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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ
18/71

18 ネコ、病院に行く

 

 目を開けた。

 微睡まどろみの中、身体の半身が熱いせいだと気づく。いつも俺より早く起きる猫が、その日はまだ俺の傍らで寝ていた。珍しいなと、寝顔をみるとなんだか顔が赤い気がする。

「…ネコ?」

 ちょっとした刺激ですぐ目を覚ますのに、今日はウウンと言ったまま起きない。起き上がって猫を引き上げてみると身体が熱い。

「おい、ネコ!大丈夫か?」

 おでこに手をやると熱があるのが明らかだった。やっとゆっくりと目を開けたが、ダルそうにしていて覇気がない。

「さぶおう…ネコ、おなかいたいかも…」

 掠れた小さい声で言うのが哀れを誘う。家に大したものはないので朝9時からやっているドラッグストアに駆け込み、手当たり次第に買い込んだ。おでこに冷えピタを貼って、とりあえず、何にでも効きそうな百草丸を暖かいお茶で飲ませ、そのまま布団に寝かせた。髪を撫でてやると、うとうとして寝入っていったがその寝顔は安らかそうではない。


 お昼過ぎに様子をみるとぐったりしたままだった。咳や鼻水はないから、熱があっても風邪ではないのか…?お腹が痛いと言っていたが昨日も一昨日も俺と同じものを食べていたし、コレといって変なものを食べた記憶もない…

 昨晩は炊いたご飯とスーパーで買ってきた焼き鳥とインスタントの味噌汁だった。

「ネコ?なんか食べられるか?水分だけにしとくか?」

 スポーツドリンクにストローを挿したのを差し出すとチューチュー飲んだが飲みきれずにまたぐったりと眠りについた。

 これは由々しき事態だ…。

 病院に連れて行きたいと思うが、元は猫なのだ。果たして人間の病院に連れて行って良いものなのか…?それに保険証もない。この際、もう実費で掛かっても良い…いや、しかしもし猫の素性を訊かれたら俺はなんと答えるんだ?!年齢も血液型も何もかもが不詳なままなのだ…。

 一昼夜経っても症状が変わらない猫の看病をしながらグルグル考えるが、最善と思える案はなく、だんだん症状が酷くなる猫を見ているのも相まって苦しくなる。


 は、と気づいて、あの日以来ずっとつけたままの首輪を外してみることにした。何かしら抵抗されるのでいつの間にか諦めていた行為だが、今回ばかりは猫も反応せず、呆気あっけなく、しゅるりとリボンは解けた。  



 ずっとネコを見ていたはずなのに、何が起きたのか分からないまま、気づけばそこには艶やかで白い毛をまとったけものの猫が横たわっていた。初めて道端で見つけたあの日より、だいぶ大きくはなっていたが、まだ子猫と言っていいあどけなさが残っている。思わず手で触れて毛並みを確認してしまった。滑らかな肌触りと、その下にある小さな身体の膨らみが俺をキュンとさせた。


 これなら連れていける!!

 ベッドに置き放しにしていた俺のセーターに猫をくるんで、家から1番近い動物病院へと走った。カルテには拾い猫と書き、他の飼い主達と共に、待ち合い室で猫を胸に抱えて受診の番を待つ。猫は目を閉じたまま見るからにぐったりしていた。しかしもし目が開いていたならきっと、病院のものものしい雰囲気にパニックになったろうから、ちょうど良かったのかもしれない。



「少し消耗が激しいので、先ずは点滴を打ちましょう」

 猫は一晩病院預かりとなった。人間と違って俺に出来ることは何もない。明日また来てくれと言われ1人マンションに戻るしかなかった。

 この世の終わりのような顔をして病院から外に出ると受付の女性に呼び止められた。

「こちらをお忘れでは?」猫を包んできた俺のセーターを差し出された。調子の悪い猫のそばに、少しでも俺の名残があった方が良いだろう。起きたら病院で、しかも猫の姿に戻っているとなればどれだけパニックになることか…。

「アイツが目を覚ましたときに寂しがるかもしれないのでゲージに一緒に入れといてください」

「え、でもお洋服ですよね?!」

「良いんです…」

 俺の沈痛な面持ちに彼女は少し居住まいを正して、セーターを抱きしめながら労わるように微笑んだ。

「そうですよね、大事な猫ちゃんですもんね、ではお預かりしておきますね」

 優しい笑顔に慰められ、病院を後にした。



 数ヶ月ぶりの1人きりのマンションが酷く空虚だった。猫がいなくなることを考えると頭の先から冷えていく。動物を飼うということはこういうことか…。特に猫は人間として俺と日々話したり笑ったりして過ごしていたのだ。心が張り裂けるようだった。布団に入っても全く眠くならず、寝苦しいばかりで、まだまだ先の締め切りの仕事に一心不乱に打ち込んだ。

 早く明日を迎え、猫のところに行きたかった。






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