向日葵の生えたベンチで
「暑いな・・・」
夏のある休日、体にまとわりつくような熱気と湿気にうんざりとしながら街中を歩き、やがて近場の公園に行きつき、そこにあるベンチに腰掛けた。後ろには向日葵が生えていた。こうしていると昔を思い出す。
もう10年前になるだろうか。高校一年生だった俺は、ある女子に惚れていた。まるで太陽のように朗らかに笑う人だった。そんな彼女に惹かれ、ある夏の日、この公園のような向日葵の生えたベンチで、
「俺と、付き合ってくれ」
と告白した。彼女はただ一言、
「はい」
と、あの太陽のような笑みで返事をした。後ろの向日葵も祝福してくれている・・・そう感じた。
それから嵐のように色々な出来事が過ぎた。楽しいことも喧嘩することもあった。そして、高校三年生になり、もう向日葵も枯れた頃。ある悲劇が起こった。彼女が・・・事故死した。あまりにも唐突な出来事に俺の頭は追いつかなくて、葬式に行ってようやく、彼女には二度と会えないのだと心の底から理解した。
それから、俺は恋愛をすることもなく、ただ仕事に追われる生活をしていた。まるで、あの悲しみから逃げるように。再び恋人を失うことを招かないようにするかのように。その度、自覚する。己はいかに惰弱であるかを、勇気を持たぬ臆病者であることを。そして、その現実から目を背け、逃げる。自分の悪い癖だと分かっていながら、それが治せないまま今ここにいる。
「はぁ・・・。嫌なことを思い出した」
そう口に出した時だった。
「どうかしたんですか?」
女性の声がした。ふとその方に目をやると、俺は驚愕した。
「ふふっ。目を丸くしてどうしたんです?」
あの子のように、太陽のように綺麗に笑う女性が、目の前にいた。あまりにも偶然、ありえないことだと何度も思ったが、それでも心の奥底ではこれが必然の出会いなのだと告げている。
「ラムネあるんですけど、一緒に飲みませんか?」
「ええ、構いませんが・・・。どうして?」
「汗をかなりかいているようでしたし・・・それにあなたの会社の違う部署にいるので、会社で見かけたことが何度かあったんです。それで気になって」
あの出来事の再来なんだろうか。そう思うことしか、俺には出来なかった。
そこから、同じ会社ということもあって、ラムネを飲みながら色々語らいあった。趣味や会社のことなど、本当に多くのことを話すうちに意気投合していき、休日には頻繁に会うようになった。また、会社でも休憩時間が重なった時には社内でも話すようになった。
そして、一年が過ぎ、同じような夏の日にあの向日葵の生えたベンチで俺は彼女に告白し、付き合い始めた。
さらに、数年が過ぎた頃ー。
「パパー!抱っこしてー!」
「こーら、日向~。パパのところに行く前に手を洗うのよ~」
彼女と結婚し、家を買い、更には娘も出来て、幸せな家庭を築いている。
庭には、向日葵が揺れていたー。




