1 ネコ、再び
それにしても突っ込みどころが満載である。
「まず、その首輪は一体どうしたんだ?」
十中八九、それのせいで猫から人の姿になったに違いなかった。
「コレ?イヌがつけていったんだよ。サプライズっていってた。てがみつきだよ」
言われて見ると猫の背中側に、紐で結え付けてある手紙が垂れていた。それにしても猫よ、相変わらず犬神のことは「イヌ」なのか…。
「犬神は、お前の、その姿を見なかったのか?」
「首輪つけて、すぐにさぶろうとでていっちゃったから、みられてないよ」
「そうか…」
ふうとため息をつく。良かったのか、悪かったのか…いやしかし、犬神、知らなかったとはいえサプライズが過ぎるぞ…。手のひらサイズの小さな封筒を開けるとカードのような便箋が入っていた。仕事では常にメールなので、犬神の書く文字は初めて見るかもしれない。犬神らしい几帳面で美しい文字が並んでいる。
『お誕生日おめでとうございます♡
ちょっと可愛い首輪を見つけたので…
いつも猫ちゃんを可愛がっているさぶろうさんに…
といいつつ猫ちゃんにプレゼントですね。
今後もおつきあいくださいね!
素敵な1年になりますように♡ あいり』
えぇ〜……
俺、そうか、誕生日だったか…。
何年も一人で過ごしてきたので全く意識していなかった…。手紙をみて呆然としている俺に猫が問う。
「なにがかいてあるの?
ネコ、じがよめるようになりたいな。そしたらこのてがみ、よめるでしょ?」
俺は顔を顰めた。
「人の手紙なんか読むもんじゃないの」
「だって、イヌがさぶろうになにいったかわかんない」
「いやいや、わかんないことがあったって良いだろう」
全く悪ぶれずにシレッと言うので、呆れてそう言うと驚いたことに猫はちょっと目を潤ませた。
「ネコ、さぶろうのやくにたちたいのに…」
上目遣いでそう呟いた猫に、俺は雷に撃たれたようになった。心臓が掴まれるいうかなんというか、健気さに感動したとでも言うのか、情けなくも涙ぐんでしまった。
「ねこぉ…お前…」
抱きしめて後頭部を優しく撫でかけて、猫が素っ裸なのに改めて気がついた。服を着せないと…ということは、また服を買うのか…。仕方ない。コイツをあの夜中に拾って来てからこういう運命だったのだ。
「とりあえず中に入ろう」
こんな格好のまま、玄関で話すのは忍びない。
以前はワンピースだったが今はチュニックくらいのブカブカさの、俺の服をとりあえず着せ、リビングのソファに座って仕切り直した。
「もっかい聞くけどさ、猫、お前は本当に猫なのか?」
「?」
猫はピョコと小首をかしげた。なんだろう、以前は可愛いだけだったのが、若干の色っぽさを醸し出しているようにもみえる…。
「地球外生命体とかさぁ…違う星からきた生物じゃないかなーとか、ちょっと思ったりしてな…。」
「ちきゅーがいせえめーたい…?なにそれ?」
「お前、子猫だったときより前のこと覚えてない?俺が拾い上げる前はどうしてたんだ?」
「しらなーい」
即答にがっかりするが、俺だって赤ん坊の頃含め、それより以前の事など覚えてなんかいない。突然変異の猫なのか、以前猿渡さんが言ったみたいに、半分猫又みたいな妖怪なのかもしれない。だからと言って、得体の知れない猫のことが怖いわけでも嫌になったわけでもなく、もう既に多分な情が移っていて、このまま別れてしまう方がよっぽどストレスだった。猫が俺に全幅の信頼を寄せて全身で懐いてくれているのを知っている。猫の最期まで一生面倒みてやろうと曇りなく思っている。
しかし、小学5.6年生くらいに成長してしまっているこのネコを、今度はどう皆に説明すれば良いのか…。あの、3歳児くらいだった子どものネコや、動物の猫の姿のネコに引き続き、また友人から預かっただという言い訳が有効だろうか。しかも、またネコって呼ぶのか??
いい加減名前を考えるべきのような気がする。
「困ったなぁ」
「さぶろう、なににこまってる?ネコ、ねこのままのほうがよかった?」
悲しそうにそう言う猫に、苦笑いしながら違う違うと、猫の髪を撫ぜた。
「お前が可愛すぎるのがいかんなぁ」
「かわいいの、だめなの?!さぶろうみたいにシブいほうがいい?!」
「えっ、俺渋いの?!」
「イヌもタヌキも、こないだそういってたよ」
「おまえ…」
犬神も田貫さんも猫にかかるとアニマルなんだな…
「じゃあ、猿渡さんのことは、サルか…」
「だめかな?」
「本人の前ではやめておけよ」
急におかしくなって俺はハハと声を出して笑った。猫はキョトンとしている。そんな猫の頭をぐりぐりと捏ね回した。
「ホントに、お前は可愛いなぁ!!」
猫は顔を赤らめて嬉しそうだ。可愛いと褒めると嬉しそうなのは、猫のときと同じで余計に笑えてくる。
「とりあえず、晩飯食って風呂入って寝るか!設定は明日の朝考えればいいさ。俺のキャパも今日はもういっぱいだからな」
Amazonで猫の衣服を注文してから、その夜は久しぶりに2人、ベッドで眠った。




