カマキリとハリガネムシの陽気な一日 ~俺カマキリだけどハリガネムシに寄生されてギモヂイイッ!~
~原っぱ~
カマキリ「おい、ハリガネ」
ハリガネムシ「なんすか?」
カマキリ「お前、俺に寄生しろ」
ハリガネムシ「え~、またっすか!?」
カマキリ「またとはなんだよ」
ハリガネムシ「だって、このところ毎日じゃないすか!」
カマキリ「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」
ハリガネムシ「毎日カマキリさんの体内入るってなかなか地獄っすよ」
カマキリ「お前に寄生されると体調よくなるんだよ」
ハリガネムシ「普通逆なんすけどねえ……」
カマキリ「名付けてハリガネムシ健康法。みんなに広めたら山ほど儲かりそう!」
ハリガネムシ「山ができそうっすね……苦情の」
カマキリ「ま、いいからいいから。とにかくやってくれ!」
ハリガネムシ「もうしょうがないっすねえ……」
カマキリ「さ、入れ」
ハリガネムシ「へいへい」
お尻からカマキリの中に入るハリガネムシ。
カマキリ「ン゛ッ!?」
ハリガネムシ「どうすか?」
カマキリ「オ゛オ゛オ゛ッ!」
ハリガネムシ「動くっすよ~」
体内でウネウネ動く。
カマキリ「ン゛ッ、ギモヂイイッ!」
ハリガネムシ「んじゃ出ま~す」
ニュルニュルとハリガネムシが出てくる。
カマキリ「はぁ、はぁ、はぁ……よかった……たまんねえ……」
ハリガネムシ「いやー、ハリガネムシに寄生されて気持ちよくなっちゃうカマキリなんてあんたぐらいのもんすよ」
カマキリ「そうかな。他にもいると思うぞ」
ハリガネムシ「いるわけないでしょう」
カマキリ「探せば絶対いるって」
ハリガネムシ「絶対いないと思うっす」
カマキリ「ま、いないならいないでいいや! 希少種として誇り高く生きてくよ」
ハリガネムシ「あまり誇ったらダメな気がするっす」
カマキリ「それにな、寄生されてるのはお前のためでもあるんだぞ」
ハリガネムシ「へ? 俺のため?」
カマキリ「お前がいつか俺以外のカマキリにガチ寄生する時に、ミスったらまずいだろ? だから俺を練習台にさせてあげてるんだよ。さすが俺、優しい!」
ハリガネムシ「練習になってるんすかね、これ……。上手く歌えるようになりたいコオロギがいきなりロックから入るみたいになってそうで」
カマキリ「いいじゃねえかよロック」
ハリガネムシ「やっぱり物事には順序ってもんが……」
カマキリ「順序なんてまどろっこしいこと考えてたら大成しねえぜ! 俺が結婚した時もいきなりプロポーズしたしよ」
ハリガネムシ「そういやカマキリさん、既婚者っすもんね」
カマキリ「昨日も女房をヒーヒー言わせてやったぜ!」
ハリガネムシ「だけど大丈夫なんすか?」
カマキリ「何が?」
ハリガネムシ「メスのカマキリって交尾するとオスを襲うって言うじゃないっすか」
カマキリ「あー、聞いたことある」
ハリガネムシ「聞いたことあるって……大丈夫だったんですか!? 奥さんメッチャ強いっすよね」
カマキリ「俺も食われるのを覚悟したさ……。だが、あいつは俺を一切食おうとしなかった」
ハリガネムシ「へえ、やっぱり愛の成せる業っすか!?」
カマキリ「俺も聞いてみたんだよ。そしたら……」
『だってあなた不味そうじゃない』
カマキリ「……だってさ」
ハリガネムシ「あー……」
カマキリ「食われるのはそりゃ嫌だよ? だけど不味そうって言われるのも辛いもんがある。かなり凹んだ」
ハリガネムシ「心中お察しするっす」
カマキリ「分かってくれるかハリガネ! うわぁぁぁぁぁん!」
ハリガネムシ「俺の胸でよければ泣いて下さいっす。ほとんど紐ですけど!」
カマキリ「とまぁスッキリしたところで」
ハリガネムシ「立ち直り早いっすね!」
カマキリ「ウジウジすんのは性に合わねえ。俺は蝿じゃねえからな」
ハリガネムシ「ウジ虫のウジってウジウジのウジなんすか?」
カマキリ「酒でも飲みに行くかぁ~」
ハリガネムシ「いいっすねえ!」
……
~原っぱの酒場~
テントウムシ「いらっしゃいませ」
カマキリ「マスター、いつもの」
ハリガネムシ「俺にもいつものっす」
テントウムシ「あいよ」
カマキリ「つっても、ここ酒一種類しかねえけどな。木の実発酵させたやつ」
ハリガネムシ「少しはバリエーション増やしたらどうすか?」
テントウムシ「むやみにメニューを増やすのは……流儀に反する」
カマキリ「どんな流儀だよ。斑点は多いくせによ」
ハリガネムシ「ま、いいじゃないすか。飲みましょ」
カマキリ「カンパーイ!」
ハリガネムシ「カンパーイっす!」
カチンッ!
酒を飲むカマキリとハリガネムシ。
カマキリ「うめぇ~!」
ハリガネムシ「五臓六腑にしみるっすねえ」
カマキリ「お前に五臓六腑とかあんの?」
ハリガネムシ「どうなんでしょ。まあそこは気分っすよ」
しばらく酒を楽しむ二人。すると――
大バッタ「ああん!?」
小バッタ「ひっ!」
大バッタ「俺のジャンプが見れねえってのかぁ!?」
ハリガネムシ「見て下さい。でかいバッタが小さいバッタに絡んでるっす」
カマキリ「……どんな絡み方だよ」
ハリガネムシ「あ、小さい方が追い詰められてるっす。気の毒っす」
カマキリ「ちっ、仕方ねえ。助けてやるか」
席を立ち、カマキリが近づく。
カマキリ「おい、でかいバッタ」
大バッタ「ああん!?」
カマキリ「ジャンプは見せるもんじゃなく、“魅せる”もんだぜ」
大バッタ「ンだとォ!? この野郎ッ!」
大バッタが飛びかかるが――
カマキリ「おっと」
ザシッ!
大バッタ「い、いでえ……!」
カマキリ「血を見たい気分じゃねえんだ。これ以上ケガしたくなきゃ、とっとと帰れ」
大バッタ「ち、ちくしょう……覚えてやがれ!」
ピョーンッ!
逃げていく大バッタ。
カマキリ「今の俺……かっこいい」
ハリガネムシ「その台詞がなきゃもっとかっこよかったっすね」
小バッタ「ありがとうございました!」
カマキリ「いいってことよ」
ハリガネムシ「しかし、さっきの奴、覚えてやがれって言ってましたけど……」
カマキリ「あんなの苦し紛れの捨て台詞に決まってんだろ。飲み直すぞ!」
ピョンピョンピョン…… ゾロゾロゾロ……
大バッタ「へへへ……」
大バッタが戻ってきた。仲間を大勢引き連れて。
カマキリ「いくらなんでもリベンジ早すぎねえか!? もうちょっと熟成させようよ!」
大バッタ「うるせえ! いくらカマキリだろうとこの数には敵わねえだろ!」
カマキリ「ったくある種のバッタは群れると凶暴になるっつうが、お前らはまさにそれだな。数に頼って情けなくねえのか」
大バッタ「勝てばいいんだよォ、勝てば!」
小バッタ「あわわわ……逃げて下さい!」
カマキリ「なぁに心配すんな」
小バッタ「え?」
カマキリ「ハリガネ!」
ハリガネムシ「おうっす!」
ハリガネムシはカマキリの鎌に巻き付いた。
大バッタ「それがどうしたってんだ!?」
カマキリ「分かんねえか? 行くぞ!」
ハリガネムシ「いつでも!」
カマキリ「教えてやる……。俺とハリガネが組んだら……最強だってことを!」
大バッタ「やっちまえーっ!!!」
一斉に跳びかかる不良バッタ軍団。
カマキリ「ハリガネウィーップ!!!」
ブオンッ!
ハリガネムシを鞭のように操り、バッタ軍団をなぎ倒す。
ズガガガガガガッ!!!
「うぎゃああああああああっ!!!」
悲鳴がこだまする。この一撃で、不良バッタは全員KOされた。
大バッタ「あ、あうう……」
ハリガネムシ「やったっす! ざまみろっす!」
カマキリ「バタバタ倒れちまったな~、バッタだけに」
大バッタ「うう……」
カマキリ「俺に切り裂かれるか、今すぐ帰るか、選べ」
大バッタ「あの……帰ります!」
ピョンピョンピョン……。
ひとしきりペコペコすると、不良バッタ軍団は逃げていった。
小バッタ「あの……本当にありがとうございました!」
カマキリ「いやいや」
ハリガネムシ「礼を言われるほどのことじゃないっす」
小バッタ「そうだ! お礼に……ボクのジャンプを見て下さい!」
カマキリ「お前みたいなちっこいバッタのジャンプなんか見ても……」
小バッタ「えいっ!」
ピョーンッ!
それはそれは高く、そして美しいジャンプだった。
小バッタ「それじゃ!」
カマキリ「……さっきのでかいバッタよりよっぽどいいジャンプしてたじゃねえか」
ハリガネムシ「バッタは見かけによらないっすねえ」
カマキリ「じゃ、俺らも帰るか。マスター、お会計」
テントウムシ「毎度」
……
~カマキリの家~
カマキリ「ただい……あれ?」
ハリガネムシ「どうしたんすか?」
カマキリ「葉っぱ……妻からの置手紙だ」
『産気づいちゃったから実家に帰りま~す!
しばらくは一人を満喫してね! あ、ハリガネムシ君にもよろしく!
じゃ~ね~! Byあなたの愛する妻より』
カマキリ「……」
ハリガネムシ「俺に寄生されて喜ぶカマキリさんが、今度は奥さんに帰省されちゃったわけっすね。ククク、これはなかなかいいオチがついたっす」
カマキリ「……どうしよう」
ハリガネムシ「へ?」
カマキリ「俺、あいつがいないとメシとか作れないしさ! 生活力ないんだよ! 寂しいし、一人暮らし苦手なの!」
ハリガネムシ「えええ!?」
カマキリ「だから頼む! あいつが帰ってくるまで、お前んちに泊めてくれ~!」
ハリガネムシ「今度は俺が寄生される番っすか!」
完
読んで下さりありがとうございました。