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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
囚われたネコ

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6 ネコ、飼われる

「こないだ言っていたお手伝いのことなんだけど、これから一緒に出掛けてもらって良いかしら?少しの期間、過ごして欲しい場所があって、そこでのお仕事が終わったら、さぶろう君の待つおうちに帰してあげるからね」


 おれが拉致らちられて2日後の朝早く、熊谷ゆかりは俺のいる部屋にやって来て、機嫌の良い笑顔でそう言った。じろうおじさんとの話を全部聞いていたおれとしては、気味の悪い笑顔にしか見えない。うーん、恐ろしい女だなぁ。しかも彼女の心の中では『二度と帰れないけどね』という真反対のことを言っているのだが、まぁそれはもちろん、おれの想定内ではある。


 マンションから連れ出され、大きくて黒くてピカピカの車に乗せられた。大好きな車のはずが、窓全部にスモークが貼ってあって、後部座席からでは外の景色は楽しめなかった。

 同じ方向に2時間くらい進んだ先で降ろされて、森みたいな庭の先の、なかなか重厚なお屋敷に入る。おばさんとか、おじさんとかが何人か控えていた玄関は、さぶろうん家のリビングより広い。以前さぶろうと海に行った時に泊まった旅館みたいだ。

 とにかくスタスタ歩くゆかりの後ろをついていかなきゃいけなくて、周りを見る余裕がない。ただ、耳には何処からか小鳥のさえずりが聞こえてきていて、なかなかに良さそうな住環境を思わせた。


 ゆかりと共に案内された部屋に入ると、目の前に、イワシみたいに青光りするスーツを着た、爽やかな爬虫類系の顔立ちの男が脚を組んで座っていた。優しげに笑っているが、この人、ぜったい悪い人だ…。

「こんにちは」

 座ったまま、細い目をもっと細くしておれたちに挨拶をする。


「こんにちは…」

 横に立つ熊谷ゆかりに肘で小突かれて、仕方なくおれは頭を下げながらボソボソと挨拶を返すと、男はフッと片頬を歪ませて「合格だ」言った。


 とたん、ゆかりはパァっと顔を輝かせ、珍しく興奮気味に、やや早口でおれにまくし立てた。

「こちらがしばらくお世話になる方で、龍宮寺りゅうぐうじ一彌かずやさんよ。あなたなら気に入ってもらえると思ってたわ。言う事をよくきいて、失礼のないようにしてね?」


「…」


 おれはうろん気に、見上げるだけの返事をした。そんなおれを安心させるためなのか、その、『りゅうぐうじかずや』とやらは、優しく話しかけてきた。

「悪いようにはしないよ、仲良くやっていこう。これからよろしくね」

 いつもなら、さぶろうの背後で上着をつかみながら上目遣いで相手を見上げるところだが、身を隠したいと思う人物なぞ、この部屋にはいない。久しぶりに心細い気持ちになってドキンと胸が揺れた。

 ふたたび、ゆかりに肘で小突かれ、またまた仕方なくおれはボソボソと「よろしくおねがいします…」とだけ答える。


 男は満足そうにニンマリと笑って、クイと顎を上げると、熊谷ゆかりをはじめ、案内の人や最初からこの部屋にいた部下みたいな人も皆部屋を出て行った。おれが訝しむ暇もなく、男はあくまでも優しくおれに尋ねる。


「何か甘いものでも飲むか?ジュースか?ココア?ミルク?ホットショコラ?」

 何か言うまで続きそうだったので、興味はないが聞いてみる。

「なに、ホットショコラって?」

「じゃあそれにしよう」

 男は部屋に備え付けてある電話を使って指示すると、数分後にドアがノックされた。年配の女性がワゴンに高級そうな花柄のカップを載せて現れた。甘くて良い匂いがほんのり立ちのぼっている。

「チョコの匂いするよ」

「チョコレートのドリンクだからね」

「へぇぇ」

 遠慮なくいただいたんだが、その美味さに我を忘れ、しばし無邪気にこのホットショコラを楽しんでしまった。

「うまいか」と聞かれて素直に「ンマーイ」と微笑んでしまった。男はそんなおれを見てニコニコニコニコしている。

 うーん、ちょっとキモい。

バツが悪くて、少し探りを入れてみる。

「ゆかりおばさんは?何処行ったの?もぉ会えないの?」

「また会いたくなったら会わせてやろう。今はいろいろ手続き中だ」 

「ふぅん」

「それ飲み終わったら、君の部屋へ案内しよう」

「ボクの部屋があるの?!ボクここに住むってこと?」

 分かってはいたが、一応確認しないとね。可愛らしさを装って聞くと「そうだ」と言われる。不機嫌で、ぶっきらぼうだったじろうおじさんとは違って、この人はちゃんと相手にしてくれるし、丁寧だ。おれを歓迎してる態度に裏があるようにはみえない。やっぱりゆかりの方が気になって「おトイレ行きたい」と、部屋を抜け出した。




「あんな見目の良いボウス、しかも身元不明だなんて都合良いのを良く見つけて来たな。あの人の好みドンピシャじゃねぇか。」

「まぁね、ここの親分さんにはたくさん借りがあるから、何処よりも優先したわよ」

「親分なんて言うな、テメェ殺されるぞ。ボスって言っても不機嫌になるんだ。()()()()なのスゲェ気にしてんだよ、あの人は」

「はいはい」

 すごまれても、ゆかりは相変わらずだ。

「前金は坂本から受け取れ。残りはしばらく様子を見てからだ。連絡をさせるから取りに来い」

「ありがとうございます!!!」



 教えてもらったトイレの場所を無視して、気配をたどり、廊下の窪んだところを見つけておれは聴き耳をたてていた。


 ふーん、なるほど。

 そういうことか。


 男との会話をちょうど聞けて良かった。

 つまり、おれはこのりゅうぐうじって男に飽きられるまで飼われるってことらしい。でもなんでその報酬を熊谷ゆかりが貰うわけ?!それってじろうおじさんと山分けするんじゃないよね?だっておじさんは勝手にやれって、関係ないって言ってたもん!


 おれはこの理不尽さにだんだんムカついてきた。


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