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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
人間になったネコ

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4ネコ、さぶろうを看病する

 

 平日の中途半端な時間だったので、思った通り診察にもそう時間がかからず、隣接された薬局でもスムーズに薬を受け取ることができた。医師には疲労が原因だろうと言われたので、まずはホッとした。インフルエンザでなくて本当に良かった…。とは言え待合室にいる間に熱が上がり、問診票に記入する時分には38度を越えていた。数年ぶりの高熱は老体にこたえる…


 熱でぜぇぜぇ言いながらも、なんとか我が家へ帰ってくると、脱ぎ散らかしたベッド回りは綺麗にされており、なんと粥まで作ってあった。


「ネコ!お前がコレつくったのか?!」

「いいから、さぶろうは早く寝て!」

 背中を押されて寝室に追い立てられ、布団に入るところまでしっかり見届けられた後に、なんだかもったいをつけて、ネコは湯気のたつ粥をお盆に乗せて持って来た。食欲はなかったが、朝から何も食べていなかったし、ネコのつくった粥には興味がある。


「はい、アーンして」

「?!」

 ネコはおもむろにスプーンにすくった粥をふうふうと自ら冷まして俺の口元に持ってきた。

 いろいろ思うところはあったが、とにかく熱で朦朧もうろうとしている。何を突っ込こむべきかまとまらず、面倒臭くなってモノを言うのは諦め、俺は目を閉じてかぱりと口を開けた。程よい温度の米が突っ込まれる。

 味はない…。だがなぜか腹に染みた。

 口を開けるだけで食べ物が入ってくるのは良いもんだなと思ってるうちに、俺はどうも食べながら、すうと寝入ってしまったようだった。



 再び目を覚ました時は夜中だった。

 サイドテーブルにスポーツドリンクと水、貰ってきた薬が置いてある。ネコの気遣いにまた泣きそうになる。とりあえずコップの水を飲み切ってトイレに向かう。まだ頭がクラクラする。そういえば頓服薬とんぷくやくは飲まなかった。

 リビングのソファの上に、昼に帰ってきた時のジャケットがそのまま置いてあった。ポケットの中のスマホを取り出すと電源が落ちている。

 ワークスペースのパソコンの電源をつけるのと同時に充電する。青白い光源が部屋の中にともった。ブーンといってアイコンに数字がつき始める。それを横目で見ながらパソコンのメールをチェックした。仕事関係で急ぎのものは無さそうだ。

 スマホを確認すると、相変わらず猫のインスタには「良いね」が増えていて苦笑する。もうずっと更新していないというのに。

 LINEには犬神からのメッセージがあった。連絡がつかないので心配していますという内容のものだ。深夜の2時だ。明日の朝にでも返信すれば良いかと画面を閉じた。


「さぶろう!!」

「!!」

 突然名を呼ばれてビクッととする。寝室に続く暗いままの廊下から、色白のネコがこっちを睨んでいるのが不気味で、俺は悪戯をとがめられた子どものように固まってしまった。

「もお! お仕事より、ねなきゃダメでしょ!!」 


 正論だ…。猫に説教されるオッサンかぁ…。

「だいぶ良くなったよ、ネコのお粥のおかげかなぁ」

「まだ、顔、変だもん!」

 腕をグイグイと引っ張られ布団の中に戻される。前は一緒に寝ていたが、猫が大きくなったのを機にベッドの脇に小さめの布団を敷いて(コレも新たな出費だった)そこで猫は寝ている。

 ハイハイと答えて寝ようして身震いした。汗をかいたまま部屋を出歩いて冷えたのか、背中から寒気がする。

「ほらぁ!もぉ〜」

 俺が腕を擦り合わせるのを見てネコは声を荒げ、だが、新しい部屋着をプラスチックケースから出してくれる。

 ネコは甲斐甲斐かいがいしかった。

 服を着替えて布団に潜ると、思い出したように頭痛がしてきて目をつむった。ペタと、冷えピタが貼られたのがわかったが、身動きも出来ずにそのまま俺はまた眠りに落ちた。



 猫が居なければ無理して働くことも無かったが、病で心細いときに自分をいつくしむ暖かな手があるという、今まで感じたことのない充足感に満たされた。毛皮のモフモフを触れないのは寂しいが、それ以上の安らぎに触れていた。同じように癒されている。

 本当に、あのボロ切れのような小さな生き物がこんな風に自分の人生に関わってくるなんて思いもよらなかった。


 目を閉じた闇の中で猫に感謝しながら意識を無くしていった。

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