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5・私を至高と呼ぶあなたと真実の愛

最終話です。

「なにか思うところがありそうだな」


 万能であるヒュー様にはお見通しだった。

もったいをつけるほどの考えでもない。素直に言葉にする。


「ヒュー様は、ご高齢だとずっと思っておりましたので。今までの失礼の数々が恥ずかしく、心がついていきませんでした」


 そうなのだ。どこへ行くのも手を繋いで差し上げたのは、お年寄りの手を引いているつもりだった。

 私はそのつもりでも、実はお若いヒュー様は子供に引っ張られていると思っていただろう。


 ご高齢のヒュー様は食事も似たり寄ったりになるから、私がバランスを考えなくてはと張り切っていたけれど、これも食べたいものを次々とねだる子供だと思われたことだろう。


 いたたまれない。落ち着かなく感じながらポツポツと話せば、ヒュー様はくすりと笑った。そして慰めを口にした。


「そのひとつひとつが重なって、人に戻れたのだから、正解だったという事だ。といっても人にはないはずの魔力はそのまままで、戻れたと言うよりは『人型に変化した』が、感覚としてはしっくりとくる」


そこで私は思い出した。


「そう言えば『真実の愛』に答えが出ていないのに、どうして戻れたのでしょう」


「さて、なぜだろうか」

首を捻り、私に投げ掛ける。

「そなたの斬新な解釈を聞きたい」



 それならば、実は先に用意してあった。たぶんこれが正解だ。


「あの性格のねじ曲がった老婆は、他でも問題を起こしており、他国の王子に成敗されたのだと考えます」


 それでは分からない。という顔をされる。

毛がなくなったので表情をつかみやすく、それは良くなったことのひとつだ。


「以前から思っておりました。呪われたのがヒュー様ひとりって事はないんじゃないかと。あの老婆はどこかの王女様にも呪いをかけていて、彼女を愛する王子様が苦心の末に老婆をやっつけたのです」


「なるほど。童話にありがちな展開だな」と返されたのは、馬鹿にされているのか、多少なりともご納得いただけたのか。


「そうかも知れない。いや、それが正解だろう」


おおらかに認められるとかえって居心地が悪い。


「ヒュー様、反対意見でもかまいませんよ」


「いや、私はそなたから『愛とは寛容だ』と学んだように思う。そしてそなたの意見がどれほど突拍子もなく非現実的だろうと、心から許容できる」


 自信たっぷりに言われても、万能ヒュー様と違い小娘の私には理解ができない。


 何も出来ない私を受けいれることでヒュー様の器が大きくなった。解釈はそれで合っているだろうか。


 でも、許容というなら獣姿のヒュー様だけでなく人に戻ったヒュー様も、ありがたく大切に思うのは変わらない私の気持ちだ。



「そなたがこの姿を見慣れるまで時間はいくらでもある。これからも宜しく、アリスタ」


 ヒュー様はお茶のおかわりを出してくれながら、極上の笑顔を見せた。



「美女でもない私がこのような特別扱いを頂き、よろしいのでしょうか。縁は切ったつもりでおりますが、父はあんなですし」


一応確かめておかねばと、念を押す。


「『美女』には拘るな。初めて会った時に私の取った態度が誉められたものでなかったことは、何度でも謝罪しよう。そなたは美しいと言うより、かわいいと思う」


 真面目に言われて、どうしていいのかわからなくなる。おろおろとしながら、手近にあるティーカップに口をつけた。


「ベルは『名前負けする』というのでやめにしたが、『アリスタ』の意味を知っているか?」


 薔薇の品種名ですよね。改良した方の名では。

正解ですか? と尋ねる。


「いや、異国の言葉で『至高』という意味だ。それを薔薇の名としたのだろう」


 満足そうに「そなたに相応しい呼び名だ」と言われて、私は盛大にお茶を吹き出した。



「美人」から「至高」に。

真実の愛とは何か分からないままだけれど、人に戻った今となっては、もうどうでもいいのかも。


 ただヒュー様の曇った目が、もしくは可愛さに対する基準の低さが、一生そのままであることを、私は強く強く願うばかり。



「ところでヒュー様、本当はおいくつなのですか」


「二十三だ。そなたは十七だったか。そろそろ適齢期か。結婚するなら、私はいつでもかまわないが」


 はくはくと、声にならない私に余裕のある笑顔が向けられる。


「そなたは私が大好きで、私がいない生活は考えられず、私がいないと生きられないのだろう」


 ヒュー様はどこまでも楽しげにそう口にされるが。

いえ、ちょっと意味が違います。ヒュー様だって分かっていらっしゃるはずだ。


 それにヒュー様がおじいさまだと思っていたから言えたのであり、こんなに若いと知っていたら絶対に言ってません。と言いますか、言えません。


などと声に出す勇気はなかった。



 顔を赤くしているだろう私にかまわず、私の吹き出したお茶で汚れたテーブルをヒュー様が魔力でキレイにしてくれる。


 こんなに甘えきって怠惰な生活を送ってしまって、今さら村の暮らしに戻れるだろうか。

 問いながら、戻る気のない自分にもう気がついている。


「父とは縁を切りますし、ご迷惑が生じるといけませんので村には二度と帰りません。でもあんな父の娘である私で本当にいいのでしょうか」


 これだけはきちんと確かめておかなくては。言いながら情けなくて顔をうつ向けると、頬にヒュー様の手が触れた。


 初めて顔を触られた。モフモフしていないのが残念だと感じる私は失礼だろうか。ほっぺにモフモフ、先に体感しておけば良かったと後悔する。いや肉球ならプニプニか。


 何かを察したらしいヒュー様が、複雑そうな顔つきになる。


「まさか、人に戻ったのに喜ばれるどころかガッカリされるとは思わなかったな。まだまだ私も考えが浅いようだ」


 いえそんな。見慣れないだけで、獣人でも人でもヒュー様に変わりはない。どちらも大好きになる自信はある。でもこの状況では恥ずかしすぎて、とても言えない。ソワソワするばかりだ。



「まあ、急ぐこともない。時間はいくらでもある。共に真実の愛を探求しよう」


 輝くような笑顔を向けられて頭が真っ白になった私は。


「はい、お役にたてるよう誠心誠意努めます。共に頑張りましょう」


 などと言って、今までにないほどヒュー様を大笑いさせたのだった。



お読みくださりありがとうございました。

お楽しみ頂けましたでしょうか。


いいね・ブックマーク・評価など頂けますと、今後も童話ものを書こうという励みになります。


「シンデレラ」も別に2話あります。

またお目にかかれますように☆

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― 新着の感想 ―
[一言] モチーフの話を良い意味で裏切る、ほっこりとした素敵な物語ですね! 作品群に埋もれたままなのは勿体無いので、出来るだけ目にして読んでいただく機会が少しでも増えればと思い、レビューを書かせてい…
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