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セフィロスの街

作者: セフィロスの街

虐待の過去から自傷行為がやめられない美樹はある日少年と死体の第一発見者になる。

少年は口がきけない、果たして真犯人にたどりつけるのか。

セィフロスの街。

長野県小布施町は須坂市から少し北の方にある小さな街である、商業の街須坂と農業の街中野に挟まれて、独特の文化が根付いている、特産品の栗の木を加工してでできた小道を散策すると、そこかしこに美しい蔵作りの建屋が点在する。

美樹がこの街に帰って来たのは一ヶ月前、今、岩松院近くのジェラート屋でアルバイトをしている。

ジェラート屋はログハウス作りで小さいながらも観光客や地元の人々に人気で、ミルクたっぷりのジェラートが看板商品だ、黄色いコーンの上に白いジェラートをスコップで掬っては山の様に盛り付けて行く、シャツの腕を捲った時、手首のミシン目のような傷が目に入った胸の奥がざわつく、隣のオーナーの美鈴の視線も気になる、美鈴は兄の同級生で白髪染の代わりに金髪にするような、砕けた女性だったがやはり傷について聞かれると辛い。甘いバニラとふレッシュな牛乳が混じった匂いが、鼻腔一杯に広がる。

お待たせしました。

作り笑顔を浮かべお客様に手渡すと慌てて袖口を水色のシャツで隠した。

店は繁盛していたが、三時から休憩を挟む、その折には美樹はいつも近くの岩松院まで足を伸ばす。

小布施町の外れにある古刹岩松院は秀吉7本槍で有名な武将福島正則の終焉の地で、癌封じの寺、北斎の天井絵などが有名だった。

大蛇の如くうねった松の奥に長い石積みの階段が続く、美樹はタバコの火をスニーカーの底で踏み潰すと一段上り始めた。すると、彼女のシャツ裾を引くものがいる。

振り返ると見慣れない顔の子供がいた、顔が真っ青だ。

どうした?

ついてこいというように強く引く、促されるままついていくと、岩陰に横たわる男がいた、白髪頭から初老の男に見えた、特徴的な獅子鼻に180センチはあろうかと思う大男、胸から血が流れている。

この人、父の、大変だわ。

美樹の全身の血が逆流し始めた怯えた子供が彼女に震えて抱きついて来たその温もりが彼女を強くする、携帯を手に取った、美樹は浩二に連絡を取った。美樹はこの男に見覚えがあった町議会議員の鷲巣健一、自然保護活動家の父の親友だ、

浩二大変なの、人が死んでる。

懐かしい夫の掠れた声が響く。

分かった、鑑識送る、そこを動くな。

程なく、鑑識官が訪れ、死体のまわりは一気に騒がしくなった、その間も少年は彼女から離れようとはしなかった。

その子は?

1ヶ月ぶりに見る夫は仕事の顔だった。

私が来た時ここにいたの。

人見知りの激しい子で、見知らぬ男が顔を覗きこまれて美樹の後ろに隠れてしまった。

この子が第一発見者よ、でも何も喋らないのよ、ショックだったのかも。

見下げた時美樹は初めて少年の右手にあざがあるのに気づいた。

この子、ココロに深い傷を負っているのかしら。

分かった、君の兄貴を手配しよう。

良ければ、私が連絡する。

分かった、俺は遺体を監察医の元に移送する、

医大の監察医須田真紀子また、知り合いだった。

真紀にもずっと会ってないわ。

兄さん。今大丈夫。

うん、どうした?臨床診療士故か元々の性格か落ち着いた低い声が受話器越しに聞こえる。

見てほしい子がいるの、何も喋らないのよ、虐待のあともある。岩松院までこれる?

分かった、岩松院だな。

久しぶりに見る兄は柔らかな日差しの中赤と黒のブロックチェックのオーバシャツをさらりとジーンズの上から羽織って、ゆらりとたっている。兄の姿を見ると美樹は二人の間

の秘密を思い浮かべずにいられず、笑顔が強張る。

やあ、僕は杉田冬馬、君は?

彼は益々暗い目をして美樹の後ろに隠れてしまった。

すると、彼のTシャツに竜のキャラクターを見つけた冬馬は。

じゃ君は竜の騎士サイバーンだ。 

少年は首をふる、

屈んで冬馬は頭をクシャクシャする、

そうだなぁ、君は光の騎士マニだ。

冬馬の言葉に初めて笑って頷く。

じゃあ俺は竜の騎士サイバーンだ。

冬馬の差し出した手を少年はおずおずと握り返した。

おい、浩二よかったらこの子預からせてくれないか。役に立てると思う、事件の重要人物なんだろ。

ああ、頼めるか。

この子の身元の確認を頼むよ、

わかった。

なんとかこの子の心を開いてみるよ。さ、行こう。

冬馬が伸ばした手を少年は握ろうとせず美樹の後ろに隠れてしまった。

震えている。

仕方ない美樹お前も一緒に来い。

え。

この子はお前といると安心するようだ、構わないだろ、兄弟なんだから。

ええ、

美樹の胸にほんの少し疑惑の染みが広がって行く、兄の家に行けば自分の秘密を知られてしまうだろう、かと言ってこの子を放って置くわけにも行かない。

行くわ。

さあ、光の騎士マニをサイバーンの館に案内しようぞ。

相変わらず兄は心を解きほぐすのが上手い。

久しぶりに訪れる兄の家、あの頃は真紀子と同棲していたが明らかに女物の衣服や鞄などがなくなっていた、同棲を解消したのか少しスペースが、広く感じられた、美樹はソファーに座り少年に絵本を読んでやっていた。子供向けの簡単なぼうけん小説で彼は目を輝いて熱心に耳を傾けている。

いい香りが、漂ってきた、兄自慢のカレーの匂いだ、

さあ、出来たぞ、席に着くんだ。

冬馬のカレーはスパイスから煮込んだ本格派、少年は水を飲みながらも美味しそうに食べている。

どうだ、俺のカレーには人参が入っていないからいいだろう?

人参食べれるのか?

少年は、俯きながら頷いた。

ようし、偉いぞ、

冬馬は少し大袈裟に彼の頭を撫でた。 

偉いのね。

少年ははにかむようにわらった、

冬馬と少年はまるで本当の親子のように風呂に入った。

着替えここおいておくわね。

美樹も、少年と兄の微笑ましい姿にこころがほぐれていった。

やっと眠ったわ。

髪の毛を乾かしながら兄が戻ってきてリビングでうたた寝をしている、妹に声をかけた。

どうした、風呂に入らないのか?

え、もう少ししたら。

冬馬は隣に座ると水色のシャツを捲り上げた。

お前また。自傷行為を。

ごめんなさい。

やはり兄はきずいていた。彼は白い細い腕につけられた、痛々しい傷を見て険しい顔になった。

お前が謝る事じゃ無い、オヤジが謝るべきだ。浩二に話したのか?

そんな事できない。

あいつなら大丈夫だと言っただろ、これは二人で乗り越える問題なんだ。

あの亡くなった人、父の友達よね。

あ、町議会議員の?

冬馬は妹の為に、ミルクティーを入れて運んできた、そこには幼い頃から厳格な父から自分を庇ってくれた優しさがあった。自然に涙が溢れてそれが嗚咽にかわる。

兄は今までそうしてきたように妹の傷ごと抱きしめた。

私には母親になる資格なんかないの、だって私は汚れた身体だから。

美樹お前のせいじゃないよ。

黄昏時は今でも怖い。

季節は夏から秋に移り変わる町は美しさを増している頃だった。美樹は遠足の帰り疲労を覚える脚を引きずりながら学校を出た、楽しかったけれど前日興奮して眠れなかったせいもあり疲労で足が一歩も進まない、家までまだまだある、美樹はリュックを背負い直しため息をついた。

美樹ちゃん。

クラクションがなりグリーンメタリックの車が脇に止まった、窓が下がると獅子鼻の男が顔を出した。

おじさん、

家に良く遊びに来る父の友達で、良く美味しいものもくれる、優しいおじさんだった。

今遠足の帰りかい?

乗ってくかい、ちょうど美樹ちゃんちに行くところだったんだ。

うん。

なんていいタイミングなんだろう、無邪気に喜んだ自分を今の今までずっと後悔していた。

車は消臭剤のキンモクセイの匂いがした、レースで出来たシートカバーがかかった座席に座るといつの間にか、眠ってしまっていた。

車は人気のない公園に止まった、日が沈もうとする前オレンジの長い光を放って白い車を染めていた。

鷲巣は美樹の紺のショートパンツから伸びた脚を撫で始め、少女の反応を探る、小さく反応はあったが起きる様子はないよっぽど疲れているのだろう。鷲巣は欲望を抑えきれず体操服の上着の中に徐に手を突っ込む、僅かながら膨らみを感じ取ると可愛い蕾を揉みしだく、興奮がピークに達した初老の男は、一気に少女の短パンを下ろしてすべてを剥き出しにしのしかかった

イヤ!

流石に美樹は目覚め手足をバタバタさせたが、時すでに遅く、美樹の体内に激しい痛みとともに男の体液が注がれた。

いつの間にか涙が頬を濡らしていた。鷲巣は美樹が今まで見たことのない怖い顔で、身繕いしながら、話しかけた。

いいか、この事は二人だけの秘密だよ。

美樹は頷くしかなかった、

ただただ悲しく、怖かった。

いい子だ。

そのよ、美樹を送ってきた鷲巣は父の求めに応じて夕食を食べていくことになった、玉葱に目玉焼きが添えられ、蕨のお浸しが並ぶ簡素だが男二人は酒を酌み交わし、歓談していた、美樹は食べることはできない。酷く息苦しく、食べたものを吐いててしまった。

要らない。

それだけ言うと部屋に引きこもってしまった。悪い夢だと思おうとした。

お父さんには言えない。

美樹の世界は変わってしまった。

夏が終わろうとして居た、児童館の体育館倉庫で美樹は言われるまま、ブルマのパンツを下げ、未発達の部分を鷲巣の前に晒してした、お尻に当たる風が冷たい。

鷲巣はシワだらけの指で彼女の雌しべを持て余し、不思議な感覚に襲われて乳首が硬直するのを感じた興奮するのか指の動作は激しくなった、あ、ああ。

可愛いよ

この頃から美樹にとって、可愛いと言う言葉は呪いの言葉になった。

後は痛みを伴う行為が待っていて、彼が去ってからも美樹は倉庫のマットから暫く動けずにいた。その時写真を撮られて居たことも知らずに。

世間は地元の名士の死をスキャンダラスに報じた、キープアウトの線がひかれた被害者自宅に報道陣に囲まれた続々と捜査員たちが、入って行く。

その中に浩二の姿もあった。

かなり裕福な生活を送っていた自宅の調度品は高級な物ばかりだった。整然と整った部屋には女性の影はない、キッチンもキレイなものだった。

女の影は無さそうだ、ヤモメ暮らしを楽しんでいた様だ。

主任。

上条の鋭い声が書斎の方から聞こえてきた、何か手がかりが見つかったようだ。書斎に居た上条は大量の写真を手にしていた。

書斎の引き出しにありました、大事に、あいつとんでもない裏の顔がありました、とんでもない変態ですよ、

上条の視線は怒りを含んでいた。

浩二は渡された写真を目にしたら吐き気を催した、おびただしいほどの幼児の裸の写真明らかレイプ後と思われるものもある、怒りを抑え流し見をしていした一枚にふと指が止まった。

美樹、これは美樹じゃないか。

美樹、。

えも言われぬ嫌悪感から、目を背けそうになりながら美樹の不安定な感情の正体が掴めた気がした、これが原因か。彼女の自傷の意味は深くつらい、今すぐ美樹に会いたくなった。

主任、あの子の身元がわかりましたよ、捜索願が出てました、三鷹蓮、10歳です。いま、確認のため母親を杉田さんの家に捜査員と共に向かっています。

丁度庭先で水色の朝顔が一つ花が開いていた、警官の隣に痛みの目立つ髪が朝陽に照らされた小柄な女性が立っていた色褪せたハローキティのTシャツをきていた、酔っているのか目の焦点があっていない。

冬馬は扉を開けた。

三鷹由子さんです、町内でパートをしていました。

美樹は蓮の手を握ってソファに座っていたが手をきつく握られた。

蓮、どこに行ってたの?心配してたのよ

ソファーにいる息子に駆け寄るが剣幕が怖かったのか美樹の後ろに蓮は隠れてしまった。

どうしたの!なんとか言いなさい、

由子のヒステリックな声が部屋に響いた。見かねて冬馬が声をかける。

彼事件のショックで言葉が出ないんです。

え、事件?なんの事件なの?

警官が由子の肩を叩く。

彼は殺人事件の目撃者なんですよ、岩松院での。

あ、町議会議員さんの?

ご存知でしたか。

冬馬がコーヒーを入れ、由子と警官をテーブルにつくようにすすめた。

お母さん、蓮君はとても傷ついています。落ち着くまで、うちで預からせてくれませんか。

冬馬は一枚名刺を由子に渡す。

臨床心理士の杉田冬馬です。

ご安心下さい。責任を持って保護します。横から警官も口を添えた、まさか、虐待を疑っているとは言えなかった。

そんな。やっと見つけたのに、蓮本当に心配していたのよ。

由子は息子をじっとみたが蓮は目をあわせようとしない、美樹の目にも親子の間の溝は感じ取れた。

由子は納得いかないようにカップに手をつけない。事態は硬直しそうで美樹はハラハラした、

そこにダークグレーのスーツを来た背の高い男が入って来た、浩二だった、体格のいい、眼光の鋭い彼に由子は気圧されたようだった。

大丈夫です、彼は信頼できる人物ですよ、犯人が捕まるまでこちらで保護した方が安全ですよ、お母さん。

わ、分かりました。

由子不満顔がのこる。やっとコーヒーに手をつけた、

先程、被害者の事をご存知のようでしたがご存知なんですか?

ええ夫の会社の社長です。

鷲巣健一は、建設会社の会長と更子会社のリサイクルセンターの所長も兼務していた。

リサイクルセンターの運転手でしたね。

由子は警戒しつつ頷く、下手な事を言って疑われないようにしている、夫の圭吾には後ろめたい事があるようだ。

蓮君とは血の繋がりがないようですね。

蓮は、私の連れ子ですが、そりゃもう可愛がって。

警察をなめるな、と、浩二は言いたい、みえみえの嘘をつくなんて。

蓮は継父の話が聞こえたら緊張しているのか、身体がまた小刻みに震えだしたのが美樹にはわかった。

由子は俯いた息子の方をじっと見つめていたがやがて諦めたように、警官に付き添われ戻って行った。

美樹、ちょっと。

浩二に呼ばれ美樹は蓮を冬馬に託した、少し前を行く浩二の背中を緊張しながら美樹は歩く夏の風が草の匂いを運んできた。

すまなかった、

浩二は振り返るといきなり美樹に頭を下げた。

その行為が美樹の幼少期の秘密を彼が知ってしまった事を裏付けていた。

知られなくなかった。

鷲巣の家から少女の裸体の写真が大量に見つかったんだ、被害にあったのは君だけじゃ無い。

知られたくなかった、私の体はもう

汚れてる、貴方に愛される資格なんかなかった、ましてや母親になど。

謝るのは俺の方さ、君の心の傷を、わかってあげられなかった、ただ不機嫌に自傷行為を繰り返す、不安定な女だと決めつけ原因を探そうとしなかった、 悪いのは俺の方だ、夫失格だな

いや、そんな事。

戻ってきてくれないか?

私でいいの、いつまでも過去を引きずり体まで傷つけて、きっと良い母親にはなれない、もちろんいい妻にもね。

いいさ、その分俺がイイ夫、いい父親になる

浩二がそっと壊れやすいガラス細工を抱くように美樹を抱きしめた。

傘風楼の名の由来は店先に置かれた大きな傘に由来する、雨上がりその傘の端から落ちる水滴の光を真紀子は見ていた、店内は空いていた。

遅れてごめん。

冬馬は赤と黒のブロックチェックのシャツを翻し額の汗を掌で拭いながら現れた、真紀子は微笑み氷が揺れるアイスティーを指さした。

いいのよ、なんか食べる。

ここのピザは美味しい。

季節のピザを注文した、

呼び出したのはこれ。

検死報告書が入ってる封筒を冬馬テーブルの上に置き詠むように押しやる。

コーヒーを飲みながら冬馬はざっと目を通す、

興味あると思って本当はいけないんだけど

真紀子のグラスはもう空になっていた。

少し興味がある事実が出たのよ、遺体の致命傷なんだけど、随分低い位置にあるの。

つまり?

真紀子は運ばれて来た照り焼きチキンのピザを一口齧ると、言い淀み、意を決したように口をひらく、

犯人は非常に背の低い人物ということ。

まさか、蓮が?

冬馬はびっくりし、息を呑み拳をギュッと固く握りしめ膝の上に置いた。

この事は浩二は?

もちろん話したわ、知る権利があるもの。

じゃあ蓮が殺したっていうのか

可能性は、ある。

事件のショックで言葉がでないか、  

目の前のピザが急速に冷えていく、殺人のショックで口が聞けなくなったのか?

とにかく、言葉を発しないことにはね、

真紀子はピザを一切れ口に運ぶ。


上手ね。

蓮は熱心にクレヨンで画用紙に絵を描いていた、赤い大きな目玉と嘴青い鱗が翼をおおっている激しい怒りが読み取れた、蓮の目は輝き大きく頷いた。口には微笑みが浮かんでいた随分安定しているみたいね。

何か食べる?

美樹はキッチンに立っていった。

そこに険しい顔をした冬馬が現れる、ただならぬ気配を感じた。

美樹ちょっといいか?

何?

蓮に現場検証させたい、

そんな、あの子にはまだ無理よ一言も話してないじゃない、今は安定してるけど。

美樹よく聞け、蓮には殺人の容疑がかかっている。

そんな。


朝靄が立ち込める早朝現場検証に蓮の精神状況を鑑みて美樹も立ち合う事となった、蓮の体は小刻みに震え、握る手に力がこめられた。

鑑識鑑、刑事、それぞれの姿が現れる、勿論、その中に冬馬もいた。

あの人!あの人だよ、おじさんを殺したのは。

蓮が初めて口を開いたがそれは衝撃的な言葉だった正義に満ちたの力強い、指がさしている先には監察医の樋口真紀子の姿があった。


悲痛な面持ちで取調室で浩二は真紀子と対峙していた、身内から逮捕者が出るのは非常に辛い事だった。

しかも彼女は冬馬の恋人だった。

わたし、子供の頃鷲巣にいたずらされてその写真をネタに今も関係を迫られていてあの日の朝も岩松院に呼び出されたの。

真紀子の目からは何の表情も読み取れない、

殺すつもりは無かった、持ってたナイフに襲い掛かった彼が木の根に躓いて私に倒れ込んだのよ、傷が偶然低い位置に出来たから、あの子のせいにしたの、悪いことをしたわ、

一筋だけ美しい涙が瞳から流れてはおちた。

冬馬と美樹は蓮を連れ由子の元に送り届けた蓮自身が母親の元に戻りたいと願ったからだ、児童相談所の配慮で義理の父との別居が認められたのだ。

お母さんを守りたい、僕は光の騎士マニだから。

それでこそ騎士だ。

美樹、

振り返ると浩二が照れ臭そうに立っていた。

私子供産むね。

ああ、俺がいい夫、父親になるからな。

この手に戻ってきた宝物のように彼は美樹を抱きしめた。






セィフロスの街。

長野県小布施町は須坂市から少し北の方にある小さな街である、商業の街須坂と農業の街中野に挟まれて、独特の文化が根付いている、特産品の栗の木を加工してでできた小道を散策すると、そこかしこに美しい蔵作りの建屋が点在する。

美樹がこの街に帰って来たのは一ヶ月前、今、岩松院近くのジェラート屋でアルバイトをしている。

ジェラート屋はログハウス作りで小さいながらも観光客や地元の人々に人気で、ミルクたっぷりのジェラートが看板商品だ、黄色いコーンの上に白いジェラートをスコップで掬っては山の様に盛り付けて行く、シャツの腕を捲った時、手首のミシン目のような傷が目に入った胸の奥がざわつく、隣のオーナーの美鈴の視線も気になる、美鈴は兄の同級生で白髪染の代わりに金髪にするような、砕けた女性だったがやはり傷について聞かれると辛い。甘いバニラとふレッシュな牛乳が混じった匂いが、鼻腔一杯に広がる。

お待たせしました。

作り笑顔を浮かべお客様に手渡すと慌てて袖口を水色のシャツで隠した。

店は繁盛していたが、三時から休憩を挟む、その折には美樹はいつも近くの岩松院まで足を伸ばす。

小布施町の外れにある古刹岩松院は秀吉7本槍で有名な武将福島正則の終焉の地で、癌封じの寺、北斎の天井絵などが有名だった。

大蛇の如くうねった松の奥に長い石積みの階段が続く、美樹はタバコの火をスニーカーの底で踏み潰すと一段上り始めた。すると、彼女のシャツ裾を引くものがいる。

振り返ると見慣れない顔の子供がいた、顔が真っ青だ。

どうした?

ついてこいというように強く引く、促されるままついていくと、岩陰に横たわる男がいた、白髪頭から初老の男に見えた、特徴的な獅子鼻に180センチはあろうかと思う大男、胸から血が流れている。

この人、父の、大変だわ。

美樹の全身の血が逆流し始めた怯えた子供が彼女に震えて抱きついて来たその温もりが彼女を強くする、携帯を手に取った、美樹は浩二に連絡を取った。美樹はこの男に見覚えがあった町議会議員の鷲巣健一、自然保護活動家の父の親友だ、

浩二大変なの、人が死んでる。

懐かしい夫の掠れた声が響く。

分かった、鑑識送る、そこを動くな。

程なく、鑑識官が訪れ、死体のまわりは一気に騒がしくなった、その間も少年は彼女から離れようとはしなかった。

その子は?

1ヶ月ぶりに見る夫は仕事の顔だった。

私が来た時ここにいたの。

人見知りの激しい子で、見知らぬ男が顔を覗きこまれて美樹の後ろに隠れてしまった。

この子が第一発見者よ、でも何も喋らないのよ、ショックだったのかも。

見下げた時美樹は初めて少年の右手にあざがあるのに気づいた。

この子、ココロに深い傷を負っているのかしら。

分かった、君の兄貴を手配しよう。

良ければ、私が連絡する。

分かった、俺は遺体を監察医の元に移送する、

医大の監察医須田真紀子また、知り合いだった。

真紀にもずっと会ってないわ。

兄さん。今大丈夫。

うん、どうした?臨床診療士故か元々の性格か落ち着いた低い声が受話器越しに聞こえる。

見てほしい子がいるの、何も喋らないのよ、虐待のあともある。岩松院までこれる?

分かった、岩松院だな。

久しぶりに見る兄は柔らかな日差しの中赤と黒のブロックチェックのオーバシャツをさらりとジーンズの上から羽織って、ゆらりとたっている。兄の姿を見ると美樹は二人の間

の秘密を思い浮かべずにいられず、笑顔が強張る。

やあ、僕は杉田冬馬、君は?

彼は益々暗い目をして美樹の後ろに隠れてしまった。

すると、彼のTシャツに竜のキャラクターを見つけた冬馬は。

じゃ君は竜の騎士サイバーンだ。 

少年は首をふる、

屈んで冬馬は頭をクシャクシャする、

そうだなぁ、君は光の騎士マニだ。

冬馬の言葉に初めて笑って頷く。

じゃあ俺は竜の騎士サイバーンだ。

冬馬の差し出した手を少年はおずおずと握り返した。

おい、浩二よかったらこの子預からせてくれないか。役に立てると思う、事件の重要人物なんだろ。

ああ、頼めるか。

この子の身元の確認を頼むよ、

わかった。

なんとかこの子の心を開いてみるよ。さ、行こう。

冬馬が伸ばした手を少年は握ろうとせず美樹の後ろに隠れてしまった。

震えている。

仕方ない美樹お前も一緒に来い。

え。

この子はお前といると安心するようだ、構わないだろ、兄弟なんだから。

ええ、

美樹の胸にほんの少し疑惑の染みが広がって行く、兄の家に行けば自分の秘密を知られてしまうだろう、かと言ってこの子を放って置くわけにも行かない。

行くわ。

さあ、光の騎士マニをサイバーンの館に案内しようぞ。

相変わらず兄は心を解きほぐすのが上手い。

久しぶりに訪れる兄の家、あの頃は真紀子と同棲していたが明らかに女物の衣服や鞄などがなくなっていた、同棲を解消したのか少しスペースが、広く感じられた、美樹はソファーに座り少年に絵本を読んでやっていた。子供向けの簡単なぼうけん小説で彼は目を輝いて熱心に耳を傾けている。

いい香りが、漂ってきた、兄自慢のカレーの匂いだ、

さあ、出来たぞ、席に着くんだ。

冬馬のカレーはスパイスから煮込んだ本格派、少年は水を飲みながらも美味しそうに食べている。

どうだ、俺のカレーには人参が入っていないからいいだろう?

人参食べれるのか?

少年は、俯きながら頷いた。

ようし、偉いぞ、

冬馬は少し大袈裟に彼の頭を撫でた。 

偉いのね。

少年ははにかむようにわらった、

冬馬と少年はまるで本当の親子のように風呂に入った。

着替えここおいておくわね。

美樹も、少年と兄の微笑ましい姿にこころがほぐれていった。

やっと眠ったわ。

髪の毛を乾かしながら兄が戻ってきてリビングでうたた寝をしている、妹に声をかけた。

どうした、風呂に入らないのか?

え、もう少ししたら。

冬馬は隣に座ると水色のシャツを捲り上げた。

お前また。自傷行為を。

ごめんなさい。

やはり兄はきずいていた。彼は白い細い腕につけられた、痛々しい傷を見て険しい顔になった。

お前が謝る事じゃ無い、オヤジが謝るべきだ。浩二に話したのか?

そんな事できない。

あいつなら大丈夫だと言っただろ、これは二人で乗り越える問題なんだ。

あの亡くなった人、父の友達よね。

あ、町議会議員の?

冬馬は妹の為に、ミルクティーを入れて運んできた、そこには幼い頃から厳格な父から自分を庇ってくれた優しさがあった。自然に涙が溢れてそれが嗚咽にかわる。

兄は今までそうしてきたように妹の傷ごと抱きしめた。

私には母親になる資格なんかないの、だって私は汚れた身体だから。

美樹お前のせいじゃないよ。

黄昏時は今でも怖い。

季節は夏から秋に移り変わる町は美しさを増している頃だった。美樹は遠足の帰り疲労を覚える脚を引きずりながら学校を出た、楽しかったけれど前日興奮して眠れなかったせいもあり疲労で足が一歩も進まない、家までまだまだある、美樹はリュックを背負い直しため息をついた。

美樹ちゃん。

クラクションがなりグリーンメタリックの車が脇に止まった、窓が下がると獅子鼻の男が顔を出した。

おじさん、

家に良く遊びに来る父の友達で、良く美味しいものもくれる、優しいおじさんだった。

今遠足の帰りかい?

乗ってくかい、ちょうど美樹ちゃんちに行くところだったんだ。

うん。

なんていいタイミングなんだろう、無邪気に喜んだ自分を今の今までずっと後悔していた。

車は消臭剤のキンモクセイの匂いがした、レースで出来たシートカバーがかかった座席に座るといつの間にか、眠ってしまっていた。

車は人気のない公園に止まった、日が沈もうとする前オレンジの長い光を放って白い車を染めていた。

鷲巣は美樹の紺のショートパンツから伸びた脚を撫で始め、少女の反応を探る、小さく反応はあったが起きる様子はないよっぽど疲れているのだろう。鷲巣は欲望を抑えきれず体操服の上着の中に徐に手を突っ込む、僅かながら膨らみを感じ取ると可愛い蕾を揉みしだく、興奮がピークに達した初老の男は、一気に少女の短パンを下ろしてすべてを剥き出しにしのしかかった

イヤ!

流石に美樹は目覚め手足をバタバタさせたが、時すでに遅く、美樹の体内に激しい痛みとともに男の体液が注がれた。

いつの間にか涙が頬を濡らしていた。鷲巣は美樹が今まで見たことのない怖い顔で、身繕いしながら、話しかけた。

いいか、この事は二人だけの秘密だよ。

美樹は頷くしかなかった、

ただただ悲しく、怖かった。

いい子だ。

そのよ、美樹を送ってきた鷲巣は父の求めに応じて夕食を食べていくことになった、玉葱に目玉焼きが添えられ、蕨のお浸しが並ぶ簡素だが男二人は酒を酌み交わし、歓談していた、美樹は食べることはできない。酷く息苦しく、食べたものを吐いててしまった。

要らない。

それだけ言うと部屋に引きこもってしまった。悪い夢だと思おうとした。

お父さんには言えない。

美樹の世界は変わってしまった。

夏が終わろうとして居た、児童館の体育館倉庫で美樹は言われるまま、ブルマのパンツを下げ、未発達の部分を鷲巣の前に晒してした、お尻に当たる風が冷たい。

鷲巣はシワだらけの指で彼女の雌しべを持て余し、不思議な感覚に襲われて乳首が硬直するのを感じた興奮するのか指の動作は激しくなった、あ、ああ。

可愛いよ

この頃から美樹にとって、可愛いと言う言葉は呪いの言葉になった。

後は痛みを伴う行為が待っていて、彼が去ってからも美樹は倉庫のマットから暫く動けずにいた。その時写真を撮られて居たことも知らずに。

世間は地元の名士の死をスキャンダラスに報じた、キープアウトの線がひかれた被害者自宅に報道陣に囲まれた続々と捜査員たちが、入って行く。

その中に浩二の姿もあった。

かなり裕福な生活を送っていた自宅の調度品は高級な物ばかりだった。整然と整った部屋には女性の影はない、キッチンもキレイなものだった。

女の影は無さそうだ、ヤモメ暮らしを楽しんでいた様だ。

主任。

上条の鋭い声が書斎の方から聞こえてきた、何か手がかりが見つかったようだ。書斎に居た上条は大量の写真を手にしていた。

書斎の引き出しにありました、大事に、あいつとんでもない裏の顔がありました、とんでもない変態ですよ、

上条の視線は怒りを含んでいた。

浩二は渡された写真を目にしたら吐き気を催した、おびただしいほどの幼児の裸の写真明らかレイプ後と思われるものもある、怒りを抑え流し見をしていした一枚にふと指が止まった。

美樹、これは美樹じゃないか。

美樹、。

えも言われぬ嫌悪感から、目を背けそうになりながら美樹の不安定な感情の正体が掴めた気がした、これが原因か。彼女の自傷の意味は深くつらい、今すぐ美樹に会いたくなった。

主任、あの子の身元がわかりましたよ、捜索願が出てました、三鷹蓮、10歳です。いま、確認のため母親を杉田さんの家に捜査員と共に向かっています。

丁度庭先で水色の朝顔が一つ花が開いていた、警官の隣に痛みの目立つ髪が朝陽に照らされた小柄な女性が立っていた色褪せたハローキティのTシャツをきていた、酔っているのか目の焦点があっていない。

冬馬は扉を開けた。

三鷹由子さんです、町内でパートをしていました。

美樹は蓮の手を握ってソファに座っていたが手をきつく握られた。

蓮、どこに行ってたの?心配してたのよ

ソファーにいる息子に駆け寄るが剣幕が怖かったのか美樹の後ろに蓮は隠れてしまった。

どうしたの!なんとか言いなさい、

由子のヒステリックな声が部屋に響いた。見かねて冬馬が声をかける。

彼事件のショックで言葉が出ないんです。

え、事件?なんの事件なの?

警官が由子の肩を叩く。

彼は殺人事件の目撃者なんですよ、岩松院での。

あ、町議会議員さんの?

ご存知でしたか。

冬馬がコーヒーを入れ、由子と警官をテーブルにつくようにすすめた。

お母さん、蓮君はとても傷ついています。落ち着くまで、うちで預からせてくれませんか。

冬馬は一枚名刺を由子に渡す。

臨床心理士の杉田冬馬です。

ご安心下さい。責任を持って保護します。横から警官も口を添えた、まさか、虐待を疑っているとは言えなかった。

そんな。やっと見つけたのに、蓮本当に心配していたのよ。

由子は息子をじっとみたが蓮は目をあわせようとしない、美樹の目にも親子の間の溝は感じ取れた。

由子は納得いかないようにカップに手をつけない。事態は硬直しそうで美樹はハラハラした、

そこにダークグレーのスーツを来た背の高い男が入って来た、浩二だった、体格のいい、眼光の鋭い彼に由子は気圧されたようだった。

大丈夫です、彼は信頼できる人物ですよ、犯人が捕まるまでこちらで保護した方が安全ですよ、お母さん。

わ、分かりました。

由子不満顔がのこる。やっとコーヒーに手をつけた、

先程、被害者の事をご存知のようでしたがご存知なんですか?

ええ夫の会社の社長です。

鷲巣健一は、建設会社の会長と更子会社のリサイクルセンターの所長も兼務していた。

リサイクルセンターの運転手でしたね。

由子は警戒しつつ頷く、下手な事を言って疑われないようにしている、夫の圭吾には後ろめたい事があるようだ。

蓮君とは血の繋がりがないようですね。

蓮は、私の連れ子ですが、そりゃもう可愛がって。

警察をなめるな、と、浩二は言いたい、みえみえの嘘をつくなんて。

蓮は継父の話が聞こえたら緊張しているのか、身体がまた小刻みに震えだしたのが美樹にはわかった。

由子は俯いた息子の方をじっと見つめていたがやがて諦めたように、警官に付き添われ戻って行った。

美樹、ちょっと。

浩二に呼ばれ美樹は蓮を冬馬に託した、少し前を行く浩二の背中を緊張しながら美樹は歩く夏の風が草の匂いを運んできた。

すまなかった、

浩二は振り返るといきなり美樹に頭を下げた。

その行為が美樹の幼少期の秘密を彼が知ってしまった事を裏付けていた。

知られなくなかった。

鷲巣の家から少女の裸体の写真が大量に見つかったんだ、被害にあったのは君だけじゃ無い。

知られたくなかった、私の体はもう

汚れてる、貴方に愛される資格なんかなかった、ましてや母親になど。

謝るのは俺の方さ、君の心の傷を、わかってあげられなかった、ただ不機嫌に自傷行為を繰り返す、不安定な女だと決めつけ原因を探そうとしなかった、 悪いのは俺の方だ、夫失格だな

いや、そんな事。

戻ってきてくれないか?

私でいいの、いつまでも過去を引きずり体まで傷つけて、きっと良い母親にはなれない、もちろんいい妻にもね。

いいさ、その分俺がイイ夫、いい父親になる

浩二がそっと壊れやすいガラス細工を抱くように美樹を抱きしめた。

傘風楼の名の由来は店先に置かれた大きな傘に由来する、雨上がりその傘の端から落ちる水滴の光を真紀子は見ていた、店内は空いていた。

遅れてごめん。

冬馬は赤と黒のブロックチェックのシャツを翻し額の汗を掌で拭いながら現れた、真紀子は微笑み氷が揺れるアイスティーを指さした。

いいのよ、なんか食べる。

ここのピザは美味しい。

季節のピザを注文した、

呼び出したのはこれ。

検死報告書が入ってる封筒を冬馬テーブルの上に置き詠むように押しやる。

コーヒーを飲みながら冬馬はざっと目を通す、

興味あると思って本当はいけないんだけど

真紀子のグラスはもう空になっていた。

少し興味がある事実が出たのよ、遺体の致命傷なんだけど、随分低い位置にあるの。

つまり?

真紀子は運ばれて来た照り焼きチキンのピザを一口齧ると、言い淀み、意を決したように口をひらく、

犯人は非常に背の低い人物ということ。

まさか、蓮が?

冬馬はびっくりし、息を呑み拳をギュッと固く握りしめ膝の上に置いた。

この事は浩二は?

もちろん話したわ、知る権利があるもの。

じゃあ蓮が殺したっていうのか

可能性は、ある。

事件のショックで言葉がでないか、  

目の前のピザが急速に冷えていく、殺人のショックで口が聞けなくなったのか?

とにかく、言葉を発しないことにはね、

真紀子はピザを一切れ口に運ぶ。


上手ね。

蓮は熱心にクレヨンで画用紙に絵を描いていた、赤い大きな目玉と嘴青い鱗が翼をおおっている激しい怒りが読み取れた、蓮の目は輝き大きく頷いた。口には微笑みが浮かんでいた随分安定しているみたいね。

何か食べる?

美樹はキッチンに立っていった。

そこに険しい顔をした冬馬が現れる、ただならぬ気配を感じた。

美樹ちょっといいか?

何?

蓮に現場検証させたい、

そんな、あの子にはまだ無理よ一言も話してないじゃない、今は安定してるけど。

美樹よく聞け、蓮には殺人の容疑がかかっている。

そんな。


朝靄が立ち込める早朝現場検証に蓮の精神状況を鑑みて美樹も立ち合う事となった、蓮の体は小刻みに震え、握る手に力がこめられた。

鑑識鑑、刑事、それぞれの姿が現れる、勿論、その中に冬馬もいた。

あの人!あの人だよ、おじさんを殺したのは。

蓮が初めて口を開いたがそれは衝撃的な言葉だった正義に満ちたの力強い、指がさしている先には監察医の樋口真紀子の姿があった。


悲痛な面持ちで取調室で浩二は真紀子と対峙していた、身内から逮捕者が出るのは非常に辛い事だった。

しかも彼女は冬馬の恋人だった。

わたし、子供の頃鷲巣にいたずらされてその写真をネタに今も関係を迫られていてあの日の朝も岩松院に呼び出されたの。

真紀子の目からは何の表情も読み取れない、

殺すつもりは無かった、持ってたナイフに襲い掛かった彼が木の根に躓いて私に倒れ込んだのよ、傷が偶然低い位置に出来たから、あの子のせいにしたの、悪いことをしたわ、

一筋だけ美しい涙が瞳から流れてはおちた。

冬馬と美樹は蓮を連れ由子の元に送り届けた蓮自身が母親の元に戻りたいと願ったからだ、児童相談所の配慮で義理の父との別居が認められたのだ。

お母さんを守りたい、僕は光の騎士マニだから。

それでこそ騎士だ。

美樹、

振り返ると浩二が照れ臭そうに立っていた。

私子供産むね。

ああ、俺がいい夫、父親になるからな。

この手に戻ってきた宝物のように彼は美樹を抱きしめた。



















セィフロスの街。

長野県小布施町は須坂市から少し北の方にある小さな街である、商業の街須坂と農業の街中野に挟まれて、独特の文化が根付いている、特産品の栗の木を加工してでできた小道を散策すると、そこかしこに美しい蔵作りの建屋が点在する。

美樹がこの街に帰って来たのは一ヶ月前、今、岩松院近くのジェラート屋でアルバイトをしている。

ジェラート屋はログハウス作りで小さいながらも観光客や地元の人々に人気で、ミルクたっぷりのジェラートが看板商品だ、黄色いコーンの上に白いジェラートをスコップで掬っては山の様に盛り付けて行く、シャツの腕を捲った時、手首のミシン目のような傷が目に入った胸の奥がざわつく、隣のオーナーの美鈴の視線も気になる、美鈴は兄の同級生で白髪染の代わりに金髪にするような、砕けた女性だったがやはり傷について聞かれると辛い。甘いバニラとふレッシュな牛乳が混じった匂いが、鼻腔一杯に広がる。

お待たせしました。

作り笑顔を浮かべお客様に手渡すと慌てて袖口を水色のシャツで隠した。

店は繁盛していたが、三時から休憩を挟む、その折には美樹はいつも近くの岩松院まで足を伸ばす。

小布施町の外れにある古刹岩松院は秀吉7本槍で有名な武将福島正則の終焉の地で、癌封じの寺、北斎の天井絵などが有名だった。

大蛇の如くうねった松の奥に長い石積みの階段が続く、美樹はタバコの火をスニーカーの底で踏み潰すと一段上り始めた。すると、彼女のシャツ裾を引くものがいる。

振り返ると見慣れない顔の子供がいた、顔が真っ青だ。

どうした?

ついてこいというように強く引く、促されるままついていくと、岩陰に横たわる男がいた、白髪頭から初老の男に見えた、特徴的な獅子鼻に180センチはあろうかと思う大男、胸から血が流れている。

この人、父の、大変だわ。

美樹の全身の血が逆流し始めた怯えた子供が彼女に震えて抱きついて来たその温もりが彼女を強くする、携帯を手に取った、美樹は浩二に連絡を取った。美樹はこの男に見覚えがあった町議会議員の鷲巣健一、自然保護活動家の父の親友だ、

浩二大変なの、人が死んでる。

懐かしい夫の掠れた声が響く。

分かった、鑑識送る、そこを動くな。

程なく、鑑識官が訪れ、死体のまわりは一気に騒がしくなった、その間も少年は彼女から離れようとはしなかった。

その子は?

1ヶ月ぶりに見る夫は仕事の顔だった。

私が来た時ここにいたの。

人見知りの激しい子で、見知らぬ男が顔を覗きこまれて美樹の後ろに隠れてしまった。

この子が第一発見者よ、でも何も喋らないのよ、ショックだったのかも。

見下げた時美樹は初めて少年の右手にあざがあるのに気づいた。

この子、ココロに深い傷を負っているのかしら。

分かった、君の兄貴を手配しよう。

良ければ、私が連絡する。

分かった、俺は遺体を監察医の元に移送する、

医大の監察医須田真紀子また、知り合いだった。

真紀にもずっと会ってないわ。

兄さん。今大丈夫。

うん、どうした?臨床診療士故か元々の性格か落ち着いた低い声が受話器越しに聞こえる。

見てほしい子がいるの、何も喋らないのよ、虐待のあともある。岩松院までこれる?

分かった、岩松院だな。

久しぶりに見る兄は柔らかな日差しの中赤と黒のブロックチェックのオーバシャツをさらりとジーンズの上から羽織って、ゆらりとたっている。兄の姿を見ると美樹は二人の間

の秘密を思い浮かべずにいられず、笑顔が強張る。

やあ、僕は杉田冬馬、君は?

彼は益々暗い目をして美樹の後ろに隠れてしまった。

すると、彼のTシャツに竜のキャラクターを見つけた冬馬は。

じゃ君は竜の騎士サイバーンだ。 

少年は首をふる、

屈んで冬馬は頭をクシャクシャする、

そうだなぁ、君は光の騎士マニだ。

冬馬の言葉に初めて笑って頷く。

じゃあ俺は竜の騎士サイバーンだ。

冬馬の差し出した手を少年はおずおずと握り返した。

おい、浩二よかったらこの子預からせてくれないか。役に立てると思う、事件の重要人物なんだろ。

ああ、頼めるか。

この子の身元の確認を頼むよ、

わかった。

なんとかこの子の心を開いてみるよ。さ、行こう。

冬馬が伸ばした手を少年は握ろうとせず美樹の後ろに隠れてしまった。

震えている。

仕方ない美樹お前も一緒に来い。

え。

この子はお前といると安心するようだ、構わないだろ、兄弟なんだから。

ええ、

美樹の胸にほんの少し疑惑の染みが広がって行く、兄の家に行けば自分の秘密を知られてしまうだろう、かと言ってこの子を放って置くわけにも行かない。

行くわ。

さあ、光の騎士マニをサイバーンの館に案内しようぞ。

相変わらず兄は心を解きほぐすのが上手い。

久しぶりに訪れる兄の家、あの頃は真紀子と同棲していたが明らかに女物の衣服や鞄などがなくなっていた、同棲を解消したのか少しスペースが、広く感じられた、美樹はソファーに座り少年に絵本を読んでやっていた。子供向けの簡単なぼうけん小説で彼は目を輝いて熱心に耳を傾けている。

いい香りが、漂ってきた、兄自慢のカレーの匂いだ、

さあ、出来たぞ、席に着くんだ。

冬馬のカレーはスパイスから煮込んだ本格派、少年は水を飲みながらも美味しそうに食べている。

どうだ、俺のカレーには人参が入っていないからいいだろう?

人参食べれるのか?

少年は、俯きながら頷いた。

ようし、偉いぞ、

冬馬は少し大袈裟に彼の頭を撫でた。 

偉いのね。

少年ははにかむようにわらった、

冬馬と少年はまるで本当の親子のように風呂に入った。

着替えここおいておくわね。

美樹も、少年と兄の微笑ましい姿にこころがほぐれていった。

やっと眠ったわ。

髪の毛を乾かしながら兄が戻ってきてリビングでうたた寝をしている、妹に声をかけた。

どうした、風呂に入らないのか?

え、もう少ししたら。

冬馬は隣に座ると水色のシャツを捲り上げた。

お前また。自傷行為を。

ごめんなさい。

やはり兄はきずいていた。彼は白い細い腕につけられた、痛々しい傷を見て険しい顔になった。

お前が謝る事じゃ無い、オヤジが謝るべきだ。浩二に話したのか?

そんな事できない。

あいつなら大丈夫だと言っただろ、これは二人で乗り越える問題なんだ。

あの亡くなった人、父の友達よね。

あ、町議会議員の?

冬馬は妹の為に、ミルクティーを入れて運んできた、そこには幼い頃から厳格な父から自分を庇ってくれた優しさがあった。自然に涙が溢れてそれが嗚咽にかわる。

兄は今までそうしてきたように妹の傷ごと抱きしめた。

私には母親になる資格なんかないの、だって私は汚れた身体だから。

美樹お前のせいじゃないよ。

黄昏時は今でも怖い。

季節は夏から秋に移り変わる町は美しさを増している頃だった。美樹は遠足の帰り疲労を覚える脚を引きずりながら学校を出た、楽しかったけれど前日興奮して眠れなかったせいもあり疲労で足が一歩も進まない、家までまだまだある、美樹はリュックを背負い直しため息をついた。

美樹ちゃん。

クラクションがなりグリーンメタリックの車が脇に止まった、窓が下がると獅子鼻の男が顔を出した。

おじさん、

家に良く遊びに来る父の友達で、良く美味しいものもくれる、優しいおじさんだった。

今遠足の帰りかい?

乗ってくかい、ちょうど美樹ちゃんちに行くところだったんだ。

うん。

なんていいタイミングなんだろう、無邪気に喜んだ自分を今の今までずっと後悔していた。

車は消臭剤のキンモクセイの匂いがした、レースで出来たシートカバーがかかった座席に座るといつの間にか、眠ってしまっていた。

車は人気のない公園に止まった、日が沈もうとする前オレンジの長い光を放って白い車を染めていた。

鷲巣は美樹の紺のショートパンツから伸びた脚を撫で始め、少女の反応を探る、小さく反応はあったが起きる様子はないよっぽど疲れているのだろう。鷲巣は欲望を抑えきれず体操服の上着の中に徐に手を突っ込む、僅かながら膨らみを感じ取ると可愛い蕾を揉みしだく、興奮がピークに達した初老の男は、一気に少女の短パンを下ろしてすべてを剥き出しにしのしかかった

イヤ!

流石に美樹は目覚め手足をバタバタさせたが、時すでに遅く、美樹の体内に激しい痛みとともに男の体液が注がれた。

いつの間にか涙が頬を濡らしていた。鷲巣は美樹が今まで見たことのない怖い顔で、身繕いしながら、話しかけた。

いいか、この事は二人だけの秘密だよ。

美樹は頷くしかなかった、

ただただ悲しく、怖かった。

いい子だ。

そのよ、美樹を送ってきた鷲巣は父の求めに応じて夕食を食べていくことになった、玉葱に目玉焼きが添えられ、蕨のお浸しが並ぶ簡素だが男二人は酒を酌み交わし、歓談していた、美樹は食べることはできない。酷く息苦しく、食べたものを吐いててしまった。

要らない。

それだけ言うと部屋に引きこもってしまった。悪い夢だと思おうとした。

お父さんには言えない。

美樹の世界は変わってしまった。

夏が終わろうとして居た、児童館の体育館倉庫で美樹は言われるまま、ブルマのパンツを下げ、未発達の部分を鷲巣の前に晒してした、お尻に当たる風が冷たい。

鷲巣はシワだらけの指で彼女の雌しべを持て余し、不思議な感覚に襲われて乳首が硬直するのを感じた興奮するのか指の動作は激しくなった、あ、ああ。

可愛いよ

この頃から美樹にとって、可愛いと言う言葉は呪いの言葉になった。

後は痛みを伴う行為が待っていて、彼が去ってからも美樹は倉庫のマットから暫く動けずにいた。その時写真を撮られて居たことも知らずに。

世間は地元の名士の死をスキャンダラスに報じた、キープアウトの線がひかれた被害者自宅に報道陣に囲まれた続々と捜査員たちが、入って行く。

その中に浩二の姿もあった。

かなり裕福な生活を送っていた自宅の調度品は高級な物ばかりだった。整然と整った部屋には女性の影はない、キッチンもキレイなものだった。

女の影は無さそうだ、ヤモメ暮らしを楽しんでいた様だ。

主任。

上条の鋭い声が書斎の方から聞こえてきた、何か手がかりが見つかったようだ。書斎に居た上条は大量の写真を手にしていた。

書斎の引き出しにありました、大事に、あいつとんでもない裏の顔がありました、とんでもない変態ですよ、

上条の視線は怒りを含んでいた。

浩二は渡された写真を目にしたら吐き気を催した、おびただしいほどの幼児の裸の写真明らかレイプ後と思われるものもある、怒りを抑え流し見をしていした一枚にふと指が止まった。

美樹、これは美樹じゃないか。

美樹、。

えも言われぬ嫌悪感から、目を背けそうになりながら美樹の不安定な感情の正体が掴めた気がした、これが原因か。彼女の自傷の意味は深くつらい、今すぐ美樹に会いたくなった。

主任、あの子の身元がわかりましたよ、捜索願が出てました、三鷹蓮、10歳です。いま、確認のため母親を杉田さんの家に捜査員と共に向かっています。

丁度庭先で水色の朝顔が一つ花が開いていた、警官の隣に痛みの目立つ髪が朝陽に照らされた小柄な女性が立っていた色褪せたハローキティのTシャツをきていた、酔っているのか目の焦点があっていない。

冬馬は扉を開けた。

三鷹由子さんです、町内でパートをしていました。

美樹は蓮の手を握ってソファに座っていたが手をきつく握られた。

蓮、どこに行ってたの?心配してたのよ

ソファーにいる息子に駆け寄るが剣幕が怖かったのか美樹の後ろに蓮は隠れてしまった。

どうしたの!なんとか言いなさい、

由子のヒステリックな声が部屋に響いた。見かねて冬馬が声をかける。

彼事件のショックで言葉が出ないんです。

え、事件?なんの事件なの?

警官が由子の肩を叩く。

彼は殺人事件の目撃者なんですよ、岩松院での。

あ、町議会議員さんの?

ご存知でしたか。

冬馬がコーヒーを入れ、由子と警官をテーブルにつくようにすすめた。

お母さん、蓮君はとても傷ついています。落ち着くまで、うちで預からせてくれませんか。

冬馬は一枚名刺を由子に渡す。

臨床心理士の杉田冬馬です。

ご安心下さい。責任を持って保護します。横から警官も口を添えた、まさか、虐待を疑っているとは言えなかった。

そんな。やっと見つけたのに、蓮本当に心配していたのよ。

由子は息子をじっとみたが蓮は目をあわせようとしない、美樹の目にも親子の間の溝は感じ取れた。

由子は納得いかないようにカップに手をつけない。事態は硬直しそうで美樹はハラハラした、

そこにダークグレーのスーツを来た背の高い男が入って来た、浩二だった、体格のいい、眼光の鋭い彼に由子は気圧されたようだった。

大丈夫です、彼は信頼できる人物ですよ、犯人が捕まるまでこちらで保護した方が安全ですよ、お母さん。

わ、分かりました。

由子不満顔がのこる。やっとコーヒーに手をつけた、

先程、被害者の事をご存知のようでしたがご存知なんですか?

ええ夫の会社の社長です。

鷲巣健一は、建設会社の会長と更子会社のリサイクルセンターの所長も兼務していた。

リサイクルセンターの運転手でしたね。

由子は警戒しつつ頷く、下手な事を言って疑われないようにしている、夫の圭吾には後ろめたい事があるようだ。

蓮君とは血の繋がりがないようですね。

蓮は、私の連れ子ですが、そりゃもう可愛がって。

警察をなめるな、と、浩二は言いたい、みえみえの嘘をつくなんて。

蓮は継父の話が聞こえたら緊張しているのか、身体がまた小刻みに震えだしたのが美樹にはわかった。

由子は俯いた息子の方をじっと見つめていたがやがて諦めたように、警官に付き添われ戻って行った。

美樹、ちょっと。

浩二に呼ばれ美樹は蓮を冬馬に託した、少し前を行く浩二の背中を緊張しながら美樹は歩く夏の風が草の匂いを運んできた。

すまなかった、

浩二は振り返るといきなり美樹に頭を下げた。

その行為が美樹の幼少期の秘密を彼が知ってしまった事を裏付けていた。

知られなくなかった。

鷲巣の家から少女の裸体の写真が大量に見つかったんだ、被害にあったのは君だけじゃ無い。

知られたくなかった、私の体はもう

汚れてる、貴方に愛される資格なんかなかった、ましてや母親になど。

謝るのは俺の方さ、君の心の傷を、わかってあげられなかった、ただ不機嫌に自傷行為を繰り返す、不安定な女だと決めつけ原因を探そうとしなかった、 悪いのは俺の方だ、夫失格だな

いや、そんな事。

戻ってきてくれないか?

私でいいの、いつまでも過去を引きずり体まで傷つけて、きっと良い母親にはなれない、もちろんいい妻にもね。

いいさ、その分俺がイイ夫、いい父親になる

浩二がそっと壊れやすいガラス細工を抱くように美樹を抱きしめた。

傘風楼の名の由来は店先に置かれた大きな傘に由来する、雨上がりその傘の端から落ちる水滴の光を真紀子は見ていた、店内は空いていた。

遅れてごめん。

冬馬は赤と黒のブロックチェックのシャツを翻し額の汗を掌で拭いながら現れた、真紀子は微笑み氷が揺れるアイスティーを指さした。

いいのよ、なんか食べる。

ここのピザは美味しい。

季節のピザを注文した、

呼び出したのはこれ。

検死報告書が入ってる封筒を冬馬テーブルの上に置き詠むように押しやる。

コーヒーを飲みながら冬馬はざっと目を通す、

興味あると思って本当はいけないんだけど

真紀子のグラスはもう空になっていた。

少し興味がある事実が出たのよ、遺体の致命傷なんだけど、随分低い位置にあるの。

つまり?

真紀子は運ばれて来た照り焼きチキンのピザを一口齧ると、言い淀み、意を決したように口をひらく、

犯人は非常に背の低い人物ということ。

まさか、蓮が?

冬馬はびっくりし、息を呑み拳をギュッと固く握りしめ膝の上に置いた。

この事は浩二は?

もちろん話したわ、知る権利があるもの。

じゃあ蓮が殺したっていうのか

可能性は、ある。

事件のショックで言葉がでないか、  

目の前のピザが急速に冷えていく、殺人のショックで口が聞けなくなったのか?

とにかく、言葉を発しないことにはね、

真紀子はピザを一切れ口に運ぶ。


上手ね。

蓮は熱心にクレヨンで画用紙に絵を描いていた、赤い大きな目玉と嘴青い鱗が翼をおおっている激しい怒りが読み取れた、蓮の目は輝き大きく頷いた。口には微笑みが浮かんでいた随分安定しているみたいね。

何か食べる?

美樹はキッチンに立っていった。

そこに険しい顔をした冬馬が現れる、ただならぬ気配を感じた。

美樹ちょっといいか?

何?

蓮に現場検証させたい、

そんな、あの子にはまだ無理よ一言も話してないじゃない、今は安定してるけど。

美樹よく聞け、蓮には殺人の容疑がかかっている。

そんな。


朝靄が立ち込める早朝現場検証に蓮の精神状況を鑑みて美樹も立ち合う事となった、蓮の体は小刻みに震え、握る手に力がこめられた。

鑑識鑑、刑事、それぞれの姿が現れる、勿論、その中に冬馬もいた。

あの人!あの人だよ、おじさんを殺したのは。

蓮が初めて口を開いたがそれは衝撃的な言葉だった正義に満ちたの力強い、指がさしている先には監察医の樋口真紀子の姿があった。


悲痛な面持ちで取調室で浩二は真紀子と対峙していた、身内から逮捕者が出るのは非常に辛い事だった。

しかも彼女は冬馬の恋人だった。

わたし、子供の頃鷲巣にいたずらされてその写真をネタに今も関係を迫られていてあの日の朝も岩松院に呼び出されたの。

真紀子の目からは何の表情も読み取れない、

殺すつもりは無かった、持ってたナイフに襲い掛かった彼が木の根に躓いて私に倒れ込んだのよ、傷が偶然低い位置に出来たから、あの子のせいにしたの、悪いことをしたわ、

一筋だけ美しい涙が瞳から流れてはおちた。

冬馬と美樹は蓮を連れ由子の元に送り届けた蓮自身が母親の元に戻りたいと願ったからだ、児童相談所の配慮で義理の父との別居が認められたのだ。

お母さんを守りたい、僕は光の騎士マニだから。

それでこそ騎士だ。

美樹、

振り返ると浩二が照れ臭そうに立っていた。

私子供産むね。

ああ、俺がいい夫、父親になるからな。

この手に戻ってきた宝物のように彼は美樹を抱きしめた。







































































最後まで読んでくださりありがとうございました。

これからも傷ついた女性に寄り添う物語を描いていきたいと思います。

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