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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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22 ネコさぶろうを守る(予定)

 

 俺はずいぶん歳の離れた末弟まつていで、2人の兄からはあまり構われず、いつも置いてけぼりにされていた。確かにその頃は寂しかったが、俺を可哀想に思った母親が買ってくれたシャム猫が俺をなぐさめた。シロウと名付けたそいつを4番目の弟のように可愛がり、いつも一緒にいたものだ。シロウも俺によくなつき、思い返せば犬みたいに言うことを聞いていた。母が買ってきた、あのキラキラのスワロフスキーの首輪を着けて。


 そう思うと、ネコのことは歳の離れた弟…そして俺の今の振る舞いは、俺が求めていた兄の姿なのかもしれない…と思わないでも無い。あの頃の俺にこんな弟がいたら、やはり今のようにアレコレ世話を焼いただろう。

 シロウは俺が高校生のときに老衰で亡くなった。当時は随分哀しみに暮れたが、その直後に母が亡くなり、自分が大学に入って新しい生活を始めると、綺麗に日常が上書きされ、それは少年時代の宝物のような記憶となっていった。


 N芸術大学のデザイン学科を卒業して、なかなか就職先も見つからないのにフラフラすることが出来ていたのは、父親が経営する会社のおかげだった。父の所有する不動産に住み、それまでの仕送りのようなものもあり、美食やブランドに興味の無かった俺はそれなりの生活を送れたのだ。

 一番上の兄貴である一郎が事業を継いだので、俺は特段悩むことなく学生時代に与えられた今のマンションに1人気ままに住み、父親が病気で退陣した後は、その見舞いに精を出していた。


 父親は俺が顔を出すと嬉しそうにしながらも、バリバリ働いている2人の兄と比べて、未だ定職についていない俺の行く末を案じて複雑だったようだ。俺としては、面倒を見てくれる母も既にいないのに、いつも人に囲まれていた父が、病院の特別室に1人でいるのが気掛かりで仕方なかったのだ。

 お前はこの先どうする気なんだとたびたび聞かれたが、何とかなるからと曖昧な返事をしていた頃、容体が急変して呆気なく父は逝ってしまった。




 こんなふうに昔に浸ったりなんかして感傷的になるのは、随分と縁をっていた兄貴の婚約者に関わったからかもしれない。あれから熊谷という女性からの連絡はないが、潜在的に気掛かりになっているんだろう。



 そんな折に、事件は起きた。




 その日は昼過ぎから出かけて、夕飯の買い物までしっかりして帰途についた。一足先に玄関に飛び込んだ猫が急にビクッとして立ち止まる。

「ネコ?どうした?」

「知らない人の匂いがする…」

 心底気持ち悪そうに俺の方を振り向いて訴える。

「えぇ…?!」

 すわ、ドロボウかと俺もビクっとする。

「ま、まだ居る…?」

 猫の肩を掴んで思わず尋ねると、猫は俺の手にその小さな手を重ね、「大丈夫。もういない」とキランと目を光らせてフッと笑った。その男前おとこまえな態度に、ホッとするよりは狼狽うろたえた自分が恥ずかしくなる。



 ネコいわく、部屋のあちこちで何かを探し回っていた感じらしい。確認したが、通帳やいくらかの現金を入れている引き出しには手付かずだった。

 ここに15年近く住んでいて初めてのことでショックを受けたが、ネコが来る前まではほぼゴミ屋敷だったのだと思い至って、そりゃそうだよなぁと頭をいた。相当情けない顔をしていたんだろう、ネコは俺の手を引いてソファに座らせ、膝に手をかけて言った。


「さぶろうのことはネコがちゃんと守るから大丈夫だよ」

「ネコ…」

 こんなことを言わせてしまうなんて、人間の大人として不甲斐なさ過ぎる。

「ありがとなぁ」

 苦笑しながら頭をなでなでしたが、気は晴れない。猫の言うことが嘘ではないにせよ、痕跡も無いのでは警察に届けることも出来ず、得体の知れないモヤモヤだけが胸中に残った。


「さぶろう、ほんとうにそう思ってる?ネコのこと見くびらないでよ?!」

 おでこがくっつくかの勢いで俺の膝上に乗り出して、猫は少し怒ったふうに言うので面くらった。


「猫のこと、見くびってなんかいないよ。最近情けないとこばっかり見せてるし…俺の方が大人なんだから、しっかりしないとな?反省中なの」


 眉根を寄せてそう言うと、猫の溜飲りゅういんは下がったようだった。

「そっか…反省中かぁ…」

 ぴょこんと膝から降りると、笑顔でくるりと振り向き「ネコ、コーヒー淹れたげる」とキッチンに向かった。

 軽くなった膝の上に肘をついて、鼻歌を歌い始めたネコを眺める。


 胸のモヤモヤが少しだけ小さくなった気がした。

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