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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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12 ネコ、海にはしゃぐ

 初めての乗車に目をキラキラさせて猫は興奮していた。シートベルトがなかったら車内を大胆に動き回って危険だったに違いない。しかし俺は残念ながらそんな久しぶりの猫の様子を楽しむことはできなかった。 

 運転をなめていた…。

 特に、高速に乗ってからの運転に集中し過ぎた俺の様子が、いつもと違うことに気づいたのか、猫は途中から話しかけてこなくなった。海が視界に少しずつ入ってきて、猫が「海!」と叫ぶまで、俺はそれにも気づけなかった。

「おお、海だな」

 空に溶けこむうっすら白い水平線がチラチラと輝くのを見て少し感動した。こんなところまで無事に来られたことに安堵し、自分を心から褒めた。


 ようやく目的地にたどり着き、疲労困憊ひろうこんぱいしながらも浜辺に立つ。知らず全身に力を入れていたのか身体中が強張こわばっていた。

「うみーーーっ!!!」叫びながら猫は波打ち際まで走っていった。猫らしいのか子供らしいのか、無邪気な様子に自然と笑顔になる。

「あんまり遠くに行くなよー!!」

「はーい!」

 小さく聞こえてきた声に安堵しつつ、砂浜に荷物をドサリと置いた。ひとまず一服したいと思ったが、最近の砂浜は禁煙らしく断念せざるを得なかった。

 宿でのビールと共に、あとのお楽しみにするかと諦め、途中のサービスエリアで買った炭酸ソーダを飲んで腰を下ろす。

「あぁ…疲れた…」

 猫がいないので遠慮なく愚痴ぐちる。運転に慣れていないので仕方がない。慣れれば高速をぶっ飛ばして走るのは快感にもなるんだろう。


 やっぱり車、買おうかな…。今の俺なら中古のを買えるだろう。毎回レンタカーは面倒くさいしな…。運転に慣れればいろいろな所に自由に行けるようになる。そうやってしばらくぼうっとしていたかったが、夏の刺すような日差しは容赦なくジリジリと肌を焼いてくる。これはいかん。行動を起こすべく立ち上がった。


 レジャーシートを敷き、借りてきたパラソルを立てて場所を作っていると猫が戻ってきた。

「さぶろうー!!海気に入ったよー!!波がね、波がね、あんな風なんだねぇ…」

 いつものうっとりした顔で海の方を眺める。

「おいネコ、日焼け止め塗っとけ」

 ぽいと渡した、ドラッグストアで適当に買ったクリームを開けて猫はしかめ面をする。

「うぇ、なんか変なにおいする…」

「コレ塗っとかないと、パンみたいにこんがり焼けちまうからな」

「ダメなの?パンみたいなの、良いじゃない」

「お前…以前トースターで火傷したろ?全身あぁなるんだぞ」

「え!!じゃあ塗る!!」 

 ビビらせたせいか、手のひらからこぼれ落ちそうなほどひねり出してしまった。

「半分寄越せ。背中は塗ってやる」

 色白のきめ細かいつるりとした背中が気持ちよくて羨ましくなる。うぅ…若さとは…。

 あ、いや、コイツは猫なんだった…


「さぶろうも塗ったげる!」

「いーよ、俺はパーカー着てるから」

「海、入るんでしょ…?」

「…」

 おう、と素直に言えず、渋々了解したという顔を隠すように背中を差し出す。猫は鼻歌を歌いながらペタペタと手を動かした。こんな風に人の手(くどいようだが、実際は猫の手か)で直接触られることって随分無かったな…と、男として少し切ない気持ちになってしまう…。いや、良いんだけどね。別にそんな経験が豊富じゃなくたって生きていけるしさ…



 あらかじめ膨らましておいた浮き輪をかぶり、猫は満面の笑顔で俺の腕を引っ張って海に向かった。

「早く早く!!」


 湿った砂に足がめり込む感覚、打ち寄せる波の音、足裏の輪郭を触るように持っていく波と砂の感覚。

 あんなに億劫おっくうだったのに、いざ海に入れば、幼い頃に楽しく過ごした古い記憶に捕われた。海辺特有の焼けるような乾いた空気に冷たい海水が気持ち良い。ジャブジャブと波を分け入って猫の足が届かないところまで来ると、猫は一瞬不安気な顔になったが、波にさらわれながら浮き輪で浮かぶと興奮して叫んだ。

「お風呂と全然ちがう!!」

「そうだなぁ」

 クッと笑う。自宅の、あんな小さな浴槽と比べるのがおかしかった。よく考えれば、風呂より危険な海で、保護者として猫に付き添わないなんてあり得ない。猫が泳ぎたいと言えば俺も泳がねばならんのだ。浮き輪に付いた取手を引っ張りつつ、大きな波がつくる非日常の浮遊感にしばらく酔った。


「さぶろう!なんかいる!!」

 急に叫んで、思い切り良く浮き輪に両手を掛けて後ずさろうとしたので、猫は頭から一回転するように勢いよく海の中に落ちてしまった。

「!?ネコ?!」

 アワアワと手足を掻くのを慌てて支え救出する。俺の足は海底に着いているのと浮力とでそう大変ではなかった。「大丈夫だったか」と脇に手を入れて引き上げ、浮き輪を被せてやる。

「しょっぱ!!海まっずい!!」

 海水をしこたま飲んだらしくエホエホと咳き込む。目を見開いて「なんか噛まれたんだもん!」と抗議してくるがこんな浅瀬に何かがいるわけもない。

 俺の目の前を絡まりあってぐちゃぐちゃになった海藻が漂っていった。

「お前、コレが足に触っただけだろ」

「!!」

 すくい取ってこんな風だったんだろと足に擦り付けると顔を赤くしてふくつらになった。機嫌を損ねられると面倒くさい。すかさず話題を変えた。

「ネコ、泳ぎ方教えてやろうか?!」



 もう少し考えて言えば良かったと、後で多いに後悔した。

 俺の体力は普通以下だったのだ。すっかり忘れていた…。






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