2 さぶろう、泣く
ニャーン…ニャー…
猫の声が聞こえた気がして俺は慌てて外へ飛び出した。何度もこんな風に飛び出しては何も見つけられずに途方に暮れている。稀に本当に猫の鳴き声だったときもあるが、見知らぬ野良猫でしかなく、目があった途端に逃げられていた。猫と言葉が交わせたら、アイツを探してくれと頼むことも出来るのに…。
猫でもなく、かと言って人でもないネコを大っぴらに探すことが出来ないから、何度期待を裏切られても、少しの希望があれば俺は確かめに行った。そうやって日々は悶々と過ぎていく。次郎兄さんとの情けない面談のあと、何の手がかりも見つけられなかった俺には、完全に受け身の捜索しかできない。
「朝か…」
俺は無表情のままぼんやりしていた。気づけば、俺の部屋にはあちこちにゴミが溜まり、床には薄らと埃も溜まっている。どうしようもない気持ちをなんとかしたくて必要以上に仕事に没頭するようになり、家事や他のことに全く気が回せなかった。日が出ている間、俺は街を彷徨い歩いた。車で街中を走らせることもある。ネコと叫ぶこともできずに、金髪の子供を、あるいはひょっとしたらとフサフサの毛並みの猫を、どうにかして視界に入れたかった。
「ネコ…」
時々どうしようもなくなって涙が滲む。
「どこ行っちゃったんだ…」
だからまた空耳だろうと思った。
「ニャ…」
消え入りそうな小さな声が背後から聞こえた気がした。我がマンションに近い路地裏の細い道で立ち止まる。小さいボロ雑巾みたいだったネコを拾った時のことを思い出して振り返ると、道の真ん中に、捨てられた使い捨てモップみたいな塊が落ちていた。そこから、2つの翠色の目がこちらをみている。風になびいたようにプルプル毛先が震えているのは、立っているのがやっとだからに違いない。
「ネコ…?」
夢に見た再会をすぐには信じられず、一瞬固まったあと、慌てて走り寄った。
「ネコなんだよな…?!」
震える手でそっと抱き上げた。今までの野良猫みたいに逃げ出したりも警戒したりもしなかった。
「ネコ…」
「ンニャーン」
元気のない鳴き声に反して、喉は盛大にゴロゴロ鳴っていた。
「なんで猫なんだ、何があったか何も聞けないじゃないか…でもいいよ、何でも良い、帰って来て本当によかった…」
たまらず抱きしめて、その場にうずくまる。猫がおれの頬を舐め始めた。溢れて落ちる涙を舐めていたのだった。俺はそれで自分が泣いていることに気づいた。
胸が熱くなり、欠けていた胸の何かがぴたりと埋まって満ち足りた。
「んニャーン」
ネコのいない間に伸びた無精髭が擦れても、今は、嫌がられなかった。




