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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ
9/71

9 ネコと居酒屋で乾杯

 

 幾つか店の候補をあげられた。犬神もいるので、あまり汚ない店もどうかと思うが、なんとなく気後れして洒落た店は選べず、駅裏にある小綺麗な雑居ビル内の居酒屋に入った。


「え?お前ここに座るの?」

 今までになく猫が俺にくっついて来る。隣に座らせたのに、腕をくぐって膝の上にというか股の間に入ってきた。

「赤ちゃんみたいだぞ?」

 と俺が言うと、振り返ってじっと見上げた後

「あかちゃんだもん」

 とほっぺを膨らまし気味に前を向いて言った。犬神は微笑ましそうに俺たちを見ている。

「凄く懐かれてるんですね!可愛いなぁ、本当のお子さんみたいですよ?」

「俺の血が入ってるようにみえる?」

 それもそうかと2人でアハハと笑う。


 ファーストフード店に次ぐ外食だが、俺の腕の中にいるせいか、猫は落ち着いていた。適当に頼んじゃいますねと、世馴れた犬神がビールと幾つか料理を頼む。

「ネコくんは何飲む?オレンジジュース?ウーロン茶かな」

「びーるのむ」

「子どもはお酒飲んじゃダメだ。お茶にしとけ。な?」 

 頭を撫でながら優しく言ってみたが、猫は潤んだ目でキッと俺を睨み  

「ネコは、さぶろうとおなじののむの」

 と、ここへ来るのを決める時と同じテンションで駄々をこね始めた。仕事の話もあるのになと、面倒臭くなる前にウーロン茶を2つ頼んでもらい、ジョッキをやめて、瓶ビールとコップ二つに変えてもらった。


「かんぱーい」

 お茶2つとビールで乾杯した後は、猫を誤魔化しながら俺もビールを飲んだ。外で飲むアルコールが久しぶり過ぎて、なんだか感動してしまう。

「美味いな…」

 昔は割とこうやって飲んでたな…と郷愁にも浸ってしまう。犬神は猫にバレぬよう、上手におしゃくしてくれている。その度に目線で合図され、笑顔を向けられるのがこそばゆい。アルコールのせいなのか、照れているのか、どうも顔が赤くなる。

 猫は刺身の盛り合わせが気に入って、真剣に黙々と全種類食べていた。

 打ち合わせを兼ねて、と言っていたが仕事の話にはなかなかならず、共通の後輩や先輩の誰それがどーのこーのといった話や、近況報告に終始した。猫を連れてきてしまったせいかと申し訳ない気持ちになる。

「お待たせしましたーっ」

 この店の名物料理のひとつ、カニクリームコロッケが運ばれて来た。かぶりつこうとする猫を慌てて止める。

「ちょっと待て、ちょっと待て!絶対火傷するから!」

 箸で小さくしてやったら、アーンと口を開けるので少し冷まして口に入れてやる。途端に蕩けそうな顔になって嬉しそうにした。あれ?猫にイカとかカニとか、大丈夫だったっけ??

「うまぁーい、もっとー」

「今日はえらい甘えんぼうだなあ、どうしたんだ?」

 俺の言葉を無視して、また口を開けてせがんでくる。後で犬神から教えられたが、アーンとひとくち貰うたびに犬神に、フフンとドヤ顔をしていたらしい。マウントを取っていたんだろうか?


 毎日の慎ましい食卓に比べて、今日の夕餉ゆうげは種類も量も半端ない。物珍しさにあれこれ手を出して腹いっぱいになった猫は、ここに来るのに緊張していたのもあって眠たくなったようだ。動きが鈍くなったと思ったら舟を漕ぎ出した。頑張っていたようだが、とうとう寝入ってしまったので、キリをつけ、帰ることにした。



「こんなお荷物連れて来ちゃったから、あんまり仕事の話も出来なくて、申し訳ない」

「元々、仕事は口実ですから。今日は楽しかったです」

 犬神の微笑みにドキッとする。ん?仕事が口実ってどういうことだ?

「そ、そう?」

「ホントに、先輩がやる気になってくれてうれしいんです。それに面倒見の良い、ステキなパパが想像出来て眼福でした」

「ははっ、物は言いようだな。ただ俺がパパになるには経済力がなあ…」

「でもこれから頑張って作品、描いてくださるんですよね?」

「ん、まぁ…」

「また、こうやって会ってくれます?」

「犬神さんが面倒でなければ。こちらこそよろしくお願いします」

「もう!先輩は相変わらずですね!!」

 脇腹を小突きつつウフフと笑う犬神は大学時代と変わらず綺麗だった。


 背中におぶっている猫は寝ていて、しっとりと重い。ほろ酔い気分も手伝い、明るい気持ちで家路についた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人間になってるから一概にアカンとは言えないのだけれど、猫って柑橘系(この話だとオレンジJ)はダメな子が多いんですよ。 うちの猫たちもミカンの香りを嗅ぐと、そりゃあもうひどい顔をして逃げ…
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