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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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5 ネコvsイヌ

 

 翌朝、猫に無理矢理起こされ、昨晩の残りの粥を食べさせられ、薬を飲まされ、寝かされた。未だ朦朧もうろうとしていたので、なされるがままだった。

 覚醒したのはまたもや昼過ぎで、カーテンの隙間から漏れる日差しのくっきりとした影を床に見つけて悟った。朝飲まされた頓服薬とんぷくやくいたのか、頭は昨日よりもスッキリしている。スマホで時間を確認すると14時だった。猿渡さんから送られてきた不思議なスタンプの画像を見て苦笑し、犬神に返信しようとしていたことを思い出す。あれからだいぶ時間が経っているが、無視しているより良いだろう。ベッドから上半身を起こして画面をタップした。


『ご心配をおかけしてすみません。ちょっと熱を出して寝ていました』

 明日には回復出来そうですと返そうとしたら電話が掛かってきた。話をするまでも無いと思っていたのに、画面に触れていた指が通話ボタンを押してしまっていた。


『さぶろうさん?』

「あ、どうも。わざわざ電話、すみません…」

『いえ、こちらこそ体調悪いところに電話してしまったかも…でも、何か出来ることでもあればと思って…』

「ありがとうございます。でも明日には回復出来そうなんで、大丈夫ですよ」

 寝室の話し声が気になったのか、猫が部屋を覗きに来た。電話してるからというジェスチャーを送ると、途端にムゥと頬をふくらまして不機嫌な顔をする。寝てなきゃダメなのに…!ということだろうが仕方ない。


『一応今週末締め切りのイラストがありましたけど、来週頭まで延ばせるようにしておきましょうか…そこまでしか延ばせませんけど…』

「いえいえ、大丈夫です。間に合わせられると思いますから。心遣いありがとうございます」

『無理しないでくださいね、全然苦じゃないんで、何か欲しいものあれば持っていきますよ。お一人だと何かと大変でしょう?』

「…」


 本当に…犬神は不思議と鋭い。

 猫の存在など知らないはずなのだが… 。やぶのなかの蛇を突つく必要はないだろう。

 猫のことは言わず、シンプルにお構いなくと伝え、わざとらしく咳をして『お大事に』と言わせて電話を切った。



 再び眠りについた後の夢ごこちの状態で、何やら押し問答のような会話が聞こえていた。うるさくてウゥンと寝返りをうって、ハッと目を見開く。慌てて部屋を出て玄関を覗くと、そこにはやはり犬神と猫が向かい合っていた。


 あぁもう、来なくて良いと言ったのに…!!


「さぶろうはねてます」

「ちゃんとかんびょうしてますから大丈夫です」

「病院もいきました」

 淡々と説明する猫に、猫が一体誰なのかも分からないであろう犬神はタジタジだ。突然現れた、日本語を流暢りゅうちょうに話す金髪翠眼の美少年をどう思っているのか…。胸の中で大きくため息をついた。出て行くと猫の説明からせねばならんだろう…そう思うと足が進まなかった。

 出たとこ勝負で答えたくはない。考える時間が欲しいが、ただでさえ今は頭が働いていないのだ。やまいで気が小さくなっているせいもあったかもしれない。

 廊下の陰でひとり唸っているとネコのピシャリとした声がした。


「さぶろうのお世話はオレがしてますから!」


 あ、猫、おまえ…オレって言うんだ…


 人の家のことだし、俺と話が出来ないとらちが開かないと犬神も観念したようだった。

「あの…じゃあ、コレいろいろ揃えておいたので、さぶろうさんに渡してくださいね?」

「ハイ、渡しておきます」

「よろしくお願いします…。お大事にとお伝えください…」


 猫は仁王立ちしたまま、犬神が完全に玄関の扉を閉めるのを見届けてから、感心したことに、ちゃんと鍵をかけた。振り向いたところで、廊下の先に隠れていた俺と目が合う。


「さぶろう!起きてて良いの?!」 

「だいぶ良くなったよ…犬神、なんか言ってた?」

 ピクリと顔を上げて、猫はつっけんどんに答える。

「おみまいもらったよ、コレ。お大事にだって」

 かかげたスーパーの袋にはスポーツドリンクや、喉越のどごしの良さそうなスイーツがいくつか入っていた。買い物はさすがに猫に頼めなかったので、ありがたい。家にまで来てくれる心遣いに正直頭が下がった。


「ネコ、どれか食べるか?プリンとか入ってるぞ」

「いいの?」

 猫はリビングのテーブルに商品を袋から取り出して並べ、文字を読みながら吟味ぎんみし始めた。俺は微笑ましくそれを見ながらまだ少しふらつく身体を支える。

「ネコと一緒にそれ食ったらまた寝に行くよ、薬も飲まなきゃいかんしな」

「やっと、さぶろう顔色良くなったね!チョー変だったもん」

「面倒かけてすまなかったなぁ、猫がいてくれて本当に助かったよ」

 背は高くなったがまだまだ小さな猫の頭をぐりぐりと撫でる。


「ソレされるの…好き」

 ぺたりと脇にくっついて、うっとりと言う。猫のときの毎日の日課…というか、あの時は暇さえあればわしゃわしゃ撫でていた。人間の姿だといろいろ意識が変わる。だいぶ猫も成長してしまったから、肩に担ぎあげたり、抱き上げたりもできなくなってしまった。スキンシップが足りてないのかと胡座あぐらをかいた上に猫を乗せてさらにぐりぐりしてやる。

 笑ってはしゃいでいた猫がすんと鼻を鳴らした。


「あ、俺、臭い?汗いっぱいかいたのに、ずっと風呂入ってないしな」

 1週間入らないのもザラだった、猫と暮らす以前に比べたら大したことでもない。そんなことないよとか、気にならないよとか言ってもらえるかと思ったら

「さぶろうのにおい、いーいにおい!!ネコこの匂いも大好き!!」

 そう言って猫は陽気に笑いながら後向きに抱きついてきた。獣の本能的なものだろうが、斜め上の反応に俺は思わずの赤面だ。



「…猫には敵わないな…」



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