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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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11 ネコ、さぶろうと海に行く 

 いつものように2人で見ていた朝のテレビは、昨日の海開きを紹介していた。カラフルで楽しげな浜辺の様子が映し出されている。

 俺もぼんやりしていたが、ふと視界に入ったのは、目の前のネコが動きを止め、ぼうと口にパンを入れかけたままから画面を見入っている姿だった。

『…日中は強い陽射しに恵まれ、子どもたちも楽しそうに海辺で歓声をあげていました。さて、スタジオでは…』

 中継がスタジオに戻ると、止まっていた時間が動き出したように、ネコはまたパンを普通に食べ始める。


「ネコお前、海に行きたいのか」

「ぅん?うん…ちょっと行ってみたいかも…」

 モジモジと言う。以前と違って自分の要望を遠慮するようになった。昔の無邪気なネコを懐かしみつつ、(猫にも関わらず)それなりに成長したということなのかと感慨深い気持ちにもなる。


「行っても良いんだぞ。海」

「えっ?!ほんとう?!」

 ネコは全身でビックリしてパンを取り落とした。

「ドライブしがてら行くか?」

「ドライブ?!車で海に行くの?!」

 ネコの顔がパーっと明るくなったのを見て俺の気分は上がった。ドライブするのが数年ぶりなら、海に行くのはさらに10年以上ぶりである。この前から車を何とか運転して何処かにネコを連れて行きたいとは思っていたのだ。


「さぶろうが運転すんの?車あるの?」

「レンタカーで借りて俺が運転する」

 ドヤ顔で任せろと言えば、一気に猫の顔は緩んだ。

「さぶろうはなんでも出来んだねぇ…」

 ふうとため息をついて言う。

 運転なんて大したことではないのだが、ネコにかかると凄いことになるらしい。こそばゆ過ぎる。それよりもペーパードライバーの俺が海って…いきなりハードル高いだろうか…?!


 まぁ、行ったところで、ガチで泳いだりすることなどせずに波打ち際でたわむれる程度だろう。どうせなら海沿いの温泉宿にでも泊まってみるのはどうだろう。一泊するだけで長丁場ながちょうばの運転をしなくてもすむ。そこまでするっと考えて、そのままそう提案してみた。

 久しぶりにネコの目が溢れんばかりに見開かれるのを見た。口からは「ホント?!」と「すごい!!」しか出てこない。俺もなんだか気分が昂揚してきた。仕事の区切りを考え、猫と海に行く日を決める。決行を確実にするために、その勢いのままネットでレンタカーと民宿のような宿の予約までしてしまった。




 カレンダーにマルを付けた約束の日を、猫は楽しみにしていた。図書館でも海にまつわる本ばかり借りてくる。期待はずれだったらどうしようかとこちらが心配になってしまう。


「ネコ、お前海に入る気満々だなぁ」

 念のため、浮き輪と一緒にネットで買ってやったミントグリーン色の水着を、ウキウキと試しに履いている猫に問うと質問を返された。

「さぶろうは泳がないの?」

「えぇ〜、俺はいいよ。結構大変なんだぞ?波があるからな。塩水だし、日差しも強いから結構体力奪われるしさぁ…」

 ブツブツと、元来のインドア派なやる気のなさを披露してしまったらしい。猫がぼそっと言う。

「さぶろう、ホントは海行きたくない…?」

 ハッとして猫を見ると、目を潤ませて哀しげな顔になっていた。そのまま目を伏せて俯いてしまう猫に胸を打たれる。ズキっという音が聞こえたように思った。


「違う違う!!海なんて久しぶり過ぎて心配しすぎちゃってるだけだって!俺だっていろいろ準備いるなと思ってさ…」


「さぶろうネコに無理してない?」

 チラリと上目遣いでさらに言う。俺の役に立ちたいと言っていた猫がフラッシュバックして俺は慌てた。

「嫌なことは嫌って言ってるし、言いたいことは言ってるよ。出来ることしか出来ないしな」

 ネコの柔らかなプラチナブロンドの髪をくしゃくしゃと撫でた。


「俺、猫といろんなことするのすごく楽しんでるぞ。お前こそ遠慮なんかするなよ。俺たち家族なんだからな」

 えへへと笑って猫は俺に抱きついた。

「じゃあ、さぶろうも泳ごうね」

 いつものパターンのような気がしたが、それでも俺は苦笑で応えるしかなかった。

「お前には敵わないなぁ」

 もう一度髪を撫でると目を細めて満面の笑みになった。まるで猫みたいだなと思って気づく。


 コイツ、猫だった…


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