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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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19 さぶろうファンに会う

「本当に…、先日は美穂先輩が多大なるご迷惑をお掛けしてしまって、なんとお詫びしてよいか…」 


 本来の打ち合わせのため編集部に来た俺への第一声はそれだった。目の前の、肩をすくめた犬神はうなだれすぎて、捨てられた子犬のようだ。犬神が謝るのはお門違いとはいうものの、田貫さんに無意味に何度も呼び出されたことを思うと苦笑いするのが精一杯である。


「あの人は昔から肉食で…」

「にくしょく…」

「狙った獲物は逃さないというか…」

「えもの…

 …え??

 まさか、俺を狙ってたってことですか?」


 下を向いていた犬神は顔を上げ、信じられないという表情で俺を見た。

「本気で言ってます?」

「へっ」

「狙われてましたよね?キッ…キスもしたんですってねっ?!」

「えぇっ?!」

 思わず口を抑える。

「…見たの?」

「聞かされましたよ…私のことも女として意識されてないとかなんとか言われたし…こんなに鈍感ならもう仕方ないですよね…」

 最後の方はブツブツ呟いていたので聞こえなかったが、ちょうどドアが開いて、犬神の上司が他の出展者を連れて会議室に入って来たので、聞き返すことも出来なかった。曖昧な記憶に動揺している場合ではない。打ち合わせに集中しなければ…。


 会場手配やら告知やらの雑務は会社がやるので細かいことは分からないが、展覧会といってもあまり大々的にはやらず、今回は実験的にこじんまりとやるらしい。10人ほどの参加から始めて、上手くいけば次第に規模を大きくしていきたいとのことだった。最初に渡された企画書の概要はその程度で、打ち合わせとしては、作家ごとに今後どう売っていくかの方向性も含め、何を出展するかがメインだった。

 俺は現在、挿し絵が主流だけれども、最近エッセイ漫画みたいなのも2冊出した(最初はそこそこ売れたが最近は微妙)ので、こういう場を利用して宣伝するかとか等々だ。

 そういえば、頼まれてCDジャケットも3枚ほど描いた。昔のようにジャケ買いする人もそういないと思うが、アーティストが満足してくれたならそれで良いと思っている。

 犬神には、手元に置くつもりがないなら、幼い時のネコや、猫だったときのネコの絵を少し前にアナログで描いたヤツを出しませんかと言われた。偶然見られたものだが、犬神は大層評価してくれた。提示された額がエグくて、そんな値段で売れるもんなら売ってみようかという気になった。



 家に帰ると猫がお帰りを言いながら匂いを嗅いで来た。

「今日はちゃんと仕事してきたねぇ」 

「筒抜けで怖いよ…」

 いったい俺からどんな匂いが漂っているのか、自分でクンクン嗅いでみたがわかる訳はなかった。猫でこれなら警察犬の能力を侮ってはいけないなと心底感心する。


 ちなみに、田貫さんにあれだけ呼び出されたのに、本当の打ち合わせはその後2回もなかった。なんということだ…。打ち合わせも搬入もほとんど個別だったので、初回以降、他の参加者と関わることもなかった。


 展示会の前日、飾り終わった絵から距離を取って全体のバランスを確認していると背後から声をかけられた。

「大山田先生っすよね?」

 振り向くと、普段全く接点なんぞないであろう、イマドキの若者が立っていた。青寄りの白なのかグレーなのか何とも言えない髪色の、くしゃっとしたボブスタイル、耳にも首元にも指にもたくさんの光り物が溢れている。声は男のそれだったが、スラリとした体型といい、ビシバシのまつ毛にカラコンの入った大きな瞳といい、実は女性かもしれないと身構えた。


「俺、ネコ大好きで。先生のインスタもイラストもバカ好きで!!会えるかもしれないと思ってたんすけど、マジ会えるとは思ってなかったんで!!」

 …男だった。

 彼は興奮したように一気に喋った。


「あ、ありがとうございます…!」

 ファンがいなければ俺の仕事に意味はない。分かってはいたものの、具体的にこうして言われるのは初めてなので素直に嬉しくて、顔が赤くなるのが分かった。


「あっ!俺、LEO(レオ)っていいます!!」

「ああ、あのブースの作者さんですか」

 俺は向かい斜め先の壁面を指差した。俺が来た時にはもう設置はすっかり終わっていたところだった。

「そっす。もともとSNSで細々(ほそぼそ)描いてて。最近自分の写真集出したらそっちも注目されたんで、販促はんそくになるからって言われたんすけど…なんか…俺なんか全然場違いっすよね…恥ずかしいっすよ…」


 ちらと見ただけだが、彼の絵はバランスの良い稚拙ちせつさで、シンプルながらも記憶に残るインパクトがあった。

「そうかな?部屋にちょっと飾りたくなるよ。俺も偉そうに言えないけど、センスあると思うけどな」

「マジっすか?!ヤバ!!めちゃくそ嬉しーんすけど!!」

「これなんか、俺欲しいかも」

 辛うじて猫と分かる線画の手のひらサイズのイラストを指すと、すったもんだの末にいただくことになった。そんなつもりで言ったのではないが、目尻を下げて頬を紅潮させ、モジモジしながら本当に嬉しそうに言うのがネコと重なって断りきれなかった。


「そういえば、猫、今はもういないんですよね…会いたかったなぁー」

「会えますよ、そのうちに」

 何気なく言ってしまって後悔する。

「マジっすか?!あっじゃあLINE交換してくださいよ!」

 このノリ…猿渡さんと同世代っぽい。嫌とも言えずスマホを差し出すことになった。

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