 護衛としてあるまじき思いだと言うのは理解している……決して口に出してはいけない言葉「あなたを愛している」……彼女に伝える夢を何度か見てしまっている。

 その時によって夢の中でお嬢様が返す言葉は変わる……だが、最近は笑顔で俺の胸の中へと飛び込んでくるところで目が覚めてしまう。

 大きくため息をついてエールを軽く啜る……美味しいけど少しほろ苦い、これが失恋の味というやつだろうか?

「……どうしたら吹っ切れるのだろうか……」


「……大丈夫ですか? 飲みすぎてるのでは?」

 いきなり声をかけられて俺は驚いてビクッと背筋を伸ばしてしまう……視線を上げると、そこには少し短めの青い髪に深く澄んだ青い目をした少女が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 小動物的な可愛らしい顔立ちをしていて純粋そうな少しあどけない表情だが、心配そうに俺を見つめている。

 そっかそういうふうに見えてるのか……俺はその少女に微笑むと少し頭を掻いてから話しかける。

「ごめんよ、そこまで飲んでるわけじゃないんだ……でもありがとう、お茶をもらえるかな?」


「はい、お待ちくださいね」

 笑顔でパタパタと厨房の方へと小走りに走っていく少女……先週まではいなかったかと思うが、給仕の格好がよく似合う新しく入った子だろうかな、と考えて皿に残っていた串から肉をかじり取る。

 彼女が小走りに走ってきて俺にコップに注がれたお茶を差し出してきたのを受け取ると、ふとその少女のことが気になり俺はじっと彼女を見つめる。

 年齢はまだ若い……お嬢様と同じくらいの年代だろうか? 垢抜けないところなどが王都には珍しい素朴な雰囲気を醸し出している。

「……若いね、君は先週までいなかったよね?」


「あ、はい……ターヤ・メイヘムっていいます、実は生活費を稼ぐためにこちらで働かせていただいて……」

 少し気恥ずかしそうな表情で頬を掻くターヤという少女……その名前にどこかで聞いたような、と少し引っ掛かるものを覚える。

 だがターヤは俺の身なりを見て少し笑顔を浮かべると、胸にある紋章……インテリペリ辺境伯家を表す捻れた巨竜(レヴィアタン)を指さして微笑む。

「お兄さんってシャルの知り合いか何かですか?」


「俺はシドニー・ボレル……ってお嬢様をご存知なのか?」


「いつも学園でお世話になってて……あ、私がここで働いているのはシャルには言わないでくださいね、心配かけたくないし……」

 その言葉でようやく繋がる……そうかこの少女が時折お嬢様が話している「ターヤ」か。

 確かにお嬢様の知り合いがこんな場末の酒場で働いている、なんて彼女が知ったら彼女を援助しようとするかもしれない。

 この酒場は俺もあまりガラがよくないとは感じていて、酔客の中にはロクでもない人物も多数混じっている、ただここで出される串は非常に味が良く、インテリペリ辺境伯家の人間は近寄らないため一人で考えたい時には都合が良かったからだ。

「……お嬢様の学友がこんなところに……大丈夫なのか?」


「実家が宿兼酒場を経営しているので慣れてますから」

 少し寂しそうな笑顔を浮かべてターヤは、一度俺に頭を下げるとすぐに厨房へと引き返し新しい注文をとりに、別のテーブルへと忙しく走っていく。

 確かにじっと彼女の姿を見ていると、酒場での立ち回りは相当に慣れているのかどこからともなく彼女に伸ばされる手をひらりと交わし、軽く叩いて跳ね除け……それでも相手を怒らせることなく笑顔で振る舞っている。

 そんな彼女の姿を見て、お嬢様の交友関係も少し面白いものだな……と感心してしまう。


「……平民とも仲良くなれる……か、お嬢様らしいと言えばらしいか……」

_(:3 」∠)_ 需要あるかわからないのですがシドニー君視点のお話を作ってましたw


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[良い点] もはや天然気味に男を落とす様に…… シャルロッタ嬢恐ろしい娘!
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