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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ
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6 ネコ、おめかしする

 管理人は言葉どおり、彼の妻が作ったおかずを数点持ってきてくれた。もう一度ありがとうございますと玄関口でいうと、いつの間にか足元に来ていた猫もありあとーごあいますと同じように頭を下げて挨拶した。

 管理人のデレついた顔は俺の顔でもある。あまり人に見せないように気をつけねばならんなと、他人のフリ見て我がふり直せということわざを思い出しながら部屋に戻った。

 おかずはチキン南蛮、筑前煮、たこときゅうりのマリネ、ポテトサラダ。味付けは薄くもなく濃くもなく、とても美味うまかった。手間暇てまひまかかっているのがよく分かり、管理人が羨ましくなった。猫はとても喜んでいる。今日は昼ごはんも外だったし、差し入れでこんな豪華な夕ごはんになったし、いつものインスタント食品系の食事が見すぼらしくなってしまう。

「さぶろー、おいしいねぇ。ネコ、コレがすきー」

 そうだよな、やっぱりチキンだよな。食べさせるだけで充分だと思っていたが、こいつに良いモンを食べさせてやれないのは情けないなと感じ始めた。



 食うには稼がねばならない。

 そういうことだ。



 服も買わない。床屋も行かない。食事も最低限。金の掛からないネットサーフィンしかやらない。

 こんな生活だったから、いつもは1ヶ月に数件、小さな挿絵から1枚絵までをちまちま描いては数万円の手取りでなんとかのんびりと生きていた。

 これまでの受け身の姿勢を改めて、俺は馴染みの出版社に俺を使ってもらえるよう、営業メールを出したりポートフォリオを送ったり、SNSを駆使してイラストを売りに出したりし始めた。

 大学時代からの知り合いで、元々一番懇意にしていたA出版の編集者、犬神いぬがみは、やっとやる気になってくれたんですかと嬉しそうに言って、半年先までのスケジュールで仕事を依頼してくれたばかりか、他に仕事を探してきますとまで言ってくれた。


 仕事量もあるし、久しぶりに近況も聞きたいと、犬神に外での打ち合わせを頼まれた。恩人だから断るわけにもいかない。こんな話をしていたら猫がついて行きたいという。初めて駄々を捏ねるので、仕方なく一緒に行くことにした。



「猫、何してんだ?!」

 当日、猫は風呂場にある鏡の前でポーズを取っていた。買ってやった少ない服をあてたりかえしたりしている。

「まさか、おめかししてるの?」

「だって、おでかけだもん」

「連れてくだけだぞ?!」

「ネコね、これとこれをきていく!」 

 元が可愛いんだから何を着たってそれなりに見えるのに…やれやれと思いながら鏡に映る自分を見てハッとする。

「エっこれ、俺がマズいじゃん…!!」

 小綺麗な猫が隣にいると、いつもより一張羅の服を着ているというのに凄い違和感がある。こないだ髪を整えたせいで服だけがなんとなくもっさりと浮いている…。猫と一緒の姿を、こんな鏡なんかで見なければ気づかなかったものを…!ウキウキの猫を今さら置いていくこともできず、このまま行こうかと腹を決めかけたが、結局ここで、俺は…初めて管理人を頼った…。



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