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1・美女と迷惑な父

小田版 美女と野獣 です

お気楽にどうぞ

 いたたまれない。

見おろす目の冷たさよ。というより呆れ?

お父さん、逃げたい一心で話を盛りに盛ったのでしょう?


「私には娘が三人おりまして。中でも末娘は皆から『美しい娘』と呼ばれております」

とかなんとか。


 でもそれ、鉄板の笑い話でしたよね?

村の人は皆さん、私の顔を知っているから笑ってくれますけど、見たことなければ普通に信じますよね?


「臆面もなく親がそこまで言うからには、驚くほど美しい娘に違いない」と。



 目の前にいる、幻想物語でしか知らない「獣人」が放った一言は。


「そなたが『美しい娘』だと……?」


「ほんとに、もう、なんと言いますか。『美女』が私ですみません!! お許しください、ヒュー様」


 私は、床につかんばかりに膝を折り、頭を垂れた。

頭上から深い深い、それは深いため息が聞こえた。






 ことの起こりは。

父ひとりで長旅からの帰り道。天候が荒れて、森のなかで見つけたお屋敷に勝手に侵入したことだ。


 扉が施錠されていなかったからといって、人のお宅に踏み入る父が悪いのは、誰が見ても明らかだ。

 常識的な人なら雨宿りの出来る場所で、ひっそりと雨を避けるものだ。


 しかし父は娘の私から見ても非常識な男だ。欲望に忠実と言ってもいい。

 テーブルの上にご馳走が並んでいたからと、館の主に断りもなく手をつけたのは、愚かの極み。


「ヘンゼルとグレーテル」の絵本を私達姉妹に買い与えたのは、他ならぬ父なのに。


 お前が読めと言いたい。人様の食料に手をつけたら相応の報いがあると、はっきり書いてあるのに。


え? そういうお話じゃありません?







「繰り返しになり大変恐縮だが、そなたが『美しい娘』というのは……」


 私のような小娘にさえ、礼儀正しく丁寧に尋ねて下さる高貴な獣姿のヒュー様は、とても誠実な方なのだろう――父と違って。


 だって私はヒュー様が獣人だとは、一言も聞かされていない。あえて言わなかったのだろう、あの父のやりそうなことだ。


心ある対応には、私も誠心誠意お応えする。


「私の名はベルと申します。ご承知のように、ベルという言葉は『美しい』という意味でございます」


 聞かれていないが補足しておく。

「姉はディアナ、身のほどをわきまえず月の女神の名を頂戴しております。もうひとりの姉はフローラと申しまして――」


察しのよいヒュー様が後をもらってくれる。

「春の女神だな」

どこか感心したような雰囲気を漂わせる。


 三人揃って見事に名前負けしていると、もう分かってしまったのだろうか。なんてお早い。



「はい。ちなみに姉達が美人かと言いますと、父の顔はご覧のとおりで、母も村一番の美女という訳ではもちろんございませんでしたので」


 推して知るべし。三姉妹と言えば上には「美人」と付けるのはお約束。

 そしてこの神々しいまでの名を私達が持てば、父お気に入りの外さない笑い話の出来上がりだった。







 獣人ヒュー様はたいへんに正直かつ紳士的な方で、落胆は隠せないながらも「立ち話もなんだからお茶でも飲みながら話そう」とお誘い下さった。


 彼がすっと手をかざせば、あら不思議。そこにお茶とお菓子が。

 聞けばこの屋敷の室温調整から温室管理、食事やお茶に至るまですべてヒュー様の魔力でまかなっているらしい。


早々にこれも謝罪しなければ。

「父がお宅さまの薔薇の花を盗んだそうで、重ね重ねお詫び申し上げます」



 そう、私の父は「娘の土産がない」などと普段は気にもしない事を急に思い出し、人様のお庭から薔薇の花まで盗んだのだ。


 ヒュー様が穏やかに遮る。

「いや、手折る前に私が止めた。ただしくは盗難未遂だ。あの一本は約束を忘れないようにと持たせたものだ」


「では、父が犯罪者になるところをお救いくださいまして、お礼を申し上げます」


「そう『申し上げ』てくれずともよい。父の罪は娘の罪ではないだろう。――そなたは、謝り慣れているようだが……」


 少し会話しただけなのにヒュー様は、本当に察しがよい。頭脳明晰でいらっしゃるのだろう。


「はい。姉ふたりも、父と似た性格でございまして」

「苦労したのだな」


 ねぎらいの言葉まで掛けてくださる。

ええ、それはもう。とは、視線にこめるだけに留める。語れば身内の恥をさらすだけ。



「あの、ヒュー様。父は、あと何をしでかしたのでしょうか」


 あの父がしたことの全てを私に話したとは、とても思えない。本当に都合の悪いことは隠すのだ、それが父。


「家宅侵入と無断飲食と窃盗未遂の他にか?」

面白そうに続ける。

「身売りだ」


それはもしや。私が父から聞いた話はこうだ。


「父さんの食べちゃった分を労働で返すことになったから、それだけ分を働いてきてくれないかな? ほら家事は父さん全然だろ、余計にご迷惑をおかけすると思うんだ。旦那様は見た目は他の方より少しイカツイけど、お前なら上手くやれるよ」


一字一句を正確に思い返す私に、ヒュー様が教えてくださる。


「『勝手な振る舞いをしたのは許したが、薔薇までは許さん。お前はどうやって詫びるつもりだ?』と聞いた」


「別にこれという考えがあったわけではないが、慌てぶりが面白くて」とおっしゃる。

 ヒュー様は父を懲らしめて下さるおつもりだったのに。


 父は余計な事を言い出した。調子良くどこまでも人任せ、それが私の父。


「そなたの父は言った。『家には女神が二人と美しい娘がひとりおります。お宅様へ出仕させましょう。永久貸し出しです』――と」



 永久――だと? あの男どうしてくれよう。目の前が赤く見えるほどに腹が立つ。

詫びを自分でせずに、娘に押し付けるとは。


ヒュー様もヒュー様だ、もっと怒ればいいのに。


「長くひとりでいて、久しぶりの迷子に『おもしろい男だ』と思ってな」


 そう、そうやって村の男共も父を甘やかすから、あんな迷惑な男になったのだ。あれは、おもしろいんじゃない、どうしようもなく無責任なお調子者というのだ。








 お仕えする、つまりここで働くつもりで来たけれど、ヒュー様はお一人ですべて完結することのできる有能な方だった。


 食事の支度も必要なく。出して頂いたお料理は、私には味付けの見当もつかない美味しいものばかり。


お掃除も。うちよりよほど行き届いている。


 着替えも何もかも「ヒュー様お願いします」と言えば済む。仕組みは分からないけれど、支障は全くない。


 初めてお館に入るときも、森で「ヒュー様、お邪魔します」と呼びかければいいと父に教えられて、あの父の言うことだから、半信半疑と言うより「全疑」もしくは「完全不信」とでも表したい気持ちだったけれど、瞬時に館の前にいた。



 これでは私が楽をする為に来ているようなもので。ヒュー様に何の得が?

考えるより本人に聞く方が早い。


 お茶から夕食の時間、続けて食後のお茶まで話し込んだついでに尋ねる。


「どうして、泥棒の娘などお召しになったのですか?」

「父親を泥棒などと言うべきではないぞ」


 たしなめる獣人ヒュー様は、人の私よりもよほど出来たお人だった。



お読みくださりありがとうございます。


ほかに、小田版シンデレラ「シンデレラの当て馬姫は宰相の息子に翻弄される」を投稿しております。

童話好きの方、よろしければこちらもぜひ。


いいね・ブックマーク・評価など、いただけますと幸いです。

続きもどうかお楽しみ頂けますように☆

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