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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
幸せをもたらしたネコ

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13 ネコ現れる

 お嫁さんが一郎兄さんの耳に何かを呟くと、兄はハッとした顔をして「なにもこんな時に…」とかなんとか口ごもってソワソワしだした。

 俺はタイミングを逃したくなくて、取り込み中ならまたの機会にでも、と帰る糸口にすがってそう言った。次兄じけいも俺に便乗し、帰ると言い出したので、次はいつ頃に連絡するとかなんとかと言うことになり、兄弟のつどいはお開きとなった。


 帰る雰囲気を察してネコがやってくるかと期待したが現れず、何処でどうやってネコを回収しようかと、時間稼ぎにトイレまで借りてみた。

 次郎兄さんもそそくさと帰ってしまったので、俺1人でいつまでもウロウロしてたくない。

 うーん…猫を連れて来ちゃったんで、ちょっと呼びかけますねと断りを入れてから「帰るぞーっ」とかなんとか叫ぶしかないか?今さら格好悪いなと、やや面倒臭い気持ちになってゆっくりと駐車場に繋がる裏口に向かう途中で足が止まった。



「おまえ、ネコだろっ?!」と突っ込みたかったが、俺は声も出せなかった。頭の中が真っ白になるのはこれで何回目なのか…。

 何から突っ込んで良いかわからない…とにかく、ネコなのは分かった。兄たちの目もあったから、そうあからさまにキョどることも出来ず、しかし三度目ともなれば見間違えることはない。


「…!!!」


「…!!!」


「…!!!」


 ネコは…

 なんというか、少年と青年の間のような、幼さを残す若者になっていた。いつもと変わらないプラチナブロンドのサラサラの髪。猫のときと変わらない、透き通ったガラス玉のような翠色の目。ほっそりとした首に、生地の厚い黒色のリボンが巻かれているのが目に入ったとき、俺は察した。


 ネコは、兄の娘に見つけられてしまったんだろう。家に紛れ込んできた猫を可愛く思って、めいは何の気もなく首にリボンを巻いたのではなかろうかと。


 見られてしまったんだろうか。

 猫から人になってしまうのを。


 もしそうだとして、ネコはどうやって自分のことを説明したんだろうか。気になり過ぎる。


 玄関に続く廊下の途中にたたずむ、俺の記憶では高校生のはずである姪っ子とネコは、パッと見には友達同士のようにみえた。

 俺は脳内に汗をかきまくって、頭をフル回転させてどう振る舞うべきか考えていたが、徒労とろうに終わった。


「さぶろう!!」


 ネコが満面の笑みで呼びかけてきたからだ。しかし俺よりも兄の動揺の方が酷かった。俺と若者2人組を交互に見て狼狽うろたえている。

「ひ、ひなの…?そそ、その子は、お、おともだち…なのか…?」

 俺のイメージする一般的な娘に対する態度とはほど遠く、俺が兄にしている以上にオドオドした態度だったのが奇妙だった。

 話しかけられたひなのちゃんの方は、冷めた表情で兄を一瞥いちべつするだけで、ネコには何やらをつぶやいた後、大人達の方には一言も発せずに階段を上がっていってしまった。


「さぶろうはお話し終わったの?」

 何事もなかったかのように、小走りで俺のところに来たネコに「お、おぅ…」と答える。娘に無視をされてしまったかたわらの兄を見るのがいたたまれずに振り向けない。

「その子は、お前の知り合いなのか?」

 肩に手をかけられた俺が、ヒィーっと胸の内で叫んだところで、助けるかのようにネコが無邪気に答えた。

「うん、オレ、ともだちだよ」

「ともだち…」

 唖然あぜんとした顔でボソリとつぶやく兄を無視し、帰るんでしょとばかりにネコは俺の腕を取った。


「君は…ウチのひなのと、その、仲良くしてくれてるんだ…ね?」

「んー、そうだよ」

「学校の友達、なのかな?」

「?なんでそんなこと訊くの?ただの友達じゃダメなの?」

 ネコの問いかけに兄はビビったようだ。というか、俺もビビっている。あぁ、この感じ。何を言い出すか分からないネコに、身体中がザワザワする感じよ。


「いや…いや、ただ聞いてみただけで…気にしないでいいよ…」

「?」

 小首を傾けてネコはニコリとする。

「じゃあ帰ろー!」

 ネコに引っ張られて俺は兄の家を離れた。俺に何か言うべきか、ネコの方に何か言うべきかとアワアワして間抜け面になった兄が視界のふちに残った。あんな兄の顔は初めて見た。




「…何があったのか、教えてくれるんだろうな」

 車に乗り込み、隣に座るネコを横目で睨みながら言ったが、ネコは相変わらずのどこ吹く風であっけらかんと言う。


「ネコねぇ、ファミリーレストランに行きたいな♫」


「…」


 無言のまま俺は言う通りにすることにした。なんとなく家では無い方が良い気がしたし、ただでさえ兄達と話して気疲きづかれしていて深く考えたくなかったのだ。俺に今日、無理矢理に付いて来たネコが悪いのは確かなのだが、猫からネコになってしまったのは不可抗力であってネコのせいではない。

 …と思いたい。


 我が家に向かう道をナビどおりに運転する途中、大通り沿いにあるファミリーレストランを見つけて俺はハンドルを切った。


 数ページある鮮やかな写真のメニューを楽しそうに見ていたが、結局ネコはハンバーグ定食を選んだ。あぁ、そうだ、今のうちに味わうがいい…。


 俺の想像どおり、猫に首輪 (のようなもの)をつけたのはめいであるひなのちゃんだった。ネコが理解できないこともあったようだが、ネコの耳に入った彼女の言葉を繋ぎ合わせて補完すると、高校入学してすぐ登校拒否をしていて、ずいぶんと学校に行っておらず、部屋に引きこもっていたらしいことが分かった。そんな彼女のところに、見た目外国人のネコが友達だといって一緒にいたのだから、兄夫婦からしたら、そりゃ何があったのか?!と思っただろう。一郎兄さんの狼狽ぶりにもやっと納得がいった。


 ネコはレオくんがいつも着ているような独特なデザインの黒Tシャツと、スウェット素材の中途半端な丈のズボンを履いていた。彼女が貸してくれたと言う。



 えー……

 ということは、つまり…

「そ、それって、ひなのちゃんの目の前で、その、そうなったってこと?」

「コレ、巻いてくれたんだよ」

 額に手を当て、唸るように問う俺の質問には答えず、その服装にはやや不似合いな、首に巻かれたビロード素材の黒いリボンを大事そうにそっと触ってネコは言う。

 あぁ、やはりそうだったか…。できれば違っていて欲しかったが俺の想像どおりだったか…。


「あっあとね、コレ、さぶろうに読んでほしいってもらったよ」


 忘れていたと、ポケットから出された、細かく畳まれた白いメモ用紙にはパソコンのアドレスが書いてあり、そこに連絡をして欲しいとのことだった。彼女はスマートフォンは持っていないのか?しかし何にせよ、服は返さなければならないだろう。

「お前、他にどんな話したんだ?」



「ずっとね、さぶろうの話してた!」

 ングぎゅ…俺の喉が鳴った。

「ン、んん?」

「だって、ひなのの部屋、昔のさぶろうのおうちみたいでね、懐かしかったな」

「ン、ぬぅ…」

「それに、さぶろうのこと、悪く言うんだもん、ネコいっぱい誤解()いといたんだからね!感謝して」

「ン、んん…」

「そんでねー、ひなの、最後はさぶろうと会ってみたいって」

「…」


「もぉ!さぶろう、ネコの話聞いてる?」

 俺が同じ返事ばかりするので、眉を寄せて俺を覗き込んでくる。


「もちろん聞いてるよ…」

 吐息のような声で返して、俺はアイスコーヒーを啜った。



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