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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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21 さぶろう警戒する

 

「大山田 三郎さんですよね?」

 インターホン越しに確認すれば、きちんとした身なりの美しい女性である。なんだ?保険か新聞の勧誘かと身構えて黙っていると

「私、大山田二郎の婚約者で、熊谷くまがいゆかりと言います」

 久しぶりに次兄じけいの名前を聞いてギョッとする。その婚約者が俺に何の用事があるというのだろう。先程とは違う、更なる警戒心で恐る恐る扉を開けた。悪い予感しかないが家を把握されていては、ここで無視したところで問題を先送りするだけだと観念した。


 俺が熊谷さんを居間に案内すると、さっきまでそこのテーブルで漢字の書き取りをしていた猫は居なくなっていた。気配を察して寝室にでも行ったのだろう。


「彼女でもいるの?」

 ソファに座り、足を組みながら熊谷さんが言う。

「いえ、居ませんけど」

「あらそぉ。男1人で暮らしてるくせに、きちんとしてるのね」

 猫が整えていてくれているおかげである。それは自分の役目だと、部屋の掃除やら洗濯やらを使命感に燃えてやってくれている。


「お茶かコーヒー、飲みますか」

「コーヒー、いただこうかしら」

 社交辞令で聞いたのだが、彼女は遠慮しなかった。

 …まぁいい。コーヒーメーカーに残っていた、朝の飲みかけのコーヒーをカップに注いだ。

「インスタントじゃないんだ、ふぅん。」

 何だろう…さっきからの、この上からの探られ感。下腹のあたりが,モヤモヤする。

「それで、今日は()()何の御用ですか」

 俺にできる精一杯のイヤミを込めてみた。

「こないだの展覧会で見掛けたのよ。昔と雰囲気が随分違って驚いちゃって、声かけようか迷ってるうちにいなくなっちゃって。」

「はぁ…」

 どこに驚いたのかと突っ込みたくなるくらいフラットなモノ言いにぼんやりと答える。しかし、昔といっても何処で見られたんだろう。両親が他界してからのゴタゴタが終わって以降、兄貴たちとは一度も会っていないのに。


「確認したらやっぱり貴方だった。一郎さんや二郎からもいろいろ貴方の話を聞いてたのだけど、印象も暮らしぶりも随分違うのね。羽振り良いじゃない」

「はぁ…それが何か…」

「親戚になるのに、何も知らないのも変でしょう?挨拶したいなと思ってきたのよ」

 今まで全く接点がなかったのに急に距離を詰めてくる方がよっぽど変ではないのかと思ったが口には出さなかった。ずっと会ってもいないのに、兄貴たちは俺の何を言っていたのか…どうせ、碌でもないことには違いないだろうが。


「さぶろう!」

 突然扉を開けて猫が入ってきた。

「まだ行かないの?!」

「へ?」

「え…誰?!」

 俺もうろたえたが、彼女の驚きようの方が凄かった。

「映画に行くって言ったじゃない。忘れちゃったの?」

 腰に手を当て、小首を傾けながら言う。ピンと来た俺は、猫に話を合わせて腰を浮かしながらわざとらしく時計を見た。

「あ、ああ、そうだった、もうそんな時間だったか」

 彼女は俺と猫を交互に見て、何を言うべきか迷っているのが見てとれたが

「タイミングが悪かったようね、また改めて伺うわ。彼のこともまた聞かせてもらうから」と捨て台詞のようなセリフを吐いて立ち上がった。次回はアポを取るからと強引に連絡先を聞き取って去っていった。


「また来るの?あの人」

「考えたくないな…」

 自然と眉間に皺が寄る。こめかみに手を当てて長いため息をついた。

「ふうん…ネコ、あの人好きじゃない」


 ネコが俺と出会う人達の中でそんなことを言うのは初めてで驚いた。まぁ、でも確かに俺にとっても、兄貴たちの知り合いというだけで鬼門だ。悪い予感しかない。気分を変えたくなって提案した。


「さてじゃあ、映画でも行く?」

「え?」

「楽しいことでもして、気分転換しない?本当に俺たちが出掛けないか、あの人が見張ってるかもしれないしね」

「行く行くー!!!ネコねぇ、映画じゃなくて水族館行きたい!!」

「いいね、俺も映画より水族館の気分だな」



 俺は笑顔で買ったばかりの車の鍵を握った。


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