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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ

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24 さぶろうもバズる

『例の猫ちゃんのインスタ、凄いことになってますね』

「はぁ、まぁ」

 いつの間にか俺の膝の上で遊んでポーズをする猫に、電話中だぞというジェスチャーをしながら犬神からの電話に曖昧な返事をしていた。

『それで…実は、編集の方で、その効果を宣伝に使えないかって言われてるんですよ』

「へぇ…ぅえっ?!」

『具体的に言いますと、猫ちゃんと一緒の写真を撮って、インタビューに答えてもらうという、うちの女性誌部門の企画に参加していただきます』

「お、俺?!ただの絵描きだよ?!」

 思わず素が出てしまった。急に姿勢を正した俺に猫がビックリしている。

『謙遜は良いんです!!大丈夫です!さぶろうさんは格好良いですから!!』

 力強くそんなお世辞を言われても…

『個人的には色々思うところもあるんですけど、それはまた先生・・と改めてお話しするとして、本の売上に貢献するんで是非前向に考えていただきたいんです!』

 考えていただけないでしょうか…ではなく、いただきたいというところに圧を感じる。

『つきましては、来週いつでも良いんで、猫ちゃん連れて会社まで来てください!』

「…」

 えぇ〜…。

 俺が逡巡している間に、『お願いします!!』という捨て台詞で電話は切れた。思うに犬神も切羽詰まっているのだろう。俺に仕事を都合してくれた犬神には大いに恩がある。が、しかし。

「なぁ、ネコ

 お前、雑誌デビューするの、どう思う?」

「んニャ?」

「反対ならチュール、賛成なら…」

 えーと、何にしよう…と目だけでキョロキョロと部屋の中のものを探していると、頬をザリザリと舐められた。

「マジ?」

「にゃ」(マジ)

「マジか…」 

「うにゃん、ニャニャー△○!ニャ# ※ # @ &※…」

 何かを訴えようとし過ぎてよく分からない鳴き声になっている。

「とりあえず出ろって…?!」

「ニャーオ!」

 力強い肯定を貰ってしまった。猫の言うことなら腹を括るか…?女性雑誌の中に自分の記事がたった1枚あるだけで、生活に影響があるのではと思うのは自意識過剰なのかもしれない。情報社会のこの時勢に生まれては埋もれていく記事…しかもこんな三十路のおっさんの、である。  

「犬神への恩を返すつもりで、気軽に行くか!」

 猫を抱き上げて、髭を剃ったばかりの顔を擦り付けた。



 早い方が良いと、次の月曜日に地下鉄を乗り継いでくだんの建物にやって来た。さすがに猫はキャリーバックに入れている。子どもの姿のときも乗り物には大人しかったので心配なく連れて来られた。そもそもGOサインを出したのは猫である。

 受付で名を名乗り、指定されたフロアに着くと待ち構えていたスタッフ?に部屋に案内される。

「聞いてたとおり、こりゃえるね、そこに用意した服に着替えてもらえる?準備できたら呼んで!」

 カメラマンらしきその人がせかせかしているのか、現場がいつもこうなのか、間髪入れずに追い立てられて慌てて着替える。

「あの、着ましたけど…」

 ピリピリした雰囲気にビビりながら、部屋から顔を出して覗くと、別の女性スタッフに引っ張り出され、顔を触られ、髪も整えられた。

 猫はキャリーバックから出した後は自由にさせていたが、さすがに俺の側から離れなかった。俺が顔を触られているのを鏡台の上からじっと見ている。さぶろうだけ?ネコはやらなくてもいいの?とでも言っているようなその視線に、気まずい思いをしていると、溌剌とした態度とアナウンサーのような美声の、絵に描いたようなキャリアウーマンが現れた。

「大山田先生、今日はよろしくお願いいたします!担当させていただく田貫たぬき美穂と申します!準備よろしいでしょうか?」

「…はい、よろしく…お願い…します」

「んニャン!」

 …猫の方が元気が良い。


 先ずは見開き用にと連れて行かれたスタジオで何枚か写真を撮った。猫を膝に載せて最初のポーズを取ると、カメラマンから指示が出る。


「首をこちらに向けて!あと数センチ、ハイストップ、顎引きましょう!もっと口角上げてー!もっと口角上げて、もっと!もっと、いやニコって笑いましょうか…!はい良いですよ!あ、猫ちゃんの顔もっとこちらに向けられますか?もう少し、はい、そこでストーップ。写しまーす…!!」


 何故か猫は堂々としたもんだったが、こんな感じで延々と繰り返され、俺は目を白黒させてついていくのが精一杯であった。

 その後、部屋を移動して待合室というか、喫茶のないラウンジのようなスペースの一画で、田貫さんから記事用にいくつか質問された。

 イラストレーターになったきっかけとか、仕事の内容とか、猫との馴れ初めとかどんな芸をするのかとか、俺が回答に詰まるとこういうことですか?こういうことなんじゃないですかとフォローしてくれ、滞りなく進行していった。


「…じゃあ、最後に先程言ってた芸を実際に見てみたいのですが、よろしいでしょうか」

 どうする?と猫に視線で問うと、ニャンと胸を張る。


 お座り、

 お手、

 伏せ、

 伸び、

 しっぽクネクネ、

 ちょっと歩いて振り向いてニャン、

 言った通りに猫が次々にポーズを取っていくと、最初、腕を組みながら見ていた田貫さんはだんだんと身を乗り出して来た。唖然とする彼女のそんな態度に気を良くしたのか、猫はスマホを出せとばかりに、俺の尻ポケットをたしたし叩いてナァンと鳴いた。

「ネコ?スマホ触ってるとこも見せたいのか…?大サービスだな。でもゴメンな。俺、控え室にスマホ置いて来ちゃったんだよ」

「ンナァーア…」」(ンもう、さぶろうはぁ…!)

 不満気に猫は低く唸った。 

「なんか、会話が成立してるみたいですね、いつもこんな風にお話してみえるんですか?」

 田貫さんがインタビュアーの顔を外して尋ねる。

「1人もんなんで…ついつい会話しちゃって…。でも確かに、独り言より恥ずかしいですよね、アハハ」

「あら、独り身なんですか。なかなか1人に絞りきれないってところですかね?」

「まさか!俺と遊んでくれるような、奇特な女性はいませんよ」

 本当にこの業界人達は、ひとを持ち上げるのが上手い。

「うふふ、じゃあ私と今度遊びませんか」

「え…」

 紅く色付いた唇で緩やかに笑う田貫さんとしっかり目が合ってしまい、どう返答していいかわからずに顔を赤らめてドギマギしていると、パーティションの向こう側から犬神が顔を覗かせた。

「あ、犬神さん」

「先生っ!!今日は本っっっ

 とうにありがとうございましたっ!!!!」

 声を掛けるとサッと出てきて、頭を床に打ち付けるのではないかという勢いのあるお辞儀で挨拶された。顔をあげた彼女の目はうるうるしている。

とうと…ウっ」

 そして、何かをつぶやかれた。 


「あら、犬神の担当作家さんだったの」

 話しかけられて田貫さんに気づいた犬神は驚き、そして少しバツが悪そうな顔をした。

「えっ、今日美穂先輩だったんですか?」

「そォよ、急遽駆り出されたんだけど、予想外のイケメンと面白い猫ちゃんに会えて良かったわ!」

「そ…そうですか…」

 なんだか犬神がオドオドしているようにも見えたが、インタビューは終わったということなので、2人が話している間に控え室に戻って衣装を着替えた。何故か俺についてくるのを嫌がった猫が気になって、慌てて廊下に出ると、猫と共に2人とも待ってくれていた。

「貢献できるよう気合い入れて載せますので、期待していてくださいね!大山田先生、本当にお疲れ様でした。今日はありがとうございました!また掲載のことでご連絡させていただきますね!!」

 田貫さんは俺の手を握りながら朗らかに滑舌良くそう言い、ではまた!と、ハイヒールをカツカツいわせて去っていった。


「ホントに、お疲れ様でした…!!」

 犬神からも改めて挨拶されたが、あんまり言われるのも恐縮である。俺が何かする前に全てが流れるように済んでいったのだ。

「いや。まぁ、俺も良い経験だったよ…。うん。 犬神さんも、わざわざ様子見に来てくれたんでしょ?こちらこそ、ありがとう」

「いえ、お願いしたんですから、当然です!…あの…。あの、またお家に伺っても…?」

「大したもてなしは出来ませんけど、まぁ、また猫を構いに来てくださいよ」

 お互いに笑いあっていると、猫が俺のすねかじり始めた。

「んニャーぅ」

「イテテっ、あぁ、もう帰りたいんだな、猫の出番減らされちゃったしな、帰ろっか。」

「ニャン」

「本当に、お利口な猫ちゃんですよね。さぶろうさんの言ってること、全部分かってるみたい」

「んなぁ〜ウ」(あったりまえじゃん)

 犬神の言葉に猫は目をすがめて鳴いた。



 後日。

 田貫さんが任せてと言っただけあって、献本けんぽんされた紙面を見ると、本当に俺なのかと二度見するくらい爽やかな青年が、猫と共に微笑んでいた。記事も随分持ち上げてあって、非常にこそばゆい思いをしたが、犬神曰く、誇張でもなんでもありません!人にはこう見えてますからと、いつもの調子で慰めてくれた。

 確かに宣伝効果を考えれば盛り過ぎくらいが良いのかもしれない。嘘は書かれてないし、写真も捏造まではいってない。モヤモヤした気持ちにはなったが、どうすることも出来ないので納得するしかなかった。



 …まぁそれで、俺も結局バズったのである。

 

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