タイム・パラドックス?
ああ、またもや変なシリーズの一話目ができてしまった・・・
ホラーになるはずの話が、どうしてこんな!?
儂の名は 松ヶ戸 際江州
儂、どんな研究も成し遂げると、天に誓った不言実行の男じゃ。
今日も、タイム・パラドックスの実験をしようと、小さなタイムマシンを開発する。
「助手よ、こいつをコントロールして、過去の人物をランダムで殺してみるのじゃ。そして、現在が、どう変わるのか詳細に記録をとる。時間が変われば世界が変わるという理論もあるんで、そいつを無効化するため、儂らとは全く関係ない、記録専用機器を、こことは違う亜空間に設置し、この世界、この場所の特定時間帯を全て記録せよと厳命しておる。これで多元世界も干渉できまいて」
助手が、ため息をつきながらも、ハイと返答する。
「わかりました、博士。でも、いいんですか?過去での人殺しなんて、これが上にバレたら、学会追放じゃ済まないですよ?」
「なんじゃと?助手よ、そんな事は気にせずとも良い。儂らが、その時間に、そこにいるわけではない。完全に事故じゃよ、事故」
はぁ……
もう一度、助手はため息をつきながらも、小さなタイムマシンの電源を入れる。
ヒューン……甲高い音を立てながら、小さなタイムマシンは薄ぼんやりと消えていく。
「博士、あとは自動で全てタイムマシン任せです。任務が終わったら、自動で戻ってくる様になってます。戻ってくるのは、10分後ですね。ちょっと、温かいコーヒーでも買ってきますね」
助手が出ていって……
すぐに戻ってきおった。
「どうした?まだタイムマシンは戻ってこんぞ」
助手は、いつもと違う声で、
「博士、この実験で、変わってしまう未来の運命というものを考えましたか?」
何を言い出すのか、こいつは。
「助手よ、そんなことは考えんでも良いじゃろ。儂らのすぐ前の過去でランダムに人が殺されようと、そんなもの、遠い未来では時間の整流作用で。なるようになるはずじゃよ。極端に違った未来にはならんと思うぞ」
答えを教えてやると、助手が、
「それはそうでしょう、遠い未来なら。でも、近未来では?この、殺される人物が時間の根幹に関わるような重要人物だったらどうします?近未来、その後の未来、全て最悪の方向に変わってしまうかも知れませんよ?」
「お前、何を考えとる?もしや、実験を邪魔するようにと誰かに言い含められてきたか!」
「いいえ、そんな事はしませんよ、松ヶ戸博士。あなたの実験と理論、レポートは、歴史と時間の流れにガッチリと食い込みすぎてて修正のしようがありませんので。私が干渉できるのは、このくらいです。これなら、近未来も、その後の未来も、大きく変わること無く続いていきますので……忠告はしますよ、あまりにやりすぎると、歴史や時間の反動を食らうことになります」
ちょっと目を離した隙に、助手がいなくなっておった。
数分後、
「博士、すいません。どこの店も、博士の好物の「ブラックココア」が売り切れでして。ただ、一軒だけ、ホットチョコレートが売られてたんで買ってきました」
儂は、何やっとるんじゃ?
と思いながら、それを受取り、一口……
「ブハァ!なんじゃこいつは!ブラックコーヒーにココアを混ぜたものではないか!こんなもの、いらん!」
「そうですか?そこまで変な味だとは……コクコク……ブッハ!酷い味!こんなの売っちゃ駄目でしょうが!」
そんな事をやっていると、小さなタイムマシンが戻ってきた。
どれどれ……
どんなデータが取れているのか、確認せねば。
全てのデータを確認するのに、3日かかった……
小さなタイムマシンが狙ったのは、とある商店の配達車。
人間の犠牲者を期待していたのじゃが、残念。
まあ、これでも未来への影響は出るじゃろ。
全てのデータの計算が終了するのに、また3日かかった。
あの破壊された配達車には、各コーヒーショップや販売店へ配達する予定のココア10袋が積まれていた。
運の悪いことに、ここいら周辺のコーヒーショップや販売店は、全て、その個人商店が卸元となっていたとのこと。
おかげで、儂らは気分転換にと買ってきた飲み物を吹き出してしまったわけじゃ。
ちなみに、助手に、数十秒で戻ってきた理由を聞いたが、そんなに早く戻れるわけがないと言われた。
あっちこっちの店でココアが売り切れだったため、走りまわったとのこと。
それでは、ありゃ誰じゃ?
助手より賢い点もあったようじゃが……
それと、亜空間に置いた記録装置類を取り出し、こっちの記録と比べると……
記録の結果は、どちらも同じ。
ただし、亜空間の方では、儂が応対した「もう一人の助手」は記録されておらん。
こちらでは、数十秒の間のみ、影のように写っておった。
「そうか、因果の法則で、この実験結果を入れ替えよったな。儂らに関係ないものや人物にターゲットするはずが、儂らに深く関わるものにターゲットを移しおったわけじゃな」
そう呟く儂の横では、わけが分からず、影のような人物の映像に怯える助手がいるのだった。