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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ
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2 さぶろう と呼ぶ

 俺は朝からゴミと格闘していた。ベランダ側の窓を開けたのは何ヶ月、いや何年ぶりだろう…猫は、リビングの真ん中で嬉々としてゴミの分別をしていた。なかなか的確に分別をするので『凄いなぁ』とボソリと言っただけなのに、星が見えるのではないかというくらい目をキラッキラさせて喜んだので、そのまま作業を続けてもらっている。

 本当は、猫が、 我が家にいるのは衛生面でも精神面でも経済面でも、まぁとにかくいろいろよろしくないのだが、連れていく正しい場所は警察なのか保健所なのか児童相談所なのか…

 混乱して選べないうえに、相談するだけでもいいかと、ひとまず何処かへ連れて行こうとすると、何かを感じ取るのか、俺の足を丸太のようにしてしがみついて離れないので,もうちょっと事情が落ち着くまで面倒みようと決めたのだ。

 ひょっとしたら猫に戻ってくれるかもしれない。


「この部屋を綺麗な状態にするのに、俺の力ではあと1週間くらいかかるかもしれんな…」

 すまんなぁ、と猫を見ると満面の笑みで見つめ返してくる。

 文句なく可愛い。猫の姿も可愛いが、天使のような子どもの笑顔も可愛い。その姿を見ると、片付けにめげそうになる気持ちも霧散する。腰が痛かったがそのまま頑張ることにした。


 湯船に浸かるにはもう一息必要だが、シャワーは辛うじて使えるようになった。猫は案の定、シャワーの使い方など分からぬようだったので、洗ってやりながら一緒に入る。自分自身もいつぶりかの洗髪でさっぱりする。今回は、掃除して出てきたドライヤーと、どこぞでもらった贈答用の綺麗なタオルで仕上げ、お互いすっきり綺麗になった。

 まだまだ片付けなければならないが、とにかく一日頑張ってクタクタだ。あっという間に眠りに落ちた。



 何かがまたが)って俺を揺らしている…

 眠い目を(こす)って薄目を開けると猫の丸い目が俺を見下ろしていた。

 お腹をしきりにこするので

「おなかすいたのか?」

 と問うと、猫の口からつるっと涎が垂れた。スマホを見ると朝の8時だ。一体いつから起こそうとしていたんだろう?いつもの俺はぐっすり寝ている時間だったが、成長中の子猫にとっては、ひたすらに寝ているのは我慢できなかったに違いない。

 欠伸を噛み殺しながら、広くない部屋をのっそりと移動してキッチンに行くと、既に物色された跡があった。

 かわいそうに…。そもそも常備食を置くほど我が家は裕福ではないのだ。必死で食べ物を探していたであろう猫の姿を想像すると胸がキューンと苦しくなった。

「ゴメンなぁ、すぐ用意するよ」

 といっても、今出してやれるのはカップラーメンくらいのものだ。これまた掃除で掘り出された電気ケトルでお湯を沸かす。猫は興味津々で湯が沸く様子をジッと見ていた。

「あ、ひょっとして熱いの大丈夫かな?」

 箸を持つ手も覚束(おぼつか)ないため、平たい皿に移し替えてフォークを渡す。フォークの使い方もぎこちないが、食べ始めたらあっという間で、最後は皿までペロペロ舐めていた。

「うまかったか?」

「うぅ…うあかった!」


 猫が初めて喋ったのを聞いて驚いた。まあそりゃ言葉を知らなかっただけで喋れるんだろう。

「さ、ぶ、ろ、う」

「さうろー?」

「惜しい!さ、ぶ、ろ、う、」

「さぶろ!」

「俺の名前だぞ」

「さぶろ!さーぶーろー」

 微笑ましくて、髪の毛をくしゃくしゃと撫でてやると猫は満足気に笑った。とりあえず着せている俺のTシャツの襟ぐりが広すぎてズレている。いつ洗ったかしれないTシャツは、一層しみったれてみえる。いかん。こんなものを着せていてはいかんだろう、と光差し込むリビングで反省する。

 窓の外には秋晴れの青空が広がっている。昨日の掃除の延長とともに、これまたいつぶりなのか、大量の洗濯物を順に洗濯機で洗った。




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