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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ
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14 ネコ、愛情を確かめる

『今度、お邪魔させていただくわけにはいきませんか』


 最近頻繁にやり取りするようになった犬神の台詞だった。

 何故?

 というのが、俺の心の第一声だった。データでやり取りしているし、そもそも俺はイラストレーターで、作者でも漫画家でもない。打ち合わせは、主になる作家がメインで俺の方はオマケだ。よっぽどこだわりのあるシーンがあるとか、漫画化やアニメ化等々の商機を狙っているのなら俺のイラストにももっとモノ申さねばならんとは思うが…

「必要、あります…??」

 そうボソリと言うと、息を呑む声が聞こえた気がした。

『あの…えーと』

 犬神にしては珍しく歯切れが悪い。

『あのっ、ただ単に先輩の家に遊びに行くというのはどうでしょうか??』

「…はぁ」


 俺の家ぇ…?目線をあげて部屋を見る。猫を家に招き入れてから随分と普通になった…どころか、あれ以来、猫がいろいろ触るのを阻止するため、さらに部屋のすみまでみえるスッキリとシンプルな部屋へと、徐々に生まれ変わって来ているところである。リビングのソファでは猫が食い入るようにグルメ番組を鑑賞していた。またそんなものを…と、呆れるが、ベランダからの日差しでブロンドの髪に天使の輪っかが光って、その姿は天使が微睡んでいるようだった。

 あぁ、犬神は猫にあいたいのかな。以前は人を招くなど思いもよらないほどのゴミ屋敷だったが、今は違う。誰かが来ても良い…。


「猫しかいないけど、よければどうぞ?」

『えっ!あっ…!!

 えっ、じゃあ、さっそくですけど、次の日曜とか、ご都合、どうですか?!』

 なんだか慌てたような口調が面白い。俺が人を家に上げるなんてなぁ…。

「ハハッ、うちはいつでもあいてるんで大丈夫ですよ」

『じゃあお昼食べられるように何か持って行きますね!』

「いや、お構いなく…」

 そう言いかけていたのに、通話は切れていた。途中から私用の電話みたいになっていたから、上司になんか言われたのかもしれない。スマホを部屋着のジャージにしまいながら、猫と目が合った。



「ネコのことはなしてた?」

「いや、今度犬神が家に遊びに来るってさ」

 そう告げた時の猫の表情は、何と言ったら良いのか。というのか…目がまんまるく見開かれて、驚いた…とも違う…何か言いたいような顔つきだった。

「なんか、食べもん持ってきてくれるってよ」

 猫の頭をくしゃくしゃと触って抱き上げ、膝の上に乗せる。

「俺んちに女性が遊びに来る日が来るとはなぁ、ネコのおかげだなぁ」

「さぶろう、いぬのことすきなの?」

「おまえ、犬はないだろう、犬神って言えよ」

 猫は少し目をすがめて「いゆあみ」と言い直した。

「言いにくいのか…。あいりさんとか?お前ならお姉ちゃんって言っても良いんじゃないか?間違ってもおばさんなんて言うなよな?」

 なんだか急にドヤ顔をしだした。おいおい!!


「いつくゆの?」 

「今度の日曜日って言ってたけど…カレンダーの見方分かるか?」

「みっかご」

 ネコは、これまた大家さんが置いていったキャラクター満載のカレンダーを指差して言った。

「おぉ、カレンダーは完璧になったなぁ、ネコ!」

 ぐりぐりと頭を撫で回すと嬉しそうにした。本来の猫だったら喉をゴロゴロ鳴らすところだろう。


「さぶろうは()()()()のことすきなの?

 ネコよりすき?」

 この顔!上目遣いで可愛さを見せつけてくる。

「ネコより好きなやつなんかいないよ!本当にお前は可愛い奴だなぁ」

「さぶろう〜、ネコもすきー」

 抱きついてくる猫を、ハハハと笑いながら抱き上げてブンブン振り回した。猫も甲高い声で笑う。

 窓も開けずに暗いガラクタだらけの部屋で、ひとり蹲って暮らしていたことの方が長いのに、そちらがまるで夢だったとでもいうように、猫の明るい笑い声が俺の耳に響いた。



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