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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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15 さぶろう決意する

 

 ゴッゴッゴッと喉音のどおとを響かせながらジョッキをあおいでプッハーと息を吐いた。

「んマイ…」

 自然と口から出てしまう。目の前の猫はサイダーをチビチビと飲んでいる。以前と違って俺と同じものを飲むだなどの我儘は言わず、温泉宿の客がつどう「お食事の間」の、独特な雰囲気を楽しんでいるようだった。


 温泉場で、猫に連れ回されて全ての風呂に入ったため、極限状態で腹におさめたビールは最高でしかなかった。


「さぶろう!これッおさしみ!!!!」

 お品書しながきどおりに料理は運ばれて来ていたが、おかしら付きの刺身の盛り合わせは大層ネコを興奮させた。その皿がまさか自分のテーブルの上に置かれるとは思わなかったようで、慌てようが面白かった。



「俺の分とかいいから好きなだけ食えよ」

「ホント?!やった!!」

 遠慮の欠片も見せなかった。だが悪くない、本当に好きなんだろう。こんな風に無邪気に喜ぶ姿はむしろ見ていて気持ち良いものだ。海沿いの旅館で出る料理は趣向が凝らしてあって、美味しいものの、ぱっと見の素材がわからないがために、猫には不思議なものばかりだったからかもしれない。

「おいしー」「ンマーい」を繰り返し、ところどころに「ヤバい」という言葉まで挟んだ。なんだか新鮮だ。

 俺も久しぶりの酒が進み、たらふく食べた。



 アルコールのせいで気持ちが上がり、だいぶ陽気になっていたようだ。食事の後、若干ふらつく身体をときおり猫に預けつつ、部屋に戻る道すがらロビーを抜けたところで喫煙所を見つけた。一服している間、玄関の一角にある土産売り場に居てくれと猫に言いおいて、そそくさと向かった。

 長い1日の末の至福のひとときである。フー…っと深く息を吐いて、ほろ酔いの赤い顔を、鮮やかに室内を反射するガラス窓に預ける。ほてった額に冷たいガラスが気持ち良い。我慢してきた甲斐あって美味すぎる。

「あぁ、楽しいなぁ」

 ひとりごちて、回らぬ頭でそんな自分にぼんやりと驚いた。


 部屋に戻ると既に布団が2対敷いてあった。

 幸せを噛み締めながら、フカフカの布団にバタンと倒れる。まさに予想どおりの心持ちである。ンーんと、伸びをしたその瞬間から記憶はない。一日中慣れないことばかりだったが、気持ちは満たされていた。

「ねこ…また来よ…なぁ…」

 そう言えたかどうか。にゃーんと、遠くで聞こえたような気もした。



 朝起きると、浴衣がはだけた俺の腹の上に顔を乗せて猫はヨダレを垂らしていた。

「おい猫、お前そんなところで…」

 声をかけると寝返りをうちながら頬ずりをする。

「ぽよぽよして気持ちいーい…さぶろ…」

「やめろォ!」

 確かに昨日は食べ過ぎた。ガバリと起きて腹をむにむにとつまむ。確かに気になる腹周りではある。横目で睨むが、猫は腹からずるりと落ちたままむにゃむにゃと口を動かして寝ている。

「コイツ…!」

 きよめ餅みたいなほっぺをお返しにつまみながら起こす。

「猫!朝風呂行くだろ?!」

「行くーー!!」



 帰りの車で、何度も楽しかった、また来たいと言う猫に、その度に「もちろんだ」と答える。猫がちゃんと喜んでくれた手応えは、俺に購入を決意させた。車を手に入れたらもっといろいろな場所が身近になるだろう。どうやってサプライズしてやろうか。そんな未来は無意識に、俺を笑顔にさせていた。

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