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言葉が足りなかった話



 ブックマーク100件突破、ありがとうございます。


 

 




 目が覚めると、城のいつものベッドだった。

 窓から射しこんだ光が眩しい。


「……こ、こ……は?」


 上体を起こすが、頭が上手く回らない。

 だが、突如として頭の中で記憶がフラッシュバックする。

 暗い地下室で拘束されて、刺されて、焼かれた、あの記憶だ。

 瞬時に恐怖が蘇る。身体が震え始め、呼吸が荒くなる。


「ぁ……あ、……ぁ……ぁ」


 これまでの人生で受けたことのない苦痛を浴びせられたからきっと混乱していたのだろう。

 カタカタと肩を震わせながら両腕で自分を抱き締めて、そこでようやく、自分の手が自由に動くことに気付いた。

 魔法殺しと呼ばれていた首輪も、足錠も外されている。

 そこでようやく頭が覚醒した。


「……とー、や」


 そうだ、俺は親友に助けられたのだ。

 もう駄目だと思った瞬間、硝子を粉砕しながら現れて。

 抱き起こされて、顔が見えて、それがトーヤだと分かった時に本当に安心した。

 あんまりに都合が良いタイミングで、正直幻覚でも見てるのかと思っていたが、あれは現実だったのだろうか。

 首をひねる。


「……あれは、現実?」


 考えてみるが、少なくとも今、確かに俺は生きていた。

 だとすればあれはやはり現実だったということなのだろう。

 曖昧な記憶を思い返す。

 確か……トーヤに助けられて安心したことで緊張の糸が切れてしまって、脱力したのを確かに覚えている。

 そしてそのあとーーーー、


「えっ」


 おかしい。何故だろうか? 

 記憶の中で、微かにトーヤにキスされたような記憶がある。


「まって、おかしい」


 こんなことはあり得ない。

 意味不明だ。何でこんな記憶があるのかさっぱり分からないし、あいつはそんなこと絶対しない。

 だって、おかしいじゃないか。

 そう思うが、記憶は確かにあった。

 トーヤの顔が近づいてきて、俺の口にーーーー、


「…………、」


 いや、さすがに、ねえ? 見た目はどうあれ中身は男だし、あいつもそれを分かってるだろうから流石にこれは幻覚だと思う。

 だって、あり得ねえ。あいつはそういう奴じゃない。

 仮に俺を女として意識してたとしても、あの状況の傷ついた少女から唇奪うか? いーや絶対にないね。賭けたって良い。親友として、あいつに詳しい者として断言する。

 そもそもそんなことする奴ならとっくに彼女作ってるだろうし。

 間違いなく幻覚、のはずだ。

 でも、そうだとしたら疑問が一つ。

 あれが幻覚なら、それはすなわち。


「……俺が、無意識にトーヤとキスしたがっている、と?」


 いやいやいやねーよ。

 何が悲しくて男とキスする幻覚みたいなんて思うのさ。

 それよりも可愛い女の子とキスしたいよ!

 そもそもあんな極限状態だぞ! 明らかにそれどころじゃないだろ。

 そりゃあ、抱き起こされた時に心から安心したけども。

 絶体絶命の時に駆け付けてきた姿は物語の主人公みたいでかっこよかったけども。


「…………、」


 無意識にくちびるを撫でる。

 記憶に残る感触とは違う気がした。

 ふと、メス堕ちという言葉が頭をよぎる。

 即座に首を横に振った。


「……いやいやいや、無いって。いくらなんでも早いって」


 あの幻覚は、あれだ。単に変な夢を見ただけだ。

 いくらなんでも男捨てるには早すぎるわ。

 明らかにヒロインポジションみたいなことされたけど、あれは言わば命の危機なわけで、ノーカンだよノーカン。

 まだ恋愛対象は女の子だって。

 はい、この話は終わり! 問題無し!

 そんなことを考えていると、ふと扉が開く。


「……っ!?」


 直前までアホなことを考えていた俺は、一瞬で思考が飛んだ。

 表情がこわばる。何故だか身体が震え始めた。

 心臓がトクトクとはやりだす。視線が入り口に釘付けになる。

 あれ、おかしいな。そう思うが、身体が思うように動かない。

 扉が開く。


「……新しいタオルに交換して、そのあとはーーーー」


 扉の向こうには、何枚かのタオルを持ったサイカが立っていた。

 ベッドの上で上体を起こしている俺を見て、動きが止まる。

 彼女は、ポツリと呟いた。


「ユクモ、ちゃん?」


 彼女の手からばさばさーっとタオルが落ちる。

 そのまま、ふらふらと近づいてきて俺の元までやってきた彼女は、俺の手を取った。


「ユクモちゃん! 起きたんですね。良かった……本当に良かった」

「ーーーー」


 心から心配したような顔が視界に映る。

 言葉の抑揚や感情からそれが本当なのだと伝わってきた。

 だが、俺は反応出来なかった。

 なぜか、視界が定まらない。意識が薄くなる。呼吸が上手くできない。身体の震えが止まらない。


「あ、れ……?」


 おかしい。

 サイカだぞ。三人娘でも特に丁寧口調で親切な子だ。

 俺は彼女が良い人だと良く知っているんだ。

 なのに。

 なのに、どうして、俺はこんなに怖いと感じるんだ?


「ぁ……ぁ……あ」

「ユ、クモちゃん……?」


 落ち着け、落ち着け。

 自分自身に言い聞かせるように心の中で呟くが、まるで効果が無い。

 こわい、こわいこわいこわい。

 涙が溢れる、感情が抑えられない。考えることができなくなる。

 

「ーーーー」

「お、おちついて、ユクモちゃん! ここは大丈夫、大丈夫だから……!」


 サイカの言葉が上手く聞き取れない。

 それ以上に、心から溢れ出す感情に意志が押し流される。

 記憶がフラッシュバックする。

 確か、このくらいの近さだ。無理やり身体を押さえつけられて、貫かれた腹を焼かれたのは。

 違うと分かっている。犯人とサイカは違う。

 そもそも性別すら違うし、雰囲気だって全く違う。

 そのはずなのに、その瞬間、思考が消えた。





 


 その光景をサイカは信じられない気持ちで眺めていた。

 誘拐事件に巻き込まれ、トーヤによって助け出されたユクモが眠り続けること三日。

 この三日間は、後悔ばかりであった。

 連れ出したのは自分だったのに、何で目を離してしまったのか。

 ちゃんと見てさえいれば、こんな目に遭わずに済んだのに。

 トーヤの手で運ばれてきた少女を見た時も生きた心地がしなかった。

 着ていた修道服が血まみれで、その身体も血と埃と汚れに塗れていたのだ。

 ……私のせいだ、そう思った。

 出かけようと声を掛けた発端は自分なのだから、自分に責任がある。

 だから意識の戻らない彼女の世話役に立候補した。

 悪いことをしてしまった。危うく死ぬところだったのだ。許されなくても良い、起きた時に謝ろう、心から謝ろう。

 絶対に彼女を元気にするのだ、そう思っていた。

 だから今日、ユクモが目を覚ましていたのを見た瞬間、タオルが落ちるのも気にせず彼女の元に駆け寄って。

 そして、それを最初に見てしまった。

 

「……ぁ、あぁ……! ごめっ、ごめんなさい!」

「!」


 様子がおかしい。

 明らかに異常なほど怯え始めた少女は、絶望した顔で涙を流し始めた。


「……おねがいします、もうやかないでください、たすけてください、ゆるしてください、もういたいのはいやです……おねがいします、ころさないでください」


 視界が定まっていなかった。

 少女の瞳から涙が流れる。それは命乞いだった。

 彼女は震えながら、壊れたように、命乞いをしていた。

 その光景を、信じられない気持ちでサイカは眺める。

 ハッ、と気づいて声を掛けた。


「お、おちついて、ユクモちゃん! ここは大丈夫、大丈夫だから……!」

「ぁ……ぁ……ゆるして、ゆるしてえっ! おねがいします! おねがいします……」


 名前を呼ぶが、反応はない。

 何か、見えちゃいけないものが見えているかのように、怯えている。

 その様子を見て確信した。

 

「PTSD……」


 心的外傷後ストレス障害。

 死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見てしまう心の病だ。

 先程の話を聞くに、よほど酷い目に遭ったのだろう。

 トーヤは詳しく教えてくれなかったが、ユクモの先程の口ぶりと、血まみれの修道服に焼き焦げた痕があったことから察するに、刃物らしきもので刺されたり、傷口を燃やされたり、きっとそれはトラウマが刻まれるには十分すぎたのだ。

 

「…………っ!」


 思わず歯噛みする。

 自分が外に連れ出した結果がこれだ。

 トラウマを刻まれた少女を見て、サイカは自分自身に怒りを感じた。

 それを呑み込んで、サイカはギュッと少女を抱きしめる。


「ーーーー!」

「……だいじょうぶ、だいじょうぶですよ」


 背中をさする。

 優しく抱擁して、耳元で囁きながら、そっと撫でる。


「……ここに、ユクモちゃんを傷付ける人はいません。だから、落ち着いて」

「ーーーーーー」


 それは小さな子供をなだめる母のような姿だった。

 優しい声色で声を掛けながら、その豊かな胸で抱きしめる。

 彼女の白い髪の毛を撫ぜながら、ゆっくりと。


「ごめんなさい、ユクモちゃん。これは私のせいです。だから、ユクモちゃんが治るまで私が付き添います。今度は、目を離しませんから」

「ーーーー」


 ギュッと抱きしめたままサイカは言う。


「だから、落ち着いてください。だいじょうぶ、だいじょうぶです」

「……」


 そのまま根気強く宥め続けているとユクモも落ち着いてきたようだ。

 泣き喚いていたのが、段々と収まり、やがて何も言わなくなる。

 そのまま更に優しく撫で続けていると、すぅすぅと寝息が聞こえ始めた。

 起こさないよう、そっとベッドに寝かせてサイカは立ち上がる。

 そして、落としたタオルを拾い集め、静かに部屋を後にした。









「……死にたい」


 人生で一番死にたいと思ったランキングがあるなら、多分これは一番の出来事かもしれない。

 気がつくと同級生(女)のおっぱいに顔をうずめていて、挙句あやされて、そのまま寝てしまった。

 何を言ってるが分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった。

 頭がどうにかなりそうだった。直前まで耐え難いほどの恐怖やら何やらを感じていたのが、催眠術か何かのように超スピードで落ちつかされて、寝落ちさせられた。

 ……もっと恐ろしい、全てを包み込むような母性を味わったぜ。

 脳内でコミカルに呟きつつ、目覚めた俺は両手で自分の顔を覆った。


「……同級生の女におぎゃった挙句、あやされて、寝かされた」


 最悪だ。

 俺は次からどんな顔してサイカに会えばいいというのか。

 羞恥で顔が真っ赤になる。

 いや、もう本当に死にたい。誰か俺を殺してくれ。痛くない方法で。

 そもそもおかしいよ。

 だって頭の中は冷静な筈なのに、何故か身体が勝手に震え出すし、気がつくと意識が飛んでるし。そのくせ、何があったかはぼんやり覚えてるし。

 もうほんとにつらい。

 ふと、横合いに座る男の方を見て尋ねる。


「……ねえ、トーヤ。どうすれば良いと思う?」

「……それを何故俺に相談するんだ?」


 頭の痛そうな顔だった。

 まるで阿呆でも見るかのような顔で俺を見つめている。

 目覚めた時に、部屋の外にいる使用人の人にお願いしてトーヤを呼んで貰ったのだ。

 理由は二つある。

 一つ目は今している相談。同級生の乳に顔うずめた挙句、あやされて寝てしまった一件を経て、次からどんな顔で会えば良いのかという相談だ。

 どうして相談するかって、そりゃあ……。


「だって、こんなの女の子に相談出来るかよ」


 本音を口にするとトーヤは呆れた顔をした。

 溜息を吐いて彼は言う。


「……ハァ、気にせず普通の顔で会え、そもそも見た目だけを考えれば、優しいお姉さんに甘える小さな女の子だ。何も問題ないだろう」

「そんな割り切れるなら最初から相談なんてしないよ……中身を考えてよ中身を」


 くそっ、使えねえ。こいつ人の心全然理解してくれない。

 あぁもう、この話は良いや。所詮前座だ。

 ボヤくように呟いて、溜息を吐く。


「……分かったよ、相談は良いから、一個頼みがある」

「なんだ?」


 そして一つ目の相談を放り投げて本題に移ることにした。

 というのも内容は簡単である。実験がしたいのだ。

 さっきの、サイカに近寄られただけで半狂乱になってしまうなんて明らかにおかしかった。

 急に恐怖を感じて、感情が制御出来なくなって、意識が飛ぶなんて明らかに正常な状態からは考えられないのだ。

 多分だが、誘拐事件でトラウマが刻まれてしまったのではないだろうか? 

 それも、犯人とは似ても似つかない女の子ですら駄目だった事実を考えると、かなり重い症状を患ってしまったかもしれない。

 その実験のためにトーヤを呼んだのである。

 何せ、犯人と条件が近いのだ。男だし、身長も近いし、体格も似ている。

 実際、普通に話しているように見えるかもしれないが、少し怖い。多分だが、彼でも駄目なのだ。

 何がトリガーで半狂乱になるか分からないのは、日常生活で不便極まりない。というか他の人からしたら大迷惑だと俺は思う。ドン引きされてもおかしくない。

 

「えっと、その……」


 まとめると、俺が半狂乱になるトリガー。

 どういった条件でトラウマが再起するのかを知っておきたかった。

 恐怖をどうにか抑え込んで、お願いを口にする。


「ーーーーおれを、押し倒してほしい」



 







 その言葉を聞いた瞬間、親友の頭がおかしくなったのではないかとトーヤは思った。

 だって、全くもって意味不明だったからだ。

 彼は見た目こそ女の子になってしまったけれど、まだ心は男のはずだ。

 それの何がどうなって、押し倒してほしいなんて口にしたのか。

 頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする。

 

「どういう意味だ?」

「……その、さ。あの事件の後からなんだけど、人が怖いんだ」

「怖い?」

 

 人が怖い? これまた意味不明な言葉だった。

 どういうことかとユクモを見つめて、ふとトーヤは気付く。

 ……震えていた。カタカタと、僅かにだが親友の身体が震えていた。


「さっきの、サイカ相手にあやされたって話だけど。あれも元はそれが発端でさ……人に近付かれただけで、怖くて、震えが止まらないんだ」


 ポツリ、ポツリと言いづらそうにユクモは語る。

 その表情は、恐怖に怯えていた。


「違うって分かってるのに、頭の中にフラッシュバックするんだ。暗闇の中で、貫かれた腹を焼かれる記憶が。そうなると、もう駄目でさ。気が付いたら半狂乱になって……ごめんなさいって、叫んでるんだ。ただでさえ養ってもらってるのに、そんなやつ迷惑だろ?」


 そこまで言い切って、親友は怯えた瞳で、無理やり笑みを浮かべた。

 身長が高いトーヤを見上げるように、上目遣いで言う。


「ーーーーだから、頼むよ。おれを、押し倒してくれ」


 それは。

 それは、到底認められることではなかった。

 この阿呆な親友は、前々から何を考えているのかさっぱり分からない瞬間が稀にあったが、今回は欠片も理解出来ない。

 トーヤは怒りを覚えたが、それを顔には出さず、ただ両手で親友の肩を掴む。

 びくりと震えた。抱き上げた時にも感じていたが、細い身体だ。

 ちょっとこづいただけで大怪我してしまいそうなほど、線が薄い。本人は貧弱な身体という言葉をよく使っていたが、まさにその言葉がピッタリ合う細さだった。

 トーヤは問いかける。


「……本気で言ってるのか?」

「……あぁ、お前なら、お前になら良いと思ったから」


 嘘だ、トーヤはそう思った。

 何故ならさっきからユクモはずっと震えているのだ。

 到底、覚悟した姿には見えなかった。

 恐らく、この行動はこれは自暴自棄に近い代物なのだろう。

 そうでなければこの親友が、抱いてくれなんて言うわけがない。

 何せあんなに常日頃から彼女を欲していたヤツだ。助け出した時に相当な拷問を受けたことが分かったが、どうやらそれは親友の矜持だけでなく、心をも壊してしまったらしい。

 ふと、彼がいつだか言っていた言葉を思い出す。

 ーーーー貸し借りは無しだぜ。対等じゃなきゃただの寄生だ。俺はお前の友達でいたいんだ。

 前世で、トーヤの家は昔から裕福だった。だから、周囲に集まる人間はいつだって家の金や、トーヤ自身の才能や容姿をステータスとして見ていたのだが、彼だけはずっと一貫していた。

 彼の家は貧乏で、時にはバイトに明け暮れる時期もあったが、それでも一度たりとも金の気配を出さずに、ただただ友達でいることを一番に考えていたのだ。


「ーーーー、」


 そんなユクモの性格を考えると、思いつくのは一つ。

 きっと、この阿呆は知らない異世界で養われ続けているのを貸しと感じているのだ。トーヤにそんなつもりは全くないのに。

 でもそれだけならまだ良かった。ユクモも、今は無理でもいずれは返せると考えていたのだろう。

 だが事情が変わったのだ。人を怖いと感じるようになったことで、まともに人に接することすらできなくなってしまったから。

 自分のことを負債だと認識しているのだ、この阿呆は。だから、身体で払おうとしているのだろうか。

 冷静にトーヤは分析する。

 溜息を吐きたいくらいの気持ちだった。ユクモに問いかける。


「……それでどうにかなると思っているのか?」

「……分からない。でも、他に方法が思い浮かばなかったんだ。それに押し倒すくらい簡単なんだから、良いだろ」

 

 良いわけがない。

 いい加減、親友が震えた様子で虚言を吐く姿は見たくなかった。

 トーヤは溜息を吐いて、デコピンする。

 こんっ! とユクモのおでこから良い音が鳴った。


「あぅっ!! ……な、なにするんだよ」

「……お前はもっと自分を大切にしろ。俺達はお前を迷惑になんか思っちゃいない。分かったら、もう阿呆なことを言うな」


 それだけ言ってトーヤは背を向けて部屋を出る。

 用事は済んだ。これ以上妄言は聞くつもりは無かった。

 言えるのは一つ。ユクモの心はかなり弱っているらしい。

 泣きそうな顔で懇願する少女の顔がフラッシュバックする。


「…………、」


 もしかしたら、三日間寝続けていたせいで食べ物を口にしていないのも原因かもしれない。

 お腹が空くと人は不安になりやすいものだ。

 何かお腹に優しいものを手配して食わせれば今よりは心も落ち着くだろう。

 少なくともあのまま部屋に残って、自暴自棄に任せた言葉を聞き続けるよりも、よっぽど建設的だ。

 そうトーヤは思った。

 




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