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一週間が過ぎていく話(前編)

 





 トーヤ自傷事件から数時間が経った。

 回復魔法を使って、かんっぺきに癒してやったし、後から「俺が悪かった、すまない」と本人の謝罪も貰ったから引きずるつもりはないけどさ。

 あの一件に関してはユクモさんはひじょーにおこである。

 もう少し自分を大事にするヤツだと思ってたんだけどなあ。全くもって理解できん。目の前で親友がリスカし出したらどう思うかくらい分かりそうなもんだが。

 だがいったんそれは置いておこう、今はそれどころではない。

 俺は今、三人の少女に囲まれているのだ。

 ーーーーそれも、俺は全裸で。


「……何これ、ウエスト細っそ」

「肌もっちもちで、髪の毛もサラサラですよ……」

「改めて見るとちんちくりんだけど、完全なロリじゃねー身体つきなの。腹立つの」

「……うう、服を返して」


 どうしてこうなったのかをまとめると。

 トーヤを治した後、女性陣に連れられて俺は服を買いに行くことになった。

 確かに、服といえば起きた時から着ていたシスターさんっぽい修道服しか持ってないし、これからの生活に必要なのは確かだと思う。

 それも現役の女の子三人が購入のサポートに付いてくれるのだから、「お願いします!」と飛びついたわけだ。

 ちなみにトーヤはやることがあるらしく別行動となった。

 そして初めて城の外に出たが、外の光景はそれはそれは西洋風ファンタジー。

 いわゆるドラ○エ的な雰囲気の王都で、思わず感動してしまったのだがこれは余談。

 そうして彼女達がよく来るらしいお店に到着した。

 その後、すぐさま試着室に連れ込まれ、無理やり服を剥ぎ取られた時の台詞がこれである。

 ちなみに試着室に入った途端言われたのが以下のセリフだ。


「じゃあ脱ぎなさい」

「えっ」

「時間がもったいないの、さっさと脱ぐの」


 言われた言葉に戸惑っている俺に業を煮やしたのか、気が付けば服が剥ぎ取られていた。

 しかもそのまま女性陣に全裸を見られるという羞恥プレイだ。

 力で奪い返そうにも三人ともやたら力が強いし!

 きっとこの世界での生活で鍛えられたのだろうけど。

 俺は泣いた。ポロポロと泣いた。

 三人は至極普通の表情で言う。


「あはは、ごめんなさい。いじわるしたいわけじゃないんです。下着も買わないといけませんから、採寸しようと思って」

「ほら、座ってないでちゃんと立つの。じゃないと測れないの」

「……ま、諦めなさい。同性になったんだから気にしないの」


 いや、気にしないのって言われても。

 むしろ三人は何でそんな抵抗ないのさっ! 

 何なの? 俺がおかしいの? もしかして俺が知らないだけで女の子って服買う前に全裸で採寸してんの?

 ……分からん。

 とはいえ俺にはなす術がない。相手は三人もいて、しかも力も相手が上で、服まで剥ぎ取られた以上素直に要求に従うしかなかった。

 ばんざいするように言われて、その通りにするとサイカにメジャーを当てられて、サイズを測られる。

 というか女になってから自分の身体を初めて見たけど、少しだけ胸の膨らみがあった。

 身長的に無乳だと思ってたわ。神様のこだわりか何かか? それならその少しの胸の分をマイサンにしてくれれば良かったのに。

 そんなことを考えていると採寸は終わったらしい。

 んー、と悩みながらルカが言う。


「一応、ブラジャーも買っておいた方が良さそうね」

「サイズも分かりましたし、これで迷いなく買えますね。あ、もう服を着ても良いですよ」

「ほら、解放してやるの。さっさと着るの」


 やっと羞恥プレイが終わるらしい。

 渡された修道服にいそいそ着替える。これで落ち着いた。

 そして試着室を出て、合っているサイズの下着をまとめ買いする。

 ……その、女の子の下着だと思うと何というか、これから気合入れて女装するかのような妙な気恥ずかしさがあったが、強く意志を持って買った。

 デザインは興味ないのでシンプルな白いやつをいっぱい。

 あとは私服をいくつか、とにかくこれで衣類の問題は解決した。


 城に帰るとトーヤが出迎えてくれて、皆で夕飯を食べた。

 パンと肉が中心の料理だった。

 異世界の食事は割と現実と大差ない見た目だったが、美味しかった。

 その後、もともと俺が寝かされていた部屋に案内されてしばらくこの部屋を使っていいよとのご連絡を使用人の人に頂いた。

 人生に必要最低限の物として衣食住があると思うが、食と住を提供して貰えるのは素直に助かる。

 その日の夜は王様に感謝しながら眠りについた。





 異世界に来てから二日目。

 パン中心の朝ごはんを食べたあとにトーヤに呼び出された俺は訓練場へ駆り出された。

 どういうことか尋ねると俺の戦闘適性を測りたいらしい。


「……俺たちは王家から支援を貰い、魔物と戦っている。ユクモもいずれ参加してもらうが、その前に適性を調べるぞ」


 そう言うトーヤの横には大量の武器が並べられていた。

 この時は異世界っぽいのきたー! とワクワクしていたが、俺は悲しい事実を突きつけられた。


「……重っ! 何これ、重い! ふぎ、ぐぐぐ!」


 まずは渡されたのは剣だ。

 シンプルなショートソード。いわゆる片手剣とも呼べる剣を渡されて、素振りをしてみろと言われたのだが、それ以前の問題だった。

 まずまともに持ち上がらない。

 どうにか構えるが重みに負けて、ふらふらと体勢が傾く。

 危ないと思われたのか、すぐさま取り上げられた。

 次に渡されたのが弓だ。

 こちらは小さいサイズのものは問題なく持てた。


「んぅ……っ! えいやっ!」


 時間をかけて、精一杯引き絞って放った弓は、パシュッと発射され、てんで的から外れた場所に突き刺さった。

 まぁ、狙いは良い。初めてなのだから外れるのが当然。

 それよりもちゃんと撃てたことが大事だろう。


「へっへーん、見たかトーヤ。これならいけそうだぞ!」

「……いや、まるで駄目だ」


 ちゃんと撃てたことが嬉しくて、ニコニコと伝えるとトーヤはため息を吐いた。

 まるで駄目って。そりゃあ一年も異世界で生き抜いてきたトーヤに比べたら下手かもしれないけどさあ。

 そう思っているとトーヤは無造作に俺から弓を奪った。

 そして、すぐさま構えると一瞬で引き絞り、放つ。

 ズバシュッ! と放たれた一撃が正確に的のど真ん中に突き刺さった。


「弓で重要なのは一発を撃つまでの時間と、エイム力。だがユクモの場合はそもそもの筋力が足りてないな」


 そう呟いて、トーヤは俺に言う。


「それに……使い方が危なっかしいし、見ていられん。武器を使う以前の問題だ。まずは基礎トレーニングに費やそう」

「……基礎トレーニング?」

「ランニングに始まり、腕立て腹筋、後は自衛用で短剣の使い方くらいは教えてやる。それ以上の武器は今のお前にはいらん」


 正面から断言された。

 その時はなにおう、と思っていたのだが。

 まずはランニングだ! と走り出したトーヤの後をついて行った俺はすぐに現実を思い知った。


「……ぜひゅっ、けほっ……こほっ……ぜー、……ぜぇ」

「おい、まだ準備運動のランニングだぞ」


 数分後。

 地面に倒れ込んだ俺は荒い呼吸をしていた。

 いや、ランニングを始めたのは良かったんだ。

 でも、トーヤのペースが思った以上に早くて、一キロ走り切るかどうかといったところで力尽きた。

 俺を見下ろすトーヤは息一つ切れてないどころか、殆ど汗すらかいていない様子で、倒れている俺を見てあり得ないものを見たかのような顔をしている。

 俺には分かる。これは嘘だろ? と心底驚いている顔だ。

 でも、まるで今の俺は余裕がないのだ!


「……おい、大丈夫か?」

「ごほっ、ごほっ……はー、はー……ぁ」


 どうやらこの身体は非常に貧弱らしい。

 返事すら出来なかった。死にそうな思いで息を吐いて、咳をする。

 何だか身体が苦しい。喉の奥でほのかに鉄の香りがする。

 し、しかしまだだ。まだ頑張れる。

 心臓が破裂しそうなくらいドクドクと鳴っているが、気合いでどうにか起き上がった。根性だ。


「……ぜぇ、ぜぇ……だ、だいじょ、ぶ」

「……全く説得力が無いんだが」

「うる、せえ。貧弱なら、鍛えるまで、だ」


 これは意地だ。

 ここでもう無理と甘えるのは簡単だけど、それじゃ対等じゃない。

 トーヤとは、親友とは対等でいたいのだ。

 一年、トーヤ達は一年この世界にいる。

 現状だって元の世界に帰れる見込みも何もない。

 だったら、俺だって早く戦力にならなくては。

 お城にだっていつまでも住まわせてもらえるわけではないだろうし、城を出たあとにただ養われるのはごめんだ。

 俺の表情からそれが伝わったのだろう、トーヤは頷いて手を差し出した。


「分かった、だが少しペースは落とそう。トレーニングはレベルに合わせて徐々に上げていくのが大事だからな」

「へ、へ……ありがと」


 お礼を言って、トーヤの手を取って立ち上がる。

 気合い! 根性! 情熱!

 身体はふらふらでも俺の心は熱く燃えていた。

 さぁ! ランニングの続きだっ!






「ーーーーあれ?」


 その後のことは覚えてない。

 気合いで食らいついていって、気がつくとベッドに寝かされていた。

 どうやら俺は倒れたらしい。

 近くの使用人の人たちが、勇者様が慌てた様子で抱えて来たと噂話しているのを聞いた。

 その後ルカ達がお見舞いに来てくれたが、何だか目つきが厳しかった。なぜだ。

 倒れたのが意外とおおごとになったのかその日は一日休むように言われた。

 





 異世界に来てから三日目。

 聖魔法の適性を持つ者は教会で洗礼の儀をしなければならないらしい。

 というわけでアークライト王国の教会に向かった。

 分かりやすい神官帽子を被った渋い神父さんが迎えにきてくれたので街中の移動も安心だ。

 そして教会についてから洗礼の儀について色々聞いてみた。

 洗礼の儀と言っても信徒にならないといけないわけではなく、聖魔法がちゃんと使えるかの確認と登録のために行なっているらしい。

 というのも聖魔法を使える人はかなりレアなんだとか。

 だけど怪我を癒す力を求める声は多く、需要と供給が見合っていないらしい。

 そこで国で聖魔法を使える人を管理しておいて、可能であれば教会に入り働いてもらったり、非常時など、いざという時に招集をかけられるように登録をしておいてるというわけだ。

 ちなみに教会入りする場合は神父さん曰く。


「教会に入る場合は、国教であるアーク信徒となったとみなされます。とはいえ聖魔法の使い手はあくまで回復を求められていますから、信仰はそこまで重要視されていません。実際、敬虔な者もいればとりあえず入ってるだけの人もいらっしゃいますね」


 とのこと。

 おいこの国、政教分離してないんかい、というツッコミは置いておいて。

 この一件については、聞いた感じデメリットは無さそうだが、日本人的な感覚として宗教ってあんまりピンとくるイメージが無かったのでいったんお断りした。

 いや、神様がいるのは知っているけどね。

 実際、女にされたとはいえ生き返らせてもらったわけだし。

 そして洗礼の儀を受けたのだが。


「ではあの女神像に向かってヒールを掛けて下さい」

「……女神像に、ヒールですか?」

「ええ、それで登録が出来ます」


 教会にあった大きな女神像。

 てっきりただの像だと思っていたが、ちゃんと意味があったようだ。

 よく分からないが、そういうものなのだろう。

 正しい作法を知らないのでせめてそれっぽくなるように、地面に膝をつく。

 そして、


「ーーーーヒール」


 目を閉じ、祈るように胸の前で手を合わせて、小さく呟くと魔法が発動した。

 トーヤの自傷事件の時は無我夢中だったが、今度はちゃんと自分の意思で制御しなくてはならない。

 身体の中の暖かい魔力の流れを動かして手のひらに集め、それを女神像に向けて解き放つ。

 しばらくそれを続けて、


「…………?」


 ここで疑問に思った。

 これ、いつまで続ければ良いんだろう? それなりに回復魔法を使ったら終わりです、とか言ってくれるものだと思っていたのだが。

 長いなぁ、と思いつつ仕方ないのでヒールを続ける。

 なんか膝も痺れてきた、それっぽさのために目を瞑ったせいで周囲の状況も分からんし失敗したわ。

 そして更に十数秒経った頃、神父さんからストップがかかった。


「……も、もう十分ですよ!」

「……はい」


 やっと終わりらしい。

 静かに目をひらく。数分は祈り続けてたんじゃなかろうか。

 痺れる膝に鞭を打ち、どうにか立ち上がると、女神像がさっきより輝いているような気がした。

 いや、うん、目の錯覚だけどね。

 ずっと目を瞑ってたから明るく見えてるだけなんだろうけど。

 ともあれ、これで洗礼の儀も終わった。





 異世界に来てから四日目。

 何故か教会から修道服が何着も届いた。

 俺が最初に着ていた白をベースにしたシスターさんの服ね。まぁ割と着やすい服装だし、シンプルめな装飾で気に入ってたので嬉しい限りだ。

 もしかしたらあれか? 非常時とかは聖魔法使いを呼び出すけど、代わりに色々特典付けてるから勘弁してね、ってやつなのか?

 まぁ俺、この世界に来てから完全に養ってもらってる立場だし、私服がわりにも使えるから本当に助かるやつだわ。

 仲間に服を買ってもらうって結構心苦しいからな。

 あと、未だにこの世界の常識を知らないし、そろそろ知識を得なければならないだろう。

 というわけで今日は座学だ。


「ではまず常識からいきましょう! まずはこれを見てください」


 講師役は丁寧口調系ガールの夢空彩華(ゆめぞらさいか)こと、サイカが務めてくれることになった。

 そんな彼女は俺に銅、銀、金のメダルのようなものを見せる。

 どうやら、これはお金らしい。

 それぞれ銅貨、銀貨、金貨だそうだ。

 ちなみに更に上に白金貨というものもあるのだとか。


「ちなみにこの世界の通貨は『G(ギル)』と言います。単位はこの銅貨1つで1G(ギル)ですね。銀貨は10G(ギル)、金貨は100G(ギル)、白金貨は10000G(ギル)となります」


 単位を聞いてみるとますますドラ○エ感があった。

 全部メダル型の通貨なので持ち歩く時はジャラジャラしそうだ。


「……持ち運ぶの不便じゃない?」

「はい、とっても不便です。そこでバンクという施設があります。いわゆる銀行ですね。バンクはどこの国でもある程度大きな街にはあってお金を1000G単位で預かってくれます。私たちも大半は預けてますね」

「……この世界、銀行あるの? というか統一通貨ってマジ?」

「……はい、驚くことに。ちなみに言語も全世界共通言語だそうですよ」

「……ウソでしょ」


 聞けば聞くほどご都合主義感満載の情報である。

 いや、非常に助かるけども統一通貨で共通言語って何したらそんなことになるんだ。


「まぁ、深く考えなくても良いんじゃないでしょうか? 私達にとっては覚えることが少ない方がありがたいですからね。そもそもそれを言い出したらこの世界、月もありますし」

「月って、夜空に浮かんでいる?」

「はい、その月です。夜のテラスに出ればよく見えますよ。とっても大きな月です。ちなみに、稀に月が紅く染まることがあるみたいで、そんな日は魔物がとーっても強くなるそうです」


 いわゆるほぼ地球っぽい惑星ということか。

 でも月が紅く染まるのはなんというか厨二病感あるな。

 と、それより気になる話が出た。


「あの、いま話に出た魔物ってのはどんなの?」

「魔物は、いわゆるファンタジーなやつですよ? 色々種類が居ますねえ。例えばドレッドスライムとか、シャークモグラとか、ロケットレッグラビットとか」


 どんな魔物だよ!

 いかん、名前を聞いただけだと意味が分からん。


「ドレッドスライムは血で出来たどろっどろのスライムです。触ると最悪な気分になりますね。シャークモグラはサメのような背びれと口を持つモグラで、背びれだけ地表に出たまま地面を泳いで迫る姿がまさにサメです。ロケットレッグラビットは、脚をロケットパンチのように発射してくるウサギです。発射された脚は爆発するので注意が必要ですね。ちなみに脚は何度でも生えてきます」

「……どういうことなの」


 駄目だ。

 なんか俺の思ってたファンタジーな魔物と違うんだけど。

 普通のスライムとかゴブリンとかじゃなくて、何そのイロモノの集まりみたいな魔物。


「ユクモちゃんもそのうち一緒に魔物退治にいきましょうね! 私達のパーティーは回復役が居なかったので、ユクモちゃんが居ると助かります!」

「……うん、それは早く行けるように頑張る」


 頷いて拳をギュッと握る。

 異世界生活に早く慣れようと思った、そんな一日だった。

 




 

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