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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
囚われたネコ

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7 ネコ「セシル」と呼ばれる

 

「おじさんがカッコいー名前付けてよ」

「可愛い名前じゃダメか?」

「呼びたい名前でいーよ。ボクあんまりこだわんないし」


 ノア、テオ、ガブリエル、エリオット、カミーユ、ルカ、セシル、デューイ、エミリオ…


『ネコ』はさぶろうが付けてくれた大事な名前だ。何となくここではそう呼ばれたくなくて、それ以外なら何でも良かったんだけど、嬉しそうに、いっぱい候補を出して来て、あーでもないこーでもないと、悩むおじさんはちょっと可愛かった。

『セシル』に決まり、今じゃたまに機嫌が良いと『ルー』って呼んでくる。


「私のことは何と呼んでもらおうかな、実はおじさんて年齢じゃないんだ」

「おにーサン?」

 満更でもない顔をしながら、ちょっと違うかなと手のひらで顎をさする。その仕草がおじさんぽいんだけど、それは言わない。

「おにぃちゃん?」

 わぁ…口元が(ゆる)み始めた。ほんと、この人やばいな。

「アニキ!!」

 ニカっと笑うと、これはどうも微妙だったようで渋い顔をされた。いつもおじさんの側にいる坂本という人が背後に控えていて、見上げるおじさんの肩越しに顔だけが見えてるんだけど、なんかソワソワしてる。

「おやぶん!」

 おどけて言ってみると急に空気がぴりりと変わって、坂本さんがはっきりと、顔でおれにヤメろって訴えて来た。

「誰かから聞いたのか」

 不機嫌さを露わにしておじさんは低い声で聞いてくる。おれは空気を読まずにキュルンと答える。

「んーと、ゆかりおばさんが言ってたなーって思って」

 正確にはおれの前で言ったことはないのだが、おれは少しずつでも、権力持ってそうなこの男にゆかりの悪印象をつけようと目論んでいるのだ。案の定「あのアマ…」と聞こえないような声で唸っていた。フフフ


「じゃあ、かずやさん?」

 気を逸らすように甘えてこう言うと、柔らかな空気に戻り「悪くない」と、採用された。




 おれの扱いは破格だった。若干腫れ物に触るような感じもありつつ、ここで働く人みんなにセシルさんと呼ばれ大事にされた。

 おれが風呂好きで、入浴剤とかにこだわりがあると分かるや、日替わりで選べるように個装の入浴剤が脱衣所の籠にこんもりと盛られていたりする。ちなみに、ここで何が1番最高かって、お風呂がひんろいの!!すっごく楽しい。さぶろうと一緒に入りたいよー。

 他にも、食べたい物を聞かれて、答えると絶対それが夕食に出てくるの!だから、お刺身率高いんだよね。


 おじさんは、普段この家にはいなくて、お付きの坂本って人が頻繁におれの様子を見に来る。毎回美味しいお土産を一彌さんからだと言って持って来てくれて、今日はテレビで見たパティスリーのケーキだったので、お誘いして一緒に食べていた。

 リビングのフッカフカのソファにもたれながら、甘かったり、しょっぱかったり、絶妙で複雑なその味わいに感動してると坂本さんから質問される。おじさんに報告しなきゃいけないらしく、こういう機会があると結構いろんなこと聞かれるんけど、のらりくらりはぐらかしていた。


「ボウズは学校行ってないんか」

「学校?んー、行ったことないし、興味なーい」

「一彌さんが、家庭教師をつけようかと言ってくれてるぞ」

「かてーきょうし?何それ」

「…ボウズに勉強を教えてくれる人だよ」

 ここに長居するつもりはない。恩義を感じるのはいやなので、面倒くさーい、要らなぁい、と答えた。


 次の日、おじさんがやって来た。

「セシル、ただいま!」

 頭をぐりぐりと撫で、勢いよく抱き上げて膝の上に乗せられた。

「おかえりなさい」

「家庭教師は要らないんだって?漢字の書き取り帳が欲しいって言ってたから勉強好きなんだと思ったが」

「家庭教師までは要らないよ」

「お前のやりたいことをしてやりたいんだよ。私の仕事がこんなに忙しくなければ、ずっとルーと一緒にいられるのになぁ」

 頭に顔をスリスリさせながら甘えた声で言う。


「…」


 おれは黙って笑顔をつくった。

 猫でもないのに、おじさんはそれはもうおれにメロメロなのだ。好みドンピシャって言ってたっけ。

 でもこの人さ、悪い人なんだよね…。たまに血の匂いがしてるんだもん。

 複雑な気持ちになりながら、おじさんの愚痴を笑顔のままで聞いてやるおれだった。。

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