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魔法の首輪をつけた猫 〜現代版長靴をはいた猫〜  作者: 東條 絢
拾われたネコ
12/71

12ネコ、映画に行く

「さぶろう、すごいひとね」

全く。

ここまでとは思わなかった。世間は冬休みだったのか…。映画館のロビーはものすごい人だかりだった。アニメの他に話題作もあったらしくファミリーからカップルまで幅広い世代で空間は埋まっていた。発券機は猫がやりたがったが、俺にもさっぱりで係の人にやってもらう羽目になり、今どきのシステムが分からないことに少なからずショックを受ける。


しかし、果たして映画は…


どうも猫には受けなかった。クライマックスのアクションシーンは重低音がシートに響いてくるので、猫はすっかり怯えてしまい、終いには俺の膝の上に移動してしがみついていた。始まるまではポップコーンや暗いホールに大興奮していたのに。これには失笑するしかなかった。


エンドロールを待って、涙目の猫を抱えながら映画館に隣接しているショッピングモールのフードコートへ移動した。

「おい、猫、もう怖く無いだろ?」

何種類もあるフードコートに目を輝かせ始めたのをすかさず見て地面に降ろす。

「いっぱい、いっぱいあるね」

キョロキョロとカラフルな屋台風の店を覗いてはアレはなんだ、コレはなんだと聞いてくるが、なかなかどれを食べるのか決まらず、だが、その時の方が猫はよっぽど楽しそうだった。俺もそこまで腹は空いておらず、そんな猫にのんびりと付き合った。

最終的に選んだのは唐揚げ専門店だった。猫、お前はブレないな…

ランチセットを一つ頼み、子供用の皿を貰った。


「猫は映画、駄目だったか」

「ちょっと※おろおいただけだもん」 ※驚いた

ブスッと頬を膨らませて上目で俺を見る。まぁでも初めての体験ができたということでよしとしよう。今後猫と映画を見に来るのはずっと先のことだなと思った。

「そうだな、猫にはまだ少し早かったな」

違うと言いたげに睨まれたのでこれ以上揶揄からかうのはやめて機嫌を取ることにした。

「せっかく出てきたから寄り道するか?ちょっと遠回りして帰ろう」

そういうと、猫は嬉しそうな顔をした。

それにしても、皆、猫をチラチラ見ていく。ちまたで外国人を見るのはそんなに珍しく無くなったとはいえ、こんな立派なプラチナブランドとアニメのキャラクターのような翠色の瞳が珍しいんだろう。カツラも被せてないし、カラコンも入れさせて無いんだが、そう言われたら恐ろしい…。元は、コイツ猫なんですなんて本当のことを言ったら、俺がヤバいやつだと思われるだけだし、猫を人間と証明するパスポートのようなものもある訳じゃ無い。まじに職質されたらヤバいヤツかコレ… ???


「さぶろう、いっこあげゆ」

猫は黙ったままの俺が食べ足りないとでも思ったのか、取り分けた自分の分の唐揚げを箸にぶっ刺して俺に差し出した。思わず顔がほころび、しょうもない考えを頭の片隅に追いやって猫の唐揚げに齧り付いた。


食後は提案どおりショッピングモールをぶらぶらと歩いた。ちょうどセール中だったユニクロの前で立ち止まる。猫はもちろん、俺もまともな冬用の上着を持っていなかったので、ふと気になったのだった。

数年服など買っていない。店に入る、ましてや試着して着るなど、敷居が高すぎて考えたこともなかったが、この間のようにまたいつ出掛けることになるか分からない現状が俺に足を踏み入れさせた。


そこかしこで人が試着してるのを見ていたからなのか、猫は躊躇せずにそこにあった丸洗いもできるウルトラダウンジャケットを着込んだ。  

「あっ、お前…!」

思わず黙ってしまったのは、ウチにある小さな鏡の倍はある、大きな姿見の前で得意げになっている猫が、その上に飾ってある広告ポスターの外国の子供よりもカッコよく着こなしていたからだった…。

おぉ…猫…お前…

「ねぇさぶろう、あれきたらおそおいになる?」

猫が指差した向こうの棚に、大人のマネキンが同じ色形のダウンを着ている。

「え、あぁ、そうだなぁ」

「おそおいがいい」

「おそおいにする」

すぐ側にいた若い女性店員さんが猫の台詞を聞いて、俺が何も言えないうちにお持ちしますからーっと颯爽とそれを手にして現れた。

「ぬぅ…」

俺の及び腰に全く気づくことない満面の笑みの2人を前に、断れず羽織る。

「わぁ、なんか良いですね!!

ぼくも、可愛いねえー」

大きな声ではなかったが、若者から黄色い声で褒められるのはなんとも恥ずかしい。そのままタグを切ってもらって購入し、慌てて立ち去るように店を後にした。


早歩きで店を遠ざかりながらなんだか笑えてきた。

「ペアルックだな」

「ぺあうっく!ぺあゆっく!」

猫は3歩前をはしゃいで歩く。意味、分かってんのかなぁ?



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