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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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13ネコ、海を後にする

 

「大したもんじゃないけど海で食べると美味しいんだよなぁ」

 はしゃぐ猫に付き合って、くたびれてきた俺は屋台で遅い昼にしようと食べ物で釣り、砂浜に戻って来ていた。

 立ち並ぶ海の家を、いつかのフードコートのときのように、猫とあれやコレや言いながらふらふら歩いた。猫の熟考の末に焼きそばの店に決め、注文の品が焼きあがるのを行列に並んで待つ。祭りにもずっと行っていないから、屋台特有の、焼き物の香ばしい匂いは久しぶりだ。なんというか…余計腹が空く。


「日本には遊びに来られたんですかぁ?」

 質問されたのは俺なのかもしれないと、さりげなく斜め後ろを振り返ると、答えを期待して待つ表情のビキニ姿の若い女性達としっかり目が合った。俺に話しかけていたのは正解だったようだ。

「え、いや、ずっと住んでます」

 身構えてなかったので思わず答えてしまった。

「へぇ〜そうなんだぁー。どちらからみえたんですかぁ?私たち長野から来たんですよぅー」

「はぁ…」

 どうして話しかけられているのか分からず、そしてどう会話を終わらせて良いかも分からずに間抜けな返事をして固まってしまった。なぜ最初に返事などしてしまったのか、後悔しても遅い。取り巻く環境がだいぶ変わったとはいえ、俺はほぼ一年前まで完全にヒッキーだったのだから仕方ないのではないかと思う。

「さぶろう〜おんぶして」

 戸惑とまどいを察してくれたかのように、会話をさえぎって猫が俺の足にぺたりとくっつき、上目遣いでねだった。

「あらぁ、かぁーわいぃー!!」

「日本語話せるのねぇ」

 その女性の後ろの親子連れまで会話に入って来て俺はひっそりと慌てる。

「何歳なの?」

 ビキニ少女が少しかがんで 猫に尋ねると、猫はプイと横を向いて俺の背中に顔を寄せた。猫の姿の時は愛想良いのに、人間の姿になるととたんにつれない態度を取るのはなんなんだ…と思いながら、話の流れを変えてくれたことには感謝する。

「すいません…コイツ照れ屋さんで…10歳くらいだったかな?」

「くらい?」

「友人の子どもで…何歳だったか曖昧あいまいで…アハハ」

「えぇー?!アハハ」

「おにぃさん、ウケるぅー」


 海水浴場でも猫は人々の目をひいていた。西洋の絵画から抜け出て来たような、見た目は完璧な美少年である。夏の強い日差しはいつも以上に猫のその特徴的な美点を輝かせていた。そんな猫が俺だけに特別懐なついているのは、なんだかこそばゆいような気になる。失礼な猫の態度も、美少年だと「可愛い」になるのか、ビキニ少女ははしゃぎつつ、めげずに話しかけるも、かたくなに猫は俺の背中から離れない。そのうちに焼きそばが焼き上がり、話をうやむやにしてその場を離れることが出来てホッとする。


 焼そばは猫のお気に召したようで、今度は夏祭りにでも行くかと屋台の話をすると、行きたい行きたいと俺の話に興奮した。ワタあめや、焼きリンゴのような食べ物の屋台だけじゃなく、金魚すくいや射的しゃてきなんかも猫にとってはさぞかし刺激的だろう。想像すると俺も楽しくなってきた。

 朝から気合を入れてやって来た海でさんざん運動した後の満腹感に満たされ、2人ともパラソルの下で少しの昼寝のつもりが随分と寝てしまったらしい。



「起きて、ねぇ!さぶろう〜」

 肩をゆすられて目を覚ました時、一瞬何処にいるのか分からずに混乱した。部屋以外の場所で寝起きするのはいつぶりなのか。日のかたむいた、それでもまだまだ強い日差しに目を細めながら上体を起こす。

「日が沈んじゃうー」

 地団駄を踏む猫が愛らしくて、笑いながら眠気を追い払った。もう一度波に軽く乗った後は、波打ち際を貝殻を見つけながら歩いたり、砂浜で砂の城もどきを作っている他の子供達に加わって、遊んだりして過ごした。おにいちゃん、おにいちゃんと猫を慕う女子や、猫のプラチナブロンドの髪を不思議そうに触る小さな子どももいたが、猫は嫌がったり冷たくあしらったりしなかった。

「こどもには人見知りしないんだな」と揶揄からかうと

「こどもには下心なんてないからね」

 と言う。

 どういうことだ。



 砂浜に着いた時間が遅めだったので、パラソルを返したりなんだりしていたら、波打ち際の場所が変わってきていた。


「なんか、海、せまってきてない?」

 俺の上着を掴んで猫が、不安げに言う。

「ああ、満ち潮だな」

「みちしお?」

 猫はコミカルに首をくいくいと傾げた。わかる言葉がふえて、俺が教える言葉が随分減ったと思っていたがまだまだ大人ぶれるなと、俺は分かりやすい説明を少し考えて答えた。

「海ってのは常に動いてて、1日で増えたり減ったりしてるように見えるんだよ。昼間は海の水が向こうにいっててこうして遊べるけど、反対に夜にはこっちに戻ってきて海の水がいっぱいになるから、その前に宿に戻らないとな」

「ふうん…」

 猫は分かったような分かってないような返事をして海を眺めた。

 この時間はまだ大丈夫かもしれないが、フナムシどもがのさばり始める前に帰りたい。名残惜しそうな猫の手を引いて砂浜を後にした。


 初めての海にしては上々だろう。

 この後は初めての温泉宿である。 


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