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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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17 さぶろう選ばれる

 用事があって都心に出かけたついでに、温泉の土産を携えて、いつも世話になっている犬神の職場を訪ねた。

 待合室に通された後、カツカツと靴音を響かせて現れたのは、いつかの田貫美穂たぬきみほだった。

「ご無沙汰しております!先生!」

「はっ、あっ…どぉも…」


 フワッと形良くアレンジされたショートヘアから、エナメル革で作られたピンヒールの、突き刺さりそうなポイントトゥの足先まで、まるでファッション雑誌から抜け出たようにキマっている彼女に気圧されて、アホみたいな反応しか出来なかった。

 えーと、あれ?犬神を呼び出したつもりだったのに…

「ちょうどご連絡取ろうと思っていたタイミングでこちらにいらっしゃるなんて、何だか運命的なものを感じますわね!」

「…えーと。はぁ…。」


「あとで犬神からも聞くと思いますが、ウチで出版経験のある、何人かの作家さんや芸能人の方との合同展覧会の企画が通りましたので、お知らせしたくって!」

「はぁ…」

 突然何の話が始まるのかと間抜けた声で相槌をうつ。

「ピンと来てない?先生も参加することに決まったんですよ?!まさか、断りませんよね?!」


 理解するのに少し時間を要した。展覧会…?芸能人…?そもそも何故この話を、担当でもない田貫さんが…??

 固まっていた俺の肩に、彼女の手が這っている。驚いて身じろぎすると、赤く塗られた爪先の光る人差し指の先でキュッと押された。


「もぉ!さぶろう先生ったら驚き過ぎですよ!」

 その仕草にも、至近距離の華やかな笑顔にもたじろいでビクッと身体を震わすと、さらにウフフと笑われた。

「これでまたファンが増えますね!打ち合わせでまた顔を合わすこともあると思いますのでよろしくお願いします。また直々直々(ちょくちょく)ご連絡しますからね!」

「こ…こちらこそ、よろしくお願いします…」

 け反り気味に、それだけ言うのが精一杯だった。放心しかけの俺の耳に犬神の呼ぶ声が聞こえた。

「先生!」

「いぬがみ…?」

「では私はこれで!」

 現れたときと同じような勢いで、にまりと笑いながら田貫美穂は去って行った。若干息を切らして姿を見せた犬神はなんだか焦っていた。



「さぶろうさん、何かされてませんよね?!」


 何かとはなんだ。


「…今度やるという展覧会の話しか、してませんけど…」

「え?!な…っ!」

 途端に苦虫を潰したような顔になる。

「え?俺、なんかした…?」

「いえ…さぶろうさんが気にされることは何一つありませんよ!!展覧会の話、私がするはずだったのに…もぅっ!美穂先輩ったらフライングして…」

 珍しく犬神から仄暗ほのぐらい怒りのオーラが一瞬見えたが、さすが犬神。長い深呼吸の後にいつもの笑顔に戻った。


「…ところで、ご用事があったんですよね?!」

「そうそう、いつもお世話になってるんで、こないだの旅行の土産を渡したくて。忙しいのに、こんな用事で呼び出しちゃってすみません。大したもんじゃないけど、皆さんでオヤツにしてください。」

 話してるうちに犬神の顔はみるみる赤くなっていた。

「えー…嬉しいです!!わざわざありがとうございます…!!」

 足りないと格好悪いからと多目に購入した20個入りの温泉饅頭を二箱、紙袋ごと渡す。


「あの、例のネコくんと一緒に行ったんですよね?良いなぁ、私も行きたかったです」

「まだまだ夏は終わってないから、犬神さんだって、そのうちに誰かと行けますよ」

「…」

 沈黙が気になって目線をあげると、犬神は目をすがめて俺を見ていた。

「ん?」

 こんな手土産ひとつで、そんなに喜んで貰えるとは…と思ったはずだが、一瞬、剣呑な雰囲気が漂った気がした。犬神は二度めの深呼吸の後に仕事の顔に戻った。


「あの、先生・・、もしお時間があるなら、例の展覧会の件で渡したい資料もありますし、打ち合わせしたいのですが、大丈夫ですか?」

 ついでに仕事がしていけるなら、願ったりである。俺は犬神の後について編集室へ向かった。

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