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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ

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22 さぶろう怒られる

「イイね!」はそこそこで、フォロワー数が伸びないのが悩み…とはいえ、自分だってイラストをインスタで紹介しており、それで細々と商売だってしているのだ。猫がスマホで遊んでるだけの姿の閲覧がみるみるうちに増えていくのは複雑な気持ちだった。

「お前、人気者になってるぞ」

「フスー…ンなん、んにゃん」(それよりごはんたべようよ)

「…」

 タタっとキッチンの方へ走っていく猫をノロノロと追った。


 猫がキャットフードを食べるようになってからの朝ごはんは相も変わらず食卓で、俺はコーヒーだけにしていた。パンでも食べようものなら猫が自分も自分もー!と言ってくるに違いないからだ。テーブルに皿を用意してキャットフードをのせてやる。2人で始まる朝のルーティンを変えたくはなかった。


 そのまま、朝のニュースをなんとはなしに見ながら2杯目のコーヒーを飲んでいると電話が鳴った。

「犬神さん」

 猫の耳がピクリと動いて、俺の膝の上にのってきた。

「ンにゃん」(さぶろー)

 ゴロゴロ…

 いつになく膝の上に乗り、喉までならして猫らしく甘えてくる。はぁ、なんと愛らしい生き物なんだろう。声が聞けなくて寂しくはあるが、自分に懐いてくる猫は可愛いくてしようがなかった。

『私の話、聞こえてます?』

 ハッと我に返ってハイ、聞こえていますと言う。 

『なので、そちらに用事があるので帰りに寄って直接資料をお渡ししても大丈夫ですか?』

「わざわざすみません…。ウチは何時でも大丈夫なんで。」

『多分16時を過ぎると思いますが、よろしくお願いします』

 久しぶりに新しい仕事の話らしい。ネコが猫に変わってしまってから、犬神とは直接会っていなかった。

「んな〜」

 猫が仰向けになって俺の腹に顔を擦り付けていた。

「おぉ、よちよち」

 脇に手を入れて抱き上げ、俺も猫の顔に頬を擦り付けると、肉球でブロックされた。猫の毛並みは気持ちが良いのに、俺の髭面は不快らしい。

「髭剃ってこいって?」

「んニャン」(そうよ)

「こいつ〜!」

 そうは言いながらも俺の目尻は垂れているだろう。猫の額にブチュっとキスして猫を降ろし、俺は洗面所に向かった。



 日が長くなったとはいえ、少し小寒くなった3月に入った夕暮れの手前。今やほとんどキャットフードしか食べられないというのに、相変わらずソファの上でだらんとなってグルメ番組を見ている猫が、急に起き上がって寝室の方に行ってしまった。と、すぐにピンポンとチャイムが鳴る。

 犬神だった。 


「直接の方が良いと思って…これが今度イラストをお願いする既刊の小説と、こちらはもうひとつの仕事の方のお料理本です。リニューアルするので参考までに。どんなイラストにするかは、また打ち合わせすることになると思います」

 か細い身体でこんなに持って歩いていたのかと、気の毒になるくらい本が積み上げられた。

「こんなにあるって知ってたら、俺、取りに行きましたのに…」

「イイんですよ、ついでですから。ウフフ、実は猫ちゃんも見に来たかったんですよね」

 それを聞いて俺は破顔する。どうぞ見て欲しい、我が家のプリンスを。

「オーイ!ネコ!!!」

 張り切って呼ぶと、リビングと寝室を繋ぐ廊下の扉から猫が顔だけを覗かせた。じっとこちらを見て動かない。

「また人見知りしてるよ」

「あら、猫ってそういうものじゃないですか?人じゃなくて家に懐くとか言いますよね」

「へえ」

「そういえば昨日、可愛い猫のインスタ見つけたんですよ!凄いんですよ!猫なのにスマホを使いこなすんです」

「え…」

 それってうちの猫ではなかろうか…。


「見ます??可愛いんですよ!」

「えーと、これじゃない?」

 俺のスマホを見せると、犬神はびっくりしていたがそれ以上に、ホーム画面上にあったLINEのアプリをめざとく見つけて喰いついた。

「さぶろうさん…LINE…」

「あ、そうなんですよ、こないだとうとう入れられました」

「入れ()()…?!」

「犬神さんのも入れときますよ。えっと、どうやってやるんだったかな…」

「あ、こうして…」

 犬神の指には綺麗な薄桃色のネイルされていて思わず目で追ってしまう。タップしているその指が止まった。

「あの、お友達のところにひとつしかはいっていない…この『まい♡』って…」

「前に少し話した動物看護師の猿渡さんです。このアプリもやってくれて、最近振り回され気味ですよ…ハハ。

 いろいろ親切に猫のことを教えてくれててね」

「ハァ、そう…です…か…。へぇ…女性…。」

 心なしか犬神の顔色が悪いように見える。俺が()()()()で話しているとでも思っているのだろうか。

「ネコが、親元に戻って、そりゃ寂しかったんですけど、代わりに猫を預かってるので、俺はそんなにダメージ受けてないんですよ。

 アイツもずっと居るわけじゃないって始めから分かってたしねぇ」

「んんん…ニャン」(そういうことじゃないとおもう)

 いつの間にか足元に来ていた猫が、俺のすねにタシっと前脚を掛けて小さく鳴いた。


 無事に『あいり』と登録したところで、スマホの画面が見にくいと思ったら、随分と陽が落ちていた。

「暗くなっちゃったな、犬神さんが良ければ駅まで送るんで、どこかで夕飯一緒に食べませんか」

「イイんですか?!」

 犬神の沈んでいた顔が急にパッと明るくなった。猫の視線を気にせずに思い切り食事したいと思っていたので、俺にとっては実に良い口実だった。どうしても猫に遠慮して、日に日に俺の食事は貧相になっていたのだ。これは猫を可愛いと思う気持ちとは別物である。


 いそいそと犬神が帰り支度を始め、俺もジャケットを羽織ると、猫も当然のように俺たちの後をついてきた。

「ネコ?お前はお留守番だぞ?店には連れて行けないからな」

「!!」

 そのときの猫の顔は思い出したくない。実はこの後に色々あった猫のことを思うと切なすぎて震えるからだ…。

「ンニャア!!ンンニャアッ!!!」(ネコつれてかないの?!うそでしょ!!)

 急に腹底から搾りだすような声で鳴き始めた。

「ニャあぁぁーーーー!!」(つれてくのーー!!)

 仰向けになってクネクネして鳴く姿は、申し訳ないが笑いを誘った。子どもの姿の時は可哀想だと思ったが、なんだか動物の姿だとコミカルになってしまう。このパターンだと次に俺の足にしがみつく。くねっている間にさっと扉を閉めた。

「猫ちゃん大丈夫ですか」

 心配そうに犬神が聞いてきたが、連れて行けるわけもない。帰ってから説得させるから大丈夫と笑顔で返し、前々から行こうと狙っていた駅前の焼き鳥屋に入った。



 帰って来ると、管理人がマンションエントランスの街灯を背に立っていた。逆光で見えにくくても、その顔が不機嫌そうなのが分かった。ドキリとしながら挨拶する。

「こんばんは」

「こんばんは大山田さん。お宅の預かっている猫…ちょっと次にこんなことがあったら何とかしてもらわないといけないんだけど。俺もこんなこと言いたくないからな…うまくやってくれと言ったよね?」

「はい…」

 どうも俺が食事に行っている1時間半位の間にずっとあの腹から響く鳴き声で泣きわめいていたらしい。ドタバタ騒ぐ音もして苦情もあったそうだ。

 真摯(しんし)に謝って慌てて部屋に急いだ。玄関を開けると、モノが少なくなったとはいうものの、玄関には靴やらスリッパやらが散乱し、リビングには本を始めありとあらゆるモノが飛び散り、すごいことになっていた。

「猫!」

 いつも俺を迎えに飛んでくる猫は出てこなかった。不安になって猫を探す。

「おーい!ネコ!!」

 トイレにも浴室にもいない。

「ネコ?」

「ねーこー?!」

 俺の布団を跳ね除けると、その中で猫は丸まっていた。 

「ネコ…」

 ホッとして背中を撫ぜようとしたら威嚇された。

「シャー!!!」(さぶろうきらい!!)

「ごめんな、ネコ、お前の前でしっかりご飯食べるの遠慮しちゃうんだ俺。息抜きに行きたかったんだよ」

 噛まれる覚悟で手を差し出すと猫パンチされた。

「あんな風に出て行って悪かったよ。もうしないから許してくれよ」

 ぐずったが、強引に引き寄せて抱きしめた。プイと横を向く猫の耳に頬擦りをする。あぁ、毛並みが気持ち良い。

「ネコ!猫が一番大切なのは本当だぞ?」

 一瞬ピクリとして、またそっぽを向く。人間の姿だったら大泣きだったなと、ヨシヨシとあやしたらまた猫パンチだ。腕の中で大人しくはしてくれているので優しく撫で、「ごめん」とひたすらに謝りながら首元にチューを繰り返すとこちらを向いた。眉間に皺を寄せながら鳴く。

「んニャ…」(もういちど)


「俺は猫が一番大好き!!」

 目を突き合わせてそう言うと、鼻の頭を舐められた。良かった…。やっと機嫌治った…?!

「ネコ、本当にごめんな」

 猫はチラリと俺を見て、ため息のようにふぅと息を吐いた後、ニャンと鳴いてくれた。






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