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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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24 ネコ駄々をこねる

 スマホの画面に浮かんだ通知にふと気づいた。名前を確認して自然と顔がゆがむ。そろそろ連絡があるかもしれないと思っていた矢先ではあったが、その名を見れば、やはり気持ちはどんよりと落ち込んだ。



「一緒に行く!」

「なんでネコがついて来るんだよ。おかしいだろ?」

「さぶろう、あの女のこと気に入ったの?」

「言い方…!もぉ、どうしたらそうなるんだ?初対面の時、お前も居たろ?」

「だって!…だってネコを置いてくんでしょ?!」

 目を潤ませて、半べそで俺の上着にすがり付く。

「だいたいあのとき、熊谷くまがいさんのこと嫌いだって言ってたじゃないか」

 腰に手を当ててふうとため息をつく。猫のこんな我儘は久方ぶりだった。


 自称、次兄じけいの婚約者である熊谷ゆかりから、話があると携帯に連絡が入れられて指定されたのは、我が家と最寄り駅の途中にある古びた喫茶店だった。当然1人で行くつもりで用意をしていたのだが、いつの間にか事情を知った猫が朝から駄々をこねている。


「さぶろう守んないとダメなんだもん」

 いつかのように頬をぷぅと膨らませて涙目になり、今や俺の足にしがみついてきている。 


「…」

 可愛らしさと懐かしさに笑いが込み上げてくるが、そんなものを見せた日にはどんな事態になることか。約束の時間が迫ってもいて、俺はその衝動を必死に抑え、掛ける言葉を探した。

「守るって、俺を?」

 ネコは神妙な顔で、黙ってこくんとうなづいた。

「さぶろう、狙われてる…」


 何言ってんだと、笑いそうになったが、すんでのところで踏みとどまる。田貫さんに狙われていたことは伝えてなかったはずなんだが、とにかく、猫はあくまで真剣だ。ここで茶化してはいけない。


「今回は場所も近所だしさ、一度大人同士で話をして様子見てみるから、その後ネコと作戦会議しようよ」

「…」

 涙目のネコが目線を上げる。熊谷ゆかりが俺を狙っていようがいまいが、どうでもいい。俺は勢い畳み掛けた。

「秘密兵器は後から出した方が良いだろ?」

「ひみつ…へーき…?」

「最初から出したら勿体もったいないから、ネコの出番はここぞって時に出すってことだよ」

「…」


 考えた風にしばらく押し黙った後ボソッと言う。

「相手の出方を見るってこと?」

「冴えてるな、ネコ!そういうことだよ!」

 頭を撫でて感心したように言えば、難しい顔のままだったものの、まんざらでもなかったようで、最終的にネコは渋々送り出してくれた。

「ちゃんと、全部報告してよ?」

「了解!」

 一丁前に保護者を気取るネコに元気よく返事をして、俺は待ち合わせ場所に急いだ。



 駅近の、いわゆる純喫茶の奥まったソファ席に彼女はもう座って待っていた。店内の装飾は布面積が多く、なんとなくモッサリとした雰囲気が俺の気持ちに沿うようで、重苦しく感じる

 俺に気づくと彼女は軽く手を上げ、唇だけで笑った。お待たせしましたかと向かい側に座りながら聞くとそれには応えず、コーヒーでいいわよねと白髪混じりの店主に声を掛けた。得体が知れなすぎて、彼女の小綺麗な顔が余計に怖い。


「ねぇ、貴方の可愛がってる,あの子ども、いったい何なの?」

 前振りもなく、開口一番はそれだった。


「え…?えーと…両親関係の友人から頼まれた子どもで…ていうか、何でそんなことを訊くんです?」

 レオ君に説明したのと同じ内容を言いかけて、我に返った。わざわざ呼び出されて話す内容なのか?彼女は何でもないように続けて聞いて来た。

「ご両親といっても、もう亡くなって随分経つんでしょう?なのにそのご友人がわざわざ三郎さんに?」


「はあ、何か貴方に問題が?関係なくないですか?」

 兄の婚約者というだけで、上から目線のまるで職務質問に少し腹を立てつつも、突っ込まれる内容に動悸が走った。

「二郎さんが変だって、どういう関係か聞いてこいって言うから」


 犬神やレオ君であれば、とうにいない俺の両親のことなど、遠慮して詳しくは聞いてはこないと思っていたからこその嘘だったのに。身内がわざわざ聞いてくるなんて想像していなかった。兄たちは俺に無関心だと思っていたし、兄たちに生計を頼っているならともかく、自活している俺の生活に猫がいたところで誰にも迷惑はかけていないのだ。 


「別に変でも何でもないですよ。僕が好んで預かっているだけで、兄たちに迷惑がかかる訳でもないですし」

 俺は努めて冷静を装って何でもないように答えた。こんな話をされるなんて。本当に猫を置いて来てよかったと、心から安堵した。

 それにしても、聞きたいことがあるのなら、婚約者など使わずに直接俺に聞けばいいのだ。二郎兄さんは相変わらず俺とは会いたくないってことなのかと少し、苦しくなる。


「ねぇ、それ本当の話?」


 一瞬何と言われたか分からずに、思考を中断させて目線を上げる。

「え?」

 熊谷ゆかりはやはり口の端だけを上げて微笑んでいた。








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