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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
幸せをもたらしたネコ

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9 ネコvsイヌふたたび(前)

禁止だったマンションと違って、ネコを飼っていることへの気兼ねが無くなり、仕事部屋まで出来た俺の日常は、良い感じに再び動き出した。


『お引越し、お手伝い出来なくてすみませんでした…新居のお祝いを持って伺おうと思ってるんですけど…今週末のご都合は如何ですか?』

犬神が電話口で言う。  

「えっ?!いや、わざわざそんなわる…」

『もう準備してあるので、遠慮しないでください!ネコ君にも挨拶出来なかったし…いなくなって寂しくないですか』

「今度はまた猫を預かることになったからね…」

畳み掛けるように言われて断れなくなってしまった。そろそろこの言い訳も苦しくなって来たなと思いながら、堂々と答えるのが一番と猿渡さんやレオ君同様に、この嘘を突き通す。


『あら!何だかいつも“ネコ〟が一緒なんですね』

フフと笑いながらの無邪気な返答にドキドキする。犬神はいつも何かしら勘が鋭いのだ。

「本当だよねぇ、あんまり気にしたことなかったけど…ははっ」

少々冷や汗をかきながら何でもないように答える。気づけば、やはり足元にネコがやって来ていた。ンにゃーんと小さく愛らしい声を出しながら俺の足に8の字を書くようにすりすりする。

片手で抱き上げて、ピンと立った耳の間に頬擦りした。


「俺の方はいつでも大丈夫ですよ」 

犬神にそう返事した瞬間に、ネコは俺の鼻先をキックして床に着地した。

「…ンぐはっ!!」


こんなに柔らかい身体をしているのに脚力はなかなかのものだ。レオ君もなかなかに痛かったんだろう。あんなに笑って悪かったなぁ…

『?どうかしましたか』

心配する犬神に、涙目で顔をさすりながら何でもないと答えるが、目線の先には俺を睨みつけているネコがキッチンの対面カウンターの上にいた。一体どうしたというのか。


結局週末に、犬神が何やら引越し祝いを持って来てくれるという話になったが、どうもネコの機嫌をそこねたようで、ご飯の催促にも来ず、いつものように俺の布団の中に寝にも来なかった。

「ネコー?!おーい、俺寝るけど今日は来ないのかー???」


「…」

広くなった家の中で返ってこない返事を待つのはより寂しいものだ。寂しく独り寝をしたのだが、朝になって結局足元に丸くなっているネコを見つけて破顔する。ふはは、可愛いやつめ。


「ネーコ!」

いつも起こしに来るのに、ふて寝したままのネコの脇下を持ち上げ、ゴムみたいに下に伸びたのをグルンと回して抱き寄せ、「おはよう」と挨拶した。


「…グにゃふ…」

ネコは嫌そうに鳴いたが、キックはされなかった。

「まぁだ機嫌悪いのか?俺の何がダメだったんだ?」

覗き込むとプイと顔を背けるので、まだまだご立腹らしい。仕方ない、困ったときの煮干し様で機嫌を直してもらおう。嫌がるネコに構わず、頭をわしゃわしゃと撫でくりまわして俺はキッチンに向かった。



「お邪魔します」

犬神はその日、ポニーテールにパーカーとGパンという、今までについぞ見たことのない爽やかな姿で現れた。


「駅から分かりにくくなかったですか?」

「方角さえ間違えなければ、ほぼ一本道だったので、全然大丈夫でしたよ。静かで良い場所なんですね」

「迎えに行けれは良かったんですけどね…」

「いーんです、いーんです!!さ、さぶろうさんのお手を煩わさなくったって!」

犬神は大仰おおぎょうに手を振って遠慮した。

「とりあえずコレ、お茶のお供にと思って、作って来たんですけど、お口に合うかしら」

すかさずフーッとネコが唸る。

「おいおい、どうしたんだよ」


背負っていたリュックから、犬神が紙袋を出したとたんにふんわりチョコレートの香りが漂ってきた。

「ガトーショコラです。先輩、好きでしたよね?」

「よく覚えてるね?それにしても、人の手作りなんて、嬉しいなぁ」

「チョコだしお酒も入ってるので、ネコちゃんには食べられないから怒ってるのかな?」

「ギにゃーう」

いつもと違う低い声でネコは鳴いた。

これが食べられないのは、そりゃネコもご立腹かも。


「フフフ、そんなネコちゃんにはこちらを用意しました!引越しお祝いも兼ねてます」


チャイムを鳴らした犬神を出迎えたときに、大きな荷物を持っていたので玄関で驚いたが、軽いから気にしないでと言われたヤツだ。なかなかの大きさのものだったが、持つとたしかに意外に軽い。

「俺開けて良いの?」

「もちろんです!」


ラッピングを開けていくと中には、ブラウン系の濃淡がシックな、ダンボール製の小さなソファが入っていた。ちょうどネコが寝そべるとさまになりそうな…


「ソファ仕様の爪研ぎです!」


なるほど。

無邪気なドヤ顔で嬉しそうに言う犬神は可愛いらしかった。この間まで子どもの姿だったネコからは爪研ぎなど想像もつかなかったし、果たして爪を研ぐのかどうかもわからない。(知らないところで研いでるんだろうか?)思い起こせば、うんと小さい子どもの時は俺がこわごわネコの爪を切ってやっていたなと思い出す。

「さすが犬神だなぁ、爪研ぎなんて思いもつかなかったよ、なぁネコ?」

かたわらにいたはずのネコは居らず、俺の手はからぶった。

「あ、あれ?!…ネコ?!」

見渡す範囲にネコの姿は見えなかった。おい、気まずいじゃないか…と思ったのは俺だけのようで、犬神は別視点ではしゃいでいた。

「インテリアに合って良かったです!さぶろうさんなら、こんな感じにされるかなーって思ってた通りでした!」

「いやいや、こんなオシャレなお祝いいただいちゃって、本当にどうもありがとうございます」

「あの、ネコちゃんがこれで寝てる姿、後で写メ送ってもらってもいーですか?」

「もちろん、送りますよ!」


「…んギュル…ミャぅギニャ」

変な呻き声に振り返ると、ネコが目を細めてキッチン器具の隙間からこちらを見ていた。

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