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スウィート・シスター・ライフ! ~甘すぎる僕のお姉ちゃん~  作者: ひなた華月
第5章 甘すぎる僕のお姉ちゃん
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第54話 甘すぎる僕のお姉ちゃんとさよなら


華恋かれん、悪いけど後は宜しくね」


『はいはい、こっちは任せなさいっての。っていうか、もうやることも殆どないしね』


 やれやれ、と言わんばかりに華恋かれんは相槌を打つ。


 でも、その声からは、まだ劇の余韻が残っている。


 僕たちの人形劇『ブレーメンの音楽隊』は、無事に成功を収めた。


 終わったあとは、子供たちや一緒に来てくれたお父さんやお母さんたちからも大きな拍手が送られた。


 残念ながら、僕はその声援を直接貰えたわけじゃないけれど、それでも画面越しに聞こえるその拍手は、僕の心を震わすには十分だった。


 今は、華恋かれんたちが舞台の片付け中で、そのときに僕に連絡をくれたのだ。


 華恋だけでなく、しお先輩や波留はるさんとも話をしたいんだけど……。


『ああ、汐先輩なら、子供たちに囲まれて大わらわよ。ブルースが大人気になっちゃってね』


 元々、去年も人形劇をやっていたというから、しお先輩やブルースさんを知っている子供がいたのかもしれない。


 子供たちに囲まれているのが、果たして、あたふたするしお先輩なのか、それとも堂々とブルースさんが話している姿なのか、多分、僕は後者であるような気がする。


 となると、波留はるさんはどうしたのだろうか?


『えっと、あたしが知らない間にどこかに行ったみたいなの。まぁ、そのうち帰って来ると思うけどさ』


 そっか、と返事をして、僕は華恋かれんに告げる。


『あのさ、ニコさんのお店に行くとき、波留はるさんも誘ってよ。今回、一番迷惑をかけちゃったのは波留はるさんだから』


 このあと、華恋かれんたちはニコさんがいる喫茶店『ラブリーキャット』でお疲れ様会をやる予定だ。


 しかし、華恋かれんから返ってきた返事は、意外なものだった。


『はぁ? 何言ってんのよ?』


「えっ?」


 まさか、ここまで華恋かれんが否定的な態度を示すとは思わなかったので、思わず変な声が出てしまった。


 いや、確かに華恋かれんからしたら波留はるさんは苦手なタイプなのかもしれないけれど、波留はるさんはちょっといたずらが好きなだけで根本的に悪い人ってわけじゃあ……。


『あんたが来れないんだから、打ち上げはまた後日に決まってんでしょ?』


「……えっ?」


 僕の声に反応して、今度は華恋かれんがため息を吐く。


『あのね……あたしたちだけでやっても仕方ないでしょ。あんたも一緒で、あたしたちは人形演劇部なんだから。しお先輩だって、それがいいって言ってくれたわよ。だから……』


 と、華恋かれんは少しだけ声を溜めて、僕に告げた。


『今度は、あんたもちゃんと一緒に来て、またみんなで人形劇をやりましょう』


「……うん。ありがとう」


 なんてことはない華恋かれんのセリフが、僕にはとても、大切なことを言ってくれたような気がした。


『それじゃあ、あとは紗愛さらさんの看病に専念しなさい。じゃあね』


 そう言って、華恋かれんは通話を終了させた。


 余韻に浸りながら、僕もパソコンをシャットダウンさせて天井を見上げる。


 何かをやり遂げたという感覚は久しぶりだった。


 そして、こんな充実感があることも……。


「……やっぱり、しお先輩や波留はるさんとも話したかったな」


 そんなことを呟きながら、僕は自分の部屋を出て、リビングへ向かう。


 時刻はもう、午後の二時を超えている。


 起こすのも悪いと思ったので声を掛けなかったが、姉さんのお昼ご飯を準備しないと。


 と言っても、姉さんと違って僕ができる料理なんて、簡単なお粥くらいしかないけれど作らないよりはマシだと思う。


 そう思って、リビングの扉を開けようとした、



 その瞬間だった。



 ふわっとした、姉さんの香りがした。



 そして、後ろから、姉さんの細い腕が、僕を抱きしめていた。



りく……くんっ!」


 僕は、一体何が起こったのか分からずに、ただ茫然と立ち尽くしているだけだった。


 それでも、ぎゅっと抱きしめられた姉さんの体温は背中からずっと伝わってくるし、すすり泣く声も聞こえてくる。


「お姉ちゃん、ちゃんと、観たよ……りくくんが、頑張ってるところ……」


「姉、さん……」


 姉さんの言葉で、僕はすぐに、人形劇のことだと理解した。


 でも、姉さんが、どうやってあの劇を……と思って、考えられることは1つだけ考えられることがあった。


 波留はるさんだ。


 波留はるさんなら、僕が映像をリアルタイムで見ていたように、姉さんにも同じ方法で見てもらうようにできるはずだ。


 それに、劇が始まる前に姉さんと話しているような発言だってあったし、あれは冗談じゃなくて、本当に姉さんと連絡を取っていたのか……。


りくくん……ありがとう。本当は、昨日言われたことが、ずっと、怖かったんだ……」


 姉さんは、僕を抱きしめる力を強くしながら、話し続ける。


「私は、陸くんのお姉ちゃんじゃないよ。でも、それでも私は『お姉ちゃん』でいて、いいんだよね?」


 震える声で、姉さんは僕にそう問いかけた。


 そうか……姉さんに直接言うつもりなんて、これっぽっちもなかったから、少しむず痒いというか、照れくさい。


 だから、顔が見えない今なら、ちゃんと言えると思う。


 僕は、そう決意して、そっと姉さんの手に触れて、答えた。



「うん。姉さんは、僕の自慢の姉さんだよ」



 これからも、ずっと。


 姉さんは、僕の姉さんだ。


 初めて会ったあの日から、僕の大切な家族なんだ。


 だからこそ、僕は姉さんに知っていてほしかった。



「姉さん……僕はこれから、自分に何ができるのか分からないし、姉さんや父さんみたいに立派な人にはなれないかもしれない」


 だけど、今日のことではっきりとわかった。


 僕にだって、誰かを笑顔にできることを。


「姉さん、僕、探してみるよ。自分のやりたいこと、やってみたいこと。そうすれば、姉さんもきっと……」



 ――僕を自慢の弟だと、言ってくれる日が来るかもしれないのだから。



りくくん……」



 そして、姉さんはいつものように、僕に優しく告げる。



「大好きだよ、りくくん」



「……うん」



 その言葉を聞くたびに、僕はどうしようもない悲壮感を浴びていたものだけれど。


 今はもう、僕の中で不思議なくらいに飲み込むことができている。


 だから、せめて今だけは……。




 僕の初恋が終わってしまったことを、悲しまないでおこうと思った。



 


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