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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
囚われたネコ

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10 ネコ嘘をつく

 部屋が暗かったので気づけなかったけど、目覚めるともう朝だった。扉の向こうからは、今までにない屋敷内の慌ただしさが聞こえて来る。人の出入りも多いみたい。どうも、夜通しおれを捜索してたようだったけど、まぁ、おれはここにいる。


 こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…。思いがけずに変わってしまった自分の姿にため息をつきたくなったが、こうなっては仕方がないと腹をくくり、逆にこのチャンスを活かすことにした。

 こっそりと部屋を抜け出し、見つからないように素早く自分の部屋に移動する。この姿だと足音が立たなくて良い。その代わり机の引き出しを開けるのは大変だった。なんとか隠れて用意しておいた手紙を取り出し、扉の影から人の出入りを観察する。

 お目当ての人物、坂本がやっと1人で通りかかったのを見てにゅるりと前に飛び出した。

「どっから入って来たんだ?!」

 ウワと叫んで慌てて足を止める坂本の前に、手紙の入った白い封筒を置きトントンと前脚で叩く。

「何だ?読めってか…?!」

「ニャーン」

 意外さに興味を持ってくれたようで、おれの思惑どおりに封筒を開け、中の手紙をさっと広げて読んでくれる。

「コイツは…」

 内容を見て、龍宮寺のところへ走り出した坂本の後をおれは四つ脚で追いかけた。




「…あのアマ、舐めやがって」

 手紙を目にしたおじさんの顔は怒りでどす黒く変わっており、殺気めいたものが立ち昇った…かのように見えた。部屋に控えていた部下達は皆、下を向いて全身に汗をかきながら小刻みに震えている。雰囲気にのまれて、よじ登ったおれを無意識に抱っこした坂本も、やはり震えていた。

 目で人を殺せるってこういうことなのか、と他人事みたいに思いながらも、静電気が発生してるかのごとく、おれの全身の毛も逆立っていた。怖いものは怖い。


 おじさんが親指を横に引くと、部下の人たちは皆一礼して素早く部屋を出ていった。 


 そのジェスチャーが何を意味するかはわからないけど、とにかく、怒りはしっかりと熊谷ゆかりに向いたようだ。やれやれ。これで、ここの人たちがなんらかの形でどうにか始末してくれるだろう。


「その猫はなんだ」

 残った坂本に、どすの効いた声でおじさんが話しかけた。昨晩に引き続いて聞いたことのない、今度は低い声だ。坂本はおれのモフモフした尻を触りながら答える。

「気づいたら廊下にいたんすよ。コイツがその手紙をくわえてて」

「咥えて?妙に落ち着いた猫だな…」

 怒りのオーラがいまだに消えないおじさんはそのまま沈黙しておれを見ていた。その状態が長いので、坂本は居心地悪そうにし、様子を見て来ますと言って、おれを抱いたまま部屋を出ようと出入口の扉に手をかけた。

「待て。その猫は置いてけ」

 後ろからの低い声に、坂本は再び震えながら、おれを床に置いて部屋を出て行った。



「ハァ」

 机の上のおれの手紙に触れながらおじさんは大きくため息をついた。


『 かずやさんへ


 ボク、ゆかりさんに言われてるので、ここを去ります。

 美味しいものいっぱい食べられて幸せでした。

 今までありがとうございます。


   セシル 』




 ちなみに手紙はこれだけのものだ。余分なことは何も書かなかった。

「親分さんて呼んでたから」

「マスコミにリークするってどういう意味?」

「ぼくのこと、金づる?金のたまご?だったっけ?そう言ってたよ」

 などなど、一緒にいる時にあることないこと吹き込んでやったので、この手紙で更なる想像を駆り立ててくれているに違いない。まずもって、熊谷ゆかりを許すことはないと思う。こんな姿になった以上、誰もおれを探し出せないしね。



「お前、セシルと同じ瞳の色してるな」

「ニャン?」

 おじさんがおれを撫でる。首輪を外したおじさんの自業自得とはいえ、あんなに可愛がっていたおれが急に居なくなってしまったのは寂しいだろうなと思うと、可哀想になってきて、喉をゴロゴロ鳴らしてやった。もう一度、おじさんは大きなため息をつき、おれを抱え直して丁寧に撫で始めた。

 あっ、わかったぞ。コレ、めちゃくちゃ落ち込んでるんだ!!

 見上げるとやはり、コワモテから一転して、泣きそうな、寂しそうな顔をしている。不覚にもキュンとしてしまう。おじさんには悪いことしちゃったけど、おじさん自身、普段から悪いことしてるみたいだからしょうがなくない?



 しばらくそうやって撫でられていたけれど、いつまでもそうされてやってる義理は無い。おじさんの手をザリザリ舐めておれは別れを告げた。

「ニャーあん…」

 おじさんはおれを追いかけるようなことはしなかった。革張りの椅子に腑抜けたように座ったままの姿を最後におれは窓から外に出た。


 まぁしかし、事は思い通りに運んだし。

 龍宮寺のことも、熊谷ゆかりがどうなるかってことも、知ーらない。

 さぶろうが1番大事だから、それ以外は基本どーでも良いんだよね!おれ早くさぶろうに会いたいもん。


 この姿で抜け出すとは思わなかったけど、却って目立たなくて良かったかもしれない。おれはさぶろうのいる街を目指して、しばらく慣れ親しんだお屋敷にさよならした。


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